デビルズ・コンフリクト   作:東美桜

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第22話 誓い

「残念だっ……本当に残念だが……」

 ヒマワリの花の鉢が、前の席に置かれている。

「千葉悠奈くんが……金星祭直前のこの時期に転校してしまった……!」

 溝呂木先生は本当に残念そう。この人は何も知らないはず……可哀想だな……。

『……悠奈にしときゃいいのになぁ』

 ついこの間、かけられた言葉が耳にこびりついている。

 裕矢に出会う前に、千葉さんに出会っていたら、もう少し変わったのかな? 少なくとも、黒組にやって来ることはなかったはず。それはそれで、幸せな未来だったのかな。

 ふとヒマワリから視線を逸らすと、幸村さんが誰かを睨んでいた。その視線の先には……退屈そうにシャーペンを回している、御影さん。

 何か、あったのかな……。

 

 

 白いリコリスの花が揺れる。その花言葉は「誓い」だそうだ。

 アタシはその花をそっと棺に置き、花に埋もれて目を閉じている暦未を見つめる。

「……短い間だったが、本当に、ありがとな」

 暦未は応えない。わかっていながら、アタシは言葉を紡ぐ。

「お前に助けられたこと、絶対に忘れない。アタシのことを助けてくれた、初めての人だから。だから……最初で最後の約束だ。お前の仇は、アタシが討つ。お前を殺した御影誠は……絶対に、アタシが殺す。だから……」

 

「――天国から、アタシのこと、見ていてくれ」

 

 暦未は応えない。けれど、花に埋もれた姿は、どこか笑っているような気がした。

 

 

「わー! かんわいい!!」

 由紀乃ちゃんが赤いドレスのスカートを翻してターンする。彼女がくるくると踊るのと同時に、長い黒髪が華やかに翻った。咲ちゃんが主体となって、わたしたちも協力して作り上げた衣装が、遂に完成したのだ。嬉しそうな由紀乃ちゃんを眺め、京極さんが微笑みをこぼす。

「楽しそうだな、由紀乃」

「まぁね! 琉牙も似合ってるよ!」

「ははっ、そりゃあよかった」

 満更でもなさそうな京極さんは白のブラウスにスカーフ、青を基調としたストライプ柄のベスト姿。普段から男装してる京極さんだし、男っぽい顔立ちも相まってよく似合ってるなぁ。

「頑張った甲斐があったね、仁科さん」

「はい! ……あ、天羽さんも、似合ってます」

「そうかな? ありがとう」

 私は丈の長いメイド服姿。……ずっと気になってたんだけど、なんで乳母なのにメイド服なんだろう?

「仁科さんも似合ってるよ」

「そ、そう、ですか? え、えへへ……」

 顔を赤らめて俯く仁科さん。マキューシオ役の千葉さんがいなくなってしまったから、仁科さんが代わりをやることになったんだよね。わたしは青を基調とした衣装に身を包む千花さんを見やる。衣装のせいか、いつもより凛々しく見えるなぁ。千花さんは御影さんと何か話し込んでいたけど、わたしの視線に気づいたのか、こちらに歩み寄ってきた。

「悪くないじゃないですか。粉雪さん」

「ありがとう……千花さんだって」

「ふふ……ありがとうございます」

 素直に顔をほころばせる千花さん。珍しいなぁ。

 

 

 最後のリハーサルを終え、着替えも済ませ、ウチと琉牙は廊下を歩いていた。

「明日はいよいよ本番だねえ」

「そうだな。頑張ろうな、由紀乃」

 ――と、琉牙の学ランのポケットからバイブが聞こえた。彼女がそれを取り出すと、画面に表示されているのは「兄貴」の文字。前に言ってた、再起不能になったお兄ちゃんか……琉牙は何気なくそれを耳に当てる。

「オッス、兄貴? なんだよ、急に電話して。……はぁ? 再起しなくていいってどういうことだよ」

 その言葉に、全身が凍る。まさか……。

「いや、そんなことねえよ。暗殺の才能は兄貴の方が上だ。……しつけーなぁ、わぁったよ。もうオレが上でいいよ。……で、なんだ?」

 めんどくさそうに応対する琉牙の瞳が、不意に見開かれた。

「……あぁ? 復讐?」

「――っ!?」

 ……やっぱり。

 涙が零れそうになるのを必死で堪える。わかってた。いつかこうなるだなんて。私は罪を犯した。それは、決して許されない罪だ。

 ――そして、この罪を闇に葬る方法は、一つしかない。

「……ごめん、琉牙。ウチ、行くね」

「由紀乃?」

 呼び止める声も聞かずに、私は駆けだした。

 

 

 なんだ、あいつ。

 よくわからねえが、とりあえず兄貴との電話を再開する。

「で、なんで急に復讐なんだよ、兄貴」

『だって……俺の気持ちを考えてみろよ、琉牙。下半身不随だぜ。もう二度と暗殺ができねえ……まぁ、最初はやりたくてやってたわけじゃねえけどよぉ』

 まぁ、確かにな。オレも兄貴の後を継ぐためにやってるわけであって、暗殺は別に好きじゃない。つーか暗殺好きな奴なんていんのか?

『もう、動けないのは諦めた。けど……やられたこと、こればっかりは諦めらんねえ……』

 ギリッ、と歯を食いしばる音が電話口から響く。

『だから……琉牙、頼む。俺の仇を討ってくれ!』

 懇願するような強い言葉には、微かな涙すら混じっていた。オレはふっと息を吐き、応じる。

「……わかったよ。たった一人の兄貴の頼みだ」

『受けてくれるのか……ありがとう、琉牙』

「いいってことよ」

 笑顔で応えると、兄貴はさらに続けた。

『いいか? よく聞け……俺の仇はバールを持った、長い黒髪の女子……ひどく残忍な殺し方をする奴だから、気を付けろよ』

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