魔法少女リリカルなのはS.F.~お前にラブハート~   作:どめすと

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高町なのはの物語
『それは魔法の体験なの』


 

 高町なのはは孤独だった。

 夕日に照らされた公園でブランコにうなだれる彼女は孤独だった。もちろん、まだランドセルすら背負うことのない幼い彼女にはそこまでの自覚はない。

 

「なのはは、ひとりでいいもん……」

 

 小さな唇から漏れた言葉は、誰に届くこともなく風に溶けていく。

 

 

 

 高町なのははさみしかった。

 

 父親が事故に遭った。

 全身を包帯に包まれ、大きくて真っ白なベッドに横たわる父親を見上げた時、高町なのはは渦巻く感情の波を抑えきれなかった。

 彼女は泣いた。病院のベッドに縋りついて泣き叫び続けた。

 

 お父さん。

 お父さん。

 お父さん。

 

「   」

 

 うめき声が父のものだと気づけたのは、頭にのった大きな手のおかげだった。

 しかし、高町なのはは絶望した。

 父の大きな手が、まるで地を這う蝶のように弱々しかった。あの大きくて、高町なのはのすべてを抱きしめてくれるような父の手が見る影もなかったから。

 

 高町なのはは決意した。幼い頭を一生懸命に悩ませて、思い至った。

 

 

 いい子になる。

 

 

 父が経営する自営業の喫茶店。倒れた父の分まで、朝から晩まで働く母。学校に通いながらも、そんな母を手伝う兄。父の看病に尽くす姉。

 幼くて力もない高町なのはにできること。漠然と思い立ったのは仕事の邪魔をしないこと。家族の手を煩わせないこと。 つまり、おもちゃ屋さんで見かける駄々をこねる子供の逆になること。我が侭を言わなくて、泣いたり怒ったりしない“いい子”になること。

 

 高町なのはは、そのように尽くした。大好きな父のために。家族のために、自分ができることを精一杯やった。

 

 そして。

 

 

 

 その結果が今。

 公園でうなだれる彼女の姿であった。

 

 手のかからない、いい子になる。それは逆説的に、手をかける必要のない子供として扱われるということ。肉親とのふれあいの喪失であった。

 

「……いいもん、ひとりで」

 

 高町なのははひとりぼっちの時間が増えた。

 朝、目を覚ますとすでに家族は家を発っており、ほのかに温かい朝食がテーブルに並んでいるだけ。家に帰ると、家族が仕事か学校の合間に用意してくれたのだろう、冷め切った晩御飯が並んでいるだけ。

 幼稚園にいる間はお友達がいる。しかし彼らは時間になれば帰ってしまう。彼らの親とともに。手を繋いで帰る彼らを、高町なのはは遊びに誘うことはできなかった。

 

 家でも外でも、高町なのはは独りだった。

 どこにいてもひとりぼっち。そんな考えが頭の中をめぐる日々が延々と繰り返されるうちに、高町なのはは一人になりたがるようになった。

 

 大好きなお父さんに。

 大好きなお母さんに。

 大好きなお兄ちゃんに。

 大好きなお姉ちゃんに。

 

 会いたいという気持ちに蓋をして、言葉を胸の底に押し込んで、高町なのははひとりになった。今はもう、公園で元気いっぱいに遊ぶ子供たちに混ざりたいという欲求すらわいてこない。

 

 夕焼けが、高町なのはに影を落とす。

 いつまでぼーっとしていたのだろう。公園の子供たちの姿がまばらになってきた頃、高町なのははようやく顔を上げた。いい子にとっては、悪い時間がやってくるから。

 

「……帰らなきゃ」

 

 しかし体が動かない、心が動かなかった。

 

 家に帰っても誰もいない。高町なのはの声を聴いてくれるものは誰もいない。どこにいても、結局はひとりなのだから。

 

 伸び切った影に沈んでいくように、高町なのはは動けなかった。重い頭が再び沈んでいった。

 

 

 しかし。

 

 

 

 公園から声が消えた頃。

 

「――……なんの音?」

 

 子供たちの声と入れ替わりに耳に入ってきたメロディー。お遊戯会で耳にするタンバリンやカスタネットのようなシンプルな音ではなかった。

 

 舞い踊る花びらのように軽快な。

 風が突き抜けていくように爽快な。

 聴いたことのないメロディー。

 

 次第に近づいてくるそれに、高町なのはは顔を挙げた。

 

「よう」

 

 高町なのはの目に映ったのは、穏やかな表情をした変な男のヒトだった。

 肌寒さの残る季節にタンクトップを着て、燃えるように逆立った髪の毛。何よりも目を引いたのは、男のヒトが肩から下げている物。ヒョウタンのようなシルエットに細い板を張り付けたような楽器。

 

 ギター。

 

 そう呼ばれる楽器だということは知っていた。男のヒトの動作のように、細い糸を、肘と手首のスナップではじくように弾くことで音が鳴ることも知っていた。

 しかし、そのメロディーは知らなかった。

 

「――――すごい」

 

 一つの楽器から繰り出される音は、いくつもの重なりを持っているかのようで。男のヒトの手から弾きだされるビートが、高町なのはの鼓動を揺さぶっていた。身体に熱を感じていた。

 すると、男のヒトは微笑んだ。

 

【挿絵表示】

 

 

「落ち込んでるだけじゃ、何も始まらねぇぜ」

 

 刻まれる軽快なビートが、鮮烈に変わった。

 

 

「いくぜ! 俺のサウンドを!」

 

 

 その日。

 

 その男のヒトの声が。

 ハートが。

 

 

 

「俺の歌を聴けェ!」

 

 

 

 高町なのはの世界を変えた。

 彩りに満ちた世界を、取り戻すことができた。

 

 

 

――――まるで魔法のように。

 

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