ネギが学園にやって来た翌日の朝。
違和感を感じた桜は目を覚ます。
「………」
「むにゃむにゃ……おねえちゃん…」
昨日、布団で寝ていたはずのネギが、桜のベッドの中に入り込んでいた。
桜に抱きついて胸に顔を埋めながら、それはそれは気持ちよさそうに眠っている。
起こすのは忍びないが朝なので、桜はネギを起こすことにした。
「先生、起きてください。朝ですよ」
「んん……おねえちゃ………ん…?」
桜の声に反応し、ネギは目を擦りながら起き始める。
寝ぼけていたせいで桜をネカネと勘違いしていたが、段々意識がはっきりしていき、そして…
「………うわあっ!!」
驚いてベッドから転げ落ちてしまった。
「……大丈夫ですか?」
「いたた……す、すみません、桜さんっ! 僕、家ではお姉ちゃんと一緒に寝てたから、ついクセで!」
「………」
ネギの謝罪を聞いて、桜は予想通りだと思った。
ネギがお姉ちゃん子だということは、昨日の短い会話だけで想像できていたからだ。
桜はとくに気にした様子もなく、朝食の準備を始めながら声をかける。
「私は気にしませんけど……一人で寝られるようにしないとダメですよ」
「うぅ……すみません…」
ネギは布団の片付けをしながら謝る。
少しして朝食が完成し、二人は食事を始めた。
「「いただきます」」
ネギは笑顔で美味しそうに食べ、桜は無表情で黙々と食べていた。
食べ終わって食器を片付け、それぞれ着替えをしていた時、部屋の扉がノックされた。
「はーい!」
先に着替えたネギが桜の代わりに扉を開ける。
「おはよう、ネギ先生!」
「お、おはようございます」
「ど~もです」
「おはよ~!」
「ふあ~……」
そこにいたのはハルナ、のどか、夕映、木乃香、明日菜の五人だった。
あやかがいないのは、委員長の仕事があって早めに学園に行かなくてはならないからだ。
「あ、おはようございます! どうぞ!」
ネギは挨拶をした後、みんなを部屋に招き入れる。
桜は丁度着替えが終わったようだった。
「おはよー、桜! 今日のお昼は楽しみだね~!」
「おはようございます………本当にお弁当を作ってきたんですか?」
桜の視線がハルナ達の手元に注がれる。
そこには弁当箱が入っているカバンがある。
昨日言っていた通り、弁当を作ってきたようだった。
「当然ですね。ようやく桜さんと食事が出来るのですから」
「私も楽しみです」
「ウチもや~!」
夕映、のどか、木乃香の三人が嬉しそうにそう言う。
そんな中、明日菜は面倒くさそうな表情をしていた。
「このか~……何で私まで一緒なのよ~…」
「明日菜も一緒がええんよ。ダメ?」
「ダメと言うか何というか…」
明日菜はちらりと桜を見る。
魔法の件を知ってからは、ある程度桜のことを気にはしている。
しかし、昨日のケンカの件もあり、少しは間を空けたい気分でもあるのである。
「(今回は諦めてください)」
「………」
桜が視線でそう伝え、明日菜はそれを感じ取って無言で頷いた。
そして、桜とネギはカバンを持ち、みんなで揃って学園に向かった。
時間は過ぎて、昼休み。
殆どトラブルもなく授業が終わり、昼食の時間となった。
朝の五人に加えて、あやかも集まった。
「お昼だーーーっ! ……って、あれ? 桜は?」
早速弁当を食べに行こうとするハルナ達であったが、桜がいないことに気がつく。
授業が終わって直ぐだというのに、いないのだ。
「………この短時間で姿を消すとか…」
「流石桜さんです」
桜の行動速度の速さに感心するハルナと夕映。
するとそこに、ネギがやってくる。
「あ、ネギくんや!」
「ネギ先生。間桐さんを見ませんでしたか?」
あやかが桜について知っていないかを聞く。
「はい。桜さんのことなんですが――」
ネギは説明した。
今朝、登校中に桜から「用事があるので、昼食は先に食べていてください」と言われていたことを。
「用事とは何ですの?」
「僕もそこまでは聞いて無くて…」
ネギ達は「う~ん…」と首を傾げた。
そこで明日菜がボソッと一言。
「適当に理由付けて、逃げたんじゃないの?」
『はっ!!』
明日菜の言葉に、そうかもしれないと思ったネギ達はすぐに行動を開始する。
「行くわよ、みんな!」
『おーーーーっ!!』
「えっ、ちょっ!」
ハルナの号令で、教室から飛び出すネギ達。
明日菜はあやかと木乃香に手を掴まれて、引きずられて行った。
大変かと思われた桜の捜索であったが、思っていたよりも早く見つかった。
『………』
ネギ達の視線の先には、如雨露を持って何処かへと向かう桜の姿があった。
どうやら本当に用事があったらしい。
「………本当に用事があったんですわね」
「そう言えば桜さん。定期的に如雨露を持って、何処かに行くことがありました」
「何でそれを忘れてるのよ」
「いや~……今までの経験からして、本当に逃げられたのかと……」
「「「あはは……」」」
等と会話をしながら、ネギ達はこっそりと桜の後を追う。
しばらくして、桜はある場所へと入っていった。
そこは十年以上前からボロボロになっている時計塔だった。
「ここって…」
「時計塔ですね。ボロボロなのに、何故か取り壊しにならないという」
「あ、それはじいちゃんの指示らしいで」
「学園長の?」
こんなボロボロの時計塔に、一体何があるのか…。
学園長の考えも気になるところだが、今の問題は桜だ。
何時崩れるか分からない為、基本的にここは立ち入り禁止なのである。
「委員長として見過ごせませんわ。皆さんはここで……って、あら!?」
あやかが代表して行こうとするが、既にネギ達の姿はなく。
いつの間にか時計塔のすぐ近くまで行ってしまっていた。
「それにしてもボロボロだね~」
「探検してみたいです」
「それ、わかるわ~♪」
「み、みなさんっ! 勝手に入るのは――」
「硬いこと言わないの! ほら、本屋ちゃんも早く!」
「え~っと……でも…」
ネギとのどかは止めようとしているが、他の四人にグイグイ連れて行かれる。
「ちょっ……お待ちなさい、皆さん!」
あやかも慌てて後を追った。
「わ~~~~!」
「綺麗……」
門をくぐって少し進むと、そこには綺麗な黄色い花がたくさん咲いていた。
ネギ達は花に見惚れていた。
「これって何の花ですかね?」
「本で見たことがあります。確か……
ネギの疑問に、のどかが答える。
他のみんなも「へ~」と関心をもっている中、あやかは周りをキョロキョロと見渡す。
「それよりも、間桐さんですわ。一体何処に……」
「……皆さん、何をしているんですか?」
声が聞こえ、ネギ達はそちらの方を向く。
奥から、如雨露を持った桜がやって来たのだ。
「それはこちらのセリフですわ! 立ち入り禁止の場所に入るなんて、委員長として見過ごせませんわ!」
ビシッと桜のことを指差しながら言うあやか。
それに対して、桜はため息を吐きながら口を開いた。
「……学園長から、許可は貰っていますよ…」
「えっ? そうなんですの?」
「当たり前じゃないですか」
呆れたように桜は言う。
あやかは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしていた。
「桜さんはここで何をしていたんですか?」
「それは、見ての通り花の手入れを……ん?」
桜がネギの質問に答えている途中で、あることに気がつく。
のどかが桜の方を見て、ガタガタと震えていたのである。
正確には、桜の後ろであったが。
「のどか? どうしたのよ?」
ハルナもそれに気がつき、声をかける。
他のみんなものどかのことを見た。
「あ……あれ…あれ、あれ!」
「? 桜さんがどうかしたのですか?」
のどかが震えながら指を差して夕映達もその先を見るが、桜以外何もなかった。
「よく見て! 桜さんの後ろっ!」
「いや、よく見てって言われても……ん?」
ふと、みんなの視界に何かが映る。
のどかに言われた通り、ジ~ッと目をこらしてよく見てみると、それは段々とハッキリしていき…
「もしかして私のこと、見えるんですか!?」
学生服を着た女の子の姿がハッキリと見えた。
少女は嬉しそうな表情をしながら、ネギ達に声をかけてきた……半透明でふよふよと浮きながら…
『………んぎゃあああああああああああっ!!』
学園内にネギ達の悲鳴が響き渡る。
「………はぁ…」
桜は「面倒なことになった…」と言いたげに、ため息を吐いた。