その後のホームルームで部屋割りが発表された、のだが。
「……チッ」
憎々しげに舌打ちし、寮への道を急ぐ。
何故、よりにもよって天羽粉雪と同室にならなければならないのか。
黒組の主催者はおそらく、私と粉雪の関係性を知っているはずだ。その上でのこの部屋割りは、私に彼女を殺せと言っているようなものでしょう。ええ、ならば殺してみせましょう。お望み通り、すぐに。
まずは、部屋で待機。天羽粉雪が現れ次第、殺すーー。
◇
あぁ……部屋に行きたくない。行ったら殺される。確実に。
席についたまま、鞄を抱えて震える。そんなわたしに、思ってもなかった声がかけられた。
「天羽?」
「!?」
弾かれたように顔を上げる。そこにいたのは、御影さん……だっけ。癖の強い黒髪の少女が、こちらを見下ろしている。
「えっと、御影、さん……?」
「ん。行くぞ」
「……え?」
言うなり、彼女はわたしの腕を取り、歩き出した。危うく転びそうになりつつも、椅子から立ち上がり、置いていかれないよう足を動かす。
向かった先は、食堂だった。
わたしはオムライス、御影さんは唐揚げ定食を頼み、窓際の席へ。人目をはばかる話でもするつもりなのか、御影さんは周囲を見回し、低めの声で口を開いた。
「お前、暗殺者じゃない。違う?」
「っ!?」
雷に打たれたような衝撃が走った。まさか、ここまでストレートに言われるなんて……。
「どう、して?」
「暗殺者特有のダルさがない」
……ダルさ?
疑問に思っていると、少し考え込む様子の御影さん。しかし問題ないと判断したのか、再び口を開いた。
「体質。人の心根の悪さ、身勝手さ、そういうのを、ダルさとして感じ取れる」
「へ、へぇ……」
「暗殺者は、皆どっかしらダルい。でも、お前は、違う」
箸でわたしを指し、御影さんは続ける。
「まぁ人間、皆どっかしらダルいけど……お前は、そこまでダルくない。どう転ぶかは、わからないけれど」
そして御影さんは一旦箸を下ろし、唐揚げをつまんだ。何か考えてる様子だから、待ちつつ、わたしもスプーンを手に取る。オムライスを3分の1ほど食べ終えた頃、御影さんは唐突に口を開いた。
「今の状況、解ってる?」
「う、うん。……黒組のみんなは、わたしを殺すためにここに来たんだよね。それでわたしは、12人の暗殺者相手に生き延びなきゃいけない」
「そう……だから、提案」
「提案?」
一つ頷き、御影さんは指を一本伸ばす。
「私は、お前を殺さない。ポリシーに反するから。ただ、利用させてもらう。お前を襲うとき、暗殺者たちは本性を見せる。それを見て、ダルい奴は殺す。いい?」
「つ、つまり、守ってくれるってこと!?」
思わず目を見開く。自分でもわかるくらい声が弾む。けど、御影さんは嫌そうに口元を歪める。
「勘違いするな。自分のためにやってる。あと、お前が、ダルい方に転んだら、その時は殺す」
……背筋が震えるけど、すぐに収まった。
それでもいいや、と思う。生き延びられるなら、守護者がいてくれるなら。
「いいよ。ありがとう、御影さん」
「キモい。マゾか。……まぁ、せいぜい頑張れ」
◇
「いいか? 一番警戒すべきは、同室の鍵守。部屋にいる時は、せいぜい頑張って、逃げるなり欺くなりしろ」
「……うん、わかった。またね、御影さん」
「ん」
手を振る天羽を見送り、2号室のドアに手をかける。中に入ると、テーブルに緑髪の女が座っているのが見えた。五十嵐樹。そういえば、こいつがルームメイトだったか。
「お帰り、誠ちゃん」
「ん」
「やっぱり無愛想だね。……ねぇ、誠ちゃん」
「何」
面倒だけど、問いを返す。五十嵐は、わからない女だ。確実にダルい。けど、そのダルさは偽り、というか、まだ矯正可能、というか。
そんなことを考えていると、五十嵐は嫌な笑みを浮かべる。
「粉雪ちゃんに肩入れするの、やめな?」
「何で」
「ふふっ、それは内緒。でも僕、忠告したからね?」
悪戯気な笑顔で、五十嵐は語る。
「殺されても、知らないよーって」