デビルズ・コンフリクト   作:東美桜

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第15話 思想犯

 午前四時。

 まだ太陽も昇らない早朝、私は机に向かっていた。手の中には作り終わったばかりのトラップ。作り方は祖父に教わった。大切な祖父。あの人のために、私は黒組にやってきた。

 トラップをしまうと、机の中から古い写真を取り出す。幼い頃の私と祖父の写真。これは私が祖父の家に引き取られたばかりの時のものだ。まだ緊張した笑顔が、懐かしい。

 祖父は暗殺者だった。彼に戦略とトラップの仕掛け方を学び、彼を継ぐために私は暗殺者になった。

 ーー私はあの人の孫だ。その誇りが、私の原動力。

 予告票を取り出し、シャーペンを走らせる。少し趣向を凝らしてみよう。崩れかけの雪の結晶を数個描き、片隅にサインを添える。

 

 ーーRen Asano.

 

 

 ……また守ってしまった。

 あの時私は、守る必要性は薄いと判断したはずだ。なのに何故守った? 思考と行動が矛盾している。近頃、私はどこかおかしい。守るつもりはなかったのに……何故か守ってしまう。

「……で、聞いてるか、鍵守?」

「え、あっ、はい」

 御影の言葉で我に返った。そう応えるも、正直なところ嘘だ。それを見破ったのか、御影は肩を竦める。

「……もう一回言ってやる。私は無駄なことが嫌いだ、二度目はない。……今思うにダメなのは、五十嵐、瀬川、千葉、走り、武藤……それと、ギリギリ幸村。こいつらは私が殺る。他の連中はまだマシだ。好きにしていい」

「……わかりました。でも、御影さん」

 教室を出ていく粉雪の姿を横目で窺う。昨日の言葉が、脳裏にこびりついている。我ながら少し躊躇いがちに、切り出した。

「あの……不必要な殺しは、避けていただけませんか? これではあまりにも……粉雪さんが哀れで仕方ありません」

「何で?」

 ……はい?

「勘違いするな。私はお前とは違う。天羽のことは、利用しているだけ。天羽も同意した。そもそも私の殺しは、無益じゃない。私がここに来たのは、ここに呼ばれたダルい連中を消すため。ダルい連中は、社会全体にとって害悪。殺すべき」

「……はぁ」

 一気にまくし立てられ、私はそれだけを返す。要するに、彼女はーー。

「思想犯ってヤツっスねー!」

「入ってくるな屑」

「いいじゃないっスか-」

 唐突に走りが会話に混じってきた。御影の暴言をものともせず、彼女は明るく続ける。

「あっれぇ、千花サン知らないっスか? 彼女は最近頭角を現しはじめた思想犯っス。恐ろしいっスよオオオ、自分の正義に合わない人間は即切り捨てるっスから。な、なんと! 両親までこの手で殺してるんスよ!」

「……本当ですか?」

「毒親だった。それだけ」

「自分の学校のダメなヤツもみーんな殺して!」

「いじめっ子は燃えるゴミ」

「わーお、集団下校と気が合いそうっスねー!」

 集団下校……一応聞いている。いじめられっ子の復讐代行組織らしい。……まぁ楓宮家ではいじめなどという下らないことはするなと教育されているし、私たちとは関わりは基本的にない組織だという話だったが。

「前回の黒組にいたんスよそのメンバーが。まぁ予告票切った矢先に別の暗殺者にPOISONされてフェイドアウトしたんスけどね。かわいそーに」

 その言葉に、御影の肩がピクリと動いた。

「……誰? それって……いや、いい。教えなくて」

「おっ、ターゲットロックっスかぁ? でもやるなら黒組終了後っスねー。今は目の前の任務に集中しましょうよー……っと、思いっきり話逸れちゃいましたね」

 逸らしたのは貴女でしょうに。

 走りは少し考え、不意に手を叩いた。

「あー、そうそう! 親殺したといえば、粉雪ちゃんもそうっスよ」

「嘘おっしゃい」

「いやいや本当ですって! 両親と兄弟全部、殺してるんスよあの子。っていうか千花サンだって主殺されたーっ

て散々騒いでたじゃないスか!」

 ……そういえば、そうだった。かつての私は、麻姫様が殺された原因をすべて彼女に押しつけ、彼女を殺そうとしていた。……そうして、ただの八つ当たりを繰り返していた。

 けれど、今は違う。

「……誤解、いえ、私の勝手な八つ当たりです。彼女は誰も殺していない……むしろ、守られたのです」

「……多分、その通り。人殺し特有のダルさが、あいつにはない」

「……ふーん」

 私たちの言葉に、走りは不満げに唇を尖らせる。しかし、不意にニヤッと口元を歪めた。

「……いつまでそう思ってられるっスかね……っと。粉雪ちゃんがそろそろ帰ってきそうなんで、ウチはこの辺で」

 そう言って身を翻す走り。……何なんですかこの人。

 

 ーーと、粉雪が戻ってきた。心なしか、わずかに青い顔をしているような。

「……天羽?」

「どうしました、粉雪さん?」

 私たちの問いに、彼女はかすかに震える声で。

「……次が、来たよ」

 そう言って彼女が差し出したのはーー赤い、封筒。

 ーー予告票だった。

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