銃声が轟く。幾つもの弾丸が幸村を襲う。幸村はそれらを掻い潜り、弾き、被弾しながらも御影に肉薄する。脳天に向けて振り下ろされたトンファーを御影は拳銃で受け止めた。弾き返され、幸村は息を吐く。
「お前マジか? 銃なんて精密機械で鈍器受けるとか、舐めてんのか?」
「よく見ろ、馬鹿」
その言葉に、私は銃身を凝視する。よく見ると……普通の銃より分厚い。恐らく緩衝材が入っているのだろう。
「なるほどな……近接戦も織り込み済みってわけか」
「舐めるな」
その言葉を皮切れに、再び格闘戦を繰り広げる二人。その様子を粉雪はじっと窺っている。隙を見て逃げるのか、それとも撃退しようとしているのか。それはわからない。
ーーそして、そんな彼女らの様子を、私はただじっと見つめていた。何をすべきか、全くわからない。普通に考えたら、粉雪を殺すために最善の行動をすべきだ。例えば、幸村を撃退して粉雪に信頼させ、隙を作り出す、とか。
……でも、わかっているけど、行動に移せない。
麻姫様が生かした粉雪。彼女を殺すのは、本当に正しいことなのか? ただの八つ当たりだなんて、わかっている。麻姫様は粉雪が生き延びることを望んだのではないのか? なら、彼女を殺すのは、間違いではないのか? ……そんな思いが脳を支配して、動けない。
何より、彼女が流した涙はあまりにも綺麗で。絶対に生き延びると、そう告げた声はあまりに真っ直ぐで。
ーー無意識のうちに、私は刀の柄に手をかけていた。
「鬱陶しいなぁ!!」
幸村がひときわ強くトンファーを振るい、御影は一瞬よろめく。その隙に粉雪に肉薄する幸村……疾い。粉雪は咄嗟にテーブルをひっくり返し、幸村を妨害する。その隙に御影は彼女に対し発砲し、銃弾が彼女の腕を貫く。右手のトンファーが派手な音を立てて落ちた。
……強い。
「ケッ……強えじゃねえか。けどアタシもこんなとこで終わってたまるか!!」
残った左手のトンファーで粉雪に肉薄するーーと思いきや、彼女は粉雪の腹部を蹴り上げた。
「うっ……!」
呻き声を漏らし、床に転がる粉雪。その背に御影が再び発砲するが、幸村はそのすべてをトンファーで弾いた。
ーー手負いの獣が一番怖い。その原則を、今更ながら理解する。
粉雪は立ち上がれない。ただ踞って震えている。御影が幸村に肉薄するが……多分、間に合わない。
そう思った瞬間、私は動いていた。
椅子を蹴って立ち上がり、抜刀する。しかしトンファーに受け止められ、弾かれた。その隙に背後から御影が肉薄し、後頭部を殴りつける。
「……っ!!」
一瞬よろける幸村の腹を私は躊躇いなく刺した。その肩口を銃弾がゼロ距離で撃ち抜く。倒れ伏す幸村の脳天に、静かに御影が銃口を当てた瞬間だった。
「ーーッ!!」
その腕にメスが突き刺さる。視界の隅で白衣の裾が翻る。
「ーーやっぱり、ここにいた」
その声に振り返ると、白木がメスを構えて立っていた。御影はメスを投げ捨て、白木に銃口を向ける。
「何しに来た?」
「安心して、あたしは粉雪ちゃんを殺りに来たわけじゃないから」
そう言って再びメスを投擲する。今度は二本。私はそれを刀で弾き、御影は正確無比な射撃で撃ち落とす。しかしそれは見せ技だった。気付くと白木は私たちの真ん中で、幸村を抱えあげていた。その傷口を検分し、呟く。
「……致命傷はない……ちゃんと処置したら、まだ間に合う」
そして幸村をお姫様抱っこしたまま立ち上がり、歩き出す。私たちを振り返らないその背中に、御影は問うた。
「……何故、助けた? そいつは、私が」
「……さあ、なんでだろ? 強いて言うなら、ルームメイトだから、かな」
そう言い残して、部屋を出ていく白木。本当にただ助けに来ただけらしい。粉雪はよろめきつつも立ち上がった。
「大丈夫か、天羽?」
「……うん。なんとか……それより」
粉雪は少し咳き込み、そして私に視線を向けた。
「千花さんは……どうして、わたしを助けたの?」
「……!?」
何故か、頭を殴られたような衝撃があった。
そういえば、どうして、私は粉雪を助けた?
頭が沸騰したような混乱を覚える。助ける必要はなかったはずだ。確かに、私は彼女を殺すことを躊躇っていた。けれどそれは彼女を助ける理由にはならない。なら、どうして私は彼女を助けた?
粉雪の純粋な疑問の視線が、御影の疑念故の視線が、私に突き刺さる。
……答えられない。
俯いたまま、私は足早に部屋を出た。
◇
「あらあら、今回は早速乱闘が始まったようね」
「ルール違反っスけどね」
理事長室の壁にはすべての部屋の様子が映し出されている。ウチと理事長はそれを眺めながら言葉を交わしていた。
「にしても強いっスね、今回の女王蜂は」
「ええ。御影さんは利用してるだけのつもりだろうけど、操られている可能性が高いわね。それにしてもまさか粉雪を憎んでいた鍵守さんまで利用するなんて……《女王蜂の力》を使って味方を作るのはわかってたけれど……」
流石の理事長も驚いてるみたいだ。彼女はふっと笑うと、再び口を開く。
「……まぁ、いいわ。今回の黒組はどんな結末を迎えるのか、とっても楽しみ」
そう言って美しく微笑む理事長。そんな彼女に、ウチは声をかける。
「ウチは今度こそやるっスよ。粉雪ちゃんを卒業させる気、ウチにはないっスから」