サー・エドワード・グラストンの肖像〜大英帝国魔術奇譚〜 作:山本倫敦
数秒の間があった。
「夢というのは、記憶とほぼ同じさ。記憶をベースとして、夢は作られる。」
と、サー・エドワードは言った。
「はあ。では、僕の記憶を、僕が眠ってる間に見た夢を通して見たということでしょうか?」
「まあざっくり言うとその通りだ。物分かりが良くて助かるよ。」
サー・エドワードはにこりと笑ってうなずいた。信じられない。というか、信じろと言う方が無理な話だ。他人の夢を通して記憶を見るなんて。そんなこと、人間にはできっこないはずだ。僕は、聞いた。
「あなたには、それが、できるのですか?」
と。それで、サー・エドワードはまたうなずき、
「できるとも。」
と。そして、付け足すように、
「まあ、信じられないだろうがね。」
と言った。信じられないに決まってますと言いそうになるのを必死に抑えながら、僕は黙っていた。すると、サー・エドワードは口を開いた。
「じゃあ、本題に入るとしよう。」
一呼吸置いて、続けた。
「君は一つ勘違いをしている。」
……急にどうしたのだろう。勘違いとはどういうことだろうか。やっぱりここが来るべきお屋敷ではないとか、全てジョークだとか、そんなくだらないことなのだろうか。
「なんでしょう。」
僕は素直に聞いた。
「うん。私は笑いそうになっちゃったんだけどね、ここに下僕の職はないよ。」
自分の耳を疑った。「ここに下僕の職はない」だと?じゃあどうしてここまで僕は来たのか?全てはウソだったのか?僕はこの瞬間、ダニエルを心の底から恨んでいた。
「は?」
僕はそれしか言えなかった。
「うちのステイプルトンの勘違いが君を混乱させる羽目になってしまったのさ。屋敷を代表してお詫びしよう。申し訳ない。」
もうなにがなんだかわからない。とりあえず、僕は、
「どういうことでしょう?」
と聞いた。
「つまりだね。君の親友であり、我が屋敷の執事であるステイプルトンの孫のダニエル・ステイプルトンが、君にこの屋敷の職を紹介する時に、どの職が募集されているのかをきちんと確かめなかったということが始まりだ。私が募集していたのは私の従者であり、屋敷の下僕ではない。むしろ、これ以上雇えないくらいに下僕は十分だ。」
僕の目の前は真っ暗になった。
「ただ、君のステイプルトンから受け取った手紙にも、募集しているのは従者だと書かれてなかったようなのだから、さっき言ったように、非はこちらにもある。」
僕は困惑しっぱなしで、なにを言えばいいのかわからない。でも、お屋敷から来た手紙には、どんな職に就くかは、よくよく考えると書いてなかったような気もしないでもない。
「ところで、君には二つの選択肢がある。」
サー・エドワードは立ち上がった。僕の方に歩いてきながら、言った。
「一つは全て忘れて他で下僕の職を探す。もう一つはここで従者としての仕事をもらうか。さあ、どちらを選ぶ?」
もう露頭に迷うのはたくさんだった。でも不安もある。従者なんてやったことのない仕事だ。僕に勤め上げることができるんだろうか?失敗もするんじゃないんだろうか?まず、主人となる人物がヘンテコすぎやしないか?でも、やっぱりここでの職を得るチャンスを逃したくはなかった。だから、僕は。
「……ここで、従者として、勤め上げさせていただきます!」
サー・エドワードはいかにも満足げな表情を浮かべた。
「うん。よく言った!なら、決まりだね。まあ、私の従者は大変だろうけど。」
サー・エドワードは苦笑いしながらそう言い、椅子から立ち上がり、部屋のドアへ向かっていった。
「追って連絡しよう。」
ドアを開けながらそう言ったサー・エドワードに、僕はある一つの質問をしようと思った。
「一つよろしいでしょうか?」
サー・エドワードは振り返って、
「なんだろう?」
と言った。僕はこんな質問をした。
「ステイプルトンさんがそのミスについてエドワード様に報告したのでしょうか?」
そうとしか考えられないのに。そうであって欲しかった。けれども、サー・エドワードは、
「違う。言っただろう?私は君の記憶を見たんだ。」
と言ったのだった。いたずらっ子のような笑みが、サー・エドワードの顔に浮かんでいた。