デビルズ・コンフリクト   作:東美桜

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第14話 素直

「ーー来たね。粉雪ちゃん」

「……」

 私は生物実験室の扉に張り付き、中の様子を窺っていた。白木が仕掛けたら、こちらも作戦開始。今はただ、隙ができるのを待つーー。

「……あたしが今から何するか、わかる?」

「……うん。わたしを……殺すんだよね」

「なぁんだ。わかってるじゃん」

 扉の向こうで白木は派手に相好を崩す。まだ。まだ、その時じゃない。

「それじゃあ、最期に言い残すこととか、なんかある? 一応聞いとくよ」

「……最期とは、ちょっと違うけど」

 メスだろうか、金属質の音が鳴る。私はそっと、日本刀に手をかけた。御影が扉に手を当てる。もうすぐだ。扉の向こう、粉雪の声が明瞭に響く。

「わたしはーーそう簡単に殺されるつもり、ないから!」

 

 刹那、私は扉を蹴り開けた。御影も同時に扉を開き、発砲する。銃弾は白木の手の中のメスを直撃し、派手な音を立てて弾き落とした。一瞬の隙。それを狙って私は白木に肉薄し、急所を避けながら胸を刺す。白木が苦悶の声を上げた。

「いっ……!」

「……白木さん。いくつか、質問があります」

 胸から刀を抜き、倒れた白木をそのまま組み伏せる。その首筋に刃を当て、問うた。

「……なに……? 答えたら、放してくれる……?」

「返答によります。……嘘を吐いたり、黙秘したりした場合は、四肢を一本ずつ落としますので、悪しからず」

 ちらりと御影に視線を送ると、彼女は微かに頷いた。食んだんは任せろ、ということか。頷き返し、最初の問いを投げ掛ける。

「……貴女は、以前にも天羽粉雪を狙ったことがありましたか?」

「……ないよ。粉雪ちゃんとは、黒組で初めて会ったもん」

 ……眉がぴくりと動くのを自覚する。……次だ、次。

「……では、今までで失敗したことは?」

「ん-……失敗ならいっぱいあるけど、大体組織の人がフォローしてくれたもん。失敗という失敗は、あんまりないかな」

「……貴女の組織は、犯行時に仮面をつけることはありますか?」

「ないけど……聞いてどうすんの? そんなこと」

 きょとんと問い返される。それには答えず、私は御影を振り返った。彼女はゆっくりと首を……横に振る。

「……全部、真実。これ以上は無駄」

「……そう、ですか」

 つまり……彼女は、シロ。

 ならば、これ以上攻撃する意味は、薄い。

 

「ーーっ!!」

 咄嗟に刀を構え、白木が構えたメスを相殺する。そのまま刀を横に押し出し、メスを吹き飛ばすーーその隙に白木は拘束から抜け出し、立ち上がった。

 ……しまった。一瞬の隙を突かれた。白木はごほごほと何度か咳をして、もう一本メスを構える。

「……悪いけど、あたしはこんなとこで終わんないから」

「……っ!」

「粉雪ちゃんを殺すのは、あたしだよっ!!」

 叫び、粉雪に肉薄する白木ーーその前に、気付くと私は身を投げ出していた。粉雪の首めがけて投げられたメスを弾き、時間差で突きつけられた刃を相殺する。

 ーー何故?

 そんな疑問が脳裏を掠める。しかし、私は止まらない……止まれない。振り回されるメスをかわし、相殺し、弾き飛ばす。一瞬生まれた隙に刀をねじ込み、腕を切り落とした。鈍い音を立てて利き腕が落下し、目の覚めるように赤い奔流が噴き出す。

「い……いっ、あああああああっ!!」

 失った腕を押さえ、絶叫する白木……その隙を御影は見逃さなかった。素早く銃口を白木の脳天に向け、引き金を引く。

 パンッと乾いた音がして、鉛玉が飛び出す。それは正確に白木の脳天を貫きーー叫び声が、一時停止ボタンを押したように、ぷつりと止まった。白木の全身から力が抜け、どさりと倒れ伏す。御影は無言で彼女に歩み寄り、喉に手を当てた。

「……脈、なし。呼吸、なし……死んだな」

 続いて鼻の下に手を当て、呟く。

「お前はただの趣味のために、何人もの人間を手にかけた……それは許されることじゃない。自分勝手で、他人のことを考えない……罪だ」

 吐き捨て、御影は生物実験室を出ていく。それを見送り、私はもう一度白木の遺体に目を向けた。頭部の穴からはとろとろと紅い液体が流れだし、腕の傷口からは紅い肉と白い骨が覗く。暗殺者としては、とうに見慣れた光景だ……が。

「粉雪さん……大丈夫ですか?」

 彼女は違うだろう。いくら狙われているとはいえ、彼女は一般人だ。そっと声をかけると、彼女は震えながら囁いた。

「……大丈夫……だよ。もう、慣れちゃった」

 そして彼女は膝から崩れ落ち、震える声で呟く。

「……涙さえ、出なくなるんだね……私の中では、誰かが死ぬのは当たり前。全部、私のせい……なのかな」

 涙すら流せない、その姿は哀れだった。

 そっと駆け寄り、背を擦るけれど……かけるべき言葉が、見つからない。

 麻姫様ひとりを失っただけでも、誰の言葉も届かないほどに悲しかったのだ。まして、何人もの死に立ち会った粉雪の悲しみに、見合う言葉なんて……。

 

 

「えー、皆、今日は少々悲しいお知らせがある」

 アタシの隣。かつて暦未が座っていた席には、一輪の花が飾られている。紫色と白で彩られたーーオダマキ。花言葉は、素直。

「白木が昨夜、急に転校してしまった……」

「……マジか」

 呟きが漏れる。机の上で拳を握りしめる。白木が失敗した。やはり、あの二人は強いんだ。敵わなかった……アタシも、白木も。

「挨拶もできなかったのは残念だったな……仕方ないけどな。じゃあ今日の連絡するぞ」

 一人欠けた黒組の教室は、それでもいつも通りに回っていく。

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