魔法少女リリカルなのはS.F.~お前にラブハート~   作:どめすと

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『信じてみるよ。 前編』

 

 悲しみはいつか晴れて。

 寂しい時間にも終わりは来るんだ、と。

 

 充満する消毒液の真っ白いベッドに横たわるお父さんを見上げて、力なく垂れた大きな手をそっと握り返して、幼い頃の私はそう信じる事に決めた。そう信じて、心を隠す決意を固めた。

 

――――かなしい。

 

 そう思ってはいけないと思った。

 そう思わせるような態度を見せちゃったら、お母さんの手を煩わせてしまう。朝から晩まで、お父さんの分まで仕事に尽くすお母さんの邪魔になってしまうから。

 

――――さみしい。

 

 そう口に出してはいけないと思った。

 そう言葉に出してしまえば、お兄ちゃんとお姉ちゃんが安心して家を空けられなくなる。お母さんのお手伝いをするお兄ちゃんと、お父さんの看病に尽くすお姉ちゃんの邪魔になってしまうから。

 

 それが家族の為になるのだと。そうすることで、いつかまた家族みんなで一緒にいられるようになるんだと信じて、私は気持ちを飲み込んだ。

 

 優しい言葉を掛けてもらったときには「平気だよ」と頷いた。肩を抱いて寄り添ってくれた時には「ありがとう」と直ぐに離れた。一緒にいられなくてごめんねという謝罪には「ひとりで大丈夫」と笑顔で返した。

 

 自分にウソをついて、家族にホントの気持ちを悟らせまいと頑張ったけれど、やっぱり涙が出ちゃう時があって……。隠し切れない気持ちを誰にも見られないよう、ひとりになることを選んだ。

 

 独りの殻に閉じ篭って、辛い気持ちに敗けてしまった。

 

 どこにいても独りぼっちの感覚が拭えなくて、芯が抜け落ちたような喪失感に終わりがあるように思えなくなっちゃって……。苦しい時間が終わるとは思えなくなっちゃって、体が動かなくなった。

 

 夕暮れに溶けていく幸せな想像。

 影に引き込まれていく独りの悲しみ。

 孤独に埋もれていくホントの気持ち。

 

 自分から入っていった殻から出られなくなっちゃって、目に見える全てが輝きを失っていく中で――――私は、“魔法”に出会った。

 

 

「よう」

 

 

 その眼差しが、殻に隠れた私を見つけてくれた。誰にも悟らせまいと、誰からも目を逸らしていた私を、真剣な眼差しで見つめてくれた。

 

 真剣な眼差しに宿ったホンキのハートを感じて。

 ホンキのハートが込められた魔法のようなサウンドを受けて。

 

 私のハートに、火が付いた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「アルハザードは忘れられた奇跡の都と呼ばれている」

 

 海鳴市山中、とある洞窟内部に設置された時空管理局の現地活動拠点にて。武装隊員が慌ただしくコンピュータを操作する最中、仮設ベッドに横たわるユーノは体を起こした。

 

「ユーノくん、寝たままでいいから……」

 

 なのはの小さな手が肩に触れるけれど、その優しさに甘えてばかりも居られないとユーノはその手をそっと払う。

 

「大丈夫だよ、大したケガじゃない。……アルハザードってのはね、僕たちミッドチルダの魔法や科学の技術でさえ再現不可能な――――神秘としか言いようのない事象を実現可能な超技術を保有した古代の都なんだ」

「ホンモノの魔法の国ってこと?」

「そうだったのかもしれないね。時間と空間を意のままに操るとか、星の環境をまるごと変えるとか、人の生き死にさえも思いのままだったとかさ……そういうことができたらしいんだ」

「そんな世界、本当にあったの……?」

 

 なのはは、眉を顰めていた。

 潜在的な嫌悪感というのだろうか。犯罪に手を染めるかのように、それが本当に善き事なのか判断がつかないような、あるいは先ほどリンディより話があったプレシアの真意を加味した上でなのか、なのはは膝の上に組んだ手をぎゅっと握り締めていた。

 ユーノは安堵させる意味でも首を横に振る。

 

「わからない。確かに幾多の次元世界各地にはそういった痕跡はある、伝承とか遺産という形でね。……だけどアルハザードという文明を示す確固たる証拠はどこにもない。次元世界の狭間に消えたと伝えられ、そんなものが本当にあったかどうか誰にもわからないんだ……」

「御伽話を信じているのさ、プレシア・テスタロッサってのは」

「クロノ……」

「ユーノ。顔色は悪いが、ケガの具合はどうだい?」

 

 大丈夫です、と。ユーノは包帯に巻かれ医療機器に繋がった腕を見せて強がるが、内心を見透かすような険しさがクロノの面持ちに現れていた。

 

「アースラに運び込めればいいのだが、機能障害の回復まで時間がかかるそうだ。応急処置しかできないが、しばらくはここで安静にしてくれ」

「クロノくん。おとぎ話ってどういう……」

「そのままの意味さ。実在するかも定かではない、次元の狭間に消えたと言い伝えられるだけの御伽話を追って……。なのは、君たちの世界とか僕たちの命を代償に、奴は次元震を引き起こそうとしているのさ」

 

 その為のジュエルシードであることは、リンディから伝え聞いたプレシアの口ぶりから推察できるし、次元の狭間に消えたという御伽噺を辿るという意味でも理屈はわかる。現に次元震の予兆が各種観測機器に現れていることも、クロノの言葉を保証しているとユーノは理解していた。

 クロノは、溢れ出る苛立ちを抑えつけるように腕を組んだ。

 

「死んだ人間に会えるわけがないのに。死んだ人間が戻ってくるなんて在り得るわけがないのに――――プレシア・テスタロッサはそんな逃げ場を求めて……。だから奴は、フェイト・テスタロッサという命を造って、産んだつもりになって、母親ごっこをやっているのさ」

「さっきリンディさんが話していた≪プロジェクト・フェイト≫って――――アリシアさんの蘇生ってそういうことなんだ……」

「人造生命の研究プロジェクトって言ったって、死んだ人間が蘇るわけじゃないってことだよ。……知って知らでか、フェイトにはそういう負い目があるのかもしれないね」

 

 なのはは「そうだね」と俯き気味なまま頷いた。

 

 共感できてしまう子だ。今度もまたそういう境遇に引っ張られかねない、と。

 危惧を抱いたユーノはなのはの肩に手を伸ばすが、蒼みがかったその瞳に廃れたような色はなかった。予めわかっていたことを再確認したような焦点の定まった眼差し。抱いた不安が熱に溶けていく安堵を覚えて、ユーノは静かに手を引いた。

 

 間もなくして、ブツンという電子音が洞窟内に響いた。

 

「クロノ執務官! エイミィ補佐官より通信入りました!」

 

 それは洞窟奥に設置された転送装置の接続音。

 武装隊員の顔色が変わり、拠点内の雰囲気までもが一変して引き締まる。

 

『クロノくん! アースラの電子戦機能は復旧したから、バックアップは任せて! まだジュエルシードの発動は観測できないけど、突入後はスピードが肝心だからね!』

「よくやってくれた、エイミィ」

『ただ、こっちの転送ポートには強力なジャミングが入ってるから――――』

「わかっている。アースラ待機中の小隊は復旧次第転送してくれ。……艦長にも出てもらうと伝えてほしい」

『オッケー! あと、そっちの転送ポートに敵拠点の次元座標を――――いま繋いだよ!』

「どうだ、小隊長」

 

 小隊長のロメルが転送ポートを操作すると、碧い発光と共に設備が駆動する。

 

「転送ポート繋がりました。すぐにでも敵拠点へと突入可能です」

「よし!」

 

 クロノは立て掛けてあった杖形態のデバイス≪S2U≫を手に取ると、なのはもまた力強く頷いてレイジングハートを抱えた。

 

「じゃあ、行ってくるね。ユーノくん」

 

 そこには何の気兼ねも、何の怯えもないなのはの姿があって。それがふいとクロノの後ろについて行くのを眺めて。

 

「僕も、傷が塞がったらすぐに追うよ」

 

 ユーノは抱いたもの寂しさを押し留めて手を振る。武装隊員らが待つ転送装置になのはとクロノが乗り込むと、魔力の眩い発光と共に彼らの姿は消えていた。

 

 拠点内には、ユーノ含む負傷者とアースラの医療スタッフの数名だけが残り、ユーノは気が抜けて体を横たえた。

 

「なのは」

 

 口の中での呟きが届くとは思っていない。

 けれど想う気持ちは届くのではないかと、祈りは天に届くのではないかと信じて。桃色の光に包まれた高町なのはの姿を脳裏に描き、ユーノは目を瞑る。

 

「君がやりたかった事。君がフェイトにしてあげたかった事を、今度こそ――――」

 

 筋繊維の断裂、上腕骨の亀裂骨折、過剰出血に伴う肉体的な欲求。加えて鎮静剤の副作用に誘われて、ユーノは後を追う決意と共に眠りについた。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 時代錯誤の石柱が並び立ち、瓦礫が散在する大広間。工業用タンカーさえ容易に搬入可能な大型の金属扉。風が抜ける天井から見上げることのできる次元の海は渦巻き荒れているようだった。

 リンカーコアに干渉するジュエルシードの波動は、今まさに暴走状態に入ろうかという高まりを思わせる。≪時の庭園≫に充満する魔力は飽和し、胸を圧し潰されかねない切迫感を覚える。

 

――――時間がない。

 

 エイミィからの報告以上の緊急性を感じ取り、クロノは思考と意識を研ぎ澄ませる。

 

「各員、スリーマンセル!」

 

 そして、命令を出す。

 プレシア・テスタロッサの根城たる≪時の庭園≫への突入直後、クロノが発した指令に従って武装隊が臨戦態勢に入る。それは敵の包囲網――――大広間に配備された数十にも及ぶ傀儡兵への対応を示したものであった。

 

 武装隊一個小隊十二名。それがさらに細かく、三人一組のチームに分かれて散開すると同時に、傀儡兵らの攻撃プログラムが起動する。銀の光、金属の反射光にも似た魔力の発光と共に雷のような砲撃が四方から照射される。

 

『Stinger Snipe.Setup.』

 

 下方に広がる土埃の煙。それを見下ろしつつ、クロノが飛行魔法による急上昇と共に反撃の魔法を起動する――――けれど先陣を切るかの如く、銀の砲撃の中から桃色の発光が生じる。

 

『Divine Buster.』

「シュートっ!」

 

 その砲撃は敵の包囲網を突き破り、厳重な扉に文字通りの風穴を開けた。

 

「消耗しているのに、無茶をして……」

 

 フェイト・テスタロッサとの一騎打ちを経ての連戦。魔力も、体力も、気力でさえ消耗していながら、砲撃魔法によって敵の包囲網を半壊させたのだから、クロノは呆れ交じりに感嘆する。

 

「武装隊はエイミィのナビゲートに従って動力炉を目指せっ! そこにジュエルシードもあるはずだ!」

「了解」

「リンディ提督の先駆けは果たしてみせますよ!」

 

 魔力総量の不足から武装隊員にはジュエルシードの沈静化は不可能。故に彼らの役割は露払いにある、と。そういった彼ら自身の能力、それを見越しての指令を即座に認識してくれるのはやはり頼もしい、と。

 クロノは背中を預ける心地で「頼む」と前を向く。

 

「僕はプレシア・テスタロッサを捕縛する! なのは、君は――――」

「フェイトちゃんの所に行きますッ!」

『Divine Shooter.Setup.』

 

 視界の隅には、三機の傀儡兵をさも訓練用の的を相手取るように撃ち堕としたなのはの姿があった。その向かう先が定まったかのような直進っぷりにどうしてか微笑ましさを覚えてしまうが、そういった無謀を諫めるのが自身の役割だと、クロノは表情を引き締める。

 

「御家族を悲しませるような無茶はするなよ」

「はいっ!」

 

 鐘を打ったような返事と共に遠のくなのはを見送り、クロノもまた気合を入れる。デバイス≪S2U≫に登録したプレシア・テスタロッサの魔力波動を検知し、自らの往く道を見据える。

 

 

「いくぞ! 各員の健闘を祈るっ!」

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 現実の世界は、辛いことばかりだった。

 記憶にあった母さんの優しさはどこにもなくて。記憶にはない母さんの怒りと悲しみだけが私の現実だった。私が体験する世界には、母さんの笑顔はどこにもなかった。かつての母さんはどこにもいなかったのだ……。

 

 母さんの言いつけを守れなければ、怒られる日々、叩かれる日々。母さんの表情が苛立ちに歪み、その矛先が私に向かう日々が続いた。……私は悪い子なんだと自責の念に駆られた。

 でも、記憶にある日々。

 夢の世界の母さんは良い子だと言ってくれるから、私は頑張った。

 

 だからジュエルシードを集めた。

 邪魔をする高町なのはと戦い、勝利して、ジュエルシードを手に入れた。それでも怒られたのは、私の努力が足りなかったからだ。私が母さんの意図を感じて、母さんの事をわかってあげられなかったからそういう事になってしまったんだと反省した。

 

 でも母さんはそんな私を許してくれた。

 ケーキのお土産を一緒に食べてくれた。笑ってはくれなかったけれど声色はどこか柔らかみを増していて、体調を心配してくれるようになった。

 

 嬉しかった。

 頑張りが認められたんだと、思い出の日々に少しだけ近づくことができたんだと涙が溢れそうになった。夢を見る日が減って、代わりに現実の世界で母さんを想う時間が増えた。

 

 それからというものトレーニングの指導をしてくれるようになった。

 高町なのはをシミュレートしてくれて、それを斬るトレーニング……。刃を肉に突き立て、噴き出す血しぶきを視界に捉え、絶叫ともいうべき悲鳴が鼓膜をつんざく。落下していく少女の姿、手に残った感触、拭いきれない気持ち悪さ……。そのトレーニングをやり切る度に、母さんは笑顔を取り戻していくようだった。

 

 ……たぶん、嬉しかった。

 

 嬉しいはずなのに――――素直に喜べない自分がいた。どうしてかはわからない、知りたくもない。だって、母さんと一緒の時間だもの。邪な思いを抱いてはいけないと自分を律した。

 

 本番では、トレーニング通りにできなかった。

 絶望した……。この世の終わりだと、母さんに嫌われて私は終わるのだと思った――――けれど、母さんには叱られなかった。母さんは優しい言葉を掛けてくた、抱きしめくれたんだ。

 

 私は、たぶん安堵した。

 そういう気持ちの方が大きかったように思う……。

 

――――今度こそ、アイツらを殺せるわ。

 

 だというのに、抱きしめられた時の温もりはどこか他人事のように思えた。冷たさが薄れるのと同じように、私が私である感覚までもが薄れていくように思えた……。

 

――――フェイト。愛しているわ

 

 その言葉を嬉しい――――とは感じられなかった。

 そんなはずないのに、思い出の日々、夢に見た記憶の日々に近づいているはずなのに、息が詰まるような心地がした。それは私に向けられた言葉だったのか、疑問を抱いてしまった……。

 

 ひょっとしたら、私は母さんの言葉に反感を抱いている……?

 もしかしたら、母さんは私のことを想っていない……?

 まさか、母さんは私の事を―――――――。

 

 

「違うっ!!」

 

 

 そんなこと、あるわけがない。

 

 だって、記憶の中の母さんは優しくって。

 私を愛してくれている。

 私を想ってくれているから。

 

 私も、母さんのことが好きだから。

 好きなはずだから……。

 

 

 だから、もう一度。

 夢の世界を想おう。

 

 

 夢の世界なら、苦しい気持ちはない。

 夢の世界なら、楽しいことばかりだから。  

 夢の世界なら、母さんと私は通じ合えるから。

 

 

 だから、現実の私は夢を見る。

 

 

 夢を見る為に、私は言葉を飲み込む。

 夢を壊さないために、私は気持ちを閉じ込める。

 夢の世界に帰る為に、私はバルディッシュを握った。

 

 

 

 

 

 

 なのに、どうして……。

 どうして、現実の私を呼ぶの?

 

 

 

 

 

 

「フェイトちゃん!」

 

 

 

 

 

 現実に引き戻すその声。

 高町なのはの声が聞こえるのは、どうして。

 倒すべき敵を前にして、心が“こわがる”のは、どうして――――。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ひとつの想像ばかりを気にして、ホントの望みを見ないことにして……。どんなに深い所に心を沈めたって――――ホントの気持ちは誤魔化せないんだよ、フェイトちゃん」

 

 苔生して風化した石造りの建築物。

 がらんどうと開けた空間、崩れ落ちた天井を背に佇むのは小さな影。壁の穴から差し込む明りを受け、光り輝くような金の髪を靡かせるフェイトちゃんは、まるで眠りから覚めるように目を開けた。

 

「高町、なのは……」

 

 耳に届いたその声は、冷ややかだった。

 冷ややかだけど、無感動という程に冷え切ってはいなかったから。

 頬を伝う汗を拭い、足元に絡みついた傀儡兵の腕を払って息を整える。溢れそうになる涙を堪えて、もう一度見上げる。

 

「追いついたよ、フェイトちゃん」

 

 降り注ぐ視線もまた、冷ややかだった。

 冷ややかだけど、取り繕っただけの偽りの眼差し。そこに後付けのような苛立ちが込められて。フェイトちゃんの生気を失ったような唇が開かれた。

 

「どうしてまた、私の前に出てきたの……」

「その苦しみが分かるから」

 

 血のように赤い瞳に、動揺が見て取れた。

 けれど、垣間見せた感情は嫌悪感に覆い隠されて。

 フェイトちゃんは、喉元を潰されたような苦悶に顔を歪めた。 

 

「今度は――――今度こそ、躊躇ってなんかいられないのに……!」

「もう、そんな必要はないんだよ。フェイトちゃん」

「それは、アナタが決める事じゃないっ……」

 

 バルディッシュに魔力刃が灯る。

 その魔力光は以前にも増して曇っていて、鈍っていて、儚くて――――夕暮れのように切なくて。暗く沈んでいくその気持ちがよくわかってしまうから。

 そうなってしまった原因が、理解できてしまうから――――思い出す。 

 

「フェイトちゃん。私のこと“こわい”って言ったこと、覚えてるよね」

 

 言葉を交わした時間を想起する。

 ライブの夜にお互いの目を見て、言葉を交わした時の事を。その背後に見えた“過去の私”に伝えるように、息を吐く。

 

「私に言った言葉だよ。『母さんとの繋がりを奪う気なんだ』って。だから私の事を『こわかったんだ』って。……そう言ったフェイトちゃんの気持ち、私にはわかるよ。殻の中から出るのがこわかったんだって、わかるんだよ」

 

 それが、私が感じたままの言葉。

 だけど、フェイトちゃんは眉を顰めた。要領を得ないというよりは否定するように睨み返してきたけれど、これが感じたままの――――私自身の正直な言葉だから。

 

「俯いて、項垂れて――――瞳に蓋をして。目の前にあるモノさえ見ないようにして、有るか無いかもわからない妄想を抱いて殻に閉じこもっている……。そのままじゃダメなんだって、わかるはずだよ」

 

 たぶん、この言葉の意味をフェイトちゃんは理解している。でも受け入れられないと思っているから。受け入れてはいけないと思い込んじゃってるから、やっぱり首を横に振って……。

 

「……わからないよ」

「ウソだよ!」

「嘘じゃないッ!」

 

 そして結局は――――強がりに弾かれてしまう。

 硬い殻に弾かれて、偽りの怒りがそこに現れる。

 

「私には隠し事なんてない、二度も言わせないでっ!」

「ジュエルシードを欲しがっているお母さんの望み。それをお手伝いしたいっていうフェイトちゃんの心……――――そこに紛れた寂しさと辛さは、このまま頑張ったって和らぐことはないんだよ、フェイトちゃん!」

 

 そのままじゃいけない。そのままじゃ苦しいままだと伝えても――――やっぱり、私の言葉は届かない。フェイトちゃんの本心には、届かなくて。

 

「寂しさなんかないっ!」

 

 悲痛な想いが木霊する。

 そんなことはない。それはあり得ないことなんだと否定するように。

 

「辛いなんて思ってもいないっ!」

 

 悲傷の心が木霊する。

 そうであってはいけない。それは悪いことなんだと自分に言い聞かせるように。

 

「母さんが私に期待しているんだッ! 私を愛してくれるって抱きしめてくれたんだからッ! それだけがホントの事なんだからッ!!」

 

 そして、それがフェイトちゃんの()なんだと、直感できてしまったから。

 

「だからっ、高町なのははここでッ――――――」

「そうだね」

 

 だから、言葉だけで語るのはこれでおしまい。 

 

「わかってたんだ、私……。どうしようもなくなった時、心の底から辛くなっちゃった時にかけられた言葉なんて、何の意味もないんだってこと」

 

 “過去の私”がそうだったから。

 誰かを信じられなくなったわけじゃない、嘘を言われたと思ったわけじゃない。自分自身が作った殻から出られなくなっちゃっただけで、その殻を自分の力だけで壊すことができなくなっちゃったから……。

 

「なに、を……―――ッ!」

『Transform.』

 

 だから、レイジングハートの新機能を起動する。

 

「デバイスの、形態が―――――変わる?」

「ホンキの言葉って言ったって結局、それは他人の言葉でしかないってこと。その瞳の奥には届かないってこと、わかっていたから……。その奥に潜むホントのフェイトちゃんが、私には視えているから! 私は――――私の気持ちを、この歌に込めたんだよ!」

 

 瞳に伺える蓋。

 その心の殻を突き破る為に。

 見つけて、見つめてしまったその本心に届ける為に。

 

 私のハートを、形にしたんだ。

 

「行くよ、フェイトちゃん……! これが私たちのサウンド・フォーム……――――これが私の〈HEART(ハート)SOUL(ソウル)〉!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 かつての私が救われたように。

 かつての私がそうしてもらったように。

 

 

 

「フェイトちゃん、私の歌を聞いてっ!」

 

 

 

 ホントの魔法を、かけてあげる。

 

 

 

 





『劇場版マクロス7 銀河がオレを呼んでいる!』より

曲名:HEART & SOUL
歌手:EMILIA with BASARA NEKKI
作詞:K.INOJO
作曲:川野美紀


超☆名曲。
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