魔法少女リリカルなのはS.F.~お前にラブハート~   作:どめすと

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『言葉だけじゃ届かないものなの!? 中編』

 

 月明りを頼りにして。

 なのはは魔法の服に身を包んで空を飛ぶ。

 風を切って。思うような速度、思うような軌道で飛ぶことができた。練習通りに、自在に飛ぶことができていたから。

 

「なのは、今回も争奪戦になる」

 

 耳元でのユーノの声も冷静に聞き取ることができた。

 その言葉の意味も、胸の奥の感覚で理解できた。

 

「うん。わかる」

 

 ジュエルシードの加速する鼓動の傍に、一定のリズムの小さな鼓動を感じる。フェイトの波動が感じられたから。近づくにつれて切られた胸の痛みが戻ってくるような気がしたから。彼女の痛みが、胸の中で叫んでいる気がしたから。

 

「でも、戦うんじゃないよ」

 

 敵、などと。

 ユーノが物騒な表現をする彼女がいることがわかるけど、争奪戦なんて言って欲しくなかった。まだ何もわからないのに、争いごとだと決めつけて欲しくなかった。

 

「ごめん……」

「ユーノくんが謝ることないよ」

 

 ユーノが責任をもって運んでいたジュエルシードを持っていかれたのだから。ユーノがそう表現するのは当然だと思えた。なのはだって同じ立場なら警戒するのは当たり前だとわかっているから。最低限の心構えはもっていたから。

 だけど、ユーノは首を横に振って。

 

「なのは、君の思うようにやっていいんだからね。僕は協力するから、君のやりたいようにやってくれ」

 

 まるでお願いするように言い切ったユーノに。

 なのはは素直に首を縦に振るわけにもいかないと思ってしまったから「ありがとう」と気持ちだけ受け取ることにした。

 

 

 ジュエルシードの反応は目前というところで森が開けた。

 

「――見えた」

 

 川沿いのキャンプ地らしき開けた土地に。

 黄色い女の子――フェイトと、見慣れない赤いオオカミの姿があって。その背後には小康状態のジュエルシードが、地上の月のように青白く輝きながら浮遊していた。

 

 なのはは警戒心を持たれたくなかったから。

 川を挟んで、架け橋を挟んで対岸へと足をおろす。

 

「こんばんは」

 

 声は届く距離のはずだけど、対岸に動きはなかった。

 赤いオオカミが唸り声をあげていたけど、フェイトに反応はなかった。ジュエルシードの逆光を受けていたから、顔はこちらを向いていたけどその表情は見えなかった。あの瞳は見えなかった。

 

「今日は、お話しをしたいの」

 

 それが気に障ったのか。

 フェイトはジュエルシードへと身をひるがえしたから。

 

「待って!」

 

 叫んだ声に、フェイトは足を止めてくれて。半身になったその表情が見えた。その瞳とやっと目が合って。以前のように、胸に悲しい思いがこみ上げてきたから。

 

「お願い、少しでいいの」

 

 真っ直ぐに見つめ返す。

 目を逸らしちゃいけない気がしたから。

 

「話すことなんてない。あなたと私は――――」

「敵じゃないよ。まだ、私たちはそういう関係ですらない」

 

 まだ、たった一度だけ。

 すれ違っただけの関係でしかないから。顔を合わせただけ、袖が触れ合っただけの関係でしかなかったから。きちんと、お互いの事を知り合いたかった。……だけど。

 

「なら、そういう関係になろう。私たちはジュエルシードが必要。あなたもそうなら、言葉はいらないはず。何の気兼ねもなく戦えるから。奪えるから」

 

 フェイトは、魔法の杖を構えて言い切ったけど。

 

「なら、どうして……?」

 

 その表情に色がなくて。

 

「どうしてそんな顔をして戦おうなんて言うの? なんで、そんなに悲しい目をしているの? 辛そうなの?」

 

 蓋をしたような瞳が、印象的だったけど。

 一転して、眉をしかめてフェイトは睨み返してきた。そこには感情が乗っていた。

 

「そんな顔してない」

「してるよ!」

 

 だから、じっと見つめ返したけど。

 フェイトはすぐに目を逸らしてしまったから。

 

「私の目を見てっ!」

 

 思わず、足を踏み出してしまった。

 架け橋に足を踏み出してしまったから、フェイトの身体がビクリと震えた。

 

「私はホントのことを聞きたいの! フェイトさん!」

「弱いヤツが! フェイトの名を呼ぶんじゃない!」

 

 だけど、赤いオオカミから女のヒトの怒鳴り声が出てきて。

 その牙をむき出しにして、身を乗り出してきた。

 

「弱いくせに、強いヤツに噛みつくんじゃない! 不自然なんだよ!」

 

 言い返してやろうと思った、けど。

 オオカミが真剣だったから。

 

「アタシがその気になれば、アンタの家族も、お友達だってみんな八つ裂きにできる! アンタの命だって簡単に奪える!」 

 

 なのはは、声を出せなかった。

 脅迫が怖いわけじゃない。想像すると怖いけど、オオカミのセリフはホンキじゃないようだったから。ハリボテだったから怖くなかった。

 でも、その目――――。

 

「フェイトを惑わすんじゃない! 弱っちいガキのくせに! 甘えた子供の分際で!」

 

 その丸い瞳に。眉間に刻まれた皺に。

 怒りと心配の色を感じたから。言い返すことができなかった、遮っちゃいけないと思って。

 

「……これで、用事は終わりでしょ」

 

 オオカミの後ろ。フェイトの瞳は、すでに冷たく落ち着いていて。

 魔法の杖――バルディッシュを構えていたから。

 なのはも、目の前のことに対処するしかなかった。

 

「逃げないとタダじゃ済まないよッ!」

 

 すでにオオカミが跳びかかってきていて。

 なのはが防御魔法を展開するよりも早く、ユーノが出会った日のように跳びあがっていて、電流が弾ける衝突音が生じた。

 

「ユーノくん!」

 

 緑色の防御魔法(バリヤー)が、オオカミの突進を食い止めてくれた。

 

「なのは!」

 

 波打つユーノの光が、その向こうで爪を立てるオオカミから守ってくれていて。ユーノとオオカミの姿が、蜃気楼のようにゆらめきだした。

 

「ユーノくんっ!?」

「なのは! 君の力を見せてあげればいい! 一生懸命に練習したんだから、僕は見ていたから! 君のハートを、フェイトにぶつけてあげればいい!」

「フェイトの名前を、気安く――――」

 

 そして、瞬きの内に。

 女の声と緑色の光の余韻を残して、ユーノとオオカミは消えてしまった。

 

 

 

 

「強制転移……!」

 

 フェイトの呟きが、目の前で起きた魔法の意味を理解させてくれた。ユーノはオオカミと一緒に移動しただけだとわかったから。なのはは、たった一人の自分の相手を見つめることができた。

 

「フェイト、さん―――――」

 

 それは、なんだか不自然だから。

 

「フェイトちゃん」

 

 それが一番しっくりきたから。

 

「強いとか弱いとか、好きじゃないけど……。強ければいいんだね、私が。フェイトちゃんよりも強かったら―――――」

『Photon Lancer.』

 

 途端、フェイトは魔法の槍を放ってきて。

 なのはは防御魔法でそれを防ぎつつ、空中へ飛び上がったフェイトの姿を認識して追う。飛び上がって、息を吸って。

 

「フェイトちゃんよりも上手く魔法を使えたら、教えてくれるんだね。私が強かったら、教えてくれるんだね!」

「……教えてどうなるの」

 

 伝えた言葉に、フェイトは応えてくれたから。

 

「レイジングハート!」

『Divine Shooter. Set up.』

 

 桃色の光弾を体の周りに展開させる。

 

「バルディッシュ!」

『Scythe Form. Set up.』

 

 同時に、フェイトもまたバルディッシュの形態を変えた。以前に見た黄色い刃、フェイトは鎌のような武器を携えて直進してきたから。

 

「シュート!」

 

 なのはは射撃魔法≪ディバインシューター≫を射出する。以前のように、簡単に斬られないための妨害目的。

 予想通りに、フェイトは直進する軌道を右へ左へと迂回して。なのはもつかず離れずの距離をキープする。声が届く距離を。

 

「私が答えたら、どうなるの!」

「わからないよ! でも、放っておけないの!」

『Divine Shooter. Set up.』

 

 気を抜けば簡単に接近されてしまうから、再度≪ディバインシューター≫を展開する。体の左右に待機させて、何にでも対応できるように。

 

「なにが悲しいの!? なにを怖がってるの!?」

「言ってもわからないよ」

「わかるよッ!」

「言葉だけじゃ、わかるわけないっ!」

『Blitz Action. Get set.』

 

 瞬間、フェイトの姿が消えて。

 

 予測する。冷静に。

 ≪ディバインシューター≫の対応力の穴。展開していない箇所――――。

 

「後ろ!」

『Flash Move.』

 

 飛行魔法≪フライヤーフィン≫を加速する魔法。

 補助魔法≪フラッシュムーブ≫で前進してから、背後で空を切る音が耳をかすめる。

 

「シュート!」

 

 次いで展開していた≪アクセルシューター≫を背後に放つ。

 小粒な衝突音がいくつか聞こえて。肩越しに見えたのは、フェイトが防御魔法で魔法弾を叩き落とす姿。

 

「バルディッシュ!」

『Device Mode. And Photon Lancer.』

 

 次いでバルディッシュが鎌を収めて。

 フェイトは地上すれすれへと高度を下げつつ射撃魔法を放ってくる。

 

 飛来する4つのそれが牽制目的だとわかっていたから。

 なのはは真っ直ぐに距離を詰める。フェイトが近距離から遠距離用に戦う形態を切り替えたから。練習通りに、目で見て、身をよじって、真っ直ぐに。

 

「よく動く、前よりも――!」

「ちょっとだけ練習したの!」

『Flash Impact. Set up.』

 

 察したように眉をしかめたフェイトに。

 なのははレイジングハートを振り下ろす。攻撃魔法≪フラッシュインパクト≫を振り下ろすけど空を切って。

 

「やあッ!」

 

 フェイトがバルディッシュを叩きつけてきたから、柄の部分に肩を当てて受ける。レイジングハートで防御する。地上に足をつけて、踏ん張る。

 

「あなたと話すために」

 

 

 

 瞳が、目の前にあった。

 魔法の杖を挟んですぐ向こう側に。

 

 透明な瞳、蓋をしたような瞳が真っ直ぐに見つめてくれていた。

 吸い込まれるような、深い悲しみがあって。

 見つめ合うだけでも何かがわかる気がした、けど――。

 

 

「近寄らないで……!」

『Photon Lancer, Full Auto Fire.』

 

 だけど、嫌うように力を込められて。

 レイジングハートを押し返されて、フェイトは再度上昇しつつの射撃魔法の連打。

 

「前は、よくわからなかったけど。今は見える!」

 

 初撃の3発が直撃コース。

 残りの乱射された光は直進した場合にヒットするコース。

 つまり乱発された射撃魔法の目的は後退するための牽制。攻撃ではなく妨害だと理解したから、初動を迂回してから直進がベストと判断して≪フライヤーフィン≫を起動する。

 

『Attention.』

 

 だけど、レイジングハートからの警告に、思い至る。

 予測が足りていなかった、と。地形と位置関係に対する判断が足りていなかったことを、思い知らされた。

 

「な、なにっ!?」

 

 地上。

 回避したなのはの視界を、砂埃という煙幕が覆った。

 上から放たれたフェイトの射撃魔法が着弾したのは地面。舞い上がった砂ぼこりで視界が覆われる。見失う、フェイトの姿を。

 

「えっ――――!?」

 

 次いで、手足の自由を失った。

 黄色の光に縛り付けられて、動けなくなる。

 それはシミュレーション訓練で見知った魔法、束縛魔法≪バインド≫による四肢の拘束。レイジングハートに力を込めても魔法が発動しない妨害魔法だった。

 

 

――――――しまった!

 

 

 展開された射撃魔法は目的を持った牽制。

 単に後退するためのものではなく、視野を奪い、四肢を束縛するための目的を持った行動だと。遅れて理解したから。

 なのはは来たるべき追撃に備えて身構える。

 だが――――。

 

 

 

 

 

 だがしかし。

 

 フェイトからの攻撃はなかった。

 砂埃がおさまり、手足の自由が戻っても。追撃はこなかった。

 

「―――……なんで」

 

 気を張ったまま。

 なのはが辺りを見回してみても、フェイトの姿はない。

 

 もぬけの殻。

 

 夜の森林には、フェイトどころか、安定していたジュエルシードすら見当たらなかった。その波動、胸の奥の感覚までもがそれを訴えかけてきて。

 胸の奥の痛みが退いていって。

 

 それが指し示すのは――――。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 ユーノは嬉々としてなのはの下へ駆けた。

 フェイトと呼ばれる魔導士。その使い魔であるオオカミ――アルフが焦りをもって退いたから。まるで逃げるように。ジュエルシードの反応の消失と共に。

 それが指し示すこと。

 なのはの努力を見てきたユーノが、導き出した答えは実に喜ばしいものだったから。

 

「なのは!」

 

 暗がりの中に白い影を見つけて、ユーノは足を速めた。

 

 勝利。

 なのはのハートが届いた。

 やりたいことが成された。

 その確信があったから。

 

 しかし。

 

 しかしながら、白い影がなのはであるにもかかわらず、ユーノは足を止めた。距離があるにもかかわらず、ユーノは近づくことをためらった。近づいてはいけないように思えた。

 

 なのはは、大地を見つめていた。

 見下ろしていた。項垂れていた。

 ユーノの思い描いた姿とは違った。

 

「なのは……?」

 

 それは落ち込む人間が、溢れそうになる気持ちを抑え込む姿。全力を出しきったとか、何かをやり遂げたという憑き物が落ちた姿ではなかった。

 

 なのはには傷はない。魔法の守りである白い防護服≪バリアジャケット≫には傷んだ様子はない。辺りにはフェイトのバリアジャケットの残骸もなければ、彼女の魔力の残滓もない。ジュエルシードの反応も、レイジングハートの封印の残り香も、感じられない。

 だから、ユーノは理解した。

 

 

 

 なのはは負けたのだ、と。

 

 

 

 いや、たぶん。

 

 

 勝ったとか負けたとか。

 取った取られたの問題ではなくて。

 

 

 あしらわれたのだ。

 

 

 本気のハートが、あしらわれてしまったのだ。

 まるで相手にされず。

 まるで届くこともなく。

 空振ったのだ。

 

 受け止められることもなく。

 

 

 

 言葉だけでは、届かない想い。

 行動が伴っていても、届かない影。

 夢にすら見ることのなかった現在を目にして、ユーノは近づくこともできなくて。

 

「帰ろう、なのは」

 

 ユーノには、それ以上、かける言葉が見つからなかった……。

 

 

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