三月某日、今日は終了式の日だった。
ネギ達は今日も元気に校舎までの道を走っている。
「先生、おはよー!」
「おはよう、ネギくんっ!」
「おはようございます!」
ネギは近くの生徒達に挨拶をしながら進んでいる。
そうしていると、前方にもう一人の生徒がいることに気がついた。
「長谷川さん、おはようございまーす!」
「………どうも…」
声を掛けられた生徒……千雨は無愛想に返事をするが、ネギは気にせずにそのまま校舎へ走っていった。
「……何でアイツらは遅刻でもないのに、態々走ってんだ?」
「全くです」
「うわっ!」
独り言のつもりだったのに返事がきて、驚く千雨。
振り返るとそこには桜がいた。
「な、何だ…間桐か。脅かすなよ」
「すみません」
素直に謝る桜。
その後、桜は千雨をジ~ッっと見詰めた。
「? 何だよ?」
「いえ……長谷川さんは普通で良いなと思いまして……すみません、変なことを言って」
そう言って、桜も千雨を追い越して校舎へ進んでいった。
「………何だったんだ?」
呆然と呟く千雨。
長谷川千雨……A組の生徒の中でも数少ない静かで目立たない生徒の内の一人。
普通をこよなく愛し、変人の集まりであるA組の生徒達との関わろうとしないが、そんな彼女にも秘密があるのであった……。
「(あ~~~~~~~!!)」
千雨は教室で頭を抱えていた。
その原因は、先ほど行われた終了式での発表にある。
ネギが正式な教師になり、春休み明けからは三年A組の担任になると決まったのだ。
麻帆良学園は基本的にクラス替えをしない為、千雨は今後もネギの生徒であることになったのだが…
「(前から思ってたけど、十歳のガキが先生とか可笑しいだろーがっ! 何で誰も突っ込まねぇんだよ!)」
このように、あまりにも非現実的な状況に頭を痛めていたのである。
そんな千雨を余所に、ネギや生徒達は盛り上がって放課後のパーティーの話し合いをしている。
「(あ~~……もう駄目だ…)」
我慢の限界を超えた千雨は立ち上がる。
「ど、どうしたんですか、長谷川さん?」
「気分が悪いので、早退します」
千雨はネギの質問にすぐに答えて、荷物をまとめて教室を出て行った。
「あ……」
「長谷川さんはいつもあんな感じですから、気にしなくても良いですよ」
ネギは心配そうな表情をするが、すぐに夕映がフォローに入る。
他の生徒達も口を開いた。
「そーそー!」
「ひょっとしたら、長谷川さんも間桐さんみたいに照れ屋さんかもしれないよね」
自由にいろんなことを言う生徒達。
当然、話題に出された桜は黙っていなかった。
「私は照れ屋じゃありません」
『またまた~♪』
いつものようにハルナ達がからかおうとするが…
「あ・り・ま・せ・ん・か・ら」
『……はい…』
もの凄い圧力を放ってきた為、ハルナ達は流石にからかい過ぎたと反省し、それ以上話すのを止めた。
放課後になり、桜はのどかやライダーと一緒に寮の廊下を歩いていた。
「桜さん。どうしてもパーティーには参加しないんですか?」
「しません」
桜はパーティーに参加する気が、一切無かった。
ここ最近、生徒達と深く関わりすぎた為、いい加減以前のようにしようと考えているからだ。
当然、のどかは納得できず説得をしているが、効果は無かった。
本当ならネギと夕映、ハルナも説得しようとしていたが、パーティーの準備の為にここにはいない。
「でも……」
「無理に参加させるのもどうかと思いますよ」
「うぅ…」
更に何か言おうとしたのどかだったが、ライダーの言葉を聞いて口を閉ざす。
そんな時、桜たちがある部屋の前を通り過ぎようとすると…
『ちうたんだぴょーーーーん♪』
等という声が聞こえてきた。
「「「………」」」
あまりの衝撃に、三人は思わず立ち止まる。
桜とのどかにとってはもの凄く聞き覚えのある声だったが、テンションが二人の知っているものからかけ離れていたのだ。
「……不審者でも入りこんだのでしょうか?」
「いえ…あの声は明らかに――」
「不審者ですよ、ええ」
現実を受け入れていない桜は、のどかの言葉を遮る。
部屋に近付くと扉が少し開いていた為、桜はこっそりと中を覗いた。
「ど……どうですか?」
「………」
「サクラ?」
反応がない桜に不思議がる二人。
二人は顔を見合わせて頷くと、桜と同じように中を覗いた。
そこには…
「よしよし! 今月のネットアイドルランキングも、ぶっちぎりの一位!」
バニガールの服を着てパソコンを操作しながら、狂喜乱舞している千雨の姿があった。
「ふっふっふっ! このまま私はNET界の女王に………はっ!!」
クルクル回りながら喜んでいた千雨だったが、その拍子に自分のことを見ていた三人に気がつく。
『………………』
しばらく無言で見つめ合っていた四人だったが、桜とのどか、ライダーはゆっくりと扉を閉めた。
「ちょっと待てーーーーーーーっ!!」
寮内に千雨の叫び声が響き渡った。
現在、千雨に捕まった三人は、彼女の部屋で正座をしている。
「見たのか?」
「見てません」
「見ただろ?」
「見てません。
「見てんじゃねぇか!!」
「ひええええっ!」
のどかの胸ぐらを掴んで怒り出す千雨。
そんな彼女を見て、ライダーが呆れながら口を開く。
「少しは落ち着いたらどうですか、チウタン」
「その名前で呼ぶんじゃねぇーーーーーっ!!」
のどかから手を離し、今度はライダーに怒鳴る。
そんな千雨に桜がボソリと呟く。
「残念です……長谷川さんに、そんな趣味があったなんて…」
「残念がってんじゃねぇよ! 部屋でする分には個人の自由だろ!」
「………………」
「残念な人を見るような目で、私を見んなっ!」
何度も怒鳴る千雨。
少しして静かになり、千雨は三人に背を向けて考え込む。
「(ぐあああああっ! どうするっ!? どうにかして口封じをしないと、私の秘密が全校生徒に!)」
今まで積み上げてきた『目立たない地味な生徒』の立ち位置を失ってしまいそうな事態に、千雨は慌てる。
そんな彼女に、ライダーが声を掛けた。
「チウタン――」
「だからやめろって!」
「………チサメ。誰にも話さない代わりに、条件があります」
「「条件?」」
「ライダー?」
千雨とのどかが疑問の声をあげ、桜も不思議そうにライダーを見る。
まさか彼女がそんなことを言うとは、全く予想していなかったのだ。
「衣装を何着かと、カメラを貸して欲しいのです」
「………何で?」
これまた予想外の発言に、千雨だけでなく桜やのどかも首を傾げる。
しかし、続けて出てきた言葉に、桜は驚くことになった。
「いえ……サクラに着てもらって、撮影をしようかと」
「は!?」
ライダーの発言に、桜は大声を出して驚いた。
そんな彼女を見て千雨とのどかも驚いているが、桜はそんな二人を気にする余裕もなく、ライダーに詰め寄った。
「ちょっと、ライダー! 何考えてるのよっ!?」
「サクラ……テスト期間中、私は邪魔をせずに静かにしていました。他にも少しとは言え協力したのですから、報酬があっても良いんじゃないですか?」
因みにライダーの言う協力とは、桜にお願いされてみんなに飲み物を配ったことだったりする。
「だからって………うっ!」
「サクラ……」
断ろうとする桜だったが、ライダーの潤んだ瞳を向けられて躊躇する。
演技だとは分かっているが、ライダーに協力してもらったのも事実なのだ。
しばらくの間考えて、桜は答えを出した。
「………今回だけだからね…」
「!」
その回答に、ライダーは喜ぶ。
そんな二人を見て、千雨は準備をした。
「(まぁ、それくらいで秘密にしてもらえるなら、安いもんだしな) おい、宮崎。お前も着ろ」
「ええっ!? ど、どうしてですか!? 私は別に、誰かに話したりなんて――」
「いいから着るっ!」
「は、はいぃぃぃっ」
こうして、のどかも一緒にコスプレをすることになった。
「うぅ……恥ずかしいです…」
のどかは顔を赤く染め、涙目になって俯いていた。
彼女が現在着ているのは、バニーガールの服である。
千雨はのどかのことを写真で撮影し、ライダーは桜が着替え終わるのを静かに待っていた。少しして、部屋の隅で着替えていた桜が声を出したのだが…
「すみません。やっぱりこの話は無かったことに…」
「サクラ?」
「何かあったのかよ?」
そんな声が聞こえてきて、ライダーは首を傾げる。
千雨は何かあったのかと気になり、桜がいるところまで行った。
「あ、長谷川さん! ちょっと待って――」
のどかが止めようとするが、少し遅かった。
「あ……」
「………」
千雨は見た。
桜の傷だらけの身体を。
この事態にのどかは慌て、桜は「しまった!」という表情になった。
ライダーは千雨を気絶させる為に動こうとするが…
「ったく。そういう理由があるなら、ちゃんと話せよな。肌をそんなに出さない衣装だってあるんだし」
「「「え?」」」
千雨の態度は変わらず、それに三人は驚いた。
「? 何だよ?」
「あの……気持ち悪くないんですか?」
桜の質問に、千雨は呆れたように答える。
「別に驚きはしたけど……気持ち悪いだなんて思ったりしねぇよ。他の奴らだってそうだ。A組は変人だらけだけど、そういうことで何か言ったりはしねぇだろ。クラス内でだったら、もっと堂々とすれば良いんだよ」
そう言う千雨に、のどかとライダーは…
「長谷川さんが、桜さんを励ましてます……!」
「意外ですね。とても先ほどクルクル回っていた人とは思えません」
等と言っていた。
「そこ、うるせぇっ!!」
「……ありがとう…ございます…」
「別に礼を言われるようなことはしてねえよ。それで、別の衣装だけど」
千雨は桜の為に別の衣装を出そうとするが、そんな彼女に桜は申し訳なさそうに声を掛ける。
「すみません。やめようと言ったのは傷だけの問題じゃなくて……」
「じゃあ、何だよ?」
「衣装がきつくて……特に胸の部分が…」
「………」
その言葉を聞くと、千雨の動きが止まった。
「あの……長谷川さん? ……って、きゃあっ!?」
次の瞬間、千雨は桜の胸を揉みしだいていた。
「うがああああああっ!! 何だ!? 嫌みか、嫌みなのか!?」
「ちょっ! 長谷川さん、やめ……んんっ!」
「大体、今まではクラス内でも小さい側にいたくせに、何で急にでかくなってんだよおおっ!! くそっ、爆ぜろ! 爆ぜろおおおおっ!」
そう……最近になって、桜の胸は大きくなっていたのだ。
元々素質があったのに加え、ネギが着たことで栄養バランスの良い食事を始めた為、大きくなったのである。
そんな桜に嫉妬し、暴走する千雨。
「あわわ! と、止めないと~!」
のどかは慌てながらそう言うが、ライダーは…
「ええい! 私と代わりなさいっ! 羨ましいっ!」
「何言ってるんですか!?」
欲望の声がだだ漏れだった。
とりあえず、のどかは何故か部屋にあったハリセンを手にし、千雨の頭を叩いた。
「はぐっ!」
その衝撃で桜から離れる千雨。
ライダーは桜に近付いて声を掛けた。
「サクラ! 大丈夫ですか!?」
「う、うん……大丈夫…」
「………」
顔を赤く染め、瞳を潤ませる桜を見て、ライダーの我慢が限界を超えた。
「サクラ……」
「……ライダー…?」
身の危険を感じた桜はライダーから離れようとするが、ライダーは更に距離を詰める。
「大丈夫です、サクラ………優しくしますから――」
「ストップです!!」
「おぐっ!」
再びハリセンを持ったのどかが、今度はライダーの頭を思いっきり叩いた。
「……ありがとうございます…宮崎さん…」
「いえ…気にしないでください」
その後、ダメージから復活したライダーと千雨は桜に謝り、撮影会が再開された。
桜とのどかは二人の指示で、いろんな服を着せられていた。
「あの…もうそろそろ…」
メイド服姿ののどかがそう言う。
桜も黙ってはいるが、顔を真っ赤にしてそろそろ限界のようだ。
生まれ変わる前でもこのような格好をしたことがないのだから、当然であろうが。
「確かに……もう他の服はないし…」
「この辺りにしておきますかね」
そう言って、ライダーはあと一枚だけ写真を撮ろうとするが…
「すみませーん。長谷川さんいますかー?」
ライダーにとっての
ネギは返事の確認をせずに、部屋に入ってくる。
そして、メイド服を着た桜とのどかを見て…
「わあ! お二人とも、すごく可愛いで――」
「死ィッ!」
二人を誉めようとしたネギに、ライダーが蹴りを入れた。
「あべしっ!」
「「「せ、先生ーーーーーーっ!!」」」
衝撃の展開に驚く三人。
そんな彼女たちに、ライダーはすぐに指示を出す。
「サクラとついでにノドカは早く着替えて! チサメは彼の介抱を! 早くっ!」
「「「は、はい!」」」
ライダーの勢いに押されて、桜たちはそれぞれ行動した。
「ううん……あれ?」
数分経って、ネギは目を覚ました。
「ネギ先生、大丈夫ですか?」
「宮崎さん……僕はいったい…?」
「えっと…」
ネギに状況を聞かれて、どう答えるか迷うのどか。
そんな彼女に代わり、千雨が答えた。
「先生は部屋に来た時に転んで気絶したんですよ」
「そ、そうなんですか?」
「は、はい……そうなんです…」
のどかは焦りながら千雨に同意する。
そして、ネギはあることに気がついた。
「ライダーさん、どうしたんですか?」
「………」
質問にライダーは答えない。
今、ライダーの頭には大きなコブが出来ていたのだ。
当然、その理由はネギを蹴っ飛ばしたからである。
ライダーのお陰で桜とのどかはメイド服姿を、千雨は自分の趣味をネギの記憶から消却することは出来たが、それはそれ。
ネギが気絶している間に、桜の拳骨を喰くらったのである。
「何でもないので気にしないでください」
「でも…」
「気にしないでください……ね?」
「はい……」
桜の言葉に頷き、ネギはこれ以上ライダーのコブについては触れなかった。
そして、本来の目的を思い出して口を開いた。
「あの、パーティーの準備が出来たので、皆さんもどうかと思いまして…」
その言葉に、桜たちは顔を見合わせて…
「まぁ…偶には参加しますかね」
「(ライダーが迷惑をかけてしまいましたし…) 行きます」
そう言って、桜と千雨は立ち上がる。
あっさりと承諾した二人に驚いたネギだったが、参加してくれるということで気にせず、のどかはそんな二人を見て喜んでいた。
ライダーは桜が行くということで、お供をすることにした。
その後、捻くれたことを言いながらも、千雨はパーティーを楽しんでいた。
桜もほんの少しだけ楽しんでいる様子だった。