あべこべ世界に提督着任!艦隊の指揮に入ります!   作:full throttle

3 / 6
第二話

「本当に申し訳ありません……。お見苦しいところを見せてしまいまして……」

 

 執務室で再び資料を読み漁っていた克己に目覚めた由良はすごすごと頭を下げ謝罪する。もう目も合わせられないほどに頭を下げており、見ているほうに罪悪感が沸いてくる。

 

「もう頭を上げてくれ。気にすることじゃない」

 

「そういうわけには……」

 

「いいから上げろ」

 

 そういうと由良は渋々といった感じで顔を上げた(本当のところは申し訳なさではなく恥ずかしさで提督の顔を見ることが出来なかったというのが真相である)。続々と五月雨、夕張も目を覚ます。が、三番目が目を覚ました時、少し執務室内が騒がしくなる。 

 

「え!?え!?本当に男の方ですか!?提督として鎮守府に着任ですか!?」

 

「落ち着け。本当に男だし、本日付でこの鎮守府に着任した。これからはお前たちの上司だ。よろしくな」

 

 克己がそういうと夕張は興奮した様子で一人語りを始める。

 

「うわ~、とうとう私にも春が来た!?これから提督と毎日生活して、工廠で装備のことを話して、徐々に関係を深めてそれでそのまま提督と」

 

 ここで由良の当身が夕張に入り彼女は二度目の気絶タイムに突入する。倒れこんだ彼女を五月雨が引きずるようにして部屋の隅に置く。

 

「本当にすみません……」

 

「もう何も言わんとく」

 

 そういった克己は話を変える意味でも、再び資料に目を落とし口を開く。

 

「そういえばこの鎮守府の前任の提督はなぜ解任されたんだ?百人以上の艦娘を統括できるほどなんだからそれなりには優秀な人物だったんだろう?」

 

「「あー……」」

 

 克己がそう問いかけると二人は何とも言えない表情になる。

 

「前任の提督さんはその……、女性の方が好きな人だったみたいで」

 

「それで、その……、この鎮守府の暁ちゃんたち、駆逐艦の子に手を出して憲兵に……」

 

「聞かなきゃよかったなぁ」 

 

 男の少ないこの世界ではそういった欲望が芽生えてくるのは彼も重々承知しているがこれはひどい。手あたり次第だったのか、それとももともとそういった趣味だったのか、まあどっちにしろアウトである。

 

「やめやめ!こんな辛気臭い空気になるな!」

 

 克己の一言で執務室内に漂っていた空気が霧散する。 

 

「そういえば、この後はずっと資料を読んでいてもいいのか?それともこの後何かしらがあるのか?」

 

「本日1800(ヒトハチマルマル)より提督の着任式兼歓迎会が行われます。その際に提督から簡単なご挨拶をいただきたいと思っているのですが」

 

「わかった。短めのやつを考えておく。それじゃそれまではこの鎮守府のことを頭に叩き込んでおく」

 

「かしこまりました。ではお邪魔にならないように私たちは失礼させていただきます。行こう五月雨ちゃん?」

 

「は、はいぃ」

 

 由良と五月雨は夕張をもって執務室を後にする。一人しかいない執務室の静けさを感じながら克己は資料に目を通していく。

 

 三か月前はただの青年だった男は今から提督として働くことになる。そのために自分の記憶力をフル活用し、この鎮守府のすべてを記憶していく。それが危険の前に立ち、戦う彼女たちを最大限サポートするための自らの義務。それを果たすために脳を働かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室を離れた三人は歓迎会を行うための食堂へやってきていた。現在、歓迎会のために多くの艦娘が行き来しておりその手には料理の載った皿やら飲み物のボトルなどが握られている。

 

「いやー、それにしても提督いい男だったね」

 

「夕張さん!あんまり大きな声で話さないでください!」

 

 夕張が満足そうな表情で声を上げると五月雨がそれをたしなめる。現在提督が男であることを知っているのは鳳翔、長門、陸奥、五月雨、由良、あと成り行きで夕張の六人である。男の存在に飢えている彼女たちがそんなことを知ってしまえば大パニックになってしまう。

 

 しかし、五月雨のお叱りを受けても夕張が止まることはない。

 

「だってさー、触られるのすらいや、って言う男の人が多い中でわざわざ私たちを運んでくれてソファに寝かせてくれて毛布まで掛けてくれるなんてありえなくない?優しすぎるでしょー」

 

 夕張の主張に二人は『うっ』と声を上げる。確かにそれに気付いた時、二人の心臓は爆発しそうなほどに跳ね上がった。男に触られるだけでなくわざわざ運んでもらったとなれば、自分の幸運を疑うべくもない。

 

「ねぇ~、二人はどう思ったのよ?一番最初に会ったのは二人でしょ」

 

 俯き加減で夕張の話を聞いていた二人は彼女から目を逸らそうとするが、夕張ののぞきこみに阻まれる。しゃべらざるを得なくなり二人は口を開く。

 

「た、確かに優しい人だとは思ったけど……」

 

「あんまり堅い感じの方じゃなくて、すごく接しやすい方ですし……」

 

「だよね!ああ、あんな人とこれから生活できるなんてサイコー!」

 

 その姿を見て由良はムッとする。彼女だけが浮かれているのが少々むかついたのだ。 

 

「じゃあ夕張ちゃんもこれから身だしなみきちんとしないといけないよね。さすがにいつもみたいな油まみれじゃ提督さんも幻滅しちゃうと思うよ」

 

「えぇ~、でもそっか。私上手くできるかな……」 

 

 臭いを気にしてか、制服の袖などを嗅ぎ始める。急にしおらしくなった友人の姿にクスリと笑った由良は彼女の手伝いに手を上げる。

 

「私もお手伝いしてあげるから、ね?」

 

「わ、私もお手伝いいたします!」

 

 五月雨の健気さに二人がほのぼのとしていると、その二人に近づく影が現れる。

 

「由良さん、新しく来た提督ってどんな人だったっぽい?」

 

 彼女に問いかけたのはソロモンの悪夢との別名を持つ夕立であった。その背後には彼女たちのほうをちらちらと窺っている駆逐艦の少女たち。やはり新たに着任する提督については気になるのだろう。そこで由良とそれなりに仲の良い夕立が代表して彼女に質問しに来たのだろう。

 

 しかし、ここで馬鹿正直に「新しい提督さん?男の人だったよ」などと答えるわけにはいかない。そんなことを艦娘の集まるここで行ってしまえば、大パニックになる。彼女だけに教えようと思ってもそもそも彼女は駆逐艦の代表として聞きに来ているため、彼女一人に話したとしてもすぐにばれてしまうだろう。

 

 どうしたものかと由良は考えていると、隣にいた彼女の妹でもある五月雨が助け舟を出そうと奮闘し始める。

 

「えっと姉さん……。提督さんは、その……、少し変わった人なんです!」

 

 と、何とも助け舟にならない五月雨の言葉に夕立は先ほど以上に興味を示してしまう。

 

「ええ……、まさか前の提督さんみたいな人っぽい……?」

 

 夕立は眉間にしわを寄せ嫌悪感を顔いっぱいで表現する。自分の一言が何の役にも立たなかったことを察した五月雨はアワアワと口を開け閉めし始める。しかし、どうやっても言葉で表現することが出来ない。隣でやり取りを見守っていた由良はどうするかを決定した後、助け船の助け舟を出す。

 

「夕立ちゃん。提督さんのことちょっと事情があってね。あんまりしゃべっちゃダメなのよ。着任式の前に説明があるからね」

 

「え~。じゃあ、夕立にだけこっそり教えてほしいっぽい!」

 

 由良の言葉に夕食が待ちきれなくなってしまってつまみ食いをする子供のようなことを言い始める夕立。純粋な好奇心が瞳をきらめかせ、由良の瞳を曇らせる。「彼女一人くらいだったら教えてもいいだろう」と思い由良は夕立の耳に口を近づける。いわゆるひそひそ話である。

 

「じゃあ夕立ちゃんにだけこっそりね。絶対に内緒よ……」

 

 かわいい部下のような存在の純粋さに負け、由良は彼女の耳元で提督のことを伝える。しかし、これが裏目に出るとは彼女は知らない。

 

 純粋な気持ちで由良の話を聞いた夕立。その内容の衝撃につい数秒前に由良の言った言葉など即座に塗りつぶされ、本能のままに驚きを口に出してしまった。

 

「ええー!新しい提督さん、男の人っぽい!?」

 

 その瞬間、食堂の空気が止まった。事態の収拾など由良一人には図れない。夕立の声を聴いた艦娘たちのざわめきは収まるところを知らず、どんどんと広がっていく。

 

「お、お、男の人!?一体どこから連れてきたんデスか!?」

 

「お、落ひ着ぃちぇくらはいお姉たま!?」

 

「比叡姉さま噛みすぎです!お姉さまも落ち着いてください」

 

「こ、こうしてはいられません!今すぐ自室に戻って私の愛読書を持ってきます!」

 

「お、お、男の人……。キュウ……」

 

「ああ翔鶴ねえ。意識を保って!」

 

「やれやれこれだから五航戦は……」

 

「加賀さん。足ガクガク振るえてますよ」

 

 年長者の艦娘たちは今まで見たことないほどの狼狽っぷりを見せる。事前に伝えていたら本当に鎮守府の運営どころではなかっただろう。

 

「由良さーん!提督さんが男の人ってホントー!?」

 

 さらには夕立が代表となっていた駆逐艦の塊が由良を取り囲むようにして問い詰めていく。囲まれてしまった由良は動くことも、事態を収拾することもできない。この大パニックのまま、着任式に突入するのかと思われたその時。

 

「静まれぇ!!!」

 

 食堂内に一際大きな声が響き渡る。入り口付近を見るとそこには気絶していたはずの長門が立っていた。そのままお立ち台に移動した長門はマイクを手に持つと事態の収束を図ろうとする。

 

「あーテステス。これからこのことについての説明を始める。聞き逃さないように!」

 

 先ほどの一喝で大分静まっていたざわめきがぴたりと止む。失態を取り返さんとばかりに事の詳細を説明し、事態の収束を図る長門。その目論見は想像以上にうまくいき、艦娘たちは長門の話を集中して聞いている。

 

 だからこそ誰も気づかなかったのだろう。準備中の間宮や伊良湖といった艦娘を除き、全員いるはずの艦娘たちの中に一人だけいない艦娘がいたのを。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。