「………」
未だに桜は部屋の中で座り込んでいた。
涙はもう止まり、これからのことを考えている。
「(このままじゃダメ……あの人達と関わらないように、部活に行くのもやめないと…)」
そう考えていると…
「間桐さん。少しよろしいですか?」
「?」
部屋の外から声が聞こえてきた。
声の主は委員長であるあやかだ。
「………」
桜はドアを開けようとして、止める。
声をかけてきたのはあやか一人だが、ドアの向こうからは複数人の気配がした。
嫌な予感がした桜はドアを開けずに口を開いた。
「……何か用ですか?」
「むっ! 間桐さん、ドアを開けてくださいな!」
案の定、ドアを開けないことを怒るあやかだったが、桜は気にせずに話し続ける。
「早く用件を言ってください」
「~~~っ! ……まぁ、良いでしょう……私の…いえ、私たちの用件は…!」
あやかは少し溜めた後、用件を言う。
「ネギ先生との同居についてですわっ!!」
「………………は?」
予想外の用件を聞き、桜は呆然とした。
時間は少し戻り、場所は二年A組の教室。
そこでは予定通り、ネギの歓迎会が行われていた。
美味しい料理を食べたり、生徒達と会話をしたりして、ネギは楽しんでいた。
この状況から何故先ほどのような展開になったのかと言うと、あやかのとある質問が発端だった。
「そう言えば、ネギ先生は本日はどちらにお泊まりする予定なんですの?」
この質問だ。
ネギの返答次第で、あやかは自分が暮らしている部屋に誘おうとしていたのである。
しかし、その目論見はネギの答えで木っ端微塵にされた。
「あ…暫くの間は間桐さんのお部屋でお世話になることになってます」
『………え?』
あやかだけでなく、生徒ほぼ全員が驚く。
『ええええええーーーーーっ!!?』
「あわわっ!」
生徒達の驚きの声を聞いて、ネギもつられて驚いた。
あやかを筆頭に、生徒達はネギの周りに集まる。
「い、一体どういうことなんですの!?」
「間桐さんの部屋に止まるなんて!」
「ネギくん、何か弱みでも握られてるの!?」
等と聞いてくる生徒達。
殆どが桜のことを悪く言うような言い方だった為、ネギや集まりの外にいた図書館組の四人の眉間に皺が寄っていた。
しかし、ネギは少し落ち着いた後、経緯を説明した。
「朝に学園長から紹介して貰って、僕からもお願いしたんです。間桐さんは何もしてませんよ」
その説明を聞き、あやかは木乃香に確認を取る。
「本当ですの、このかさんっ!?」
「うん、そーやで。ウチとアスナと桜でネギくんを学園長室に案内した時に、じいちゃんが推薦したんや」
「学園長先生が…!」
真実を知り、呆然とするあやか。
他の生徒達も同じ反応だった。
「まー、そう言うわけだから、諦めなさい」
あやかの肩にポンと手を置き、そう言う明日菜。
しかし…
「………認めません…」
「え?」
「認めませんわーーーーーーっ!!」
「んぎゃあっ!」
突然、あやかは大声でそう言った。
近距離でそれを聞いた明日菜はひっくり返る。
「そんなの、認められませんわ! 行きますわよ、皆さんっ!」
『おーーーーーーっ!!』
あやか達は大急ぎで教室から出て行った。
こうして、現在に至る。
「と言うわけで、間桐さん! ネギ先生との同居をかけて、私たちと勝負してくださいな!」
「………」
勝負を仕掛けてくるあやか達に対して、桜は呆れる。
まさかそんなことで部屋の前までやって来るとは。
「(いや……そうでもないかも…)」
桜はすぐに納得した。
まだ初日ではあるがネギは殆どの生徒達から好意的な感情を向けられている。
そんなネギが嫌われ者で性格が悪い自分と住むとなれば、反対する人が出てくるのは必然だったのだろう。
「(さて……どうするか……)」
桜はこの状況をどうするかを考える。
すると…
「み、皆さーーーん! 落ち着いてくださーーーい!」
ネギがやって来た。
後ろからは明日菜、木乃香、のどか、夕映、ハルナの五人もいる。
それを感じ取った桜は、あることを思いつく。
「ね、ネギ先生! どうしてここに!?」
「アンタ達がすごい勢いで出て行ったから、心配で追ってきたのよ!」
「ほらほら! 桜に迷惑だから騒ぐのやめなさい!」
ネギの代わりに明日菜が疑問に答え、ハルナはみんなを落ち着かせようとする。
しかし、騒ぎはおさまらなかった。
「だって、ネギくんと一緒の部屋なんてずるいよ~!」
「そーだそーだ! それに間桐さんと一緒なんて、ネギくんが可哀想だよ!」
『佐々木まき絵』と『明石裕奈』がそう言い、他の生徒達も同意するように頷く。
それに反論するようにハルナ達も、口を開こうとするが…
「分かりました」
『え?』
今まで黙っていた桜が、突然そう言った。
みんなは呆然としていたが、桜は気にせずに話を続けた。
「つまり雪広さん達は、私がネギ先生の同居相手じゃなければ良いんですね?」
「え? ま、まぁ…そうですが…」
話を振られたあやかは、慌てながらも肯定する。
確認を取った桜は、明日菜と木乃香に向けて声をかけた。
「それじゃ、神楽坂さんと近衛さん。後はよろしくお願いしますね」
「はあっ!?」
突然話を振られて驚く明日菜。
木乃香も声を出してはいないが、同じように驚いていた。
「ちょっ、何言って――」
「お待ちなさい、間桐さんっ! 何故そこでアスナさん達なのですか!?」
明日菜を遮ってあやかが文句を言うが、桜は淡々と理由を述べる。
「何故も何も、本来なら学園長はその二人に先生との同居を頼む予定だったんですよ。だったらこれは当然のことだと思いますけど」
「むぐぐ……し、しかしですね…」
まだ何か言おうとするあやかに、桜はたたみかける。
「それに、先ほど私は確認しましたよね? 『私が先生の同居相手でなければ良い』と。それに対して雪広さんはOKを出しましたよね?」
「それは……そうですわね…」
「だったらこの話はこれで終わりです。さっさと解散して――」
「ちょっと待ったーーーーーっ!!」
桜の説明によって終わりになりそうな雰囲気だったが、納得の出来ない者が一人。
当然ながら、それは明日菜だった。
明日菜は扉の前にいたあやかを押しやって、自分が扉の前に立つ。
「痛っ! ちょっとアスナさん! いきなり何を――」
「うるさい。黙ってなさい」
「あ、はい…」
突き飛ばされたあやかは文句を言おうとするが、明日菜に気圧されて黙る。
一部の生徒は普段とは一味違った雰囲気の明日菜を見て、ガクガクと震えていた。
「ちょっと間桐さん! 何勝手に決めてんのよっ!」
「………先ほどの話を聞いていなかったんですか?」
「聞いてたわよ!」
「だったら良いじゃないですか…」
呆れた様子で桜は言うが、明日菜は変わらずに怒鳴り続ける。
「良いわけないでしょーが! 学園長から推薦されて、ネギにお願いされて、それでアンタはOKしたでしょ! 一回決めたことを無責任に投げ出すの、アンタは!?」
「っ!!」
明日菜にそう言われ、桜は黙り込む。
『責任』という言葉を聞き、あることを思い出したのだ。
―――責任を果たせ。
それは昔……桜がこの世界に生まれ変わるよりももっと前に、ある人から言われた言葉。
それを思い出し、桜はうっすらと涙を浮かべる。
「黙ってないで何か言いなさいよ!」
「ちょ、ちょっとアスナ…」
「落ち着くですよ」
黙った桜に対して尚も怒鳴る明日菜。
流石に良くないと感じたハルナや夕映が止めようとするが…
「……うるさい…」
『え?』
部屋の中からそう聞こえ、全員が動きを止める。
それと同時に扉をバンと開いて、桜が姿を現した。
「うるさいって言ったんですよ。キーキーと……猿ですか、あなたは」
「なっ! 何ですって~~っ!!」
猿呼ばわりされた明日菜は桜を睨み付ける。
「誰が猿よ、誰が!」
「あなたですよ、あなた」
「むっか~~~~っ!! この根暗女ーーーっ!!」
堪忍袋の緒が切れた明日菜が桜に飛び掛かる。
それに対して桜も応戦し、取っ組み合いのケンカが始まった。
「ええっ!!」
「ふ、二人共落ち着いて!」
「あわわ! やめてくださーーーいっ!」
ネギ達がそう言うが、二人は気にせずにケンカを続けた。
「このっ、無責任女っ!」
「うるさいっ! あなただってそんな偉そうなこと言ってるけど、只単に子供であるネギ先生と暮らすことが嫌なだけでしょうっ!」
「うぐっ! それでも、アンタが無責任なのは確かでしょーが!」
「私は無責任じゃありません! この猿っ!」
「私だって猿じゃないわよ! 根暗女っ!」
「バカレッド!」
「バーカ、バーカ、バーカ!」
「語彙力無しですか!」
お互いを罵り合いながら、ケンカはどんどん苛烈になっていく。
ネギ達は間に入ることも出来ず、困り果てていた。
「あわわ……どうしましょう…!」
「流石にこれの間に入って行くのは至難の技よ…」
そんな中、名乗りを上げる生徒が一人。
「ここはクラス委員である私にお任せください!」
やっぱりというか、あやかであった。
「不安しかないんだけど」
「ですね」
ハルナと夕映がそう言うが、あやかは気にせずに二人を止めに入った。
「お二人とも、お止めなさい! こんな場所でケンカなど、周りに迷惑がかかりますわよ!」
「うっさい! ショタコン!」
「一番最初に他の人達と一緒に騒ぎ始めた人に、そんなこと言われる筋合いはありません!」
「な………何ですって~~~~っ!!」
ケンカを止める所か、二人の言葉で怒り出してしまうあやか。
すぐに飛び掛かろうとするが、それは他の生徒達に止められる。
「お、落ち着いてよ、委員長~!」
「アンタまでケンカに入ろうとして、どうすんのよ~!」
「うぐぐ…!」
諫められて少しは落ち着くあやか。
その間も桜と明日菜のケンカは続いていた。
万事休すか……と思われたが、そこで再び動き出す生徒が一人。
「! こ、このかっ!」
「やめるです、このかさんっ!」
そう……動き出したのは木乃香だった。
木乃香は座学の成績は良いが、運動に関してはそこそこ。
決して苦手というわけではないが、運動能力の高い二人の間に入るのは無謀と言えた。
だからこそハルナや夕映は静止の声を上げたが、木乃香は止まらずに二人に近づき、そして…
「ええ加減に……せえっ!!」
両手で正拳突きを繰り出した。
「「はぐっ!」」
木乃香の拳は見事に二人の顎を捕らえた。
それによって桜と明日菜はノックダウン。
その場に倒れてしまった。
『………………』
沈黙が流れる。
予想外の事態にネギ達は言葉を失ってしまっていた。
少しして、あやかが口を開く。
「あ、あの……このかさん? 今のは…?」
恐る恐るといった感じで質問する。
今まで木乃香がケンカをしたり、人を殴ったりする場面を見たことがなかった為、生徒達は驚いているのだ。
「いざって時の為に、じいちゃんに護身術を少し習ってたんや」
木乃香はいつもと変わらずに話す。
その内容にみんなは直ぐに納得した。
学園長の孫である木乃香は、当然ながら結構なお嬢様なのである。
身を守る為の術を身に付けていても可笑しくはないのだ。
「さ! まずは二人の手当てをするで~。みんなも手伝ってや~」
『あ、はい』
木乃香の言葉に、全員が頷く。
木乃香達は治療の為に、二人を部屋に運び込んだ。