デビルズ・コンフリクト   作:東美桜

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第7話 最初の刺客

 ……あんなこと言われて、黙ってられるかっての。

 帰りのホームルームが終わり、即座に部屋に戻ったアタシは、ひたすらトンファーを素振りしていた。同室の白木が桜餅を食べながら、のんびりと声をかけてくる。呑気なもんだ。

「ねえ恵ちゃん、何やってるの?」

「見ればわかるだろ。訓練だよ」

「熱心だねー……」

 ほんわりとした声をBGMに、アタシはひたすら素振りを繰り返す。時に蹴りも入れる。一体何十分続けているかも最早わからない。全身が熱い、汗でブラウスが肌に貼り付く。

 そろそろ腕が痛くなってきた頃、この辺か……とアタシはトンファーをテーブルに置いた。そして呑気な白木の正面に座る。

「……アタシ、この後襲撃しようと思う」

「えっ? 今夜の裏オリエンテーションは?」

 きょとんと問い返す白木。やっぱり呑気なもんだ。

「そんなん知らない。報酬さえ手に入れば、それでいいんだ」

「でももしルール違反だったらどうすんのさ?」

 こいつ、意外と頭回るな。アタシは一瞬目を逸らし、口を開く。

「……白木」

「暦未でいいのに」

「じゃあ、暦未。お前、五十嵐にあんなこと言われて、悔しくねえのかよ」

 余裕ぶったあいつの態度を思い出す。それだけで腹が立ってくる。対し、暦未はかすかに俯いて、口を尖らせた。

「……そりゃ、あたしだって悔しいよ。あんな挑発されてムカつかない奴なんて、暗殺者じゃないよ。でも……」

「でも?」

「でも、報酬は大事だもん。組織の未来がかかってるんだもん。そのためには、それなりに慎重になんなきゃ」

「でも、もたもたしてたら他の奴に報酬掠め取られるかもしんねえだろ?」

「……まぁ、そうなんだけど」

 それきり押し黙ってしまった暦未。アタシは静かに立ち上がり、告げる。

「……アタシは大胆にいく。リスクよりリターンを見て決める。今までだって、そうしてた」

 

 

「琉牙~。マシュマロいる?」

「おう。貰うぜ」

 4号室のテーブルを囲み座ったまま、袋からブルーベリーマシュマロを一つの取り出し、琉牙に渡す。彼女はそれを受け取り、口に含んだ。

「ん。うめぇ」

「でしょでしょ~? もう一個いる?」

「や、一個でいいわ。あんまし食うと太る」

 えー……つまんないなぁ。

 まぁ、いっか。ウチはマシュマロを口に放り込みつつ、再び口を開く。

「まぁ、ウチは食っても太んない体質だからね」

「マジかよ羨ましいな……ま、オレも食ってもソッコー動いてカロリー消費するタイプだけどな」

「ケンカで?」

「間違っちゃいねえ」

 琉牙はそう言って軽く笑う。やっぱりか。初めて会ったときからヤンキーっぽいと思ってたんだよね。嫌いじゃない。……なんてことを考えていたけど、何気なくを装って、聞いてみることにした。最初からずっと気になってたことを。

「にしても琉牙さぁ、なんでこんなとこに来たわけ? ヤンキーの暗殺者なんて珍しいじゃん」

「ん、オレか?」

 応えた声には気軽さが滲んでいた。よかった、怪しまれてない。

「オレには兄貴がいてよぉ。その兄貴が暗殺者だったんだ」

「へぇ……」

「でも、兄貴が他の暗殺者に殺られた。再起不能だぜ。だから、あのバカ兄貴の跡を継いで暗殺者になったんだ」

 ……まさか。背筋が凍っていくのを感じる。声が震えないように気をつけながら、ウチは問う。

「……じゃあ、もしかして復讐のために、黒組ってわけ?」

「いんや?」

 変わらない声色。ほっと胸を撫で下ろす。

「あのバカ兄貴はそんなこと望んじゃいねえ。望んでもいいはずだけどな。だから……せめて、兄貴を再起させてえんだ。それが、オレの望みってわけだ」

「……ふうん……」

「ま、兄貴を再起不能にした奴が目の前に現れたら、そんときは考えるけどな」

 ……まぁ、普通はそうだよね。ウチだってそうする。

 目を伏せ、また一つマシュマロを口に運ぶ。

 

 

「……」

「……」

「……」

 ……3号室には重苦しい空気が漂っている。

 わたし、千花さん、御影さん。特に会話もなく、というか話題がなく、ひたすら押し黙っていた。千花さんが話題豊富な方じゃないことは知ってたけど、御影さんも口数の多い方じゃないみたいで。かく言うわたしもコミュ力はそこまで高くない。なんとか場を繋げようと話題を探すけど……そろそろ限界だよ。

 それでもこの状況は気まずい。なんとか話題を探そうと、口を開いた時だった。

「……!」

 無言で御影さんが立ち上がり、扉に銃口を向ける。

「天羽、隠れろ!!」

 彼女が鋭く叫ぶのと、扉が蹴破られるのはほぼ同時だった。チョコレート色のミニスカートが翻り、炎のような赤のウルフカットが揺れる。

 彼女ーー幸村さんは両手にトンファーを構え、わたしを睨む。片足を引いて構えるわたしをよそに、御影さんと幸村さんは向かい合った。

「ーーてめぇの命、アタシが貰うぜ。天羽」

「ーー上等。その台詞、そのまま返す」

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