フレンダが実力主義の教室へ   作:ラーフィ

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第二話 挨拶

 

 

一言でいうと、ムカつく。

 

それがフレンダが不良男に対して抱いた感情だった。

 

当然といえば当然だった。

 

クラスを支配する。

従わない奴には容赦はしない。

 

こんな身勝手で暴力的な事を言われて心地の良いやつなんかいるわけがない、フレンダが抱いた感情は至極真っ当なこと。

 

しかし柄の悪い不良のような少年に対して、意を反そうと企む奴は何人いるだろうか?

 

いや。

 

ガタッと、三人立ち上がった。

 

一人は不良男よりは身長は低いが、ガタイのいい男。喧嘩が強そうなイメージがある。

 

一人は不良男よりも背が高く、まるでプロレスラーのような印象を与える。サングラスをかけていて日本人離れした顔を体型。ボディーガードをやっていると言われても納得がいく風貌だ。

 

最後は青い髪の女だった。しかしその女はスタイルがよく筋肉も程よくついてる。恐らく武道の心得があるのだろう。そうでなければ立ち向かう訳がない。

 

その挑戦者に対して、不良男はニヤッと笑った。

 

「付いてこい」

 

そう言うと、不良男は三人を引き連れて外へ出て行った。クラスの中心で台風の目になっていた人たちが、嘘のように静かになる。

 

そして、先ほどの静けさが嘘のようにざわつきだす。

隣の椎名の方を向くと、椎名は少し驚いたような表情を浮かべていた。

 

「行かないんですか?」

 

「なーんで私が行くと思った訳?」

 

「壇上に立っていた男の人を、怯えた子猫ではなく今にも噛みつきそうなライオンのような顔で見ていましたので」

 

「(……何者なのコイツ?)」

 

そう思わずにはいられなかった。

 

まるでフレンダの過去を全て見てきたような、そんなことを考えてしまうほど。

 

高い観察眼と洞察力。

 

一体どんな環境で育てばこんな高校生に成長するのか。椎名の過去が気になってきた。

 

だからこそ。

 

「うーん、今はやめておく。結局、それで退学になったら元も子もないって訳よ」

 

あえて否定しない。

今隠し通したところで、彼女はきっと本当の自分の正体に気づく気がしたから。

 

「そうですか。それは良かったです」

 

退学になる恐れがなくて良かった。

そう捉えているから、フレンダはアイテムの中でリーダーになれなかったのだろう。

 

その言葉に、どんな意味が込められていたのか。

 

今のフレンダには知る由もなかった。

 

 

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

フレンダはこの学校のことについて詳しく知るために、まずは校内の探索から始めた。

 

学校に行ったことのないフレンダでも学校でどんな時期にどのような行事が行われるのかぐらいは知っている。

 

文化祭、体育祭、修学旅行、中間テスト、期末テスト。

 

しかしこれらの行事というのは入学してすぐに行われるのではない。一年生が学校の仕組みや雰囲気、ルールに慣れてきてから行われるもの。逆に言うと入学してから数か月はフリーの時間が訪れるわけだ。

 

その間に今は、ここはどこで、何を目的とした場所なのかを詳しく知る必要がある。

 

「んー手っ取り早そうなのは図書館よねー…本読むの嫌いだけど」

 

勉強が好きではないフレンダだがこればかりは仕方がない。

まずは情報収取。学園都市で培ってきた暗部でのノウハウが活かされることは恐らくない。

では情報の面で後れを取っているフレンダはこれからこの学校生活を送るのに圧倒的不利。

 

椎名は言っていた。

ここでは実力で這い上がれるチャンスを設けている、と。

 

その言葉を信じるなら、何もない今のうちに情報を集めておかないといけない。

 

少し歩いていると学校の敷地内が地図として描かれた大きな看板を見つけた。

図書館はここから歩いて5分ぐらい。場所は学生寮と校舎の間。

 

恐らく学生が自習をしやすいように、校舎と学生寮の両方から通い場所に設置したのだろう。

 

フレンダは場所を確認して、図書館に向おうとした。

 

コツ、コツ、と。

遠くの方から金属とアスファルトの少し甲高い接触音が聞こえた。

 

肩にかかるぐらいの白髪の美しい髪よりも先に目に行ってしまうのは右手に持っている杖。

身長は恐らくフレンダよりも低い。学校の制服を着ていなかったら子供だと思われてもおかしくないほどの童顔。

 

しかしその表情はまるで、警戒心無く餌を食べている草食動物を食らおうとしている肉食動物のように見える。

 

最初は無視しようと思った。だがその瞳は間違いなく自分に向けられている。

 

彼女は警戒している自分をむしろ歓迎するかのように近づき、言った。

 

「初めまして。私、Aクラスの坂柳有栖です」

 

「私の自己紹介は必要?」

 

「いらないです…と言いたいところですが、是非教えていただきたいです」

 

興味があるのは地図が描かれた看板ではなくフレンダ自身のこと。

彼女は自分に対する何かしらの情報を持っていて近づいたということになる。

 

それでは圧倒的不利だ。

手札の枚数は驚くほど少ないフレンダでは事前に前もって準備してきた坂柳に勝てない。

 

肉弾戦では間違いなく勝てるが、それで不利になるのは自分自身だ。

 

ここは無理に勝とうとはせず、自身の被害を最小限にとどめる方が良いだろう。

なるべく情報を相手に渡したくない。

 

「Cクラスのフレンダ=セイヴェルン。アンタ、私と同じ一年生?」

 

「はい。クラスは違いますが、お互い仲良くやっていけたらなと思いまして」

 

絶対嘘だ。この目はまだ何か狙っている。

 

「ふーん。ま、仲間が増えるのはいいって訳よ。これからよろしくー」

 

「はい。よろしくお願いします。早速一つ聞きたいことがあるのですが」

 

やはり何か狙っていた。暗部でもそうだったが、こういった不自然な会話は大体裏に何か隠しているものだ。

 

「入学式の前日まで、Cクラスに名前にカタカナ表記が入っている方は山田アルベルトさん、ただ一人でした。ですが入学式当日になってみるともう一人、見たことのないカタカナ表記の名前がありました」

 

「それが私ってこと?」

 

「ええ。つまりは生徒の名前が書かれたファイルが何者かによって改ざんされたと考えています。しかし外部から侵入した形跡やリモートでアクセスした形跡もなく…そもそもCクラスの生徒の名前が記述されているファイルのタイムスタンプが更新されていませんでした。一体どうやって名前が瞬時にして入れ替わったのか…まるでマジックショーを見ているような気分です。そのマジックのタネが分からないため、こうしてお聞きしようかと思いまして」

 

つまり坂柳は自分あるいはその仲間がフレンダをこの学校に入学させるために学校側に何かしたと疑っているわけだ。

当然学校側はその不正行為を許さないだろう。しかしそれを行ったという証拠がないため現状フレンダを訴えることが出来ない…だからこうやって探りに来ている、というわけか。

 

そんなこと、フレンダは知る由もない。

 

「私は何も知らないし、つーかそもそも私が本当のマジシャンならタネなんて明かさないんじゃない?」

 

「…そうですね。よく考えればフレンダさんの仰る通りです。私としたことがバカなことを…」

 

その言葉に感情が全く乗っていないと思うのは気のせいではないだろう。

 

「ま、なんかよく分かんないけど、これからよろしくー」

 

「はい。それでは」

 

そう言ってフレンダは図書館を目指した。これ以上長居するのは意味がない。

これはフレンダがどういった人物なのかを探りに来たのだろう。

 

まずは人を知る。プラスアルファで情報が手に入ればラッキー。

 

きっと坂柳はこれから生きていく上で厄介な相手になるだろう。

 

頭脳戦になれば恐らく、フレンダに勝ち目はない。

 

もしかしたら椎名の存在は、これからとても大きなものになるかもしれない。

 

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

坂柳はフレンダとの接触を終えて、先ほどよりも不敵な笑みを浮かべていた。

 

接触した感想としては、簡単に底をつかませてくれない存在と言ったところか。

こちらも手の札をあまり渡したくないため、わざと隙を見せたりして泳がせてみたが反応は薄かった。

 

恐らくこんな何でもない場面で有利不利を植え付けたくなかったのか。

長い戦いを見据えたうえであえて踏み込んでこなかったのか。

 

少なくても、並みの高校生とは一線を画す人物だ。

 

今日のフレンダは隙が無かった。入学式前の鮮やかな名簿変えといい、この手際の良さは思わず拍手を送りたくなるほどだ。

本来ならもっと責めて底にあるものを抉り出してやりたいところだが、それを行うにはまだ早すぎるだろう。

 

そのカードはもっと重要な場面で、クラス争いに直結する場面で使うべきだ。

 

お互いほとんど情報を渡していない。

今日のところは挨拶だけ。

 

坂柳は、嗤う。

 

「これからの学校生活、面白くなりそうです」

 

 

 

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