>ここでサーヴァントだけ生き残ったら修羅になるわ
頬をなでる熱い風に呻いた。
温度を感じたとたん、五感が帰ってくる。
「ぐ、う……」
体が熱い、どこもかしこも痛い。それでも何とか立ち上がる。ひときわ熱い肩に手をやって、ぬるりとした感覚と激痛にそちらを見れば、抉られたような傷があって腕はだらりとぶら下がっていた。
認識したことで痛みが強まった気がして、唇を噛んで声を殺す。油に引火したのか、ごうごうと音を立てる黒炎に目を炙られそうになって、身をかがめる。物が燃える音、何かが壊れる音が誰もいない山中に響く。──誰のうめき声も聞こえない。
「マスター……マスター! う、ぐっ、ごほっごほっ……」
焼けた空気で呼吸がままならない。それでも、声を上げるのはやめたくなかった。
ふらつく足で鉄くずの散った地面を歩く。……その間に、知らない顔の遺体があった。おそらくあの操縦士たちだ。呼吸や脈拍をとる必要はないと断じることができるような遺体だった。苦しむ間もない即死だったことが、唯一の希望だっただろう。
それを後にして、私は歩く。失血で頭がぼうっとする。唇を噛み切って、むき出しの傷に爪を立てて、痛みで何とか意識を保つ。
そうして、ようやく、見覚えのある姿を見つけた。
「マ、スター……」
──戦士として、多くの死を見た。数えきれないほどの、無残な死体を見た。あらゆる力を失おうとも──その記憶だけは、消えることはない。
……その記憶が、「これは助からない傷だ」と結論付けた。
「アル、ジュナ……そこに、いるの……?」
崩れる様に膝をつく。焦点の合わない目がさまよう。枯れ枝のようにふらふらと伸ばされる手を、とっさに握った。
「……はい。ここに、います」
「……よかった……いき、てて」
触れただけでは反応はなく、軋むほどに手を握って、ようやくマスターはかすかに指を曲げた。血と傷でどろどろの顔が、わずかに緩んだ。腕を伝う血は脈打ち、炎で炙られた体はすこぶる熱いのに、底冷えのする何かがマスターの中にあった。
「て、がみ……マシュ、に……ねが……?」
「……届けます、届けますから…………」
どうか、死なないで。喉元まで出かかった言葉を飲み込む。言ったところで、マスターの死は揺るがない。……すべての力を失った私に傷を癒す力はない、痛みを和らげる力もない。それなのに、死なないでほしいと言うのは──どうにもならない死を待つマスターに、叶えられない望みを押し付けて、悲しませるだけだと思った。
「ご、め……おいて……く……」
「いいえ……いいえ。あやまらないで、マスター」
私は、あなたと旅ができて、未来を思い描くことができて……それだけでも、幸せでした。そう告げると、マスターは笑うように息を吸った。
「どうか……いきて、たびを……」
か細い声が告げる。マスターが目を閉じ、深く深く息を吐いて……動かなくなった。温度が消える。血だまりはただだらだらと無秩序に広がっていく。しばらく手を握り跪いたまま、動けなかった。
炎に巻かれ、立ち上がろうとして、足に力が入らず転んだ。それでも──それでも、私の死の気配は、遠く。
……。
「は、はは。はははははは──!」
マスターの横にあおむけに倒れ、私は動く片腕で目元を覆う。
愚かしい。愚かしい。私は、なんて愚かしい──。
私はすべての力を失った! 戦士としての力も、サーヴァントとしての力も!
そう、力「は」失った! 私には、ただの人間としての力と──「私の力ではない」神々からの祝福が残ったのだ!
生者ではない、死者の影に過ぎないサーヴァント・アルジュナにすら祝福をくださる神々が──そのアルジュナが再び生者となったからと言って、どうしてその祝福を断ち切ろうか。
わかっていたはずだった。わかっていたはずだったのに! 神を人の道理ではかることに、何の意味もないことに!
「は。ははは。──生き、なければ」
目を閉じる。眠ったとて、私に死は近寄らまい。
……マスターの最期の言葉。
与えられたこの生を終えるまで、きっと、私は、何度でもその言葉を思い返すのだろう。
エンド1-B
しゅくふく、さいわい、そしてのろい