魔法少女リリカルなのはS.F.~お前にラブハート~ 作:どめすと
熱気バサラは海を眺めていた。
地平線と太陽が交わる一瞬。地球という星に存在するその一瞬の刻に、バサラは思いを馳せていた。そこに“なにか”の答えがあると感じていたから。
帰ってきた理由。
レイ・ラブロックに問われても答えることのできなかったもの。
それは漠然としたものだったから。
「俺を呼ぶ声が聞こえた」
世界のどこにいても、バサラの胸を鷲掴みにする声が。
海鳴の街を離れても、バサラを離さない不思議な声が。
「お前は、誰だ」
熱気バサラが待ち望んだ“何か”が、その声にあると感じたから。
バサラは戻ってきた。
直感に従って。
「〈おまえにいつ 出会えるのだろう?〉」
頭をよぎったメロディー。
バサラは、その一節をまだ見ぬ誰かに捧げて足を進めた。
数年ぶりの帰郷というには、熱気バサラとその街の関係は希薄であった。海鳴市で産まれたわけではないし、生活したのは年月にして二年程度。各地を転々としていたバサラにとっては、他の街とそれほど変わらない滞在期間。
しかし、バサラはこの街の事を妙によく覚えていた。
「変わらねぇな」
海沿いの街道を歩く。
少し先へ行くと海沿いの開けた広場があって。そこから街へ入っていくと海の見える公園があって、少し行くと動物病院がある。その先には古ぼけた駄菓子屋があって、静かな神社があって――。
海鳴市に住む以前までは、どこにいたかもなんとなくでしか覚えていないのに。この街だけは別だった。バサラにもその自覚があった。
「変わらねぇ……」
中でも、変わらないもの。
それは、今なお生じている胸のざわめき。
バサラの胸に反響する波動のような“なにか”。
胸を鷲掴みにする声のような“なにか”。
得体の知れない感覚、待ち望んだ“なにか”。
「お前は、誰なんだ」
五感というフィルターの向こう側。
捉えきることのできない、感覚というヴェールの向こう側の存在感。
それは今でも変わらない。
むしろ強くなっているようで。
そして、その刻が来た――――のかもしれない。
『お願いです、僕の声に――――』
胸のざわめきが、声に変わった。
首筋の後ろからゾワゾワが上りつめる。
脈打つ鼓動が早まる。
心臓の奥が、痛むほどに痺れる。
バサラは息をのむ間も惜しんで、前へ跳んだ。
直後、後方に飛来した何かが地を抉った。
重機に匹敵するパワーがコンクリートの道路を粉砕し、飛び散る破片が海沿いのガードレールを打ち壊してく。
「あぶねぇじゃねぇか!」
バサラが振り返った先。
そこに落下したものは物ではなかった。
蠢く巨大なシルエット、蒸気機関のような呼吸、闇夜に光る獣の瞳。形も定まらない化生。
「こいつは――」
怪物。
バサラは、言葉を失った。
正面から吹き付ける異質な熱気が、バサラの全身を打ち付けていたから。
見上げた先の異質な瞳が、バサラだけを映していたから。
ただそこに在る異質が、バサラという男を掴んで離さなかったから。
バサラには、言葉は必要なかった。
――――お前が、俺を呼んだのか。
直感と同時に、バサラは背負っていた黒いケースを放り投げた。
「待たせたな!」
中から姿を現したのは、一本のギター。
レイ・ラブロックが特注したエレキギターは、
「聴かせてやるぜ! 俺のサウンドを!」
ただ、そうすることだけが目的のように。
異形の怪物がとびかかる。
目の前の生物へ。
バサラという男へ。
「俺の歌を――――」
対して、バサラは弾く。
思うままに。
感じたままに。
「俺の歌を聴けェ!」
ハートをのせて。