Lostbelt No.8 『再誕創造神王へリオポリス』   作:ドロイデン

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第五話

 サーヴァントの戦闘はとかく派手というイメージがある。ランサーしかりオシリスしかり、一般的な魔術師の戦闘がママゴトと言われて仕方ないくらいには派手なものだ。

 

「……どうやら一歩遅かったみたいだな」

 

 実際目の前に残る惨殺された魔獣の死体を見てみれば、巨大フンコロガシことスカラベはひっくり返って焼け焦げてるし、スフィンクスが十体近くもバラバラになって捨てられている様はなんとも言いがたい。

 

「ムムム……スフィンクスは兎も角スカラベを殺すとは恐れを知らなさすぎるのです」

 

「なんでアサシンはそんなに怒って……ってあぁ、言わんでもいい、思い出した」

 

 目の前で幽霊も裸足で逃げ出しそうな怒りの表情をしてるアサシンに、その正体を思い出して納得する。なるほど、確かにアサシンにとってスカラベはある意味自分自身だから。

 

「しかし参ったな……この砂漠じゃ追いかけっこは正直分が悪いぞ」

 

 砂漠は文字通り砂地だ、故に足跡なんて風が少し吹けば無くなるし、なにより、

 

「最悪なことに砂嵐が来そうな予感がするんだよな」

 

「残念ながらマスター、もう目前にできてるのです。現実逃避しても変わらないのです」

 

 いや分かってるよ、あれが砂嵐だってことぐらい。たださ、

 

「砂嵐という名の巨大竜巻を目の前にしたらぼやきたくもなるさ」

 

 目測で直径300メートル近い砂嵐……もとい砂竜巻を見て頭がいたくなる。距離も50メートルもないのだから、普通なら死ぬ。だが、

 

「……アサシン、吹き飛ばせ」

 

「分かったのです」

 

 そういうとアサシンは錫杖を地面に叩きつけ、竜巻の直上から隕石かと見間違うほどの巨大な炎の塊を、文字通り叩き落として無力化した。

 

 当然、熱風と巻き上げられた砂が俺を襲うが、俺は魔力を砂に流して簡単な砂壁を作ることでそれを遮る。

 

「ふう、置換魔術はこういう簡単な壁を作るのには最適だな」

 

 俺の専門は死霊魔術だが、簡単なガンドや置換魔術、ついでに墓守だったことで教わった洗礼詠唱も使えるので、このくらいは朝飯前だ。武術とかは聖堂教会のメンバーじゃなかったからそこまででもないが。

 

「あの死体の山を覆うほどの砂壁を作るのは簡単じゃないのです」

 

「砂を壁のように置換して強化しただけだよ。規模は兎も角やってることは基礎中のド基礎だ」

 

 そう言いつつ覆っていた砂をどかすと、俺は躊躇いもなく死体に足を進める。

 

「うーん、外肉が奪われてるが、内蔵と骨と羽毛は問題なしか。うん、良かった良かった」

 

 そうして死体全てから、慣れた手つきで掴み取った内蔵と肋骨の一部を除いて全てを一つに置換し、俺専用であり叔父から伝承された短剣型の魔術礼装である『亡影剣』に取り込む。

 

 先々代が生み出した『生きた』魔術礼装。特性として死体の肉体の一部を取り込むことで死体の記憶を読み取ることができるわけなのだが、俺の場合はそこに置換というワンアクションを組み込むことで、取り込んだ生物と同じ姿をした使い魔……つまるところ亡霊を生み出すのだ。

 

「さて、それじゃ記憶はどんな風か……って、おいおいおい、マジで言ってんのか」

 

 とりあえず確認とばかりに死体からの記憶を読み取ると、そこに映っていた二人のうちの一人に思わずため息が出た。

 

「どうかしたのですかマスター」

 

「最悪のパターンだ。呼ばれたサーヴァントの一人、疑似サーヴァントなうえに元となった奴がやばすぎる」

 

 伝承保菌者(ゴッズホルダー)にして、魔術協会の執行者と呼ばれる30人しか存在しない超武闘派エリートの一人、バゼット・フラガ・マクレミッツ。時計塔にいた兄曰く色々と残念さが目立つが、時計塔ひいては魔術界隈では指を数えるほどにしか存在しないという宝具を人の身で操る豪傑。

 

 赤い短髪に鋭い目付き、服装こそ軽鎧がついてるが基本的には黒いタキシードスーツのような格好は、兄が言っていた姿その通りだった。

 

 そして恐らく疑似サーヴァントとなった理由は彼女の持つ宝具、つまりそれが示すのは彼女の現在の真名……

 

「恐らくサーヴァント元は太陽神の一人、ルーだろうな」

 

 正確には光神だが、一説ではケルト神話における太陽神としても扱われてるので間違ってはいないはずだ。

 

「ルー、ですか。ではクラスは剣士(セイバー)槍兵(ランサー)なのですね」

 

 アサシンの言う通りだ。ルーの宝具として有名なのは二つ、切り札殺しとして有名な『フラガラック』と呼ばれる短剣と、ダインスレイブの元となったとも言われる『アラドヴァルの槍』……通称『ルイン』と呼ばれる魔槍のどちらかだ。

 

 ちなみにルー神は命令ひとつでどんな場所にでもたどり着くというマナナーンの船も所持してる事からライダーという可能性も否定できないが、だとすれば態々もう一人と一緒に歩いて移動する必要がないため除外してもいい。

 

「厄介……すげぇ厄介だな」

 

 仮に後者ならば太陽神でありながら狂化を持った狂戦士(バーサーカー)の可能性もある。せめて宝具というか武器を使ってくれてれば判定も可能だったが、ルーン纏わせた鉄拳しか使ってないのでは判別のしようがない。

 

「くそ、こんなことなら事を起こす前に使い魔使って疑似サーヴァントになりそうな人間の候補ぐらい調べとけば良かった」

 

 他の連中なら兎も角、亡霊の使い魔を使えば魔術協会や聖堂教会の要注意人物を知るぐらいはできた筈だというのに。

 

「ガットはイギリスだったけど当然時計塔は存在しないだろうし……汎人類史だったならアトラス院は近いが、最悪なことにここだとそもそも存在してないから使えない……となるとヴァーダイムに聞くしかないか」

 

 面倒なことだと思いつつも、逆に言えばそれだけの人間を疑似サーヴァントにしなければならないほどに抑止力やらなんやらが切羽詰まってると思えばいい情報なのだろう。あまり嬉しくないが。

 

(しかし、もう一人のサーヴァントはいったいなんだ?)

 

 死体に残った記憶を見たときに映ったもう一人、巨大な鉄槌(ハンマー)と電撃だけを見れば、北欧神話に名高き戦神『トール』だということは想像がつく。だが、神話、宗教的に考えてもかの『トール』が少女の姿だというのに違和感しか感じられない。ましてや汎人類史のサーヴァントなら尚更だ。

 

 更に言うなら、あの少女自体に魔術師としての直感が、神秘を感じとらないのだ。疑似サーヴァントだとしても身に纏う神代の神秘というのは少なからず存在するというのに、あの少女の姿はどちらかというと現代の魔術師に近しいものを感じる。

 

 さらに言うなら、あの少女自身にサーヴァントという雰囲気が見られないのが気になる。まるで普通の一般人が魔術に足を踏み入れたような……

 

「……さすがにそれはないな」

 

 まぁどちらにしろやるべきことは変わらないし、やらなきゃいけないことも決まってる。

 

「アサシン行くぞ」

 

「行くって、どこにです?」

 

「面倒だけど挨拶しないわけにはいかないからな……この異聞帯のもう一人の女王のところだよ」

 

 正直乗り気はしないが、万が一を考えたら挨拶しておいた方が身のためだしな。

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