むっ!
ショップの中に見慣れた人影が2つ……あれはマスターとマシュ! トロピカルサマーなマスターの手には水着が2枚! 赤いものと白いもの! マシュの水着を新調しに来たのね!
去年着ていた白いワンピースタイプの水着も良かったけど……マスターが水着を新調したからマシュにも新しい水着を着せたかったのね。2つとも少し大人びた顔と体によく似合ういいチョイスよ!
けどマシュはあまり乗り気では……いえあれは恥ずかしがっているだけね! ビキニタイプの水着に気後れしているのね!
恥ずかしがることはないのよマシュ……! 鍛えられて引き締まった体を包む……あの鎧と水着は大して変わらないわ!
水着と大して変わらない鎧って凄いわよね! 正直眼福よありがとう!
「あの、先輩……私……」
「ご、ごめん。こういう水着、マシュはあんまり好きじゃなかった?」
「い、いえ! ですが、その……以前夏用装備としていただいたものがありますので……」
「……そっか、そうだね」
うつむく2人! 戻される水着! ぎこちなく店を後にする2人! 折角の美少女の水着(新)が!
違うそうじゃなくて……。目を合わせずホテルへの道を歩くその手が……触れ合わない……顔を合わせない……。気まずげに視線をそらすマスターと下を向くマシュ……。
むっ! マシュがちらっとマスターの方を見て……マスターは気付いていないわね! 今よマシュ、手を握るの! そう、指を! もう少し伸ばして! そう、そう……ああっ! どうしてそこで頭をかいちゃうの! マシュの指がぴくりとして……ああ……自分の体の前で握っちゃった……。
じれったい……でも、甘酸っぱくていいわね……!
ルルハワ(挨拶)!
うーん、いいわねラスベガス! そこかしこに水着の美女美男美少女美少年! さっきも地獄の旅館の女将や愛の女神?って子に会ったし、ご飯も美味しいし。目が合って剣を抜かれそうになったけど今回はまだ……ええと、そういう意味では何もやってないし……手は出してないし……私は宮本伊織なので今は退散! 流石に万全じゃない状態で彼女を相手取れないしね!
むっ! あのベンチにいるのは……トロピカルサマーなマスターと黒い方のジャンヌちゃん(水着)ね! 華奢な体と豊満なバストが黒い水着で引き締められて……添え色のダークレッドと銀に近い金髪がナイスバランス! いいわね……!
体の横の手が触れそうなほど近くて……何か話しているようね、これは聞くしかないわ! ちょっと近付いてみましょう!
「散々な目に遭ったわ……」
「そうだね……」
ぐったりしているわ。きっと白い方のジャンヌ(水着)のカジノを攻略したからね。最終戦力的には苦戦というほどではなかったけど、やっぱり2人には、精神的な疲労が溜まっているのね。そりゃああんな戦いなら疲労も溜まるでしょう。
「──ジャンヌが姉だったら……」
「……ちょっと、まだ洗脳されてるの?」
思案顔で言うマスターに、黒いジャンヌちゃんが引き攣った顔で振り向いた。
「どっちがいい? 姉と、妹」
「……なによ、急に」
意味がわからない、という顔で彼女は言った。
「彼女が姉なら、きょうだいってことになるでしょ」
きょうだいだったら──。
マスターはどこか思い返すような眼差しを石畳に投げながら呟いた。
「部屋が隣同士で……漫画とか貸し借りして。同じ学校だったら帰りに買食いしちゃったり。夜はバラエティー番組だらだら見ながら、あれこれ笑ったりしてさ」
きっと、
「楽しいだろうな──」
……知らぬ内に連れてこられ、世界を救う戦いへと巻き込まれた。勿論、懸命に戦っているのは知っているけれど、だからといって郷愁は消えない。なにかがトリガーになってそういう気持ちが沸くことはおかしくない。
「……馬鹿ね。私は誰のきょうだいでもないわ」
間違いなく、マスター自身の日常への懐古の籠った言葉に、彼女は突き放すように言った。
「私は、アンタの姉でも、妹でもない。──誰とも繋がりのない……いつか消える復讐者よ」
彼女は俯くようにしながら、自分にも言い聞かせるように吐き捨てた。悪い仲ではないことは、こうして二人で並んで話す様子からも見てとれる。
マスターはその言葉に一瞬息を詰め、髪で表情が隠れた彼女の方を向いた。それから顔を前に戻し、小さく「ごめん」と言った。彼女は応えなかった。
「……そろそろ帰ろうか」
マスターが立ち上がって黒い方のジャンヌの前に立つ。夕焼けをバックに差し伸べられた手を、彼女は少し躊躇って──ぎこちなく、重ねた。マスターは笑ってその手を握って、一歩下がる。
「──」
手に引かれるように立ち上がって、瞬きをしたあと、彼女は堪えるように目を瞑った。ゆっくり息を吐いて、目を開ける。マスターと目を合わせ、少しだけ笑った。
「……ええ、帰りましょう。マスター」
マスターが頷いて、二人はホテル・ギルダレイへの道を歩き出した。
途中、黒いジャンヌちゃんがマスターの肩に寄りかかってふざけたり、マスターが繋いだ手をブンブン振ったりして、二人で笑い合う。……確かにそれは、じゃれあうきょうだいに見えなくもないけれど、どちらかというと、もっと別の──。
……いいえ、本人たちが定めていない関係を言葉にするのは野暮ね。
私はそこまで見て二人から視線を切る。氷の溶けたジュースをストローから吸いながらそこを後にした。
……実にいいわね、ラスベガス!
「」シュ過去話