魔法少女リリカルなのはS.F.~お前にラブハート~   作:どめすと

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『ふたりはマブダチなの』

 

「そういえば、自己紹介がまだだったよね」

 

 なのはは学習机上のテーブルランプを点けて、その横に座るフェレットを気の毒に思いつつ見つめた。

 編みかごのベッドの上で、げんなりとするフェレットを。

 

 

 

 ジュエルシードという魔法の石の封印に成功した後。なのはが、ユーノと名乗ったフェレットを連れて帰宅すると、待ち受けていたのは兄の怒り顔だった。

 

――――こんな時間に無断外出はダメだろう。

 そんな一言から始まった、さざ波のように押し寄せるお叱りの言葉。心配だから叱ってくれることは十分にわかっていたのだけど、なのはにだって理由があったから。

 

――――ち、違うの、それは。

 言いかけて、思いとどまる。危険な魔法の事を伝えていいものか、と。

 あったことをそのまま伝えるのはどうかと思って、でも何か言わなきゃと思いつつ言葉が出てこなくて。突き出すことができたのは腕だけ、腕の中のフェレットだけで。

 

 それだけで、諸々の言葉は必要なくなった。

 

 フェレットは高町家で大好評だったのだ。

 まるで動物園のマスコットが我が家にやってきたように。母に、姉に、父にもみくちゃにされ、あまつさえ兄にさえ可愛がられるようにつっつかれていたフェレット。おかげで、なのはの無断外出はちょっとしたお叱りだけで流れていってしまったのだ。

 

 嘘をつかなくて済んだ、と。なのはは重い荷物をさらっとおろすことができて一息ついた。

 だけど、代わりに犠牲になったフェレットの惨状に気が付いて。目を回すフェレットを、家族の手からどうにかこうにか引き離して。自室へと避難するに至ったのだ。疲れただろうから、枝造りの編みかごにクッションを敷いてあげて、その上におろしてあげたのだ。

 

 

 

 なのはは「大丈夫?」と、申し訳ない気持ちを込めて再度声をかけてみるけど。

 

「元気な、ご家族だね……」

 

 返ってきたのは相も変わらず、息も絶え絶えというような子供の声だった。

 

「ごめんね……。あんなに喜ぶなんて思わなくて」

「謝ることはないよ。痛くなかったし、文化の違いに驚いただけ。君の世界はスキンシップが過激なんだね」

「ちょ、ちょっと違うかも……。でも、ユーノさんにケガがなくてよかった」

「同い年ぐらいなんだから、もっと気楽に呼んでほしいな」

 

 フェレットと同い年か、と。なのはは不思議に思った。

 犬とか猫の10歳は、ニンゲンでいうと60歳ぐらいのおじいちゃん。なら、ニンゲンである自分の年齢9歳と、フェレットの年齢のいくつが等価になるのだろう。犬猫と同じように、それでいて単純に割り算で考えてみると1歳半ぐらい。それとも中学校で学ぶことになる二次方程式の考え方が必要なのかな、などと。

 

 まだ幼く見えるフェレットの表情を眺めていると、フェレットは思い出したというふうに「そうか、自己紹介だったね」と二本足で立ち上がった。

 

「改めまして。僕の名は、ユーノ・スクライア。先ほどは本当にありがとうございました」

 

 ぺこりと器用にお辞儀をしてくれたフェレットのユーノに。

 なのはも同じようにおじぎで応えた後で、胸に手を当てて見つめ返す。

 

「私、高町なのは」

 

 真っ直ぐに相手を見つめて、名前を教える。

 これが自分なりのやり方だから。

 

「みんなは『なのは』って呼んでくれるよ。よろしくね」

「よろしく、なのは。僕のことも同じように気楽に呼んでほしい」

「じゃあ、ユーノくんって呼ばせて。よろしくね」

 

 なのはが差し出した手に、ユーノがタッチをしてくれた。

 風変わりな握手に満足して。なのはがはベッドに腰を掛けると、ユーノが「そろそろ話をしなきゃね」と表情を引き締めた。

 

 語られたのは、御伽のようなお話だった。

 

 

 ユーノの家族であるスクライア一族は、魔法使いの国で古代遺跡を発掘することを生業とする部族。失われた文明の遺跡を探り、歴史と文化を読み取って記録することはもちろんだけど、彼らの仕事で一番重要なのは記録ではないそうだ。

 遺跡に眠る遺産。

 文化的な資料、歴史的な遺品、技術的な遺物。スクライアの一族最大の目的は、掘り出された遺産、オーバーテクノロジーの塊である≪失われた遺産(ロストロギア)≫を回収すること。

 

 未知の力を秘めた≪失われた遺産(ロストロギア)≫。

 それが≪ジュエルシード≫。

 21個の、魔法の宝石。

 

 ユーノは≪失われた遺産(ロストロギア)≫を安全に管理してくれる世界へ運ぶという、大事なお仕事をやっていたのだけれど。その最中に、原因不明の事故が起きてしまい……。なのはたちの住む地球に――なのはの住む海鳴市近辺に――散らばってしまったというお話だった。

 

 

 

「ジュエルシードは、手にした者の願いを叶える魔法の石なんだ」

「願いを、叶える……」

 

 なんて素敵な響きなんだろう、と。

 羨む気持ちがこみあげてきたなのはだったが、ボロボロに砕け散ったコンクリートの道路が頭をよぎって。不謹慎だと頭を振る。

 

「じゃあさっきの怪物も、誰かが願ったから、あんな怖いことになっちゃったの?」

「アレはまた違う。アレは、ジュエルシード本体が暴走した結果の怪物」

 

 なのはは「どういうこと?」と、ユーノを見つめ返す。

 

「ジュエルシードは願いを発する人や動物がいなければ、本来の力を発揮できない。だから発動したジュエルシードは、願いを発する命を求めて自ら行動する。そういうプログラムで動いている。だから、厳重に封印していたんだけど……」

「事故のせいで、封印が解けちゃったんだね」

「うん。今はまだ封印状態のジュエルシードがほとんどだけど、いつ、どこで封印が解けてしまうか。誰がジュエルシードを発動させてしまうかは誰にもわからない……」

 

 なのはの頭に怖い光景が蘇る。あれだけの破壊をもらす石が、あと20個――いや、もともとユーノが一つ持っていたから19個、なのはの住む街に存在しているという恐怖。

 時間も場所も、犠牲になる人もわからない災害。

 

「だから、僕の魔法の力が戻るまで、なのはの力を貸してほしいんだ」

 

 誰かが傷つかないためにも、と。

 重い顔つきで、真剣なまなざしで。

 そうだよね、と。なのはは空から降って湧いた怪物、魔法の力で封印した形も定まらないジュエルシードの暴走体を思い起こす。

 

「あんなふうに興奮した怪物が暴れたら、大変なことになっちゃうもんね」

「それなんだけど……。わからないことがあるんだ」

 

 ユーノは、記憶を掘り起こすように俯いていた。

 

「人間が精神力で魔法を扱うのに対して、ジュエルシードはただの機械、感情なんてものはない。プログラムの集合体でしかないはずなのに。あんなふうに、怒るように。衝動のままに襲い掛かってくるなんて……」

 

 ジュエルシードには、なにか別の恐ろしい秘密が隠されているのでないか、と。

 

「それは、たぶん違うんじゃないかな」

 

 しかし、なのははユーノのようには感じなかった。

 先の暴走体から感じたのは、単純な暴力の怖さ。そこに怒りの感情はなかったように思えて。あれは、ただ興奮していただけ。どうしたらいいかわからずに、疼きを止めるために体を無茶苦茶に動かしているような。そんなふうに感じて。

 

―――――――俺の!

 

 思い出せたのは、割り込んできた別の波長。

 なのはがユーノの不思議な声を感じ取った時に割り込んできた波長が、なのはたちが怪物に出会うよりも前に何かをしたのではないか、と思えて。

 

「あっ!?」

 

 思い出した。

 忘れていた、とても大事なことを。

 

「そういえばユーノくん! 『誰かが危機に遭ってる』って言ってなかったっけ!」

「……あっ」

「その人、大丈夫かな!? 探しに行かなきゃ!」

 

 なのはは走り回れる服装を手に取るが、ユーノは「いや」と首を横に振った。

 

「ジュエルシードは、生物を取り込むために動く。さっきのは、ジュエルシード単体の暴走体だから、その人は取り込まれなかった。大丈夫なはず、逃げおおせたはずだよ」

「ホントに?」

「うん。ちょっと、レイジングハートを貸して」

 

 なのはは言われるままに、机の上に赤いビー玉を置く。

 

 赤いビー玉のような宝石。

 それは≪レイジングハート≫と呼ばれる魔法の杖。ユーノが使う魔法、なのはが手に入れてしまった現実の魔法の力を使うための――怖い力を扱うための杖になる宝石。

 

 それでなにをするんだろう、まさかお家が壊れたりしないかな、と。なのはが注意深く観察していると、ユーノはレイジングハートに小さな前足をのせて祈るように首を垂れた。

 波打つ感覚が広がっていく。なのはは胸のあたりがブルブルと震えるような錯覚に鳥肌が立つが、ユーノが顔を上げるとその感覚は収まった。

 

「うん、そのヒトの波動は無事だよ」

「よかった~」

 

 なのははなんだか一気に体が重くなって、母が干してくれたベッドに倒れこむ。まだ日の暖かさが残っていた。そういえば、今日は朝からいろいろあったなぁ、と。そんな考えに思考と瞼が沈んでいく。

 

「今日は疲れたでしょ? 話はまた明日にしよう」

 

 ユーノが、カチリとテーブルランプを消してくれた。

 なのははその行為に甘えることにして布団をかぶると「ねぇ、ユーノくん」と、まどろみに包まれる前に言わなきゃいけない、と瞼を頑張って開いた。

 

「私、手伝うよ。ユーノくんの事」

「返事は、明日でも――」

「ううん、今日言う。私、ユーノくんの事情を知っちゃったし、ユーノくんがとっても真剣だってわかったから」

 

 なのはは、思ったことを正直に伝えたかった。

 

「ユーノくんのハート、本気だったから。魔法はこわいけど。私、できる限りのことをするよ」

 

 学校と塾の時間以外ならね、と。

 そうすることが、なのはの中での正しいことだったから。

 

「ありがとう、なのは。……必ず、お礼をするよ。僕にできる限りのお礼」

「ありがとう、ユーノくん」

 

 なのはは、もう何も考えることもなく目をつむった。

 なんだか、素敵な夢を見られる気がして。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 窓から朝日が差し込む室内で「つまり」と一息ついてから、レイはカウンター席に腰を下ろした。ドスンと、救急箱を置きながら。

 

「待ち望んだ観客に出会えて、ゲリラライブを始めたはいいが……。そいつが暴れたせいで足場が崩れて、崖下に落ちたから不満だと」

 

 隣で頬杖を突くバサラは「そんなところだ」と口を尖らせた。

 すごい客もいたもんだ、と。レイは消毒液を湿らせた綿で、バサラの傷を突っついた。

 

「……もうちっとなんとかならねぇか?」

「海に落ちなかっただけマシだと思え」

 

 苦い顔をするバサラの不幸中の幸いは、崖下から海に転落しなかった点。

 全身傷だらけの状態で塩水に浸かったなら、大の大人でも神経を病んでしまう。加えて傷口から入る雑菌も、目を覆いたくなるほどの惨状を引き起こしたことだろう。

 

「まったくだ」

 

 だというのに、バサラは壁にかかっているエレキギターに目をやっていた。

 折れもへこみもないメタリックボディが朝日を受けて燦々と輝く。崖から落ちたというのに弦が数本切れただけで済んだ――すでに修復済み――ことは、バサラにとってこの上ない幸運であっただろうことは、想像に難くない。

 

「頑丈で助かったぜ、レイ」

「お前は、自分の身体の心配をしろ」

 

 レイが消毒液をぐしゃぐしゃになるまで染みこませた綿を、バサラに突き付けたところで。

 

「全くだ」

 

 恭也は、閉ざしていた口を開かずにはいられなかった。バサラの隣に座って、これまでのやり取りを眺めていて再確認したから。

 

「変わらないな、バサラ」

 

 四年前から何も変わらない、と。

 治療を終えたバサラは「そうか」と立ち上がると、カウンター越しにコップを手に取り、身を乗り出して蛇口をひねった。

 

「久しぶりだな。相変わらず、ケンドーやってんのか?」

「スポーツじゃない、剣術だ。何度同じことを言わせる」

 

 そうだったか? と。バサラはコップを差し出してきた。

 

 恭也の目の前に置かれたコップには、水道水が注がれていた。

 これでも気を使っているのを知っているため、恭也はなんの抵抗もなくそれを口につけてから、バサラの前にケーキの入った箱を置く。パティシエの母、高町桃子が作ったケーキを。

 

「帰国祝いだ。マスターさんも一緒に食べてください」

「悪ぃな」

 

 バサラは受け取った箱をレイにそのまま手渡す。

 

「ありがとう、恭也君。桃子さんによろしく伝えてくれ」

 

 冷蔵庫に向かったレイを目で追うバサラ、恭也はその顔を覗き込んだ。

 

 何かを考えているようで何も考えていなそうな。

 子供のような大人の瞳。

 四年前と何も変わらない印象。

 

「なんだよ」

「お前、よく大学に入れたな。しかも俺と同じところ」

 

 恭也が通うのは県内きっての国立大学。もしもバサラが四年前と変わらない性格ならば、大学に進むこと、そのために勉強に励むことなど選択肢にすらあがらなかっただろうから。

 

「なんだそりゃ。聞いてねぇよ」

 

 バサラは、カステラを切り分けるレイににらみを利かせた。

 

「留学生だからってずっと中学生やってるわけにもいかんだろう。安心しろ、お前は音楽特待生ってことになってる」

 

 レイは皿にとったそれを持ってくると「昨日は悪かったね、わざわざ来てくれたのに」と手刀を切った。それはたぶん、バサラと入れ違いになった件に対する謝罪だが、それを素直に受け取るわけにはいかなかった。

 

「……うちの大学、音楽系じゃないですよ」

「部活の特待生とでも納得してくれ」

 

 んなわけあるかと恭也はため息を吐いたその口で、仕方なしにカステラをかじった。

 しかし、この場にいる誰よりも不満そうなのはバサラだった。

 

「冗談じゃねぇよ。俺は行かねぇぜ」

「……まぁ、仕方ないな」

「仕方ないで済まさないでくださいよ……――いや、なんでもないです」

 

 常識的に受け入れがたいやり取りだったが、恭也は食い下がっても気が安らぐことはないと考えて「ところで」と気分を切り替える。

 

「アメリカはどうだったんだ」

 

 アメリカという異国に四年間。

 長い時間を過ごしたというのに相変わらずのバサラが何をしてきたのか。興味があった。バサラの口から聞きたかったのだが。

 

「またそれかよ。……まあまあだよ、まあまあ」

 

 そこもまたいつも通りで、読み取れるのは不機嫌そうということだけ。

 

「ギャング同士の抗争を潰した男の話、聞いたことないか? ギターひとつで銃撃戦に飛び込んでいった男の話、ビックリニュースで取り上げられたやつ。あれお前だろ?」

「知らねぇよ。俺は歌いたいときに歌ってただけだ」

 

 たぶんそれだ、と。恭也はバサラの言葉に得心がいって「すごいじゃないか」褒めてみたが、バサラはさらに機嫌を損ねたようだった。

 

「なにが不満なんだ。そんなに大学イヤか?」

「ちげーよ」

 

 バサラはそれっきり、頬杖をついてしまった。

 

「……しょうがないな」

 

 こうなったバサラとはもう話し合いはできない。

 バサラは言葉で語ることを苦手とするきらいがあった。それがバサラとある程度の付き合いをもつ恭也が抱える印象。こればかりはどうしようもないことだとわかっていた。

 

「マスター。約束通り、使わせてもらいますよ」

 

 だから恭也は、店内奥のステージに鎮座する歪な塊に足を向けた。

 

 

 それは、くたびれたドラムセット。

 

 BAR≪シティ・セブン≫のドラムセットは、恭也にとって相棒も同然であった。座りなれたドラムスローンにギシギシと腰を落ち着ける。擦り切れつつあるスティックは手になじむ。

 体は自然とリズムを刻み始めていた。

 

 バサラは拗ねたまま、朝日を見つめていた。

 背中を向けていた。

 

―――――振り向かせてやる。

 

 恭也は、ひとつ大きく息を吸ってから。

 思うままに体を動かした。

 

 ドラミング。

 

 振るった腕が音を生み、生まれた音が身体の芯へ響き渡る。

 考えなくとも、体が刻むリズムの波。

 心を研ぎ、音を断ち、腕を振る剣術とは異なるカタルシス。

 衝動のままに振る舞える喜び。

 高町恭也という鼓動。

 

 一通りの気持ちを吐き出しきった頃、音は自然と止んでいた。

 

「お前、練習してたな」

 

 顔を上げると、そこにはバサラの嬉しそうな顔があった。

 恭也は、その真っ直ぐな目に「才能だよ」とそっぽを向きたくなった。

 

 もちろん、これは嘘。

 何度も練習した。ドラムを初めて叩いた日から。

 四年前。バサラがアメリカに出立する前日。恭也はバサラの秘密を知りたくて。少しばかりのお礼をしたくて。初めてドラムを叩いてみた。一緒に演奏してみた。させられた。

 その結果が、今日のこれ。面白かったから続いたドラム。

 

「おもしれぇ!」

 

 四年前と同じように、バサラはギターを手に取ってステージに上がってきた。

 するといつの間にか、肩から下げたショルダーキーボードを陽気に奏でて「年寄りを置いていかないでくれよ」と30代も中頃という程度のレイが参入してきた。思ってもいないことを口にして。

 

「俺のドラムを置き去りにしたのは、誰でしたっけ?」

 

 そうだったか、と。レイが口元に笑みを浮かべる。

 恭也は、レイの勧めでBAR≪シティ・セブン≫でドラムで練習されてもらっていた。その度に、レイのショルダーキーボード、その演奏技術に翻弄されたものだった……。

 今にして思えば、それは予行演習だったのかもしれない。

 

「ごちゃごちゃうるせぇ、いくぜ!」

 

 バサラのサウンドは、既にこの場を置き去りにしようとしていたから。

 

 そうして始まったのは。

 バサラのビートが走り抜けるのを、恭也のドラミングが追いかけて、崩れそうになったリズムをレイが取り直す四年ぶりのセッション。

 

 それぞれが思い思いの音を発する中。

 音が錯綜する中に、恭也は一本の芯を見つけたような気がした。

 ギターの音色に紛れたバサラのハート。

 

 燃えるようなリズムを刻みながらも、まるで煮え切らないビートの中に。恭也は、バサラの不満が分かったような気がした。

 

 

 

 たぶん。

 

 

 バサラは、単純に。

 歌い足りなかったのだと。

 聴かせたりなかったのだと。

 

 

 

 恭也は、嬉しくなった。

 

 六年前に見かけた変人が、何も変わっていないことが。

 五年前に知り合った同級生が、何も変わっていないことが。

 

 四年ぶりに再会した友人が、何も変わっていないことが、嬉しかった。

 

 

「今度、中学の奴らでも集めてやるか」

 

 

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