デビルズ・コンフリクト   作:東美桜

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第12話 やりたいこと

「じゃあ、明日の理科は生物実験室で実験だ。忘れんなよ」

「はーい」

 チャイムが鳴り、溝呂木先生が教室を出ていく。と同時に、鳰ちゃんがあたしの肩を叩いた。

「暦未サン。ターゲットに予告票を出したっスよね? その件で今夜、お話があるっス。零時に生物実験室までお越しくださいっスー」

「オッケー!」

 きっと報酬の話だろう。待ち合わせの時間と場所を頭に入れて、あたしは帰り支度をはじめる。ちらりと視線を動かすと、粉雪ちゃんに話しかける由紀乃ちゃんと、彼女を黙殺して粉雪ちゃんの手を引く誠ちゃん、そして油断なくわたしを観察している千花ちゃんの姿。そういえば昼休みも由紀乃ちゃん、粉雪ちゃんに話しかけてたっけ。

 ーーと、唐突に樹ちゃんの姿が視界に入った。いつの間にか、触れ合えそうなほど近くにいる。

「わ、わわっ!?」

「ふーん……暦未ちゃん、予告出しちゃったんだぁ」

「……そ、そうだけど、なにさ」

 背筋が凍る。自分の声が震えてるのがわかる……なんなの、この人。気配もなくここまで近づくなんて……。

 樹ちゃんはふっと笑って、言い放つ。

「……僕、忠告したよね? やめときなって。それを聞かないってことは、どうなってもいいってことだよねぇ?」

「……何が言いたいの?」

「ふふ、僕が言いたいのはひとつだけ。天羽粉雪を殺すことはできない。それでもやるってんなら……命の保証は、しないよ? それでもいいの?」

 樹ちゃんは笑う、魔女のように笑う。あたしはムッと唇を引き結び、言い捨てた。

「……悪いけど、今がチャンスだから。チャンスをみすみす逃すなんてバカな真似、あたしはしないよ」

 あたし、失敗しないので……なんて言えたら、カッコいいんだけどね。

 

 

 大食堂で、あたしはチャーハンを口に運んでいた。向かいの席の恵ちゃんが不意にラーメンをすする手を止め、周囲を気にしつつ低い声で問う。

「……そういえば、暦未はなんで黒組に来たんだよ? 見た感じ、普通のリケジョっぽいのに」

「ん、あたし?」

 チャーハンをもぐもぐしつつ、あたしは応える。

「組織に無茶な依頼が舞い込んできて。それを片付けなきゃいけないの」

「……依頼って?」

「好事家からの依頼でね。500人分の心臓肝臓血液眼球を、2週間以内に手に入れろってさ」

「ぶっ!?」

 さらっと言ったつもりだったけど、恵ちゃんは思いっきりラーメンを吹いた。むせながら絶叫する。

「げほっ、げほっ!? お、お前、そんなこと言ったら飯が不味くなんだろ!!」

「そう?」

「お前普通の感覚抜け落ちてんぞ……」

 げっそりした顔でそう言い、恵ちゃんは水を一気飲みする。そのまま問いを重ねた。

「……なんでまたそんな珍妙な組織に身を置いてんだ?」

「勧誘されたから。あたし解剖好きだし」

「……」

 さらっと言い放つと、恵ちゃんは口を閉じた。目を逸らし、彼女はふと呟いた。

「……いいなぁ、そんな風に好きって断言できることがある奴は。アタシはそんな余裕、ねぇよ」

 その表情がどこか寂しそうで、あたしは言葉を探しながら口を開く。

「……大丈夫だよ。恵ちゃんにも、いつか見つかるよ。あたしみたいにね。なんとなく、そんな気がするんだ」

 

 

 ーーそして、零時。

「こんばんはっス」

「どもー。じゃあ早速本題に入ろっか? 成功報酬の話でしょ?」

「おっと、お見通しでしたかー。じゃあ早速聞いてもいいっスか?」

 ニヤニヤと問う鳰ちゃんに、あたしは微笑みながら答える。

「500人分の心臓肝臓血液眼球を、2週間以内に手に入れること、だよ」

「……まーた珍妙な希望っスね。何があったんスかぁ?」

 鳰ちゃんはニヤニヤと笑みを湛えながら、続ける。

「ーーイネア・オーガンの白木暦未サン」

 

 ーーイネア・オーガン。

 闇ルートの臓器売人集団。臓器や血液、骨髄などの採取を目的として暗殺を行う集団。採取した臓器等は医療機関や研究期間に譲渡したり、好事家に高値で売り払ったりする。バックに大手企業や政治家がいるという噂もあるが、詳細は謎に包まれている。

「ちょっとお得意様からの依頼でね。無茶だけど、断るわけにもいかなくてさ。組織あげて頑張ってるけど、ちょうど黒組が開講されたから、丁度いいなーって思った組織のトップがあたしを派遣したってわけ」

「ふーん……にしてもイネア・オーガンっスかぁ」

 不意に私から視線を逸らし、鳰ちゃんはぶつぶつと呟く。

「集団下校よりは上等っスけど、ダチュラには及ばないっスね。まぁ、今回の黒組にはもっと厄介な組織に属してる奴もいるっス。あの組織はダメっスよ。顔にたかる羽虫みたいな連中っス。誰がメンバーなのかは秘密っスけどね」

 ……何が言いたいのこの子。ムッとして、あたしは言い放つ。

「……言っとくけど、組織のでかさと実力は関係ないから」

「まぁ、そういうことにしとくっス」

 相変わらずニヤニヤと笑みを崩さない鳰ちゃん。……この子、やっぱり胡散臭い。

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