デビルズ・コンフリクト   作:東美桜

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最終話 それぞれの答え

 ――そして桜は、咲き誇る。

 

「卒業証書、授与。11年黒組、出席番号3番、鍵守千花」

「はい」

「出席番号13番、天羽粉雪」

「はい!」

 壇上に立つ溝呂木先生のもとへ、二人で向かう。彼は私たちに卒業証書を渡しながら、感慨深げな表情で告げた。

「たった二人でも卒業生を見送れてうれしいよ。これで黒組は無事に終了だ」

 卒業証書を手渡しながら彼は告げる。なんだかんだで、この人も可哀想だった……何も知らないままで黒組に付き合わされて。きっと生徒たちが次々と転校していったことを気に病んでいたことだろう。けれどそれは彼のせいではない。仕方がないことなのだ。そんなことを考えていると、溝呂木先生は私たちに笑いかけていた。

「改めて二人とも……本当に、卒業おめでとう」

「ええ……ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

 そう……私たちは無事に卒業できたのだ。11人の暗殺者たちを退け、粉雪を守り抜くことができた。それだけで、黒組に来た意味はあったというものだろう。

 

 

「いやー、終わりましたねー黒組」

「そうね」

 その様子を、ウチは理事長と共に眺めていた。

「にしても、まさか女王蜂の力(プライマー)ごと消し去るとは思わなかったっスよ。これ『一族』的にはちょっとヤバいんじゃないっスか?」

「そうね……ただ、鍵守さんも粉雪以外に力を使うことはないでしょう。どちらにせよ粉雪はもう『一族』の一員ではないわ。プライマーを持たない女子に用はないもの。本家にもそう伝えてあるわ」

「千花サンの思惑通り、粉雪ちゃんは『一族』から解放されるって訳っスかー」

 正直、ここまでのどんでん返しは予想外っス。そもそもそんな力があるだなんて知らなかったっスし……。そんなことを考えていると、理事長は不意にウチに視線を向けた。

「それにしても鳰さん、貴女もよく生き残ったわよね」

「去年も言ったっしょー? そう簡単には死ねないっスから!」

 

 理事長室を出て、開け放しの窓に近づく。

 卒業式を終え、ミョウジョウ学園を出ていく二人の姿。ウチはどこからか二輪の白薔薇を取り出し、格子の隙間からそっと投げた。

「――卒業、おめでとうっス」

 

 二つの花は寄り添い合いながら、落ちていく。

 それはまるで、二人の未来を示しているかのようで……ウチはそれを見届けると、歩き出した。

 

 

「……本当にその卒業証書、全部届けるつもりなのですか?」

「うん。皆の分あるんだから、届けないと」

「まぁ、それもそうですかね……」

 全員分の卒業証書を両手に抱え、千花さんと一緒にミョウジョウ学園の校門へ向けて歩く。わたしたちの分も含めて、全部で12人分。元々ミョウジョウ学園の生徒である走りさんの分は溝呂木先生が渡しておくというので、残りの生徒の分だ。……今回の黒組では死者もたくさん出てしまった。溝呂木先生がそれを知ったら、きっと悲しむことだろう。

 

 浅野さんのおじいさんは結局助からなかったらしい。彼女は今、暗殺で学費や生活費を稼ぎながら、広い屋敷で生活しているそうだ。唯一の身寄りを失い、天涯孤独となった彼女だけど……今はもう、一人じゃない。

 何故なら、武藤さんが彼女と一緒に生活しているからだ。彼女は浅野さんの説得により暗殺から足を洗い、夜間中学に通いながら家事を手伝っているという。黒組で出会い、仲良くなった二人は、きっと幸せに暮らしていることだろう。

 

 ……残りの黒組生徒は、全員死んでしまった。

 白木さん、千葉さん、瀬川さん、京極さん、幸村さん、御影さん、仁科さん、五十嵐さん。今回の黒組は本当にたくさんの死者を出してしまった。本当は全員、生きていてほしかったけれど……人生、そう簡単にはいかないよね。彼女たちには、せめて墓前に卒業証書を供えようと思う。それがせめてもの慰めだと思うから。

 

 ――不意に上空から何かが落ちてきて、わたしは足を止める。

 同様に立ち止まった千花さんが手を伸ばし、それを掴んだ。見ると……それは真っ白な薔薇の花。花言葉は「深い尊敬」……だったかな。

 見上げると、ミョウジョウ学園の制服を纏った姿が遥か上層階に見えた。見知った彼女は私たちのもとをそっと離れていく。

「……走りさんも、粋な計らいをしますよね」

「あの子も本当は、悪い子じゃなかったのかもしれないね」

 どこかへと去っていく後姿を遠めに眺めながら、わたしはそんなことを零す。

 

 

 ――10年後。

 

「粉雪、間もなく月永様との会談の時間です」

「うん。準備はできてる。すぐに行くよ」

 粉雪は楓宮一族の養子となった。『一族』から解放されたということは、即ち彼らの庇護は望めないということ。文字通り天涯孤独となってしまった粉雪は、楓宮一族に引き取られた。麻姫様は一人っ子で、彼女の死により跡継ぎがいなくなっていたタイミングだし、楓宮一族の御当主様も許可してくれた。何よりそれなら大っぴらに粉雪を守れるという、母の計らいでもある。

 黒いスーツを身に纏った粉雪は、出会ったころと違って髪を切った。あの頃の二つ結びも愛らしかったが、今のボブカットもよく似合っている。かく言う私は逆に髪を伸ばしている。手入れは大変だけれど、粉雪は『似合っている』と言っていた。

「……どうしたの、千花? 考え事?」

「いえ……少し昔のことを思い出していただけです」

「そういえば、あれからもう10年になるんだよね」

 遠い目をする粉雪に、私は考える。あれから10年、私たちは二人三脚でやってきた。長いようで短かった10年間。その密度は、決して薄いものではない。

 私は粉雪の手をそっと取り、微笑みかける。

「さあ、行きましょうか」

「うん」

 

 粉雪の執務室を出ると、大きな窓が置かれた廊下に出る。

 見上げた空は青く、高く、どこまでも澄み渡っていた。




「デビルズ・コンフリクト」略して「デビコン」、これにて完結です!

 連載開始から約2か月。長いようで短かった連載期間でした。
 樹や幸村が予想外の動きを見せたり、当初の設定になかった展開が生まれたり、波乱だらけの連載期間でしたが、これが今の私にできる“精一杯”です。楽しんでいただけましたら、幸いでございます。

 ここまでこれたのは、読んでくださった皆様のお陰です。
 UA数やお気に入り登録者数や評価や感想は毎度毎度の更新の励みでした。
 応援してくださった皆様へ、最大級の感謝を。
 本当にありがとうございました。
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