サー・エドワード・グラストンの肖像〜大英帝国魔術奇譚〜 作:山本倫敦
3.Welcome to "The House"
あの「面接試験」が奇妙すぎたために、そのあとのその日の出来事は、あまり覚えていない。覚えていとというのも無理な話だろう?しかしそのあとはステイプルトンさんに部屋に案内してもらって、僕は明日から本格的に働き始めることになると言っていたことは覚えている。
ベッドに入りながら、僕はあの奇妙な「面接試験」についていろいろと考えていた。
あの人の言っていたことは一体何だったのだろう。
黒髪の美人。それなのに「伯爵」。その人が語ったこと。「夢」を「観る」。そこから「記憶」を引き出す。僕の頭では考えられないことばかりだった。だが、最近の目標であった職を得ることは達成されたのだ。だから、深く考えないで、ぐっすり寝た。
夢を見た。
僕は子供の頃に戻っているようだった。誰かの膝の上に座って、その人の話を聴いていた。
「……アーサー王は、今もこのブリテンをアヴァロンから見守っているのよ。」
老いた女性の声。そう語った声はなんとも言えない懐かしさを帯びていた。けれどもどうも誰の声だったかは思い出せないのだ。でも、僕がどんな話を聴いていたかはわかった。ー彼女が語るのはイギリス人ならば知らぬものはいない、騎士道精神とロマンチズムに彩られた、『アーサー王物語』である。
「マーリンはいまもいきてるの?」
僕は聞いた。
「どうだろうねえ……」
彼女は首を傾げた。だがすぐに思い出したような顔をして、
「本物のマーリンはどうだかわからないけれど、」
と話を切り出した。
「もしかしたら、伝説に記されなかった隠し子がいたりして、今もその子供たちがいるのかもしれないねえ。」
目が覚めた。僕は起きた直後に頭を片手で掻くクセがある。今朝も例外ではなく、頭を掻きむしる。すると、僕は今さっきまで見ていた夢のことを思い出した。あの声は祖母の声だ。そういえば、僕が小さい時、よくいろんな物語を聞かせてもらっていた。『アーサー王物語』もその一つである。
それよりも、僕の心に引っ付いたのは「マーリン」という言葉である。マーリンは夢魔と人間の混血である魔術師である。ユーサー、アーサー両王に仕え、数多の予言を残した。夢魔の血が入っているから、人の夢を観たり、人の夢に侵入したり出来たのだろうか。
そして、サー・エドワードはなんと言っていたか。
「君の夢を観た。」
そんなことを言っていた。夢の中でマーリンという言葉が出てきたのは偶然なのだろうか。サー・エドワードとマーリンと。何かつながりがあるのだろうか。そんなことを考えながら、着替えた。