Lostbelt No.8 『再誕創造神王へリオポリス』 作:ドロイデン
女王の城の一室、俺自身の私室となってるこの部屋でソファーに寛ぎながら投影された映像を眺めていた。
そこに映るのは俺以外のクリプター七人。
ロシア異文帯担当、カドック・ゼムルブス。
北欧異文帯担当、オフェリア・ファムルソローネ。
中国異文帯担当、芥ヒナコ。
インド異文帯担当、スカンジナビア・ペペロンチーノ。
ブリテン異文帯担当、ベリル・ガット。
南米異文帯担当、デイビッド・ゼム・ヴォイド。
「空想樹の発芽から三ヶ月が過ぎた。濾過異聞史現象――
そして我らがクリプターの長にして、ギリシャ異文帯担当、キリシュタリア・ヴォーダイム。
「まずは第一段階の終了を祝おう。これも諸君の尽力によるものだ、と」
いつも通りのムカつく笑顔でそう宣う奴の姿に、イラつきを通り越して感情が何も沸いてこない。
「いやいや、そいつはまだ早いぜキリシュタリア。オレたちゃまだ誰も、労われるような事は何一つ為しちぁあいない。なんもかんもぜーんぶ、『異星の神』さまの偉業なんだしよ」
「分かっていないのね、べリル。異聞帯の安定と、空想樹の安定は同義。キリシュタリア様は異聞帯のサーヴァントとの契約及びその継続に全力を注げ、そう言っているの」
そのキリシュタリアの言葉に軽口を返すような口振りのベリルに、相も変わらず生真面目優等生なオフェリアが噛みつく。
(しかし、キリシュタリア
あの日の前とはうって変わった態度が気にはなる。気にはなるが、そこをつついて蛇が出てくるのだけは勘弁なのであえてスルーさせてもらおう。
「ま、生きてるうちにやりたいことはやっておきたい――殺すのも奪うのも、生きてこその喜びだ。お前らもそう思うだろ、デイビッドにウルライト」
「俺は同感だ、作業のような殺傷行為はコフィンではできない感触だった。俺の担当地区とお前の担当地区は原始的だからな。必然その機会に恵まれる」
「俺は墓守の一族だから殺しについては否定したいが、まぁそういう気持ちが無くもないということについては俺も同感だ。こっちの異文帯は殺そうにも死なない連中ばっかりで、なおかつサーヴァントは殺しちゃいけない制約つきだ。いい加減魔獣潰しにも飽き飽きだ」
俺のその言葉にとある方向から鋭い視線が飛んでくる。間違いなくカドックのそれだ。
「……」
「どうしたゼムルブス、俺を睨んでも何にも特はないぞ」
「そうねぇ、それに目元の隈なんか凄いわよ。寝不足?それともストレスかしらね?」
ペペロンチーノからも指摘され、カドックは不貞腐れるように吐き捨てる。
「……その両方だ。僕のことは放っておいてくれ。仕事はきっちりこなしているんだからな」
「そう思うなら誰彼構わず噛みつく目は止めた方がいい。はっきり言って喧嘩を売られてると勘違いされても不自然じゃないぞ」
「そうね、せめて笑顔でいなさいな。友人が暗い顔していたら私だって暗くなる。当たり前の事でしょ?」
ペペロンチーノの言葉にカドックは少しだけ穏やかな表情を浮かべる。
(しかし、ペペロンチーノに関しては相も変わらずというべきかなんというか)
世話焼きというか世話好きというか、カルデアでも何かにつけてはAチームのことを掻き回していたというか、こういったら何だがAチームの母親みたいな雰囲気があった。
それは現在も変わらず、彼の言動はギスギスしがちなクリプターの面々の緩衝材なのだろう。キリシュタリアには悪いが、彼はある意味でクリプターの中心にいる男だ。
「無駄話はそこまでにして、キリシュタリア、用件はなに?」
と、カドックとは別の意味でナイフみたいな女である芥が興味なさげに聞いてくる。
完全に塩対応、気配からして関わってくるなというオーラが凄い感じる。
「こちらの異聞帯の報告は済ませたはず。こちらは領域拡大に適していない。だから私は貴方たちの異聞帯とは争わない。星の覇権にも興味はない。勝手にやりあっていればいいわ」
「……うちの異聞帯も似たようなもんだが、流石にそれをはいそうですか、って聞き流せるとは思えないぞ。芥」
何せ異聞帯で唯一、
「この際だから言っておくが、俺自身理解は出来ていても納得はしてない。キリシュタリアのお陰で俺達が生きてるという現状は理解してるし、クリプターの目的、外の神様を卸すっていう条件がついてるのも分かってる。その結果としてキリシュタリアはギリシャ異聞帯っていうおおよそこのゲームにおいて勝ち確定の場所にいるっていう事実もな」
だが、
「だからといって、俺はじゃあうちの異聞帯を侵食されて良いですよなんては思ってない。たとえキリシュタリア相手だとしても最終的に勝つのは俺だってのを思い知らせてやるからな」
「あぁ、それは構わないよウルライト。事実君のエジプト異聞帯は本来ならばギリシャ並みに成長していても不思議じゃないし、なにより君の手元にいる三基のサーヴァント、誰も彼も一戦級なのは違いない。仮に相対して無事に勝てる保証は万に一つも無いだろう」
「は、よく言うな。お前のとこのサーヴァントと比べたら天地の差だろうが」
キリシュタリアのその言葉に軽口を返しながらも、実際うちの異聞帯のメンツで奴の異聞帯のサーヴァントや神達に対等に戦って勝てるのはランサー、次点でセイバーがいい勝負はするだろう。
「まぁその件については持ち越すとして、本題に入ろう。遠隔通信とはいえ、私が諸君を招集したのは異聞帯の成長具合を確かめるためではない。1時間ほど前、私のサーヴァントの一騎が『霊基グラフ』と『
が、キリシュタリアのその一言で俺の認識は切り替わる。
「それはあれか、つまるところカルデアの連中はやっぱり生き残った、そういうことか?」
「へぇ、アンタがそう言うってことは、そのことは前もって予想はしてたって言う風に聞こえるけど」
俺の一言にカドックがやはり噛みつく。
「少なくとも襲撃されて簡単に終わるわけがないって予想はしていた。なにせビーストを二基、いや三基か?それだけの数を討伐してる連中の因果がその程度で切れるはずがない」
「因果だと?」
「そうだ、ビーストは一基でも呼び出されれば、関わったやつの近くで連鎖的に召喚される。ならばその関わった奴はビーストに呼び寄せられる因果を紡いでいる。その人間が死のうともな」
俺の説明に納得したのか、カドックは睨んでこそいるが何も言わない。他の面々も多かれ少なかれ納得したような表情を浮かべる。
「だからカドックのとこのサーヴァントがミスしたってわけでもない。その事を俺は責めるつもりはないからな」
「……弁護どうも」
「寧ろ話し合うべきはこれからだろうな。恐らくカドック、お前のところにカルデアは来るぞ」
「へぇ、ウルライトがそう言うならそうなんだろうが、どうしてそう思う」
ベリルが不思議そうに言ってるが、これにはちゃんとした理由がある。
「カルデアが虚数空間に待避したことは周知の事実だが、恐らく使用しているであろう現実と虚数を観測する機器『ペーパームーン』の使用には幾つかの段階がある。簡単に言えば潜航する現実と浮上する先に対しての軛なわけだが、この白紙化した地球で浮上先を見つけるのは不可能だろう」
カルデア時代にダヴィンチからカルデアに貸与された機器の話を聞いていてよかったと今更ながら思う。
「つまり、彼らが軛にするために必要なものがカドックのいる異聞帯に存在する、だから彼らはカドックの異聞帯に現れる、と?」
「その通りだ。恐らくカルデアを襲撃したときに使った
その一言で辺りに剣呑な空気が漂う。
「つまりあれか?カドックがしっかり仕事をしなかったから、やつらはカドックのところへ向かってる、そういうことでいいのか?」
「ベリル、最優先対象はカルデアの人員じゃなく、レイシフト用の設備の破壊だ。そういう意味では後詰めを担っていた異星の使徒たるアルターエゴの二人の方に責任があるだろう」
まぁ最後のマスターとやらを潰せなかったことはかなりの痛手ではあるが。
「……そうね、確かにカドックのサーヴァントと、多数の殺戮猟兵、さらには彼ら二人もいて戦果はカルデアの陥落とキャスター『レオナルド・ダヴィンチ』の撃破だけ。ウルライトの言う通りアルターエゴが殆ど役にたってないわね」
「ま、やつらも一枚岩ってわけではないようだからな。つかペペロンチーノ、あの腐れ坊主は信用しない方がいいぞ、多分近いうちにインドを乗っ取るだろうさ」
現にうちの異聞帯もあの変態坊主のせいで大損害食らってるし。
「そうね、なら乗っ取られたら貴方のところに退避させて貰おうかしら」
「うちはいつでもウェルカムだぜ。ま、そういうことだから、カドック、判断を誤るなよ」
最後にそう残して俺は通信を閉じた。
「……で、いつから聞いておられたんですか女王?」
首を軽く回しながらそういうと、扉からまさしくうちの異聞帯の女王が立っていた。
「少し前からです。貴方に相談したいことがございまして」
「相談ですか……貴女ほどの人からされるとは思いませんでした」
そう返すと女王はクスリと笑った。
「下手な芝居ですね。彼の演技よりはマシでしょうけど」
「それは貴女自身の話ですか、それとも
「それは秘密です。ですがそうですね、
質問を質問で返すその問いに、まさかと俺は呟く。
「いえ、間違いなく貴女こそがこの異聞帯の真なる