魔法少女リリカルなのはS.F.~お前にラブハート~   作:どめすと

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『真剣なまなざしはホンキのハートなの!』

 

「『フェレットをお家で飼えるようになりました』、と」

 

 夕食後、自室で充電中の携帯を手に取り、アリサとすずかにメールしていたなのはは、不意に胸の奥に違和感を感じ取る。

 

『お願いです、僕の声に――――聞こえますか?』

 

 違和感が声に変わった。

 なのはは、それが夢の中の声に似ていることに気が付いた。

 

『僕の声が聞こえるアナタ――僕に力を貸してください!』

 

 今、なのはの意識ははっきりとしていた。

 つまり、これは夢ではないということ。

 

『誰かが危ない目に遭っているんです!』

 

 今、なのはの胸に反響する声は、焦燥感を伝えてくる。

 つまり、この声は現実のもの。

 

『お願いです、僕の所へ―――――』

『―――――俺の!』

 

 声が途切れる瞬間。割り込んできた波長。

 なぜか、その時。

 四年前の“あの人”のシルエットが、頭をかすめて。

 

 

 動きやすい普段着に着替え、なのはは駆けだしていた。

 足が勝手に進んでいく。行き先を考えるまでもなく、身体は向かっていた。

 

 街灯が頼りの暗い道だが、進むにつれて行き先が明確になっていく。はっきりとわかるようになってきて。

 そこは夕方に訪れ、フェレットを預けた動物病院だった。

 

「なんで……?」

 

 なのはは呼吸を整えながら、動物病院の前にいる小さな影に近寄る。

 そこには快復したフェレットの姿があった。ゲージの中で横たわっていたはずのフェレットが、動物病院の門の外で直立していたのだ。

 元気になってよかった。そう思いたかったが、脱走をして、しかも抱きかかえようと手を伸ばしても、全く逃げようとしないフェレットになのはは違和感をぬぐい切れなかった。

 

「やっぱり、君だったんだね」

 

 フェレットを抱きかかえると、耳元で再び声がして。

 

「誰?」

 

 なのはは後ろを振り向いてみて。

 道路の右左を確認してみて。

 門の影を覗き込んでみても。

 やっぱり人影はなかったから。

 

「まさか……!」

 

 なのははヒヤリと、背中に冷たいものを感じた。

 月下の街中とはいえ人のいない通り。風が木々をざわめかせ、不思議なことに虫の音すら聞こえない今。なのはの心臓を締め付ける怖い想像。

 

「ゆ、幽霊……?」

 

 呟いてみて、すかさずあたりを警戒する。声に引かれてやってくるかもしれなかったから。足のないお化けが……。

 

「こっちです、君の腕の中の」

 

 ドキッと。心臓が飛び出しかけたが、なのはは必至で声を抑えた。怖がってると思われたら、もっと怖いことをしてくる。それが幽霊だから。

 なのははそっと声の出どころに目をやった。

 

 そこは自分の腕の中、フェレットがいた。

 愛らしい緑色の瞳にはなのはの顔が映っていて「僕です」と、フェレットの口の動きに合わせて声が聞こえた。フェレットから、声が発せられたのだ。

 

 それがわかって、恐怖心が好奇心に変わった。

 

「ロボット?」

 

 なのはは、わちゃわちゃとフェレットの身体をまさぐる。

 声が出るロボットのおもちゃのようなものかな、と。友達の姉がつくったのかな、と。それとも携帯電話を内蔵しているのかな、などと。

 考え付くままにまさぐってみるが、手に返ってくるのはさらさらとした毛並みに、柔らかい肌の質感。とても機械が入っているようには思えなかった。

 

「ち、違います、僕はユーノといいます」

 

 すると、フェレットが焦りながら手足をばたつかせた。

 

「また、しゃべった」

 

 人間のような豊かな表情で。

 子供の声で、はきはきと。

 なのははなんだか力が抜けていって。ユーノと名乗ったフェレットをしなしなと地面に下ろしてあげた。

 

「フェレットってしゃべるんだ……」

 

 知らなかった、と。動物とその飼い主は心が通じ合うと聞いたことはあるけど、まさか話せるなんて。動物を飼ったことのないなのはには、受け入れ難いけれどそういうものなのかと悩んでしまう程度には、現実味を帯びていたのだけれど。

 

「そんなことはいいんです! 今、誰かが危険な目に遭っているんです!」

「そ、そうだった!」

 

 なのはは、胸に響いたユーノの声を思い出した。

 そうだった、とても真剣な声が聞こえたから、ここに来たんだった、と。なのはは身を正した。正座をして「なにがあったの?」とフェレットを見つめ返す。

 

「大変なことが起きているんです! お願いです、あなたの力を貸してください!」

「ケーサツに連絡すればいいの?」

「いえ。この世界の、ただの人にはできないことなんです。あなたのような素質のある人にしか――――!」

 

 不意に、ユーノの視線が中空に向かうと。

 

「危ない!」

 

 ユーノは、跳びあがった。

 なのはの身長を軽々と超える跳躍をみせて、ユーノを中心とした緑色の光が目の前を覆う。

 

「えっ――――!?」

 

 緑色の光が、文字の羅列を成して円を描いていくと。

 そこへ、まるで隕石のように巨大な塊が落下してきて、衝突する。

 

 落雷のような激震が走った。

 

「伏せてください!」

 

 頭上で叫ぶユーノの更に向こう側に、なのはは見た。

 波打つ光の向こう。

 

 

 

 形もおぼろげな黒い怪物を、なのはは見た。

 

 

 

 

「なんだコイツ。無機生物なのに、興奮している……?」 

 

 なのはは、なにがなんだかわからなかった。

 フェレットが口をきいて、しかもバリヤーのようなものを張っていること。空からは形もあやふやな怪物が落ちてきて、それが自分に襲い掛かってきたことを、受け入れられなかった。

 だけど、いまもバリヤーを張り続けるユーノが「これを!」と放ってきた何かを。

 

「わっ!」

 

 きらりと光る小粒な何かを、なのははお手玉をしながらなんとかキャッチする。受け入れる。それは人肌のようにぬくもりがあって、鼓動のように脈打っていた。

 手を開くと、そこにはビー玉のような――宝石のような赤い石があった。

 

 

 

 

「お願いです、その力で――魔法の力で、戦ってください!」

 

 

 

 

 なにを、言っているのか。

 なのはは一瞬理解できなかった。

 

「まほう……」

 

 魔法。

 それは、たぶんなのはが体験したものではなくて。

 目の前の光景の――――強烈な閃光と、巨大な怪物と拮抗する電流のような騒音をもたらす力。

 

 ユーノは怪物を押し返すと、小さな瞳をなのはにぶつけてきた。

 

「僕の声に続いて、魔法を使うための言葉を紡いでください!」

「そんなこと言ったって……」

 

――――思っていたのと違う。

 なのはは、優しく何かを変えてくれる魔法しか知らない。それ以外のものがあるなんて考えもしなかったから。どうすればいいのかわからない。どうしたらいいかわからなかった。そんな怖いものは欲しくなかった。

 

 だけど。

 

「お願いです!」

 

 けれど。

 ユーノのまなざしは、真剣だった。

 なのはは胸の中の浮わついた感じが消えていくのを自覚した。

 

「お願いします! このままじゃ、たくさんの人が傷ついてしまうから!」

 

 ユーノのまなざしは真剣だった。本気だった。

 真っ直ぐな使命感を帯びたハートが、彼の声にのっていた。

 

「……ユーノ、さん」

 

 なのはのハートに、ひしひしと伝わったから。

 

 

 

「―――――わかりました。どうすればいいの」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 そうして。

 高町なのはは、魔法の呪文を紡いだ。

 

 

 魔法使いになった。

 

 

 魔法を使って、目の前の怪物を倒した。

 彼女が手にした、思い描いていたものとは異なる“現実の魔法の力”で。

 彼女の内に眠っていた、他を隔絶した才覚をもって。

 

 

 ジュエルシードという≪魔法の石≫を、封印することに成功したのだ。

 

 

 

 

 ユーノの助言と魔法の杖の助力を得て。

 それ以外の誰の手も借りずに。

 

 高町なのはの力だけで。

 

 

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