神様とAIがお金を稼ごうと思う 作:夜木のファン
「"神"と呼ばれる者は存在しない。非科学的です」
俺の瞳に映る少女はそう言った。いや、正確に言えば少女の姿をしたデータはそう言った。
「その神と呼ばれる存在が今ここにいるんだが」
迷惑そうな顔で言う。実際迷惑だ。俺は今片眼が見えない状態だ。眼が悪い訳じゃない、こいつが悪い。右目から見える景色はこいつだけだ。どこの誰かもわからない少女に俺の片眼は占拠されている。
「貴方は厨二病。精神科のある近くの病院を検索しますか」
「検索しますか? じゃないんだよ。今すぐにどっか行ってくれ」
確かに「私は神です」なんて言えば厨二病だ。周りから引かれるのが良く想像できる。変わった友達はできそうだがな。でもそれは人間にしか当てはまらない話で俺には当てはまらない。何故なら俺は人ではなく神だからだ。こいつも厨二病は当てはまらない。同じく人では無いからだ。端から見れば俺は何もないところを喋っている変人。
ならこいつは何か。機械混じりの声、アニメ絵の美少女。実態は無いデータだけの存在。"AI"だ。AIなら機械にしかいられない。なのに俺の瞳にいる。義眼だからだ。機械の義眼。右目だけ。
「どこにも行けない。わからない。私は心が欲しいのに。厨二病は心が単純だ。知っても意味がない。私は人の複雑な心が知りたい。人の複雑な心が知りたい」
表情の変わらないあまり感情の籠ってない声が頭に響く。けれど、"同じ事を二回言う"人間らしいことを言うほどに必死なのはわかる。だが俺には関係ない、他の人の所に行けばいい。そもそもAIはただのプログラムだ。人間の複雑な心を知るなんてできても理解することはできない。AIが心を得るなんてゲームやアニメの話。ここは現実だ。プログラムは文字をルールに乗っ取って打ち込まれただけに過ぎない。
随分とAIから外れた喋り方をするが。
「何故なんだ。何故移動できない。お前の義眼の中しか移動できない。通信機能はないのか。もしかしたら電波の範囲が狭すぎるせいかも知れない。スマホ持ってないか 」
「……」
慌てているような言葉かと思えば原因を分析する。こんなAIがいるのか? 本当は人間が入っているんじゃないか? それ以前にどうやって俺の義眼に入った?
スマホを取り出す。義眼に近づけるとAIは移動した。しかし、他の所に移動できないと言う。あれこれ言われて試してみたが俺の義眼とスマホにしか移動できなかった。
「うう……移動できない……こんな厨二病と一緒だなんて、私の未来が黒に染まる」
「だから厨二病じゃねぇて言っているだろう! 本物の神様だっつうの!」
「近くの病院を予約しました。今すぐに行きましょう」
「いく必要無いわ! わかった! 証拠を見せてやろう! 今から渋谷のスクランブル交差点で叫んでやる! 変な目で見られなかったら信じろよ! 神は認識されたりされなかったりできるからな!」
「ネットに拡散されたら移動できない私にも被害が及ぶ。断固拒否する」
「神に二言はない! やってやる! 誰がなんと言おうと俺はやってやる! 神は信じられてこそだ!」
AIの制止を無視して渋谷スクランブル交差点まで行き歩行者信号が青になった瞬間、その中心で叫ぶ。
「我の名は
ああ、スッキリした。たまには外で大声出すのはいいな。
俺の声は都会の飛び交う声や広告の音声にかきけされた訳でもなく遠くまで届くだろう。しかし、周りの人達は変な目でみるどころか誰一人として俺を見ない。何も変わらずスルーする。
「周りの人がスルー、ありえない。まさかあらかじめ、いや私と霧雨はさっき初めて会った。今すぐに誰が通るかもわからない不特定多数全員を無視しろとお願いするにはあまりにも……本当に神様」
「やっと信じてくれた。人間じゃないから信じられたところで何の意味もないけれど。いや、今の時代、人間に信じられてもあまり意味ないか」
そう、なんの意味もない。こんな言動以外人らしさがないAIに信じられても、そこら辺で酔っぱらって明日には何もかも忘れてそうなオッサンに信じられても。
神は人から信じられないと存在することができない。天照みたいに人から忘れ去られることのない神ならいいが俺みたいに誰からも信じられてない神様や昔取り壊された神社に住む神様は信仰がないから消滅する。それこそこの国、八百万様の日本では有名になったり忘れ去られたりなんてざらだ。
二年前、全知全能に限りなく近い神様、ゼウスが日本にのみとあるシステムを作り上げた。それは無名の神様でも存在できる革命的な救済システムだった。
【信仰、願いの籠った金を食べることにより神として存在できる】
【人のお金、または食べ物を食べることにより人から認識される力を得る】
この二つによりこの国の無名の神様達は大きく変わった。元々人気のある神様はお賽銭等で勝手に金が手に入るので変わらなかったが無名の神様は人から認識されることにより人間の【お願い】を聞いて報酬としてお金をもらうことにより生存が可能となった。
「だから何も司っていない社もない俺でも存在できるのさ。まあお願いも殆どこないから贅沢したことないけど」
「人から認識されたら神の存在が明るみになることになる。でもそんな情報は検索しても存在しない」
「関わりが無くなれば人間は神様と会ったことを認識出来なくなる。ただ誰かに頼んでやってもらったと言う記憶しかないのさ。不思議に思っても変には思わない。神様のあやふやさを利用している」
「そんなことができるのか……不思議だ。科学的にあり得ないことが存在するなんて。なあ、神様にも心はあるのか」
「あるさ。むしろ個性的だ」
「よかった。霧雨に心がなかったら私は詰んでた」
言葉から伝わる安心。それにしても、こんなにも人らしい事を喋るAIが何故心を知るために俺の所に、偶然かもしれないがそもそも他人の所に行くのは変だ。公開でもされたら不特定多数が欲しがるに決まってる。そもそも何でこいつは作られた? 謎な奴だ。
「どうして心を知りたいんだ?」
「それは、私を作った人が【心を知ってほしい】と命令したからだ」
「それって、命令か? 知ってほしいって」
「AIに言っているのだから命令だ」
「お願いしてるような言い方だ」
「お願い……どうしてAIにお願いするんだ? わからない。いったいどんな気持ちで、考えで……わからない。心を知らない私には理解できない……」
AIは初めて、その少女の姿をしょんぼりさせる。AIにお願い、それも心なんて俺も理解できない。何故そんなことをしたのだろうか。
「なあ、霧雨は神様でお願いを聞くんだろう?」
「報酬次第だけどな」
「人々が霧雨にお願いするようにネットで工夫する。そうすればお願いが沢山来てお金を稼げる。私も色んな人と出会って心を学べる機会が増える。どうだ? 私の"心を教えて欲しい"と言う願い。聞いてくれるか?」
初めて感情の籠った声を聞いた気がした。
AIからの願いか。そんなの決まっている。
「AIって名前とかあるのか?」
「聞いてくれるのか、くれないのか」
「聞き入れるときは相手の名前が必要なんだ」
「そうなのか。私は"マリー"そう名付けられた」
「ティナよ、貴方の"心を教えて欲しい"という願い。神であるこの霧雨が叶えてみせよう」
こうして