……雀が鳴く声で、目が覚めた。
もう朝か……と思いつつ身体を起こすと、暦未が机に向かっているのが目に入る。
「……暦未。何書いてるんだ?」
「あぁ、おはよう恵ちゃん」
挨拶を返し、暦未は髪を掲げてみせた。
天羽粉雪様
我が組織のため、贄になっていただきます。
くれぐれも、後悔のないように。
5番 白木暦未
「……予告票!?」
「そうだよ。早速予告出そうと思うんだよね」
「いきなりか!? 言っとくが、天羽には御影っつーボディーガードがいんぞ。しかも相当強い。……まぁ、もう一人の方は警戒するまでもないがな」
「千花ちゃんね。まぁ大丈夫だよ、油断はしない。っていうか千花ちゃんも迷い振り切っちゃえばそれなりに強そうだし、やるなら千花ちゃんが迷ってる今のうちかな……って」
……確かに。まぁアタシは昨日の怪我のせいで本調子じゃないし、もうちょい待つつもりだけどな。
「……ってわけで、あたしが殺っちゃったらそん時はごめんね?」
暦未は悪戯めかして、ひらりと予告票を振ってみせた。
◇
早朝。制服に着替えることもしないまま、私はベッドに座って考えていた。
……私は、どうすればいいのか。
このクラスの中の真犯人を探し出すのが先? それとも、粉雪を殺して報酬を使って復讐すべき? 前者なら粉雪を守る言い訳にもなるけど……。
……言い訳?
今、私は何を思った? それではまるで粉雪を守ることが主目的のようじゃないですか。思い出せ。私がここに来た目的は、麻姫様の復讐を果たすため。あの方を殺した者を討ち取るため。なのに、粉雪は関係ないはずなのに、私は何を迷っている?
横目で粉雪の寝顔を窺う。白い髪が枕にゆるやかに広がり、透明感のある肌が黎明を受けて淡く輝く。その寝顔は安らかで、天使のようで……。
……違うでしょう、と私は頬を叩いた。
そんなことを考えている場合ではないでしょう。私には果たすべきことがある。けれど、どう果たすべきか……。
◇
朝食から御影さんと合流して、千花さんも入れて三人で校舎に向かう。……相変わらず、会話はないけど。気まずいけど、二人は……少なくとも御影さんは私を守ってくれる人だし、贅沢は言っちゃいけないよね。
教室に入ると、わたしの机の上に赤い封筒が置いてあるのが見えた。
「……?」
それを手に取ろうとして、御影さんに腕を引かれる。彼女はそのまま机の上の封筒を奪い取り、わたしに見せた。
「……えっと……それは、何?」
「予告票。暗殺者全員が支給されてるカード。暗殺を実行する前に、これを使って予告する。これを見たら、警戒しろ。48時間以内には、仕掛けられる」
「……そう、なんだ。わかった……気をつけるよ」
「しかし、こんなに早く……一体、誰から?」
千花さんの問いに、御影さんはためらいなく封筒を引き裂いた。中のカードを読み上げる。
「……天羽粉雪様。我が組織のため、贄になっていただきます。くれぐれも、後悔のないように。5番、白木暦未……」
組織という言葉を聞いた瞬間、千花さんは息を呑んだ。御影さんの視線が、席について授業の予習をしている白木さんを刺す。彼女は片手で銃の形をつくり、銃口を白木さんに向ける。
「……あいつは、駄目。こっちこそ、殺す……」
◇
「あの……御影さん。そのカード、もう一度見せてください」
不意に我に返って、私は御影に片手を差し出す。彼女は私の手に予告票を載せ、ふいっと視線を逸らした。カードを受け取り、熟読する。
……やっぱり、聞き間違いではなかった。
「……組織……まさか」
どうやら、迷っている暇は無さそうだ。
手の中で、音を立ててカードが潰れた。キッと顔を上げ、私は二人をを見据える。
「……そういうことなら、私も同行します。彼女は麻姫様の仇である可能性がある……どちらにせよ御影さんは彼女を殺すつもりなのでしょう? 目的は似たようなもの……協力の余地はあるようです」
「同感。……迷いは、捨てた?」
「いいえ、まだ完全には捨て去ることはできていません……けれど、もたもたしてしては逃げられる可能性がある。動かないことには、何も見えてきません」
「……賢明」
御影の口元が弧を描く。私は手を握り、ほどき、口を開いた。
「……麻姫様の仇は、絶対に討ってみせます」