デビルズ・コンフリクト   作:東美桜

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第13話 生物実験室

「さて皆、準備はいいか? 今日は実験ということで、顕微鏡とミクロメーターを使った実験をするぞ」

「いぇぇぇぇいっ!!」

 ……白木は一人でひたすら盛り上がっていた。その様子を私はは冷めた目で眺める。班こそ違うけれど、席は隣なので問うてみることにした。

「……というか、白木さんはどうしてそんなに盛り上がるのです?」

「え? だってあたし、解剖好きだし」

 あっけらかんと答える白木。それを見て、御影さんは派手に舌打ちした。何か思うところがあるのだろう。

 机の上に置かれた顕微鏡をしげしげと眺め、粉雪と幸村は呟く。

「そういえばわたし、実験なんて初めてかも……使い方は知ってるけど、本物見るのは初めてだよ」

「……アタシもだ。中学からまともに通ってねえし、小学校以来だな……」

「そーなんだ! じゃああたしが色々教えてあげるね!」

「……」

 前の席の白木を警戒したように見つめる御影。私はゆっくりと首を振り、溝呂木先生には聞こえないように囁く。

「御影さん、今は先生がいるので白木さんは手出しできません」

「……わかってる」

 少し憮然としたような声。お節介だったか。

 

 

「ねーねー千花、粉雪のこと教えてよー」

 実験が始まると同時に瀬川が話しかけてきた。面倒だが、言葉を返す。

「……なんですか急に」

「だって粉雪のこともっと知りたいんだもん。千花は粉雪と同じ学校だったって、鳰に聞いたよ」

 何を喋っているのですかあの人は。同じ班だったので睨みつけると、ひらひらと手を振られた。何なんですかあの人は。

 気を取り直して顕微鏡に向かうと、再び瀬川の声が聞こえた。

「……そういえば樹もそういうこと言ってたような気がする」

「……走りさん、何を言い触らしてくれてるんですか」

「ウ、ウチじゃないっスよ!? ウチ樹サンには何も言ってないっス!」

「嘘おっしゃい」

「本当ですって! 信じてくださいよー」

 信じられるか。

 下らない言い合いはしないに限る。私は改めて顕微鏡に向かう。

 

 ミクロメーターの目盛りを数えながら、私の耳は粉雪の声を追っていた。白木と幸村の声も重なりつつ、耳をくすぐる。

「えっとねー、その微生物の大きさを接眼ミクロメーターで測るじゃん?」

「うん」

「……いち、にい、さん……くそ、目盛り細けぇ……」

 幸村と違って、粉雪はさくさく進んでいるようだ。そういえば昔、登校できていない時も勉強はしていたと言っていたな……道理で飲み込みが早いわけだ。

 しばらく話を聞いていたが、不意に白木の声のトーンが僅かに落ちた。

「……そうだ、粉雪ちゃん。今夜一緒にここで復習しない? その方がテストの点も上がるだろうしさぁ」

 観察が一段落した風を装って顔を上げる。振り向くと、粉雪が御影に視線を送ったところだった。御影は微かに頷く……行ってもいい、ということだろう。

 ちら、と二人に視線を送る。

 ーー恐らく彼女はその時に仕掛ける。その時に確かめようーー彼女が、仇か否かを。

 

 

「ねー千花、もしかして粉雪のこと気になってる?」

「そんなわけがないでしょう」

 授業後、何故か瀬川に話しかけられた。反射で応えてしまいつつ、振り返る。瀬川は微かに潤んだ瞳で、指を組み合わせた。

「ウチもあの子気になってるんだよね。本命は琉牙だけど。可愛いじゃん? 小動物みたいで、気弱そうでさ。顔も整ってるし。天使みたいだよね」

「貴女、人の話を聞いていますか? 私は気になってなどいないと言っています」

「ごめん、ちょっと聞こえなかった」

 何なんですかこの人。人の神経を逆撫でする才能がありますね……走りよりはマシですが。

「というか貴女は何者なのです? 黒組に来た理由もふざけたものですし……普通の人間ではないのでしょう?」

「……ううん」

 瀬川は薄く笑う。その表情に、悲しそうな影が落ちる。

「ウチは普通だよ。少なくとも自分では、普通でいるつもり。誰がなんと言おうと、ウチは普通に生きる」

 そう言って瀬川は私から離れ、オレンジ色のポニーテールに近づく。早速彼女の腕を組み、嬉しそうに話しはじめた。

 ……あの人は、何なのでしょう。

 

 

「……揃ったな」

 タブレット端末を片手に、御影は脚を組んで座っていた。ここは私たちの部屋なのだが、あくまで作戦会議の中心は彼女。文句を言うつもりはない。私と粉雪は頷き、彼女の手の中のタブレット端末を見る。そこには今回の舞台、生物実験室の見取り図が描かれていた。

「白木の性格なら、先に来て待っていると考えるのが妥当。まず天羽が入り、私と鍵守はドアの前で待機……前のドアが鍵守、後ろが私。トラップの類いはないと考えてよさそう。白木が仕掛けたのを察知し次第、突撃。私と鍵守で討ち取る……いい?」

「……うん」

「あの……二つ、いいですか?」

「何」

 私は一瞬歯を食いしばり、口を開く。

「一つは……仕掛ける前に、白木さんに確かめたいことがあります。それを確認してからでもよろしいですか?」

「……そのくらいなら、許容範囲。で、もう一つは?」

「もし、彼女が麻姫様の仇ならば……」

 一度目を伏せ、もう一度顔を上げる。今度ははっきりと、強い口調で。

「ーー彼女は、私に討たせてください。麻姫様の仇は、なんとしても討たねばならないのです」

 その言葉に、御影は少し沈黙し……ふっと息を吐いた。

「……わかった。私は結果主義だ。結果が同じなら、過程はどうでもいい。首はやる」

「……ありがとうございます」

 深々と頭を下げ、私は爪が刺さるほど拳を握りしめる。

 ……望みを叶えるのに、報酬なんていらない。

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