マシュを誘えばよかったかな。
窓からもう見えなくなったカルデアの方を見つめてつぶやく。
泣かないと決めたのに、どうしても涙がこぼれそうになった。ちゃんと笑えていただろうか。
……長い旅で、選択することの重さや、選べない辛さを嫌というほど味わった。選択には重い責任が伴うことも思い知った。……だからこそ、人理を救う旅から解き放たれた彼女の選択に、自分の希望をぶつけたくはなかったのだ。マシュにはマシュの人生がある。思うままに生きてほしかった。
それでも──抱きしめた彼女の肩が震えていたことに気付いた時、喉元まで「一緒に行こう」という誘いが出かかった。
……家に帰れるのは、嬉しい。カルデアでどれほど楽しいことや素敵なことがあっても、帰りたいという思いは消えなかった。けれどマシュとの絆、そして紡いだ思いも消えることはないだろう。
だって、カルデアに来て、ずっと彼女と一緒にいたのだ。嬉しいときも、辛いときも、悲しいときも、苦しいときも。自分にとっては、きっと半身にも等しかった。それが離れることになるのだ。引き裂かれるように辛い。
二度と会えないわけではない。嘘ではないと思う。けれどそう簡単に会えるわけではないことを、たぶんマシュも知っている。
「…………」
黙り込んでしまったこちらを慰めようとしてくれたのか、隣の相手が口を開いて──それから眉をひそめた。自分も背をじりりと焼かれるような気配がして、思わず視線を上げる。
機体が揺れる。機内放送にノイズが走る。
二人の間に嫌な空気が流れた。……知っている気配が、した。
──死の気配だ。
『当機体は──……!』
──続く言葉に、思考が止まった。がくんとした強い揺れでようやく呼吸を思い出す。
なんて──あっけない末路だろう。笑いたくなるほどに滑稽だ。……でも笑えない。だって隣に、一緒にいることを選んでくれたサーヴァントがいるから。
聖杯の魔力はもうほとんどない。受肉と現界を補助するために使ってしまった。
だが──。
恐怖を唾液で飲下す。ここまで付き合わせた──選択させた責任を取る。魂食いでもなんでもいい。全部を使う。聖杯の残りわずかな魔力と、自分の命、肉体。魔術師としては三流未満の自分でも、すべてを賭ければ、きっと目の前の相手ぐらいは助かるだろう。助かってほしい。……少なくとも、墜落を知って来る救助隊が来るまで保てばいい。それからカルデアの仲間に来てもらえば、そうしたら──!
「──!」
言葉を発しようとして、肘かけに置きっぱなしだった手に、優しく手が重ねられた。その手を辿れば、微笑んだ顔が目に合う。……相手は静かに目を伏せ、首を振った。
──選んだのなら、最期まで。
「……そっか」
応えを聞いて、心が凪いでゆく。……自分の未来に巻き込んでしまって申し訳ないと思う反面、重なった手から感じる体温に、恐怖も焦燥も遠ざかる。穏やかに死を、待てる。そんな気がした。
……もしかしたら、あの時のマシュも同じ様に感じたんだろうか。燃える管制室の中、無力に傷を癒やすことも痛みを遠ざけることもできず、ただ彼女の手を握ったあの日。……たぶん、運命の日だった。
──やっぱり、マシュを誘わなくてよかった。
小さく笑って、二人で抱きしめ合うように相手を守ろうとして──轟音と熱が全てを閉ざした。
エンド1
しがふたりをわかつとも