ACE COMBAT For beautiful sea For dirty sky   作:タクネモ・シグレ

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第3話『終わりの為の始まり』

この世の地獄。

こんな言葉、悲劇を誇張する為の文句だと思っていた。

違う。

確かに存在するんだ。

あれは、私達が戦闘を終え、母艦に帰る途中。

被弾し、沈みゆく味方艦が見えた。

船体は大きく傾き、周囲の海には脱出した乗員が何かを叫びながら浮いている。

ここまでなら、まだ普通だろう。だが、決定的に違っていたのは、周囲の海が文字通りの火の海と化していたこと。艦から漏れ出た重油に火災炎が引火したのだろう。沈む艦から命からがら脱出した乗員は、その火の海の中に飛び込む形となった。

何に引火していたのだろう?

服か、髪か、まさか肌に?

もう考えたくもない。

上空を、ジェットエンジンの轟音を轟かせながら飛ぶ私達には、彼らの最期の顔は見えなかったし、何を叫んでいるのかは聞こえなかった。

でも、これだけははっきり言える。

あれは、人間の死に方ではない。

 

[32時間後]

「さぁ、始めましょうか。」

心なしか暗い声で始まったブリーフィング。

「先の戦いで我が方は大きな損害を被った。」

無理もない。

貴重な巡洋艦を2隻、大勢の乗員と共に失ってしまった。共同で作戦を展開していた基地航空隊にも被害が出ている。

「でも、ここで立ち止まる訳にはいかない。」

そう、立ち止まる訳にはいかないのだ。多大な犠牲の上に掴み取った「敵2個空母打撃群の撃破・後退」。この一瞬の隙をつくのだ。

「北方艦隊指令部からの新たな命令よ。敵拠点に殴り込みをかける!」

いよいよか。そう、感じる。

「目標はノーフォーク海軍基地!北方艦隊の動ける艦から選りすぐりの艦隊を編成、対地ミサイルの一斉射でもって同基地の軍港機能を叩きのめす!」

「攻撃はそれで良いとして、そこまでは?またF-35が出て来るのは疑いありませんよ。」

誰よりも冷静な面持ちで、アオイが意見する。

「・・・その点については問題ないわ。対F-35戦の秘策がある。次の洋上補給で最新鋭索敵ポッドの先行生産型を受領する。あくまで国内での実験の結果だけど、あまりにも悪い状況でも無い限り、これまでの2倍の探知距離を得られる。」

最新鋭の索敵ポッド?聞いたこと無いが・・・先行生産型と言うより、追加試作型かもしれない。

「相手がこちらの探知距離外からの攻撃に徹した時は?一方的にやられかねません。」

いつにも増して、畳み掛けるなぁ。

「腹案がある。信頼性や有効性は確約は出来ないけど・・・」

「無いよりはマシ、ですね。」

「えぇ。」

確かに。あんな化け物相手だ。無いよりは遥かにマシ。

「それと、もう1つ。あなたたちには艦隊位置の欺瞞をしてほしいの。」

艦隊位置の欺瞞?戦闘機だけで?

「可能なのか?」

「えぇ。発艦後、各機は低速・低空で飛行。指定ポイント01に到達後、加速しつつ上昇して発艦を装う。」

成る程、その手があったか。こちらに航空機がいる、という相手の認識を逆手にとる訳だ。

「その後、あなたたちは敵航空戦力を引き付けて。その間に艦隊は全速力でノーフォークに接近する。その後は、全力で離脱よ。」

かなり無理のある作戦。だが・・・やれなくはない。

「ドック内に退避しているであろう敵艦は気にしなくて良いわ。別働隊による攻撃が同時進行する。」

何も心配はない訳だ。

「質問は、もう無いわね・・・さぁ、やるわよ!敵は精鋭!数は無数!任務はほぼカミカゼ!それでも、出し惜しみはない!これで勝って、私たちの底力、見せつけるわよ!」

 

[翌日:重航空巡洋艦『アドミラル・クズネツォフ』艦内]

「艦長を、ですか?」

《そうだ。》

とても、軍上層部の人間が言うとは思えない台詞だ。

《目的を達する為なら、多少軍規を犯しても構わん。》

ここまで言うとは・・・。

艦長こと、リューカリ大佐とは軍学校での同期だ。互いに切磋琢磨し合い、二人揃って『アドミラル・クズネツォフ』に配置となった。彼女が艦長、俺が副長として・・・。

「1つだけ、聞かせてください。」

一番、気になることを。

「何故、そこまで?」

《必要なのだよ。詳しく言えないのは惜しいがね。》

必要が、そうさせる。軍ではよくあることだ。

《無理は承知だ。だが、それでも頼むぞ。何としても・・・》

やりようはある、か。

《彼女だけは、生還させろ。》

 

[3日後:アメリカ合衆国上空]

赤子が泣いている。

俺の、斜め前の席。

どうにか泣き止ませようとする女に、回りをキョロキョロと申し訳なさそうな顔で見回す男。

成る程。親か。

回りの人間は気にしていない風を装って、親たちに気を配っている。ごく当たり前の、日常とも言える風景。

俺も、気にしない素振りで、手鏡を見る。

日常、か。

脆いものだ。

鏡に写り混む、後ろの席の男が軽く頷く。

そっと立ちあがり、バッグを持って機首へと歩みを進める。

バッグに手を突っ込み、目当てのものを抜き出しながら、心で呟く。

“国”の為に。

 

──────────────────

『Life-threatening invasion』

20.January.2025 10:00

Norfolk

36.571539,-74.261290

──────────────────

 

「毎度思うが、そろそろ換え時ですよねぇ。」

「何がです?」

俺の機体の機付長、セルゲイ・エンカゲンナーが溜息を含んだ声で言う。

「この機体ですよ。コイツで何時間飛んでます?スペアの方もカツカツだし。」

「次の作戦の頃には換わってるだろうさ。」

「次の作戦、ねぇ。」

その一言に込められているのは呆れか、諦めか。俺には分からない。

「そんなことより、整備は大丈夫だろうな?」

愛機に乗り込みながら問いかける。

「適当に済ませときましたよ。」

悪戯っ子のような笑みで返す機付長。

「こんな時まで、いい加減な整備かよ。」

苦笑いで返す、いつものやり取り。

《発艦作業開始。手空きの甲板作業員は退避せよ。》

「それでは、御武運を。俺達のこと、しっかり守ってくださいね!」

発艦作業開始の合図と共に離れていく機付長。

甲板上で小走りで動き回る人達。

いつも見ていた光景。訓練でも、実戦でも、この時だけは変わらない。

《『SKOPA9』、タキシングを開始せよ。》

最後かも、しれないな。

おっと、いけない。

出撃前にそんなこと考えちゃ駄目だ。

皆で帰るんだ、祖国に。

「了解。『SKOPA9』、タキシングを開始する。」

スロットルを少し上げ、機体をゆっくり前進させる。一旦、艦尾側まで機体を持っていき、エンジンを馴れさせる。

いつもより、気持ち念入りに。

《 『SKOPA9』、甲板誘導員の指示に従い発艦位置へ移動せよ。『SKOPA10』はタキシング準備。》

「了解・・・『SKOPA』隊各機、今回は搭載限界上限状態での発艦だ。気を付けて上げろよ。」

《分かってる。》

《私たち、れっきとした空母艦載機隊だよ。》

《流石にそんなヘマはしませんよ。》

「確かに、それもそうだったな。」

皆の調子も問題なさそうだ。

いける。

勝てるぞ。今回も。

「車輪止め、よし!」

「発艦位置への移動完了!」

「ミサイルの安全ピン、忘れるなよ!」

「ブラスト・ディフレクター展開、急げ!」

甲板作業員による最終確認。

発艦作業も、いよいよ最終段階。

「主翼展開、よし。計器類、異常なし。」

この作戦で全てが決まる。

「フラップ、発艦位置まで展開・・・アフターバーナー点火。『SKOPA9』より「クズネツォフ」、これより発艦する!」

自分への鼓舞も含め、力強く報告した。

 

「行ったわね。」

ここは空母「アドミラル・クズネツォフ」のCIC。艦外は当然、見えない。

けれど、たった今飛び立ったであろう4機のSu-33はバッチリ、レーダーで捉えている。

私は、きっと帰れない。

いや、“帰らない”の方が正しい。

前回に引き続き、今回の作戦も立案したのは私。それも、前回とは違い今回は僚艦6隻を道連れにするような作戦。この期に及んで、生き残りたいなどとは思わない。それに、この艦が生き残れるとも思えない。

でも、それで良い。

例え艦隊が全滅しようとも、攻撃が成功すれば、敵はロシア本国への攻撃の手段が大きく削がれる。既に我が国の潜水艦部隊は、総力を上げてインド洋と南大西洋を封鎖しており、冬の今、北極海は移動し辛い。そして、大西洋艦隊の基地であるノーフォークを叩けば、敵に残される攻撃手段は弾道ミサイルのみ。でも、もし先に使ったら?国際社会からの批難はおろか、自国民から批難されるだろう。それは恐れる筈だ。

つまり、この作戦さえ成功すれば、一気に講和に持ち込める可能性がある。その為にこれまでの大量の出血に耐えてきたのだ。

開戦劈頭の監視衛星群の破壊も、空母打撃群との死闘も、全ては今日の為。

「艦長!各艦、配置につきました!」

「本国より入電!『漁師は銛を持ち漁に出掛けた。』!」

なればこそ!

「空母「アドミラル・クズネツォフ」艦長より全艦へ!艦隊司令官の事前の通達に従い、本作戦の指揮は私が執る!全艦、最大戦速!これより、SSM(艦対地ミサイル)射程圏内にノーフォーク海軍基地を捉えるべく前進する!」

必ず、勝つ!

「これより、『ロシアの騎馬兵』作戦を開始する!」

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