「
「なんですか、お母様」
ふと投げかけられた母の声に、振り返る。両手には日本刀を握ったまま。訓練を一時中断し、日本刀を鞘に納めると、母の手招きに従う。
中庭から縁側に上がり、和室に入る。そこで母が正座したので、私も膝をそろえて座った。母が正座するときは、たいてい大事な話がある時。……前回は、主が死んだことだった。次は、何だろうか。
「ねえ千花、ミョウジョウ学園の『黒組』って聞いたことある?」
「ええ、一応は。……それがどうしたのですか?」
「それにご招待が来ているの。千花宛にね。その内容はもちろん、暗殺。ターゲットはとある事情もちの女子高生。あなたはこれから転校し、彼女を誰よりも早く殺すの。黒組は全部で13人。ターゲット以外のクラスメイトは全員、暗殺者。……いい?」
「はい。……ですがお断りします」
強い言葉に、母は一瞬目を見開く。しかしすぐに平静を取り戻し、問いを返した。
「どうして?」
「そんなどうでもいい依頼にかまけている暇はありません。……母上は我らの掟、お忘れですか?」
「…………」
その言葉に、母は俯く。その隙に私はさらに畳み掛ける。
「我ら
膝の上で握った拳が、震える。
私の主は、楓宮
「あの娘を、
「落ち着いて、千花」
――母の冷静な声が、私の激情を遮った。ハッと目を見開き、彼女を見返す。薄氷のように冷静な声が続きを紡いだ。
「あなたの目的のためにも、この依頼は役に立つはずよ」
「どう、して?」
「この依頼には『報酬』が用意されているの。ターゲットを殺した者は、願いをなんでも一つ叶えてもらえる。巨万の富も、幾千の星々の支配も――憎き相手への、復讐さえも」
「……復讐」
その言葉を、口の中で繰り返す。私の目的。それが、叶う? こんなに簡単に?
……いや、今はそんな細かいこと、気にしている余裕はない。罠だろうと、何だろうと、彼女への復讐さえ果たすことができれば、私はそれでいい。
「……荷造りを始めます」
「そう……依頼を受けるのね。ありがとう」
母の声は不意に柔らかさを増した。彼女は私に真っ直ぐに視線を合わせ、告げる。
「あなたの主の無念。絶対に、晴らしてくるのよ」
「――ええ、勿論」
◇
わたしは一人、席についている。そんな私を心配そうに見下ろす男性教師。
「……大丈夫か、天羽?」
「……はい……大丈夫、です」
その声が震えるのを自覚する。それはそうだ。あの人が、私の親友が死んだのだ――自分のせいで。大切な人が、次々と死んでいく。父も、母も、姉も、弟も、妹も。
そして、大切な親友も。
思い出すだけで涙が零れそうだ。肩が震える。体温が下がる。
「……体調が悪いのか? 保健室に行ってもいいんだぞ」
「いえ……大丈夫です、溝呂木先生。すぐ、収まります」
「そうか……」
わたしたちの担任教師、溝呂木先生はまだ不安そうにわたしを見つめていたけど、不意に窓の外に目を向けた。
「いい天気だし、新学期だし、あんまり落ち込んでても仕方ないぞ。これからクラスメイトも集まってくるんだ。もっと明るくいこう、明るく」
「……はい……」
蚊の鳴くような声でそう応え、わたしはクラス名簿を手に取る。
一番、
二番、
三番、鍵守千花さん。
四番、
五番、
六番、
七番、
八番、
九番、走り鳰くん。
十番、
十一番、
十二番、
十三番、天羽粉雪さん。
この12人を相手に、私は生きていかなければならない。大丈夫だろうか? 私は、生き延びることができるのだろうか? そう考えると、全身の震えがさらに強くなっていく。
だが――不意に、『あの人』の言葉が脳裏をよぎった。
『――生きて、粉雪。私の分まで』
その声に、震えが……不思議と、徐々に静まっていく。クラス名簿を強く握り、私は大きく息を吸い、吐いた。
「――絶対に、生きて卒業してみせるよ」