デビルズ・コンフリクト   作:東美桜

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プロローグ

千花(ちはな)、ちょっといい?」

「なんですか、お母様」

 ふと投げかけられた母の声に、振り返る。両手には日本刀を握ったまま。訓練を一時中断し、日本刀を鞘に納めると、母の手招きに従う。

 中庭から縁側に上がり、和室に入る。そこで母が正座したので、私も膝をそろえて座った。母が正座するときは、たいてい大事な話がある時。……前回は、主が死んだことだった。次は、何だろうか。

「ねえ千花、ミョウジョウ学園の『黒組』って聞いたことある?」

「ええ、一応は。……それがどうしたのですか?」

「それにご招待が来ているの。千花宛にね。その内容はもちろん、暗殺。ターゲットはとある事情もちの女子高生。あなたはこれから転校し、彼女を誰よりも早く殺すの。黒組は全部で13人。ターゲット以外のクラスメイトは全員、暗殺者。……いい?」

「はい。……ですがお断りします」

 強い言葉に、母は一瞬目を見開く。しかしすぐに平静を取り戻し、問いを返した。

「どうして?」

「そんなどうでもいい依頼にかまけている暇はありません。……母上は我らの掟、お忘れですか?」

「…………」

 その言葉に、母は俯く。その隙に私はさらに畳み掛ける。

「我ら鍵守(かぎもり)一族の掟。それは、楓宮(ふうみや)一族を命を懸けて守ること。そして楓宮一族の者が死んだ暁には、その原因を命がけで排除すること。その目的を達成するためには、そのような依頼にかまけている暇はありません」

 膝の上で握った拳が、震える。

 私の主は、楓宮麻姫(まき)は死んだ。あの娘のせいで死んだ。その恨みを晴らすためだけに、私は生きている。

「あの娘を、天羽(あもう)粉雪(こなゆき)を殺す。そのために、そんな依頼は不要です!」

「落ち着いて、千花」

 ――母の冷静な声が、私の激情を遮った。ハッと目を見開き、彼女を見返す。薄氷のように冷静な声が続きを紡いだ。

「あなたの目的のためにも、この依頼は役に立つはずよ」

「どう、して?」

「この依頼には『報酬』が用意されているの。ターゲットを殺した者は、願いをなんでも一つ叶えてもらえる。巨万の富も、幾千の星々の支配も――憎き相手への、復讐さえも」

「……復讐」

 その言葉を、口の中で繰り返す。私の目的。それが、叶う? こんなに簡単に?

 ……いや、今はそんな細かいこと、気にしている余裕はない。罠だろうと、何だろうと、彼女への復讐さえ果たすことができれば、私はそれでいい。

「……荷造りを始めます」

「そう……依頼を受けるのね。ありがとう」

 母の声は不意に柔らかさを増した。彼女は私に真っ直ぐに視線を合わせ、告げる。

「あなたの主の無念。絶対に、晴らしてくるのよ」

「――ええ、勿論」

 

 

 わたしは一人、席についている。そんな私を心配そうに見下ろす男性教師。

「……大丈夫か、天羽?」

「……はい……大丈夫、です」

 その声が震えるのを自覚する。それはそうだ。あの人が、私の親友が死んだのだ――自分のせいで。大切な人が、次々と死んでいく。父も、母も、姉も、弟も、妹も。

 そして、大切な親友も。

 思い出すだけで涙が零れそうだ。肩が震える。体温が下がる。

「……体調が悪いのか? 保健室に行ってもいいんだぞ」

「いえ……大丈夫です、溝呂木先生。すぐ、収まります」

「そうか……」

 わたしたちの担任教師、溝呂木先生はまだ不安そうにわたしを見つめていたけど、不意に窓の外に目を向けた。

「いい天気だし、新学期だし、あんまり落ち込んでても仕方ないぞ。これからクラスメイトも集まってくるんだ。もっと明るくいこう、明るく」

「……はい……」

 蚊の鳴くような声でそう応え、わたしはクラス名簿を手に取る。

 

 一番、浅野(あさの)(れん)くん。

 二番、五十嵐(いがらし)(いつき)くん。

 三番、鍵守千花さん。

 四番、京極(きょうごく)琉牙(りゅうが)くん。

 五番、白木(しらき)暦未(こよみ)さん。

 六番、瀬川(せがわ)由紀乃(ゆきの)さん。

 七番、千葉(ちば)悠奈(ゆうな)さん。

 八番、仁科(にしな)(えみ)さん。

 九番、走り鳰くん。

 十番、御影(みかげ)(まこと)くん。

 十一番、武藤(むとう)あかりさん。

 十二番、幸村(ゆきむら)(けい)くん。

 十三番、天羽粉雪さん。

 

 この12人を相手に、私は生きていかなければならない。大丈夫だろうか? 私は、生き延びることができるのだろうか? そう考えると、全身の震えがさらに強くなっていく。

 だが――不意に、『あの人』の言葉が脳裏をよぎった。

『――生きて、粉雪。私の分まで』

 その声に、震えが……不思議と、徐々に静まっていく。クラス名簿を強く握り、私は大きく息を吸い、吐いた。

「――絶対に、生きて卒業してみせるよ」

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