魔法少女リリカルなのはS.F.~お前にラブハート~ 作:どめすと
空に星が見えた。
満天の星には遠く及ばないけれど、パラパラと宝石が散った広い空は、ミッドチルダの狭い空と違って綺麗だと思う。淡い月光が滲み、母さんの魔力光を思わせる深い瑠璃色の夜空はとても綺麗だと思う。
波の音が聞こえた。
どこか遠くに聞こえるけれど、岩に沁み込むようなさざ波の音色は、心を穏やかに保ってくれる。どうしてか脳裏を過ぎったのは、母さんと夢見た星の海で。辛いことも悲しいことも洗い流してくれるようなその音色は、とても心が落ちつく。
覚えのない夜、見知らぬ空を眺めているとなにか夢心地な気分にさせられる。気分の問題ではなく、思考は羽毛にくるまれたように朧気で、胸の奥に位置するリンカーコアも水面を隔てたようにどこか深くに沈んでいるように思えて、不意にポケットに手を突っ込む。
スカートのポケットには何も入っていなかった。
現実の世界で、肌身離さずにいたバルディッシュでさえ今はどこにもいない。母さんどころかアルフの魔力さえ感じられない。
地上に目を向ける。
ぽつぽつとまばらな街灯。道は整備されているけれど、ミッドチルダ都心部に敷設された金属質の道路とは違う。建築物が撤去された旧市街に残るコンクリート舗装に似ているけれど、記憶とは一致しない窮屈な道幅が続く。
ここはどこ、と。
呟いてみても答えは返ってこない。
それに思わず胸をなでおろす。
なんせ、薄暗い町並みはまるで嵐が過ぎ去ったように屋根が剥げ、道路には物が散在していて、ちょっと過激に言うと荒廃している有様で……。なんだかお化けでも出そうなものだから、返答がなくてほっとした心地になる。
「どうしたんだい、フェイト?」
だけどどこからか声がして。
驚いちゃった後で、それがアルフのものだと気付いて視線を少し下にズラすと、動物形態のアルフがお尻を向けていた。散歩に出かけた時のように、私が追いつくのを待ってくれているようだった。
「みんな先に行っちゃうよ。行こうよ、フェイト」
アルフは浮かれた表情のままそう言うと、尻尾を波打たせてどこか弾むように歩き出した。
――――……みんな?
それが指し示すものに思い当たる節がなくて、だけど悪いことの前触れのような気配はまるでなかったから。暗がりに姿を見失う前にアルフの後を追うことにした。
小気味良いリズムでカツカツ足音が進んでいく。
陽気な足取りはアルフらしさそのものだったけれど、何かが違うように思えた。なにがと聞かれても答えようがないのだけれど……。目に見える形や仕草ではなく、纏う空気とか何気ない声色とか。ちっちゃな違和感を覚えつつ、足を進める。
道幅は狭いままだけど、歩くにつれて次第と窮屈さが薄れていくように思えた。どこまでも続くと思っていた住宅地を抜けたみたい。
顔を上げると、立っている場所が高地になっているからか、遠くに月明りの煌めき漂う海を眺めることができた。その見覚えのある景観からやっと気付くことができた。
ここはジュエルシードを集めに降り立った世界なのだと。
第97管理外世界――――地球と呼ばれる星の、海鳴市と呼ばれる街の海なのだと、やっと気付く。そして、今更ながら疑問が浮かぶ。
どうして私はここにいるのだろう、と。
さっきまで≪時の庭園≫にいた気がするのに。高町なのはと戦っていたような気がするのに。胸を引き裂かれるような悪い事があったような気がするのに、思い出せない。霞がかったように記憶がはっきりしない。思い出さなきゃいけないと後ろ髪を引かれるのだけれど、なんだか頭がぼんやりして、足は前に進んでいく。
しばらく歩くと公園があって、更に進んで広場を抜けて、煉瓦が敷かれた海沿いの街道に出た。そこが執着点のようで、先導していたアルフがピタリと立ち止まった。
「ほら、やっと追いついたよ」
誰に――――などと。
尋ねるまでもなく。
その先に佇む人影は微笑んだ。
「遅刻ですよ、フェイト」
ショートボブの髪を潮風に揺らして。だけど、まるで学習室に遅れて入った時のように困ったふうに笑い、迎えてくれたのはリニスだった。
考える力と魔法の使い方を教えてくれて、進むべき道を示してくれた私の先生。悲しみに暮れていた母さんを支えた山猫の使い魔であり、一年前に失踪した私の家族……。
私は、衝動のままその胸に飛び込んだ。
心配したんだよ、と。
突然いなくなってどうしていたの、と。
そんな事を知りたいわけじゃないのに、溢れる言葉は疑念ばかり……。喜びが胸に込み上げるのに、辛いときに居てくれなかったのはどうしてと腕に力が籠もってしまう。抱きしめたその温もりは、忘れようもなく彼女そのもので。見上げた瞳には生気が宿っていて、幽霊や幻とは到底思えなかったのだけれど。
「私は猫ですから」
リニスは、そう抱き返してくれた。
それがどういった意味を持つのかよくわからなかった。けれど、おそらくそれだけが真実を語る言葉なのだと理解できてしまったから、私は離れていくリニスの手を掴もうとは思わなかった。
「さあ、お二人がお待ちです」
そうリニスが眺めた先、私の背中を押した先には――――記憶に残る真実があった。星空を映す海を背にして、
足は自然と進みだしていた。
「おいで、フェイト」
それは憧憬の形。
記憶に残る、
夢の世界にしか無かった私の望み、現実にはない記憶の姿。まるで夜空から注ぐ月光のようにしとやかな微笑みを浮かべるのは、記憶と寸分違わないかつての優しい母さん。私を迎えるように、その大きな手を差し伸べてくれていた。
私はその手を掴み取ろうと足を速めて、その胸に飛び込もうと手を広げるけれど――――逆に、高町なのはの魔力弾さながらの勢いで私のもとへ飛び込んできたのは、向日葵の色彩。
「遅いよ、フェイト!」
あなたは誰――――などと。
尋ねるまでもなく直感できる。
それは記憶の中の私であり、もう一人の私。
そして真実の彼女。
偽物ではなく本物。私ではなく、母さんが心の底から望んだホンモノの彼女が、懐にしがみついていた。鏡に映る私の顔で、私とはまるっきり別物の明るい色彩を浮かべる幼い彼女……。
それこそが、アリシア・テスタロッサなのだと直感できてしまった。
振りほどきたかった。
つっぱねてしまいたかった。
私が欲しかったものを、欲するまでもなく最初から持ち合わせていたその子。アリシア・テスタロッサという存在を目の当たりにすると惨めな気持ちになるから……。
余りにも眩しくて、妬ましくて、辛い日々を耐え忍んできた意味がまるで無駄だったと突き付けられるようだったから、すぐにでも逃げ出さなきゃいけないと後退っちゃうけれど……。
「いこっ!」
幼い彼女は、屈託なく私の腕を引いた。
陰りなく、真夏の太陽のように燦燦と。こんなにも無垢で眩しい表情があるのだろうかという笑顔で、まるで姉のように私を前に引っ張るのだ。
不思議なことに抵抗感は消えていた。小さな手から伝う熱は、母さんやリニス、アルフから感じられるものと同じように暖かかったからなのかもしれない。
どこにいくの、と。
手を引く彼女に尋ねても、返ってくるのは悪戯っ子みたいな含み笑いだけで。母さんを見上げてもなんだか困ったふうに頬を掻くばかりで何も教えてくれない。そのくせ二人が顔を見合わせると、予め口裏を合わせてたように「ナイショ」の仕草で示し合って――……なんだか、ズルい。
「あははっ! フェイトのほっぺ、風船みたい!」
「拗ねちゃったの? ごめんなさいね、意地が悪かったわ、フェイト」
肩に添えられた母さんの手は、とても大きくて、打算のような冷たさは感じられなかった。……今までそんなふうに優しくされた体験なんてなかったから、腰に纏わりついてくるアリシアを払いのけるような気分にはならなかった。
そのまま街道から海辺に入ると、そこは安全柵のない岩場で、まっ平らな水平線にぽつりと影があった。清々しいギターのメロディーが流れていた。海を眺めてリズムに体を揺するその姿を目にして、思わずアリシアの背後に隠れてしまう。
だけど、私にお構いなしというように二人は足を進めていく。
「バサラー!」
アリシアが嬉々として飛び掛かると、その男――――熱気バサラは振り向いた。
「よう、アリシア。待ち惚け食ったぜ」
「あははっ、遅れてごめんね!」
アリシアの視線を追うように、熱気バサラが顔を上げたものだから、私はいつかのように思わず母さんの後ろに隠れてしまった。……あの真っ直ぐな眼差しは、やっぱり苦手だ。
「なんつーか、大家族だな?」
「うん、やっぱりわかっちゃうんだね! ショーカイするよ! あっちがリニスで、このワンコがアルフだよ! んで、ほら! 母さまの後ろの恥ずかしがり屋さんが――――おいでよ、フェイト!」
母さんに隠れてやり過ごそうと思っていた矢先の事だった。それは許さないとでも言うように頬を膨らませたアリシアが手をこまねく。
絶対にイヤだと首を横に振ってみせても、私の名を呼ぶ声が大きくなるばかりで。熱気バサラの正面に出るのは今でもやっぱりこわかったから、どうにかしてもらおうと母さんの服の裾を引いてみたのだけれど……。
「隠れてないで、挨拶なさい。ねっ、フェイト」
なんと母さんにまで背中を押されちゃって。
しかも隠れる場所がなくなった私を、アリシアは否応なく引っ張るものだから。私は心の準備をする間もなく熱気バサラの前に放り出されちゃって……。もうどうしたらいいかわからなくなっちゃって、ただただ足元を見下ろすことしかできなかった。
「ほら、フェイト!」
そんな私の肩を、アリシアが無邪気に叩く。
その無遠慮さが恨めしいはずなのに、不思議と心が落ち着くのはなぜだろう。イヤなはずなのに、どうしてか勇気に後押しされたような気持ちになるのはなぜだろう。胸に抱いた疑問と気持ち。それはとても重要なもののように思えたのだけれど、そればかりを考えているわけにもいかなくて。
「よう」
見ずともわかるのは、熱気バサラの視線が頭上から降り注ぐ事。かつての嵐の日のような、あるいは街中で時折見かけた時のような、はたまた高町なのはの瞳と重なるような、捻じれのないストレートなそれを想像しただけで、やはり汗が噴き出すようだった。
私は丸眼鏡の奥から覗く瞳と目を合わせないようにして、母さんから貰った名前を言葉にする。……ちょっとだけ声が裏返ってしまったけれど、バサラは「そうか」と一言。頭上にぽんと乗った手は大きくて、嘲笑う冷たい色は微塵もなかった。
「フェイトははずかしがり屋さんなんだからぁ。そんなんじゃこれから苦労するよ~」
背中に覆いかぶさるアリシアだけは、そんな調子だったけれど……。取りあえずの使命は果たしたのだから、バサラとアリシアを振り払って母さんの後ろに戻ると「よくできました」と母さんが頭を撫でてくれた。
「いい顔するようになったじゃねぇか」
それは、私ではなく母さんを見て。
バサラのそれに「そうね」と母さんは顔を上げた。頭から離れていく手が名残惜しいけれど、母さんの微笑みを見れば抱いた寂しさは場違いな気がした。
「地上から空を見上げるなんて、いつ以来かしら。夜空の煌めきがこんなにも美しいモノだってこと、すっかり忘れていたわ。……とても晴れやかな気分な気分なのよ。情念のしがらみを抜けたからなのか。それとも叶わないと諦めていた約束を、こうして果たすことができたからなのかしら」
約束。
海を眺め、懐に駆け寄ったアリシアと私の肩をそっと抱き寄せた母さんの言葉。古い記憶に残る輝かしい思い出。絵本のような海を見たいと、記憶の中の私――――かつてのアリシア・テスタロッサが母さんに取り付けた何気ない約束。
「ずっと心残りだったの。いつか三人で来たいと思っていたのだけれど、まさかアルフとリニスまでもが一緒に来られるなんて……。ようやく夢が叶ったわ」
嬉しかった。
今の私と同じぐらいに、もしかしたらそれ以上に強く願ってくれていたのだと。私の独りよがりなお願いじゃなかったことが、とても嬉しくて涙が出そうになるけど、それは母さんを心配させるだけだから我慢する。
バサラは「そうか」と短く、だけど胸に染み入るように頷いてくれて。そのまま近くの岩に腰かけると足を組んでギターを構えた。
「リクエストがあるなら聞くぜ」
柔らかい眼差しだった。
情熱的な色を残しながらも、肩を寄せ合っているような安堵を覚える不思議な雰囲気。まるで私たちの苦悩を理解しているような慈しみにあふれた声色に、母さんは「任せるわ」と全幅の信頼を露わにして海を眺めた。
それほどまでに、彼と母さんは深い関係なのだろうか。
私は疑問に思った。
だって、私たちがこの世界に来たのはほんのひと月とかふた月程前で。母さんは工房に籠りっきりで、この世界の現地住民と交流を持つことなんてなかった。出会いの機会どころか、関係を深める時間さえもまるでないはずなのに――――……けれど。
「〈お前にいつ 出会えるのだろう?〉」
たぶん、それらは些細な事なんだろうとわかる。考えるまでもなく、感じることができる。答えは、今この場所にあるのだから。
「〈SUBMARINE STREET で つぶやく俺は今日も〉」
熱気バサラを目にすれば、彼が奏でるメロディーを聴けば、切っ掛けや時間なんてものは些細な事のように実感できるのだから。
アリシアも、後ろにいるリニスとアルフも同じように微笑んでいたから、私も“こわい”という感覚を忘れて、透き通るようなギターの音色に耳を傾けながら海を眺めることができた。
「綺麗……」
それは誰の言葉だっただろうか。
歌声に溶け合ったその声は、誰が呟いたものかは知りようがない。だけどその気持ちは、きっとここにいる皆が同じように抱いたものだとわかるから、私も頷く。
雲一つない夜空の下に広がるのは、想像すら及ばない幾多の星々の煌めきを映す海。どこまでも広がりゆく潮の揺らめき。さざ波の囀りは歌声に重なり、肌を撫でる潮風は熱っぽい体を冷ましてくれる。
少し前の私なら、こんなに穏やかな気持ちを抱けなかっただろう。
きっとこの光景を美しいと思うことなんて在り得ず、耐え難い苦痛だけが胸に残っただろう。だって、昨日までは私を見てくれるヒトなんていなかったのだから。余りにも広大な世界にひとり取り残されたような孤独感にいたたまれなくなっていたことだろうから……。
「〈おまえに逢いたい この寂しさ 分かち合える〉」
でも、今はそんなこと欠片も思っちゃいない。
私の手を包む温もりがここにはあるから、今の私はひとりじゃないから。今の私を見てくれる母さんがいて。まるで姉のように私の手を取ってくれるアリシアがいて。私たちを見守ってくれるリニスがいて、アルフがいる。
「〈いつか本で呼んだ はるか遠い星の 透き通る海に おまえを連れてゆこう〉」
皆がいるから、美しいものを美しいと感じられるし、寂しさなんてちっぽけなものだと前を向いていられる。悲しみ以上の幸せを感じていられる。
「フェイト」
メロディーの合間に聞こえた母さんの声は、ゆりかごを覗き込むような慈しみに満ちていて。見上げた先、凪の海に想いを馳せる母さんはとても穏やかな面持ちだった。
報われた気がした。
これまで私が耐えてきた苦しみや辛さの全ては、母さんのそんな表情を見たいが為だったのだから。私の頑張りが実を結んだんだと、報われたのだと。涙が滲むけれど、この光景がぼやけてしまうのはもったいないと思って我慢する。涙を拭って母さんに返事をする。
「私がこんなことを言う資格なんてないのだけれど……。目が覚めたら、きっと忘れてしまうでしょうけれどね――――……心に留めておいて欲しいの」
どういうこと、と。
疑問を言葉にするけれど、母さんは地平線を眺めながら私の髪を
「これから先、世の中のあらゆる事物は貴女に贖罪を迫るでしょう。私の罪を貴女の罪として責め立て、貴女を喰いつぶそうと画策するでしょうけれど、貴女がそれに応える必要なんてないの」
だから、母さんの唇から零れた言葉が意味するところもよく理解できなくて。わからないと声に出そうとするけれど体に力が入らない。瞼が閉じそうになるのを堪えるのが精いっぱいで。
「夢から覚めたら、貴女は単なる
突き放すようで、寂しさを覚えるような事を言われた気がするけれど、髪を撫でる母さんの手つきは大切なものを扱うように献身的に思えたから、その言葉がやさしさなのだと理解できたけれど……――――やっぱり頷くことはできなくて。私はなけなしの力を振り絞って首を横に振る。
すると母さんは声もなく私の肩に手を回した。身を預けることを許してくれた、抱き寄せてくれたから。不安も、悲しみも、寂しさも。これから先に訪れるだろうあらゆる苦悩が霧散して、心が洗われたような心地になっちゃって。
「フェイト、愛しているわ。……心の底から」
その温もりと、この血の繋がりに身を寄せ、ずっと望んでいた幸せを噛み締めながら。深々と波に沁みゆくようなメロディーに浸りながら、私は母さんの腕の中で眠りについた……。
――――愛してる。
そう言葉を返すこともできないまま。
そう心を交わすこともできないまま。
私は夢から覚めていく……――――。
――――――――――
カーテンコールの余韻は、さざ波に攫われていく。
月夜の海辺にひとり、バサラは岩場に腰かけていた。演奏を終え、ギターの音色が波間に溶けていく。オーディエンスは既にいない。
ここに残ったのは、最高の相手を前に、最高の演奏を終えたが故に訪れた充足感と、これ程のステージに導いてくれた
暗がりの空へと続く一筋の軌跡、ジュエルシードの残光。海鳴りの街に降り立ったバサラを呼んだ意志の欠片、魔法の石が感応した≪願い≫への送り火は、彗星のように空の彼方へと消え去っていった。
その残光すら潮風に搔き消えて。
一片の曇りもない空に滲むように。あるいは果てなき地平線に溶けゆくように。遥かな次元の向こうへ飛び去ったそれらを見送って、バサラは立ち上がった。
「やるじゃねぇか、おばさん」
自然と口から零れたのはこの上ない賞賛の言葉。
それはいつか自身が辿り着こうと目指した理想の一つ。それは自身が未だ果たせない夢の形であったから。眼前に広がるこの現象を
「地球が歌ってるぜ」
天上に広がるのは限りなき星々。クロッカスの色彩を彷彿とさせる夜空に滲み広がるのは、向日葵の眩さをも含んだオーロラの光彩。
遮るもののない地平線の向こうにさえ届き得る、この空の下にいる全ての存在が目を奪われるだろう奇跡――――プレシア・テスタロッサのハートの輝きが地球を震わせたのだと、バサラは目を細める。
「先、越されちまったな」
いつの間にか手に握られていた青色の宝石を見つめる。
もはや届くことのない相手へと、心からの賞賛と少しばかりの悔しさを抱きながら。ハートに滲み広がる情熱と少しばかりの未練に後ろ髪をひかれながらも、バサラは前を向く。
潮風に背中を押されて。
満天の星々も、夜空さえも彩るオーロラの輝きさえも。その全てを映し込み、微笑むように凪いだ海を背にバサラは歩く。
――――Ba Sa Ra.
胸に語り掛ける、物心ついた頃から聴こえるその存在を知る為に。過ぎ去った青色の宝石とは異なる、夜天に閉ざされた悲哀の声に巡りあう為に。
ただ、前へと進んでいく。
曲名:SUBMARINE STREET
歌手:FIRE BOMBER
作詞:K.Inojo
作曲:福田俊哉
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