魔法少女リリカルなのはS.F.~お前にラブハート~   作:どめすと

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「夢の終わりに。 前編」

 

 何も特別なことなどない。 

 どこにでもある平凡な繋がり、どこにでもありふれた人の温もりに守られたような心地のまま、バサラは海を眺めて、先の不可解な現象を思い返す。

 

 桃色の情熱。

 金色の悲哀。

 

 ぶつかり合う二人の鼓動、剥き出しになった二つのビート。

 初めは映画のように画面の向こうにあったそれら情動は、気が付けば息遣いまでを実感できるリアルな感覚として目の前にあった。桃色のサウンドに耳を傾けながら海を眺めていたはずなのに、二人の放つ閃光(ハート)が最後の激突を迎えた瞬間、バサラはその現場の真っ只中に居た。心臓の奥に燻る波動が引っ張られたように、まるで精神だけが時間と空間を超えたかのように二人の激突の場に居合わせることになった。

 

 直後、バサラは二人の視線を目の当たりにする。

 

 もうどうしようもないのだと、行き詰まりの果てにしがみつく少女(フェイト)の絶叫が頭上にあった。いつかのような、夕暮れの失意を超えようと足掻く少女(なのは)の眼差しが背後にあった。

 彼女らが発する精神の波動、どうあっても譲ることのできない彼女らの本意、真正面から衝突した彼女らのハートを実感すれば、賞賛の言葉を贈らずにはいられなかった。そして、その場においてバサラがやるべきことは一つしかなかった。

 

 “歌う”という衝動を抑えられるはずもなかった。

 

 途絶えかけたストレートなメロディーと情熱を繋ぎ止めて、地に落ちかけた桃色の翼を引き上げる。ひと時のセッションに喉を震わせた後で、バサラはその場を離れた。翼が風に乗れば、後はひとりで飛んでいけるから。それだけではなく、桃色のサウンドから溢れる意志を聴き取れば、そこから先の結末を見届けるのは無粋というものだから。

 バサラはひとり余韻を味わい尽くした後で紅い宝石を眺める。

 

「粋な事をするじゃねぇか、丸いの」

 

 思考ではなく感覚で理解する。

 手の中にある紅い宝玉。既に電池が切れたように光は失われ、役目を果たしたように沈黙するこれこそが自身をあの場所へ誘ったのだろうと。こいつこそがあのセッションをセッティングしたのだろうと感謝の念を送る。バサラは砂となり崩れ落ちるその宝石を見送り、ふぅと息を吐く。

 

 それは失意の溜息ではなく、熱が籠っていた。

 待ち望んだ存在が去ったこと、至上の体験が終わってしまったことに対する寂寥感から零れたものではない。むしろ逆。ステージを直前に控えたあの高揚感が、胸の内からにじみ出たものであった。

 

「やっと、来やがったな」

 

 背後に現れたその感覚。近づいてくる彼女らの足音に、バサラはギターを掻いて喜びを露わにする。

 

 それはきっと、蒼い宝石が導いた渚の逢瀬。この世界に存在した誰かが望み、この世界に生きていく別の誰かに伝うるべき“なにか”があったから実現した奇跡の一幕。

 無論、そのような事情などバサラには知る由もないが、背後に現れた存在がどれほどすげぇ(・・・)オーディエンスかをピリピリと感じていた。これから起きる現象がどれほど素晴らしいものであるか。進むべき道がどれほどのものであるか、どれほどの可能性を感じさせてくれるのか。

 天体の輝きが戻った星空、静寂に揺らめく波間を前に未知数への期待を膨らませながら、バサラは背後に立ち止まった彼女らに向き直る。

 

 

 

「よう、俺の歌を聴きに来たのか」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「どうして、こんなに時間がかかってしまったのでしょうね」

 

 プレシアは翠緑が照らし出す培養槽に手を添える。人肌にも思える生温い硬質ガラスの内側にあるのは、数十年前から変わることのない娘の姿。穏やかな寝顔のまま溶液中を漂うアリシアは、目覚めない。

 

「なぜ、こんなことに気付かなかったのかしら」

 

 そのポッドが生命を保存する奇跡の箱ではなく、ましてや延命用の治療ポッドでもない事に。有機物を構成する諸々の組織崩壊を防ぐ為の水溶液で満ちただけの棺桶であり、中に漂う亡骸を目に見える形で保存するだけの観賞用ガラスケースに過ぎなかったのだと、ようやく気付いてしまったが故の自嘲から溜息をつく。

 

「なぜ、今になって気付いてしまったのかしら……」

 

 フェイトという生命を創造し、手元に残した意味を。

 アリシアを再現したはずなのに出来上がった失敗作を処分しなかった意味。外見だけ似通った姉妹のような別存在を生かしておきながら遠ざけた意味……。無自覚に追いやっていたその全てを自覚してしまったが故の慙愧(ざんき)に胸が痛み、喉元に込み上げる血の熱さに引き戻される。

 

「……もう、時間がないのね」

 

 外圧にも似た波動に晒され、外核部の崩落を始めた《時の庭園》。周辺の次元空間は安定性を失い、削げ落ちた隙間から覗く混沌――物理的な力場の及ばない虚数空間に浸食されつつあるという現実に意識を引き戻される。

 プレシアは口元の血を拭った。

 

「私は、何もかもが遅すぎた」

 

 増幅された魔力は既にジュエルシードのコントロール下を離れており、充満する物理的な波動を伴った魔力の奔流は互いに擦れ合い、空気中の至る所で静電気紛いの接触音を生じさせていた。

 魔力の小さな衝突は、次元空間に小さな(ひずみ)を生じさせる。それは空間という風船を一気に膨張させ、しかも高速回転で捻じり上げるように負荷を蓄積され――――許容量を超越した時点で破裂し、人為的な大規模次元震を引き起こす。

 それは当初のプレシアが画策した現象に相違ないものであった、が。

 

「もはや、この現象にも意味はないというのに……」

 

 中枢部の魔力炉心はリンディ・ハラオウンによって無力化され、次元航行機能を司るメイン動力は既に停止していた。それはとりもなおさず≪時の庭園≫が次元の狭間を超えていく機能を無効化されたということであり、失われた都≪アルハザード≫への道が閉ざされたという事――――アリシア奇跡が失われたという事に他ならない状況にあった。

 次元震を望む理由などもはや微塵もないというのに、その現実が足取りを乱すことなく次第次第に近づいてきていた……。

 

 

『悲しまないで、母さま』

 

 

 その上あろうことか、光から成るアリシアの幻影までもが憐れみを向けてきたのだから、プレシアは眉間に皺が寄るのを自覚する。

 培養槽に漂うアリシアは眠りについたまま。リンカーコアを含むバイタルサインさえ依然活動を示していないというのに、目の前の幻影はまるで自身こそが本物であるように嘆きを浮かべながら、まるで生者のように体を寄せてくる。

 

『大丈夫。わたしはここにいるよ、いつまでも母さんの傍に―――――』

「やめなさい」

 

 プレシアが静かに身を退くと、幻影は悲し気に目を細めた。

 幻影が見せる仕草も表情も、記憶に残るアリシアと寸分違わぬ真実味を帯びていた。輝かしい思い出をそのまま再生したようなそれはまさしくプレシアが望んだ姿そのままであったが――――実体を伴わない泡沫の夢を受け入れるのは、裏切りにも似た背徳感が許さなかった。

 

「私にアナタは必要ないのよ。消えなさい」

『どうして、母さま……?』

「アナタが、アリシアではないからよ」

 

 プレシアは魂などというものを信じちゃいない。

 在るのは肉体という物質のみ。その人間を“個”として確立している人格などというものは、脳構造と電気信号を完全に再現することで複製可能な物理的現象の集合に過ぎず、まかり間違っても物質的な媒体を介さずに存在できるものではない、と。

   

「欠陥だらけの願望器が産んだ妄想の産物、私が望んだ思い出の形、ジュエルシードの憐憫が見せる夢幻……。それがアナタという存在なのでしょう?」

 

 この幻影は、プレシアの望みを汲んで、プレシアの記憶に残る娘の姿を引き出し、ジュエルシードが演じているだけの偽物。プレシアという人格が眺めている()に過ぎない。

 

『……わかっちゃうんだね。やっぱり、母さまはすごいや』

「やめなさいと言ったでしょう。アナタにそう呼ばれる筋合いはないわ」

 

 幻影はまるで小さな悪戯がバレた娘のようにはにかむものだから、プレシアはこれみよがしに溜息をつく。

 

「随分人間らしい振る舞いをするわね。……生物の願望を指向性としか認識できない貴方()が、なぜ感情を理解するに至ったか。なぜ人心の機微を獲得するに至ったか――――……私には知る由もないのだけれど、なにやら数奇な出会いでもあったのかしら?」

『わかるはずだよ』

 

 それは聞き覚えのあるフレーズ。

 それがどういった意味を含み、誰を示唆しているのか。プレシアが抱いた疑念の答えは、幻影が浮かべる表情に――――やたらと自信に満ちた、どうしてか歳不相応に無邪気な表情に現れていた。

 

『夢を見るのは、生きている人間だけだもの』

 

 何もかもを知っているくせに。

 何もかもを知らないかのように。

 幻影は無邪気に笑ってみせた。

 

 娘の顔を模していながら、どうしてこうも憎たらしい表情を浮かべることができるのか。どうしてああも自信に溢れた表情ができるのか、プレシアは頭を抱えたい衝動を覚えるが。

 

「まぁ、いいわ」

 

 プレシアは培養槽に向き直る。

 中枢部を襲う振動が轟音を伴うようになった。設計上、大規模次元震にも耐えうる強度を誇るはずだがここも長くはもたないと、プレシアは培養槽の根本に手を伸ばす。

 

『ホントにいいの?』

「ええ」

 

 プレシアは生体認証により、厳重封鎖されていたカバーを解放する。そこにあったのは培養槽建造時に憑りつけられた旧世代のボタン式コンソール――――テンキーのみが配置された簡易な入力盤であった。そこに記憶に埋もれかけたパスワードを入力すると、錆びついた歯車の駆動音と共に培養槽に繋がるホースが唸り声をあげて排水が始まった。

 

『これで、ホントにいいの?』

「もう窮屈な思いをさせる必要などないもの」

 

 溶液の排水を終え、強化ガラスが解放されると同時に倒れ込むアリシアの体を、プレシアはその腕に抱き抱え、実感する。温もりの灯らぬ物質、有機的でなく無機的な固さだけが残ったその肉体。二度と取り戻すことのできない虚しさだけが腕の中に残る真実である事をもう一度実感して、プレシアは幻影を見上げる。

 

 

「ジュエルシード、私の願いを叶えなさい」

 

 

 懐からジュエルシードを取り出し、それら計16個を放り投げる。

 忌々しい女(リンディ・ハラオウン)によって封じられ沈黙を保っているが、内に脈動する赤い波動から力を感じる。その表層人格たるアリシアの幻影は『なにをすればいいの?』と地面に散らばるそれらを拾い集めていく。

 

「察しなさい」

 

 それぐらいはできるのでしょう、と。

 幻影は首を傾げる素振りを見せたが、表情にはどこぞのミュージシャンのような意地の悪い色が現れていたものだから、プレシアは微笑み返す。

 

「最後ぐらいは、役に立ってみなさい」

 

 すると、幻影は微笑みと共に光に返り、中空に浮かぶジュエルシードはまるでプレシアの望みに寄り添うように紅い軌跡を残して空間の狭間へと消えていった。

 途端、まるで突発的な地殻変動に似た激震が次元空間を襲い、連鎖的な魔力歪の爆発が始まる――――それは次元震の始動であった。

 

「さぁ、アリシア」

 

 呼びかけても返答はない。プレシアは肩に羽織っていた外套でアリシアの亡骸を包む。濡れた体を冷やさないよう腕に抱きしめ、その頬に口づけをする。冷たい肌の奥、滲み広がっていくような硬い感触が唇に残った。

 プレシアはゆっくりと立ち上がる。

 腕の中で眠るアリシアが目を覚まさないように。

 

「行きましょう」

 

 広がる魔力光、次元震の胎動に恐れを抱くことはない。これまで自身がやってきたこと、その結果である今を嘆き悲しむこともない。プレシアは全てを受け入れていた。

 

 故に、最後の時に想うのは記憶に残る日々。在りし日に生きる娘の姿。思い出として確かに残る向日葵の記憶。触れ合った喜びも、胸に抱いた幸せも虚構ではない。真実として、確かにこの胸に残っているのだから。

 

 唯一、惜しむのは未来の想像。在り得なかった将来、娘と過ごす未来の日々。幾多の不幸の末に辿り着けなかった未来。種が幹を伸ばし、葉と蕾をつけて花開くその先を見守ることができない後悔も、また虚構ではない。

 そして、種が二つに分かれた事、もう一つの種が幹を伸ばし始めたこともまた嘘ではない。見て見ぬふりをしてきた種が芽を出し、アリシアとは別の花を咲かせようと幹を伸ばし始めたこともまた胸に芽生えた真実であった。

 プレシアはそれすらも受け入れていたから、この場所にただひとり立ち尽くした。

 

 

「私たちの約束の場所へ、二人(・・)で」

 

 

 次元震が発動する最中。

 物質崩壊を齎す魔力の奔流に包まれながら。

 

 

 プレシアは夢の終わりに辿り着く。

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

「状況はどうなっている!」

 

 突如、海鳴市現地拠点に駆け込んできたクロノ。後から駆け込んできた武装隊の面々が、各種モニター前に腰を落としてコンソールの操作を始めたのを目にして、ユーノはこの上ない緊急事態を理解する。

 

 海鳴市は未曽有の振動波に襲われていた。

 地震のようでありながら、継続的に刻々と震えを増していく空間の揺れ。収まりつつあったジュエルシードの魔力暴走の再動。リンカーコアを圧迫する波動は、《時の庭園》に突入した時よりも遥かに異常性を増していた……。

 

「断層ノイズにより、アースラとの通信繋がりません!」 

「ジュエルシードの魔力反応及び次元境界の断層運動、尚も増大中!」

「当管理外世界の磁気異常を感知! 惑星磁場が湾曲を開始しました!」

 

 それは即ち、プレシア・テスタロッサの目的が成就する予兆であることを理解できたからこそ、ユーノは医療用ベッドに横たわるなのはの手を取った。

 高熱にうなされ、意識を取り戻すどころか正常な呼吸さえもままならないなのはにとって、飽和するジュエルシードの魔力は毒そのものであった。それにもしも、この緊急事態を理解してしまったなら精神的な負担は大きなものとなるだろうから。そういった外的要因に意識を向けないよう、ユーノは痙攣するなのはの手を握り締める。

 

「境界力場に異常感知、当方の設備では計測不能! このままでは――――」

 

 武装隊から上がってきた報告を受けて、クロノは晴らしようのない鬱憤に歯噛みしながらもデバイスを手に取った。

 

「転送ポートを起動しろ! もう一度≪時の庭園≫に行くんだ!」

「無駄よ、クロノ」

 

 しかし、夜のように暗い空を眺めていたリンディが首を振った。

 

「次元空間のノイズはもはや人の手に負える状況にはない。転送ポートを起動しても、座標地点には辿り着けないわ」

「それがわかっていても行くんですよ! このままでは大規模な次元震が起きてしまう!」

「そうね……」

 

 しかし、手の打ちようがないというように消沈したリンディに、ユーノも内心同意せざるを得なかった。

 次元空間に吹き荒れる断層ノイズは転移魔法を阻害し、唯一の希望になり得るアースラとの交信も繋がらない。次元を隔てた向こう側で今なお活動するプレシア・テスタロッサを止める術はもはや残されてはいない……。 

 結果齎されるものは、なのはの住む世界を丸ごと飲み込む天災。如何に銃や大砲を駆使しようとも、強大な地震や竜巻を止められないのと同じように、今の自分たちは無力だとユーノは力なく項垂れる他になかった。

 

「武装隊、出るぞ! 誰か一人でもプレシアの元へ辿り着けばいい!」

 

 しかし、クロノは転送ポートに乗り込む。

 その前に向かう姿勢は眩しくて、このままでいいわけがないと背中を叩かれる心地がして、ユーノはこのまま俯いているわけにはいかないと気を入れなおす。何かできることがあるのではとなのはの傍らから立ち上がる。

 

 するとリンディが「そうね」と小さく、はっきりと息を吐く。

 

「ここにいる全員の魔力を集めましょう。拠点の防御システムを広域に拡散、断層振動の相殺に努めます。――――……やれるだけのことは、やってみましょう」

「もう、そんなことする必要はないんだよ。管理局」

 

 虚勢とはいえ活気を取り戻しかけた室内に、消沈した女の声が木霊した。

 突然の来訪者に武装隊が臨戦態勢を取り、ユーノもまたなのはを守る為にレイジングハートを手に取るが、外から入り込んできた人影を目にして――――腕の中に黄色い少女を抱えた赤髪の女の姿を眺めて、その必要はないと肩の力を抜く。

 

「お前は、使い魔の……」

「アルフさん、だったかしら。それに、腕に抱えているのは……」

 

 アルフの腕に抱えられていたのは、静かに吐息を立て、年相応の寝顔を見せるフェイト・テスタロッサ。加えて、アルフが浮かべている表情は勝気な気性とはまるで正反対の、儚げで途方もない弱気に苛まれているようで、とても戦いに来た者には思えなかった。

 

「あの女は従順なフェイトすらも排除して、行くべきところに行こうとしてる。――――……だから、もう静かに見送っておくれよ」

 

 何もかもを諦めていながら、どうしてか安堵しているようにも伺えるアルフだが。そのような神妙な体裁を取り繕おうとも許せるわけがないといわんばかりにクロノは詰め寄った。

 

「できるわけがないだろう! 多くの人命が掛かって――――――」

『もっ、もういいん……だよ……』

 

 だが、クロノの切迫した義憤を押し留めたのは、リンカーコアに走った桃色の感覚。息も絶え絶えに、思念すらも途切れ途切れのなのはの声だった。

 

『もう、だいじょうぶだよ。クロノくん……』

「どういうこと? なのは……」

 

 ユーノは、ベットから体を起すことさえ辛そうななのはの上体を支える。朦朧とした面持ちに動悸じみた呼吸。衣服は汗でびっしょりと濡れているが、全く引くことのない高熱が腕を通して伝わってくる。傍目から見ても適切で十全な医療処置を必要とする状態だった。

 

 全員の視線が、そんななのはのもとへ集まる。

 だというのに、なのははどこか遠くを見上げるように。天井を眺め、空を見通し、次元の向こうに位置する《時の庭園》にさえ想いを馳せるかのように、微笑んだ。

 

『フェイトちゃんのお母さんは、もう……そんなことできないもん………』

 

 まるで、その言葉が全てであるかのように。

 まるで、その想念が届いたかのように。

 まるで、その眼差しが真実を物語るように。

 

 膨張しきった魔力が破裂するような錯覚を契機に、逢魔が時を彷彿とさせる眩い紫焔の閃光が星々を覆った。

 

 幾重にも折り重なり、互いに引き合い、衝突を繰り返していたジュエルシードの強大な波動が、地球に流れ出る磁場と同化しながら成層圏に広がっていき――――突如、重力が逆転したかのような浮遊感が地上を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 地球が、震えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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