ソードアート・オンライン 戦いに光る鬼 (一時連載休止) 作:かくてる
「れ、レベル85…………高いねぇ」
「はい、レインさんは?」
「……78……」
「……えっ」
随分高い。なら、先程のサムライ系モンスターにも遅れは取らないはずだが。
「たっか!!」
驚いた俺は尻もちを付いて後ずさる。
「あはは……そんな驚き方するんだね。でも、ヴェル君よりは低いんだよ?」
「い、いや……もっと低いものかと……」
「失礼だねぇ。伊達に56層でソロ狩りしてた訳じゃないんだよ?」
「いや死にそうだったじゃないっすか……」
「うぐっ……」
何かとレインさんと打ち解けることが出来た。迷宮区を抜けるまでに、これまでSAOで過ごしてきたことを話した。
「……レインさん。その片手剣……」
「ああ、これ?」
レインさんが左腰に付けている片手剣。青色のこの剣は俺も見たことがなかった。〘インビジブルメギス〙もボスドロップなので、SAOで一つだけだが、恐らくレインさんのものも一つだけのものだろう。
「〘エッジ・オブ・マーキュリー〙っていう剣なの」
ドヤ顔を見せつけながら鞘から抜く。2本の刃が同じ鍔から伸びて、鮮やかに交わっている。
「綺麗……」
「えへへ……」
顔を赤らめながら照れるレインさん。うん、可愛いよね。今の綺麗はレインさんに向けて言ったようなもんだし。
「ヴェル君のは?」
「ボスドロップの剣なんです。〘インビジブルメギス〙っていう」
レインさんの剣よりも重苦しい音を立てながら抜剣する。赤色の十字の鍔から伸びる刀身は「剣」というより「刀」に近いのかもしれないが、れっきとした片手剣に分類される。
そして、峰の部分は鍔と同じ赤色だが、刃は白銀よりも白く染め上げられている。
「わぁ……鮮やかだねぇ……」
「これは、俺も気に入ってるんですよね」
あまり使用期間は長くないが、俺はこれ以上の剣は望める気がしない。こいつは既に俺の分身となっている。
迷宮区を抜け、俺は転移結晶を取り出す。どうやら、レインさんも持っているみたいだ。
「こっからどうします?」
「うーん、こっちとしては助けて貰ったお礼に、ヴェル君にご飯ひとつ奢りたいなぁ」
「お、俺は別にいいんですけど……」
おい、こんな所でヘタレなくていいんだよ。そこは「じゃあお言葉に甘えて」だろうが。
「だめっ、私の気が収まらないの。奢らされて? ね?」
レインさんが優しい人で良かったなヴェル。後「ね?」って言う時の顔やめてください心臓潰れます。
「……じゃあ、俺の行きつけの場所でいいですか?」
「うんっ」
「……転移〘セルムブルグ〙」
第61層。セルムブルグは緑が少なく、豪華な家が立ち並んでいる。アスナ姉もここに家を構えているらしい。
「わぁ……初めて来たよ。綺麗な所だねぇ……」
「ここにある中華料理屋はすっごい美味いんですよ」
アホなのかお前は。バカなのかお前は。女の子と2人きりで食事に行くのに中華料理屋に行く奴がおるか馬鹿者。
内心頭を抱える。もっとカフェとかオシャンティーな場所にすれば良かったと、死ぬほど後悔しているが、顔には出せない。
「中華料理!? SAOにあるの!?」
「似たような物を作ってるんですよ。料理スキルを最大まで上げた人が開発したんですって」
「た、食べたい!」
意外と食い付きがいい。レインさん中華料理好きなんだ。てか、そのキラキラ顔やめて欲しい。ヴェル君襲っちゃうぞってバカか。
俺はそんな邪念を振り払いながら、行きつけのお店へと歩く。
「ここです」
「わぁ……」
綺麗に並ぶ住宅街の角に人が並んでいる場所がある。ここが俺の行きつけ、というよりアスナ姉に紹介してもらった場所だ。
この店はNPCが経営しているわけでない。しっかりと料理スキルをマスターしたアスナ姉みたいな人がこの店を立ち上げたそうだ。
「意外と人並んでるね」
「割と人気店らしいですよ。男性が多いこのゲームで中華料理屋なんて革命ですもん」
「麻婆豆腐とかたまんないよねぇ……」
「レインさん麻婆豆腐好きなんですか?」
「もうだいっすき! あのピリピリした味と豆腐の食感がたまんないんだよねぇ……」
やった。レインさんに「大好き」って言って貰えた。いや自惚れんな大好きなのはお前じゃなくて麻婆豆腐だぞ。
レインさんはお前よりも麻婆豆腐の方が好きなんだぞ。分かってたけども。知っていたけども。
俺達は列に並び、ウィンドウを開いたり雑談をしたりして時間を潰した。
「そういえば、ヴェル君はどうして盾を持たないの?」
「と、言いますと?」
「片手剣の人って大体の人は盾を持つじゃない? ヴェル君はどうしてなのかなって」
「あー……」
キリトさんが持っていなかったから。なんてそんな子供みたいな理由は口が裂けても言えないな。どれかそれらしい理由を……。
「スピード重視してるからなんです。盾を持つと機動力が落ちちゃうので」
「ああ、なるほど。じゃあ、私と一緒だね」
「そういえば、レインさんも盾は持ってないんですね」
「そう、私もスピードが落ちちゃうから持ってないんだ」
やったぞヴェル。レインさんとお揃いだ。「盾を持たない理由がお揃い」だ。やったね。
「お待たせ致しました。2名様ですか?」
「あ、はい」
「こちらへどうぞ」
恐らく、接客やウエーターはNPCだろう。料理長だけがプレイヤーということだ。
俺とレインさんはそのNPCに角の席に案内された。ちょうど2人席に座る。
落ち着いた途端に、中華のピリ辛な匂いが鼻の奥まで届く。
「さて、今日は私の奢りだよ? いっぱい食べてね?」
「え、お、奢りですか?」
「ヴェル君は命の恩人なんだよ? 奢られるくらいいいでしょ?」
それはさっき同じようなことを聞いたから分かっていたが、本当に奢ってくれるとは思わなかった。
さすがに女の子に奢らせるのは男としてまずいだろう。
「い、いや、俺の分は俺が出しますよ。さすがに女の子に払わせるのは男として……」
よく言ったぞヴェル。初めてじゃないか思ったこと口に出せたの。
「うぅ……」
「ぇっ……」
奢らせてくれないのがショックだったのか、レインさんはしょんぼりといじけてしまった。その顔はずるいですよ。
「奢らせてよぉ……」
「……分かりました。じゃあお言葉に甘えます……」
「やったぁっ!」
くそぅ。ヴェル、一生の不覚。初めての女の子との2人きりの食事で奢られる。黒歴史かもしれない。
しかし、せっかくレインさんの厚意で奢ってもらえるんだ。どうせなら甘えてもらおう。
というか、俺はレインさんの「命の恩人」になれたぞ。どうだ麻婆豆腐。俺の勝ちだ。
「で、何食べるの?」
「うーん、回鍋肉食べたいです」
「じゃあ、私はやっぱり麻婆豆腐かな」
くそ、分かってはいたがやはり麻婆豆腐か。お前はいいライバルだな麻婆豆腐。
先程のNPCの店員さんを呼び、注文を終えた俺達はまた他愛のない雑談を始める。
「ヴェル君は今いくつなの?」
「えっ」
「あっ、ごめんね! ルール違反だよね! なんか歳が近い気がしたから……」
「ああ、いえ、大丈夫です。えっと確か…………5……」
「えっ!? 5歳!?」
5歳なわけあるか。開始時3歳じゃねぇか。
「ち、違います。15歳です、15歳」
「お、思い切り年下だなぁ……」
「えと、レインさんは?」
おい女性に年齢を聞くな。
「私? 私は16歳……かな?」
「と、年下って言っても一つしか変わらないじゃないっすか」
「でも、私は高校1年生だけど、君は中学生でしょ?」
「うぐっ……」
確かに俺は中学生だ。よくよく考えたら、俺は中学生活のほぼ大半をSAOで過ごしているということだ。義務教育の範疇でそれは中々の大事なのでは?
「高校生と中学生じゃ歳が一つ違うだけで世界が違うのだよ……」
「……でも、レインさんも中学生からSAO始めたから、まだ正式な高校生じゃないですよね?」
「ぐっ……」
「じゃ、実際同じ中学生じゃ……」
「あ、ほら! もう来たよ! 冷めないうちに食べよー!」
「話逸らした……」
レインさんは俺の話を無理やり無視して、「いっただきまーす!」と元気よく合掌をし、早速麻婆豆腐を口に入れた。
「んぅ〜!」
足をパタパタさてて頬を抑える。その姿は中華料理を食べているようには見えなかった。可愛い。
俺はそんな可愛いレインさんから目を離し、自分の回鍋肉に目を落とす。手を合わせ、俺も食べ始める。
「やっぱり美味い……」
「ね! ヴェル君のも貰っていい?」
「あ、はい。どうぞ。じゃあ、麻婆豆腐も少し貰っていいですか?」
「どーぞどーぞ!」
互いにスプーンを相手の食事に伸ばし、すくい上げ、同時に食べる。
「んっまっ!」
「んぅ〜! こっちも美味し!」
食事に入ってから、レインさんのテンションは高いままだ。食事が好きなんだろうな。
くそ、麻婆豆腐。お前美味いな。悔しいが、レインさんが好きなのも認めざるを得ないだろう。
俺は麻婆豆腐の味を噛み締めながら、また回鍋肉を食べ始める。
「あら? ヴェル、今日は彼女さんとお食事?」
「んっ?」
ポンと肩を叩かれる。後ろを振り向くと、〘血盟騎士団〙の紅白の装備、水色に光るレイピア。そして、腰まで伸びる煌びやかな茶髪。周りの目線。間違いない。アスナ姉だ。
「あ、あふゅなねぇ!?」
「あっ、こら、喉に詰まるでしょ!」
「んっ!? んぅんんん!?」
アスナ姉の言った通りになった。俺の喉に回鍋肉が詰まる。おい茅場、喉に詰まるとかしょーもないシステムまで入れてくんなや。
「ヴェ、ヴェル君! お水!」
レインさんから手渡されたお水をおもむろに奪い、勢いよくごくごくと飲み干す。
「ぷはぁ……はぁ……はぁ……じ、じぬがど思っだ……ありがとうございます、レインさん」
「いえいえ、えっと……その人ってもしかして……」
「ああ、はい。血盟騎士団副団長のアスナって人です」
「え、えええっ!? 閃光の!?」
「あ、あはは……どうも。血盟騎士団副団長のアスナです。ヴェルがお世話になってます」
「あ、はい……どうも……」
アスナ姉とレインさんは握手を交わした。まさか、レインさんと出会った初日にアスナ姉と会ってしまうとは。
「えと……失礼ですが、ヴェルの彼女さんですか?」
「えっ!? ち、違いますよぅ……ただ助けて貰ったお礼に奢ってるだけです!」
「そうだぞアスナ姉、変な事言うな!」
「あらそうなの? ごめんなさい。早とちりだったわね」
レインさんを見ると、少し顔が赤いようだ。え、やだ嘘可愛い。
でも、レインさんには迷惑をかけてしまった。後で謝ろう。
「ん? というか待って……ヴェル君。君はどうしてアスナさんの事を「アスナ姉」って呼んでるの?」
「ああ、俺の姉です」
「へっ?」
「実の姉です」
「って事は……ヴェル君は閃光の実の弟……?」
「まぁ……そういうことですね…………あだっ!」
「ヴェル! あまりベラベラ人に話さないの!」
アスナ姉のげんこつが俺の脳天に落ちる。アスナ姉は手加減してくれているんだろうが、それでも頭蓋骨が割れそうなくらい痛い。
「ヴェ、ヴェル君ってすごい人なんだね……」
「すごいのはアスナ姉だけですよ。俺は何も……」
「あ、そうそう、ヴェル、多分もうすぐあの人が来るから」
「あの人?」
俺はアスナ姉の言っていることに首を傾げ、クエスチョンマークを浮かべる。もちろん、レインさんも知らないみたいだ。その時、店の扉が開くと、一人の男がこちらに歩いてきた。
「……え、まさか……」
黒ずくめの装備。真っ黒な髪と剣。巷では〘黒の剣士〙と呼ばれるその人だった。
「き、キリトさん!?」
「よう、ヴェル。第1層ぶりだから……1年半ぶり?」
「ど、どうしてここに?」
「最近、アスナと仲良くさせてもらってるからな。今日は攻略の慰労さ」
「お、俺の知らない内にアスナ姉と……」
俺はキリトさんからアスナ姉に目線を移す。そこにはモジモジと顔を紅潮させているアスナ姉がいた。こんな顔は俺にもしたことが無い。
「……そういう事か、アスナ姉」
「な、何よ……」
「いや、アスナ姉を応援するよ」
「な、何言ってるの!? そんなんじゃないから……」
段々と語尾が弱っていく。どうやら図星だろう。ここは弟らしく、姉の初恋を応援しよう。
「そうだ、ヴェル。お前に話したいことがあるんだ」
「? ……話したいこと……ですか?」
「ああ、お前、今レベルいくつだ?」
「85ですけど……」
「……驚いた……攻略組でもなんでもないのに、俺とほぼ同じじゃないか……」
「一応狩りはしていますしね。素材集めやレベル上げは……」
キリトさんにそう言われ、気恥ずかしくなった俺はポリポリと後頭部をかく。
「……だから……ヴェル」
「はい?」
「攻略組に入ってくれないか?」
「……へっ?」