十三時間目 目指せ! 最下位脱出!
高校生達とのトラブルから数日。
特に事件はないが、一つだけ変化があった。
それは…
「間桐さん、おはよー!」
「………おはようございます…」
一部のクラスメイトの、桜に対する態度の変化だ。
図書館組ほど気安くはないが、気軽に挨拶や声かけをしてくる生徒が増えたのである。
「(おかしい……どうしてこんなことに?)」
内心、首を傾げる桜。
どう考えても原因は高校生達とのトラブルの際に、桜が活躍したことなのだが、本人は本当に大したことはしてないと思っている為、その考えに至らないのである。
「はぁ……」
ため息をつく桜。
現在は昼休みで、今日もずっと原因を考えてしまっていたのである。
そこへ、のどか達がやって来る。
「桜さん、行きましょう」
「……はい…」
桜は立ち上がり、のどか達と一緒に移動する。
いつものように時計塔に行って、花の手入れをしてから食事をするのだが、そこにも変化があった。
「それじゃ…いただきま~す!」
『いただきま~す!』
そう……ここに来る生徒も増えたのだ。
まき絵達運動部組や『柿崎美砂』、『釘宮円』、『椎名桜子』といったチアリーディング組、『長瀬楓』や双子の姉妹である『鳴滝風香』と『鳴滝史伽』のさんぽ部組、『
全員が毎日来るわけではないが、桜だけが来ていた頃に比べれば、随分な大所帯になっていた。
さよと出会ったときは当然ながら大騒ぎになったが、彼女の話を聞いたり会話をすることによって、今ではすっかり仲良くなっている。
「………」
みんながワイワイとはしゃぎながら食べる中、桜はいつも通り黙々と食べていた。
そんな彼女に声を掛ける存在がいた。
「大丈夫ですか、サクラ?」
「ライダー…」
当然、ライダーである。
「うん……少し疲れたかな…こんなことになるなんて、思ってなかったし…」
疲れ気味の桜。
元々桜は一人で静かな場所にいることが好きなのだ。
しかし、図書館組だけでなく一気に人が増えた為、このような状態になっているのであった。
「サクラ…」
ライダーが何か言おうとするが…
「間桐さん、食べてるーー!?」
「食べてますかーー!?」
「!!」
突然、ハイテンションでやって来た鳴滝姉妹。
それを見て、ライダーは若干引き気味になった。
「すみません、サクラ。少し失礼します」
桜に一声掛けて、ライダーは瞬時にその場から立ち去った。
鳴滝姉妹はポカ~ンとする。
これは初めてのことではなく、今まで何度かあった光景なのである。
理由としては、鳴滝姉妹がライダーにとって『大切で大好きなんだけど、ちょっと苦手なあの人達』に似ているのが原因なのだが、それを知らない桜以外の生徒達は首を傾げていた。
放課後になって帰宅し、桜は寮の廊下を歩いていた。
来週から期末テストがある為、今週は部活動は休止なのである。
当然、バイトも禁止だった。
「ん?」
前方にはA組の生徒が数人集まっていた。
何やら慌てている様子だった。
桜は物陰に隠れて、会話の内容を聞く。
どうやらネギが学園長から、『期末テストでA組を最下位から脱出させることが出来たら、正式な先生にする』ということを言われ、それを偶然聞いていた裕奈と桜子がみんなに伝えたところ、現在のような状況になったらしい。
A組は万年ビリで、特に明日菜、夕映、楓、古菲、まき絵の五人、通称『バカレンジャー』が足を引っ張ってしまっているのである。
因みに桜は『
それはさておき、生徒達は自分達のせいでネギが正式な先生になかったら大変だと騒いでいた。
『ほうほう……あの少年がそんなことに…』
『ライダー、喜んでる?』
『いえいえ、そんなことはないですよ?』
念話で会話する二人。
桜の言葉を否定しているが、ライダーは明らかに嬉しそうだった。
桜はライダーに一言言おうとするが、とんでもない会話が耳に入ってきた。
「ここはやはり……図書館島にあるという、伝説の魔法の本を手に入れるべきでしょうね」
「!!」
桜がバッと振り向く。
その提案をしたのは夕映だった。
伝説の魔法の本とは、図書館島の最深部に存在すると言われている『読めば誰でも頭が良くなる本』だ。
生徒達の間ではよく噂されていたが、本当かどうかは謎のままだった。
そもそも、いくらお祭り騒ぎが大好きな麻帆良学園の生徒とは言え、魔法の本という物を本気で信じている人はいなかった……つい最近までは。
「(魔法使いのネギや魔術師の間桐さんがいるってことは、その本もあるはず!)」
その考えに至った明日菜は宣言しようとする。
「行くわよ! 図書館島――」
「駄目ですよ」
『!!』
突如割り込んできた声に驚き、明日菜達は一斉に振り返る。
そこには隠れていた桜がいた。
「駄目って、何でよ!?」
怒鳴りながら言ってくる明日菜に、桜は呆れながら答えた。
「中学生だけで入って良いのは、地下三階までです。綾瀬さん達は知ってるはずですが」
『うっ』
のどか達四人は正論を言われて、何も言えなくなる。
それでも納得できない明日菜は更に口を開く。
「だ…だったら、先生から許可をもらえば――」
「もらえるわけがないでしょう。図書館島は危険が多いですし、そもそも理由が駄目過ぎますよ。『魔法の本がほしいので奥まで行かせてください』なんて、そんなオカルトな理由で」
『(え~~~~~…)』
桜の言葉を聞いて、明日菜、のどか、夕映、ハルナの四人は衝撃を受けていた。
タカミチから説明を受けて、『魔法は一般人から隠すもの』というのは理解していたが、魔術師本人である桜が誤魔化す為とはいえ、そのような言葉が出てきたことに驚いたのである。
しかし、衝撃を受けたのは当然ながら四人だけで、他の生徒達はそれを聞いて納得していた。
「う~ん……やっぱり駄目だよね~…」
「でも、それだとネギくんが…」
再び焦り出す生徒達。
「素直に勉強するのが一番ですよ」
そう言って、桜は部屋に向かった。
桜が部屋に戻ると、ネギが机で作業をしていた。
「何をしているんですか?」
「あ、桜さん! 実は、明日からの授業のカリキュラムを組んでいるんです」
桜の質問に、ネギはやる気満々に答える。
「そうですか……ん?」
しっかりと準備をしているネギに感心していると、妙な気配を感じ、桜は後ろを見る。
「………」
そこには、いつの間にか実体化したライダーが、無表情でネギを見ていた。
そんなライダーを見てネギは何も気づかないが、桜はピーンときて念話で話しかけた。
『ライダー……まさかとは思うけど、先生の邪魔をしようとかなんて考えてないわよね?』
『! そ、そんなこと…ないですよ?』
『………』
慌てて誤魔化すライダーであったが、態度で丸わかりである。
桜はため息を吐きながら、勉強道具を手に取った。
「何処かに行くんですか?」
「広間で勉強してきます。流石に、ここでやったら先生の邪魔になりそうですし」
そう言って、桜は部屋を出て行った……しっかり、ライダーを連れて。
「で……どういう状況ですか、これは?」
『………』
広間にやってきた桜であったが、既に先客がいた。
先ほど、廊下で話をしていたメンバーだった。
全員が机に突っ伏して、どんよりと暗い空気になっている。
「うう……桜ぁ…」
「はい? ……って、うわわっ!」
桜が珍しく驚きの声を上げるが、それも仕方のないことだった。
明日菜を除いたメンバーがあの有名な『テレビから出てくるお化け』のように、一斉に近付いてきたのだから。
引き気味になりながらも、桜は質問した。
「な……何でしょうか?」
『助けてくださいっ!!』
「はい………?」
簡単に説明すると、こうだ。
桜に言われた通り、明日菜達は地道に勉強をすることになった。
学年一位の超や三位の『葉加瀬聡美』に頼もうと思っていたのだが、二人は研究の為大学の研究室に籠もりきりだったのだ。
というわけで五位のあやかに頼み、勉強会が始まったのだが、そこで問題が起こった。
あやかは教えるのが上手なのだが、あまりに非道い間違いをすると勉強そっちのけでお説教タイムが始まってしまうのである。
当然ながら特に非道かったのは明日菜達バカレンジャーの面々で、最初は我慢が出来ていた明日菜も遂に堪忍袋の緒が切れてしまい、久しぶりのケンカが始まってしまったらしい。
その結果、ハルナ達は二人を止めるのに体力を使い果たしてしまい、怒ったあやかは自室へ戻っていった……ということだ。
「それで、今度は私に教えてほしいと?」
「お願いだよ、桜~…!」
「もう、桜さんしか頼りになる人がいないんです…」
「………」
涙目になりながらハルナ達は頼み込むが、桜はそろそろ以前のように周りとの関わりを少なくしようと考えている為、頼みを受けようとはしなかった。
適当に理由を付けて断ろうとするが、あることに気がついてそこに視線を向ける。
『?』
ハルナ達は桜と同じ方向に視線を向けた。
そこには…
「………」
一人だけ気持ちよさそうに眠っている
『ちょっとーーーーーっ!!』
「うええっ!? 何々!?」
全員が思いっきり突っ込み、その声で目が覚める明日菜。
その周りを、のどかや木乃香以外のメンバーが怒った様子で取り囲んでいた。
「ど、どうしたのよ?」
「どうしたじゃないでしょーが! アンタ、状況分かってんの!?」
「グースカ寝てる場合ですかっ!」
全員揃って、明日菜を責め立てる。
「うぅ~……ごめんってば~…」
「ごめんで済むか! …って、桜~!」
「ちっ…」
みんなが明日菜に気を取られている内に、桜は広間から撤退しようとするが、ハルナに見つかって失敗に終わる。
「今、舌打ちしたでござる!」
「それより、何で逃げようとしてるアルか!?」
楓と古菲がいろいろと言うが、桜は先ほど思いついた言い訳を口にする。
「いえ、皆さんに態々勉強を教えなくてはいけない理由はないですし。そもそも、こういう危機的状況で寝るという、やる気のない人に教えようという気持ちにはなりませんから」
そう言って、桜は今度こそ広間を出ようとする。
『ア~ス~ナ~…!』
断られた大半の原因である明日菜を睨むハルナ達。
しかし、明日菜は慌てた様子もなく、ある言葉を口にした。
「しょーがないわね。こうなったら、図書館島に行って魔法の本を――」
「勉強会、やりましょう」
全てを言い切る前に、桜は広間に戻ってみんなに言った。
『え?』
その素早さにハルナ達は驚きのあまり呆然とする。
「……何ですか? やるんですか? やらないんですか?」
「あ……やるやる!」
「お願いします!」
桜の問いに返事をしながら、ハルナ達は明日菜の方を見る。
全員から視線を向けられた明日菜は…
「計算通りよ! …痛っ!」
ドヤ顔をしながらセリフを言うが、みんなから一発ずつ叩かれていた。
勉強会が始まり、数時間経った。
途中、休憩や食事の時間を挟みながら進めていき、特に問題が起こらずにやっていた。
「………それでは、今日はここまでにしましょう」
「え? もうですか?」
「まだ十時だけど…」
驚きの声が上がる中、桜は理由を話す。
「夜遅くまでやるよりも、朝早く起きて勉強をした方が身につきやすいんです。と言うわけで、明日からはいつもより早く起きてもらいます」
『うっ!』
一部のメンバーから不満そうな声が上がるが…
「い・い・で・す・ね・?」
『………はい…』
桜の圧力に屈し、渋々了承した。
本日はその場で解散となり、桜も部屋へ戻り始めた。
周りに人がいなくなったところで、ライダーが実体化する。
「サクラ……あの女の言うことなど、無視すれば良かったのではないですか?」
「そうしたかったけどね………多分、神楽坂さんは行くって決めたら絶対に行くだろうし、そうなったら面倒なことになるだろうから、そうなるくらいだったら素直に勉強会した方がましよ」
「………」
「……間違っても、手をし出したりしないでね?」
「………………はい…」
そんな会話をしながら、二人は部屋へと戻った
勉強会を始めてから、四日目。
あの日以来、桜たちは朝、昼休み、放課後に勉強をし、ネギの授業の効果もあって、少しずつではあるが学力が上がってきていた。
「あ~~……もう無理…」
「頭の使いすぎで、疲れたアル~…」
「です~…」
「ござる~…」
机に突っ伏す明日菜、古菲、夕映、楓の四人。
大抵、バカレンジャーのメンバーが最初にこうしてダウンしているのだ。
「……仕方ありませんね。一旦、休憩にしましょう」
『は~い!』
桜の言葉を聞き、全員が勉強を止める。
「「ふ~~……」」
のどかと木乃香も少し疲れ気味だった。
桜の他にも、この二人がみんなに教える側に立っていた。
最初は三人で全体に教えていたのだが、バカレンジャーがあまりにも非道かった為、桜が五人を付きっきりで見て、のどかと木乃香が残りのメンバーに教えることになっていた。余裕があるときは、桜は他のメンバーの様子も見ている。
それはさておき、休憩と言うことでそれぞれが会話をしたりお菓子を食べたりしているが、一人だけそれらに当てはまらないことをしている生徒がいた。
「? 佐々木さん、休憩ですよ?」
「えっ!? もう休憩!?」
まき絵だった。
相当集中していたようで、桜の言葉が聞こえてなかったようだ。
桜はまき絵が書いていた問題集の内容を確認する。
「ふむ……佐々木さん、大分出来るようになってますね」
「ほ、本当!?」
「はい」
当然ながら間違いはいくつかあるが、それでも最初の頃に比べればすごく勉強が出来るようになっていた。
これが維持出来るのであれば、もうまき絵をバカピンクとは呼べなくなるだろう。
「うん……しかし、休むことも大切ですから、一旦止めて休憩を――」
「さ、桜?」
「何ですか?」
ハルナに呼ばれてそちらを向くと、ハルナだけでなく全員が驚きの表情をしていた。
意味が分からず首を傾げる桜であったが、ハルナ達が指を指してる方向に視線を向ける。
「え~っと…」
「………」
なんと、桜はまき絵の頭を撫でていた。
まき絵は顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
「………………」
桜はゆっくりと手を離し、どこからか取り出したタオルで、まき絵の頭を拭き始めた。
「え……ちょっ、あの…」
混乱するまき絵だったが、桜は無言で作業を続ける。
少ししてタオルをしまい、その場にいる全員に向けて一言。
「皆さんは、何も、見てません。良いですね?」
『はいっ!』
全員が返事をしたのを確認し、桜は広間から出て行った。
「あ~~……びっくりした」
「桜さん、完全に無意識だったようですね」
桜がいなくなると、それぞれ会話を始める。
まき絵は髪の毛が少しグシャグシャになっていたが、本人は気にせずにニコニコ笑っている。
「まき絵、嬉しそうやな」
「うん。誉められると、やっぱり嬉しいよ………ん?」
まき絵が亜子と話していると、視線を感じてそちらを向く。
『………』
図書館組の四人が羨ましそうに、まき絵を見ていた。
更に…
「(私だって、サクラから頭を撫でてもらったことなんてないのに……!!)」
柱の影からライダーもこちらを見ている。
ライダーに至っては、もの凄い嫉妬のオーラを出していた。
「え~~……っと…」
どう対応すれば良いのか分からず、まき絵は休憩時間中はずっと五人からの視線を受け続けた。
その後、桜が戻ってきて勉強を再開した。
その間、図書館組は桜に無言のアピールをしていたが、桜は全く相手にしなかった。
こうして勉強会を繰り返し、試験当日も終えて、遂に結果発表の日になった。
「う~~…緊張する~…!」
「大丈夫かな…」
当然ながら、一部の生徒は緊張でガチガチになっていた。
しばらくして報道部の生徒が壇上に上がり、順位の発表となった。
『え~、それでは発表します! 女子中等部二年の第一位は……二年A組です!』
『え………えーーーーーーーーっ!!??』
結果を聞き、A組の生徒だけでなく、他のクラスの生徒達も驚きの声をあげた。
万年最下位であるA組がいきなり学園一位になったのだから、当然の反応といえるだろう。
「さ、さ、桜さん! A組が一位ですよ!」
みんなと一緒にいたネギが興奮気味に言う。
「そうですね」
しかし、桜はいつも通り淡々としていた。
「桜ったら、テンション低~い!」
「もっと喜ぼうよ~!」
ブーブーと文句が出てくるが、桜は気にせずに口を開いた。
「この一週間、先生も皆さんもあれだけ頑張ったんですから、この結果は当然のことです。一々大騒ぎすることでもないでしょう」
『………』
予想外の発言に固まるネギ達。
桜からしてみれば当然のことを言っただけだったが、みんなからしてみれば再び桜のデレが見られて少し喜んでいた。
「……まぁ、とにかく! せっかく一位になったんだから、みんなでお祝いしよっか!」
「賛成! 間桐さんも……って、いない!」
まき絵がパーティーに誘おうとしたが、既に桜はいなくなっていた。
「………」
寮へと向かう途中、桜はあることを思い出していた。
――うん、ここも合ってる! 大分出来るようになったな!
大切な人から勉強を教えてもらっていた時の記憶。
その時に自分も頭を撫でてもらい、それが影響して勉強会の時に思わずまき絵のことを撫でてしまったのだ。
「………」
桜は思い出を振り払うように頭をブンブンと振り、歩き続けた。