教室の扉を開けると、そこには五つの人影。
担任らしい黒髪の男性、オリーブ色の髪をポニーテールにした灰色のブレザーの少女、癖の強い黒髪に赤いヘッドフォンを付けた少女、アホ毛が生えた金髪のボブカットにミョウジョウ学園の制服姿の少女。
否――そんな奴らはどうでもいい。
残った一人に、私の目は吸い寄せられた。
二つに結ばれた、雪のように白い髪。
少し垂れ目がちの、湖水のような青の瞳。
私と同じ天川天使学園の、紺のジャンパースカートの制服。
その姿はどう見ても、あの憎き少女――。
「天羽、粉雪……!!」
気づいたときには、私は彼女に飛び掛かっていた。しかしその前に、アホ毛の少女が立ち塞がる。
「――邪魔です。どきなさい」
「いやいや、そんな睨まないで下さいよオオオ。折角の転校初日なんスから、穏やかにいきましょーよ穏やかに。そーだ、ちょっと内緒話しません? 廊下いきましょーよ、ほらほらー」
「ちょっと、貴女……!」
少女にぐいぐいと押され、半ば無理やり追い出される。彼女は後ろ手に扉を閉めると、私に笑いかけた。
「鍵守千花サンっスよね? 早速ヤる気満々なのはいいっスけど、ちょっとだけ待ってほしいっス」
「何故です? 私はあいつへの復讐さえ果たせれば、それでいいのに」
「いやいや、ターゲットは粉雪サンだと決まったわけじゃないっスし―。それと千花サンには先に教えとくっスけど、黒組生徒以外の人間を巻き込んだらアウトなんで」
「そんなこと、どうでもいいッ! あいつへの復讐を一刻も早く果たすことが、私の使命。それを邪魔するなら貴女から――」
「鍵守、どうした?」
教師の声が投げかけられ、私は少女から視線を外し、彼を睨む。
「関係ないでしょう。黙っていて下さい」
「いやいや、関係なくないぞ。生徒の間の問題は先生の問題でもあるからな」
堂々と言い放つ教師に、私は頭を抱える。こういう鈍感な一般人は手に負えない……。
◇
「……間違ってる」
「あはは、あの子とは気が合いそうだなぁ」
黒髪の少女の不機嫌そうな声、緑髪の少女の楽しそうな声。それをよそに、わたしは俯いていた。
……あぁ、やっぱり、あの子だった。
鍵守千花さん。私の親友、楓宮麻姫ちゃんの守護者。あの子は、私を恨んでいる。
わたしは「とある事情もち」で、なかなか学校に行けてなかった。そんなわたしにも、麻姫ちゃんは優しくしてくれた。お見舞いに来てくれたり、たまに学校に行ったら話しかけてくれたり。
そして、そんな麻姫ちゃんの隣には、いつも千花さんがいた。彼女は麻姫ちゃんに忠誠を誓っていて、彼女を守るために常に側にいた。
羨ましいな、と思ったことを覚えている。
だけど麻姫ちゃんは死んじゃった。わたしを庇って死んじゃった。だから千花さんは、私を恨んでいる。
……だけど、とわたしは溜め息を吐いた。
千花さんみたいな守護者が、私にもいればいいのに――。
◇
「さて、改めて皆、ミョウジョウ学園へようこそ!!」
私と金髪アホ毛の少女が席に着いたのを見届けると、教師は爽やかな笑顔でそう言った。
「担任の溝呂木辺だ、よろしくな!! 色々あるかもしれないが、今日から君たちは同じ11年黒組の仲間だ。1年間、楽しくやっていこう! じゃあ……名簿順に自己紹介を頼む。まずは2番、五十嵐から」
「はい」
最初に立ち上がった少女は、オリーブ色の髪をポニーテールにした少女だった。アシンメトリックな前髪の下で、琥珀の瞳が瞬く。長身をグレーのブレザーとミニスカート、ニーハイソックスで包んだ彼女は優雅に微笑んだ。
「初めまして、五十嵐樹です。私立彼岸桜学園から来ました。よろしくお願いします」
彼女は一礼し、席に着いた。彼岸桜学園といえば、それなりに有名な暗殺学校。彼女には警戒した方がいいかもしれない。それにしても樹という名前なのに、女子なのか。ありえなくはないけれど。
次は3番の私か。立ち上がり、口を開く。
「私は3番の鍵守千花。天川天使学園出身。よろしくお願いします」
簡潔に自己紹介し、席に着く。するとさっきの金髪アホ毛が口を開いた。
「わーお、天川天使ったら結構なお嬢様学園じゃないっスか! あ、もしかしてそっちの子も同じとこ出身だったりする?」
その言葉に、天羽粉雪は小さく頷いた。金髪アホ毛はさらに続ける。
「へー! 元々の知り合いっぽいし、よかったじゃないっスか。あ、ウチは9番、走り鳰っスー。よろしく!」
こいつも女子か。男か女かわからない名前が多すぎるでしょう、このクラス。
次はあの癖の強い黒髪か。どこか病的な白い肌に、目を覆うほど長い前髪の影が落ちている。Yシャツの上にグレーのパーカーを羽織り、赤のネクタイとミニスカート、黒のレギンスを纏った彼女は、ヘッドフォンを外すことすらしないまま口を開いた。
「10番、御影誠。揺籃第四高出身」
それだけ言って、口をつぐむ。愛想がないのは私もそうだが、彼女は極端すぎるでしょう。それにしてもまた男っぽい名前か……本当に厄介なクラスだ。
そして最後は、天羽粉雪。私は、ふいっと彼女から顔を背ける。
「……13番の、天羽粉雪です。天川天使学園出身、です。どうか、よろしくお願いします」
仲良くなんてしてたまるか。そう思った……けれど。
その声が、妙に心地よく耳を打ったのも、また事実だった。