……あんなこと言われて、黙ってられるかっての。
帰りのホームルームが終わり、即座に部屋に戻ったアタシは、ひたすらトンファーを素振りしていた。同室の白木が桜餅を食べながら、のんびりと声をかけてくる。呑気なもんだ。
「ねえ恵ちゃん、何やってるの?」
「見ればわかるだろ。訓練だよ」
「熱心だねー……」
ほんわりとした声をBGMに、アタシはひたすら素振りを繰り返す。時に蹴りも入れる。一体何十分続けているかも最早わからない。全身が熱い、汗でブラウスが肌に貼り付く。
そろそろ腕が痛くなってきた頃、この辺か……とアタシはトンファーをテーブルに置いた。そして呑気な白木の正面に座る。
「……アタシ、この後襲撃しようと思う」
「えっ? 今夜の裏オリエンテーションは?」
きょとんと問い返す白木。やっぱり呑気なもんだ。
「そんなん知らない。報酬さえ手に入れば、それでいいんだ」
「でももしルール違反だったらどうすんのさ?」
こいつ、意外と頭回るな。アタシは一瞬目を逸らし、口を開く。
「……白木」
「暦未でいいのに」
「じゃあ、暦未。お前、五十嵐にあんなこと言われて、悔しくねえのかよ」
余裕ぶったあいつの態度を思い出す。それだけで腹が立ってくる。対し、暦未はかすかに俯いて、口を尖らせた。
「……そりゃ、あたしだって悔しいよ。あんな挑発されてムカつかない奴なんて、暗殺者じゃないよ。でも……」
「でも?」
「でも、報酬は大事だもん。組織の未来がかかってるんだもん。そのためには、それなりに慎重になんなきゃ」
「でも、もたもたしてたら他の奴に報酬掠め取られるかもしんねえだろ?」
「……まぁ、そうなんだけど」
それきり押し黙ってしまった暦未。アタシは静かに立ち上がり、告げる。
「……アタシは大胆にいく。リスクよりリターンを見て決める。今までだって、そうしてた」
◇
「琉牙~。マシュマロいる?」
「おう。貰うぜ」
4号室のテーブルを囲み座ったまま、袋からブルーベリーマシュマロを一つの取り出し、琉牙に渡す。彼女はそれを受け取り、口に含んだ。
「ん。うめぇ」
「でしょでしょ~? もう一個いる?」
「や、一個でいいわ。あんまし食うと太る」
えー……つまんないなぁ。
まぁ、いっか。ウチはマシュマロを口に放り込みつつ、再び口を開く。
「まぁ、ウチは食っても太んない体質だからね」
「マジかよ羨ましいな……ま、オレも食ってもソッコー動いてカロリー消費するタイプだけどな」
「ケンカで?」
「間違っちゃいねえ」
琉牙はそう言って軽く笑う。やっぱりか。初めて会ったときからヤンキーっぽいと思ってたんだよね。嫌いじゃない。……なんてことを考えていたけど、何気なくを装って、聞いてみることにした。最初からずっと気になってたことを。
「にしても琉牙さぁ、なんでこんなとこに来たわけ? ヤンキーの暗殺者なんて珍しいじゃん」
「ん、オレか?」
応えた声には気軽さが滲んでいた。よかった、怪しまれてない。
「オレには兄貴がいてよぉ。その兄貴が暗殺者だったんだ」
「へぇ……」
「でも、兄貴が他の暗殺者に殺られた。再起不能だぜ。だから、あのバカ兄貴の跡を継いで暗殺者になったんだ」
……まさか。背筋が凍っていくのを感じる。声が震えないように気をつけながら、ウチは問う。
「……じゃあ、もしかして復讐のために、黒組ってわけ?」
「いんや?」
変わらない声色。ほっと胸を撫で下ろす。
「あのバカ兄貴はそんなこと望んじゃいねえ。望んでもいいはずだけどな。だから……せめて、兄貴を再起させてえんだ。それが、オレの望みってわけだ」
「……ふうん……」
「ま、兄貴を再起不能にした奴が目の前に現れたら、そんときは考えるけどな」
……まぁ、普通はそうだよね。ウチだってそうする。
目を伏せ、また一つマシュマロを口に運ぶ。
◇
「……」
「……」
「……」
……3号室には重苦しい空気が漂っている。
わたし、千花さん、御影さん。特に会話もなく、というか話題がなく、ひたすら押し黙っていた。千花さんが話題豊富な方じゃないことは知ってたけど、御影さんも口数の多い方じゃないみたいで。かく言うわたしもコミュ力はそこまで高くない。なんとか場を繋げようと話題を探すけど……そろそろ限界だよ。
それでもこの状況は気まずい。なんとか話題を探そうと、口を開いた時だった。
「……!」
無言で御影さんが立ち上がり、扉に銃口を向ける。
「天羽、隠れろ!!」
彼女が鋭く叫ぶのと、扉が蹴破られるのはほぼ同時だった。チョコレート色のミニスカートが翻り、炎のような赤のウルフカットが揺れる。
彼女ーー幸村さんは両手にトンファーを構え、わたしを睨む。片足を引いて構えるわたしをよそに、御影さんと幸村さんは向かい合った。
「ーーてめぇの命、アタシが貰うぜ。天羽」
「ーー上等。その台詞、そのまま返す」