「ああ、ロミオ、ロミオ、貴方はどうしてロミオなのです? 薔薇の花を何と呼ぼうと、美しい香りは変わらないのに。憎いのは貴方の名前だけ。ロミオ、名前を捨てて、私の全てを受け取って!」
「その言葉通りに受け取ろう。えーと……今からはもうロミオではない」
体育館には二人の美しい台詞が響き渡っていた。
意外や意外、由紀乃ちゃんはノリノリで演技していた。流石自ら志願しただけあるなぁ。台本も意外と覚えられたみたい。表情も生き生きしていて、すごく楽しそうだ。一方の京極さんも練習初日から感情をたっぷり込めた演技で、聞き手を痺れさせていた。……ちょいちょい台詞を忘れるのが、ご愛嬌だとも思うけど。
「うわぁぁ~! すごいよ二人とも~!」
「……あの、武藤さんは何故監督をしているのです?」
「だって蓮ちゃんがやりたかったって言ってたんだもん。LIMEで。だからあかりが代わりにやるのっ」
「キャラじゃないことばかりやりますね……」
呆れたような千花さんの声。わたしはいいと思うけどなぁ。
因みわたしはは乳母役だけど、時間があるときは仁科さんの衣装作りを手伝ってる。一応手先は器用な方なんだよ。他の人はそれぞれ大道具を作ったり、細々した作業をしたり。
「咲~! 手伝いに来たよ!」
「悠奈、さん」
不意に声が投げかけられたと思うと、ピンク色のツインテールが揺れた。その後ろには御影さん、五十嵐さんの姿もある。
「暇だから僕もね。誠ちゃんは折角だから連れてきた」
「……お前に言われたからじゃない。私には私の目的がある」
「んで、悠奈たちはなにすればいいのん?」
「えーっと……」
仁科さんは布の山から手早く何枚かを取り出し、差し出す。
「これ、縫ってください」
「分かったよ。針と糸、借りるね」
「……ん」
千葉さんは私と仁科さんの間に腰を下ろした。御影さんわたしのの、五十嵐さんは仁科さんの隣。三人はそれぞれに布や針、糸を受け取って作業を始める。不意に御影さんわたしにしかか聞こえない声で、低く囁いた。
「……天羽、千葉には気を付けろ」
「え?」
「なんか、企んでる気配がする」
その言葉に、わたしは唇を引き結ぶ。……次は千葉さん、かな。
◇
「……ん、あれ?」
不意に粉雪ちゃんが作業の手を止め、衣装の下に手を伸ばした。何かを探り当てると、手を引き抜き――それを見て、目を見開いた。
「……予告票」
「千葉か」
悠奈ちゃんを睨む誠ちゃん。対し、悠奈ちゃんはニヤニヤと怪しい笑みを崩さない。……そっか、次は悠奈ちゃんかぁ。
咲ちゃんを押しのけて手を伸ばすと、薄く笑みを浮かべて悠奈ちゃんと目を合わせる。
「……なに? 樹」
「本当に粉雪ちゃんに手を出すつもり?」
「そうだけど?」
ムッとしたような悠奈ちゃんに、僕はさらに笑みを深める。
「……止めた方がいいと思うけどなぁ。後悔しても、知らないよ?」
「ふんっ……余計なお世話!」
悠奈ちゃんはそう言うと、ぷいっと顔を逸らした。ツインテールが激しく弧を描き、咲ちゃんと粉雪ちゃんの頬に当たる。……そうだ、咲ちゃんにも言っとかないとなぁ。
「ねえねえ咲ちゃん、咲ちゃんも殺るつもり?」
「はい……いずれは」
険しい顔で頷く咲ちゃんに視線を合わせると、僕はもう一度微笑む。
「キミにも忠告しておくね。無駄なことは止めた方がいいよ。粉雪ちゃんを殺すことなんて、できないんだから」
つつ……と粉雪ちゃんに視線を移すと、彼女はびくりと震えた。ふふ、やっぱり反応あり。唯一作業を続けていた誠ちゃんは不意に顔を上げると、不機嫌そうに問うた。
「……お前は?」
「え?」
「五十嵐。お前は、殺れる?」
「殺せるよ」
笑顔を絶やさないまま、即答する。粉雪ちゃんを殺すのは、全てを終わらせるのは、他でもない僕なんだから。
◇
「二人ともすごーい! じゃあ、休憩入っていいよ!」
あかりちゃんの声に、ウチは思い切り身体を伸ばす。やっと終わったぁ……まぁ、楽しかったから終わんなくてもよかったんだけどね。
「お疲れ、由紀乃」
「琉牙も乙ー。喉乾いたー、スポドリちょうだい」
「おうよ」
飲みかけのスポドリを受け取り、蓋を開け、口をつける。これこれ。この爽やかな感じが欲しかったんだよ。ぷはーっと息を吐き、蓋を閉めると、琉牙に投げ返す。大道具作りや衣装作り、雑用なんかをしているみんなを眺め、もう一度伸びをする。衣装作りに人行きすぎて、大道具やってるの千花と恵と鳰だけじゃん。
「いやぁ、皆頑張ってるねぇ」
「由紀乃こそ。ノリノリじゃねーか」
「琉牙だって」
琉牙はスポドリを飲み干すと、台本を放り投げる。くるくると宙を舞い、落ちてきたそれを片手でキャッチした。
「にしてもロミジュリかぁ」
「だねー」
「……なぁ、由紀乃」
琉牙は台本をパラパラとめくりつつ、口を開く。
「……もし、許されない相手を好きになっちまったら、どうする?」
「っ!」
――心臓を潰されたような衝撃が走った。全身を寒気が駆け巡る。まさか……気付かれた? 恐る恐る琉牙の顔を見るけど、その瞳はごく自然な色を湛えている。……大丈夫そう、かな。
「そうだなぁ、ウチだったら……」
できるだけ自然な声色を心がけ、思わず目を逸らしそうになる。それでも耐えて、ウチは口を開いた。
「それでも……『好き』を貫きそうだなぁ。何を敵に回そうとも、ね」
「そうか……オレはそこまで強くねえ。好きになった相手が敵だったら、多分、揺れる。ある意味羨ましいよ、由紀乃」
「そっかぁ」
素直に羨ましそうな眼差しを向ける琉牙に、耐えきれずにウチは顔を伏せた。