SSまとめ   作:√NG

9 / 13
>墜落の報を聞いたマシュの反応が楽しみですね...


エンド1-A(マシュ)

「──マシュ、起きろマシュ!」

 思考を閉ざすうちに眠ってしまっていたのだろう。目を開けると、蒼白なムニエルさんの顔が目の前にあった。

「大変なことが起きた、すぐに来てくれ!」

 ぐいと無理やりなくらいに手をつかまれ、起こされる。片手で髪を直しながら部屋を出る瞬間にちらりと時計が目に入った。……先輩がカルデアを発ってから、まだ数時間しか経っていなかった。ぼんやりとした頭で、あの光景が夢であればいいなと思った。

 

「どうして……」

 ──夢ならどうかさめてほしい。

『死亡者は乗客二名、操縦士二名の計四名──』『全身を強く打ち即死──』『……事故とみて捜査を』

 食堂にあるテレビから流れるニュースに、私はへたりこんだ。死んだ。死んでしまった。先輩が、死んでしまった。ほんの数時間前……元気な姿で、ここを発ったばかりだというのに!

「先輩は──ようやく、ようやく、帰ることができたんですよ!」

 どうして死ななければならなかったんですか!

 ……泣き叫びながら、よかった、と思った。

 よかった。私は先輩の死に、憤ることができた。私を置いて行ったあの人の死を──喜べなくて、よかった。

 

 あれから1週間経った。何も食べる気が起きなくて、けれど仕事があるから倒れるわけにもいかなくて、ブロック状の栄養補助食品を何とか水で流し込んでいる。……ぱさぱさとした触感が気持ち悪い。何も味がしない。レイシフトの時によく食べていたもののはずなのに。先輩の横で一緒に食べたときは、とてもおいしく感じたのに。

 

 ムニエルさんが控えめに私の部屋に入ってきた。

「……マシュ、あいつからの手紙だ」

 嘘だ。死者からの手紙なんてありえない。届くはずがない。ベッドに寝転がったまま、ムニエルさんの言葉に棘を返す。

「本当だよ。……あいつ、カルデアを出る前に手紙を書いてたんだ」

 それがさっき、遺品整理が済んでカルデアに届いた。私は勢いよく飛び起きる。差し出されたそれを取って、私は震える手で封筒に手をかけた。封をしていた赤い蝋は、熱で溶けて変な形に広がっていた。爪で取ろうとして上手く行かず、はやる気持を抑えながら封を切った。……中には数枚の白い便箋が入っていた。

『マシュへ

 「この手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にいないのでしょう。」』

 見慣れた字だった。レポートやメモでたくさん見た、先輩の字。それだけで喉の奥がツンとした。

『ありふれた書き出しでごめん。でも、この手紙はそういう手紙です。万が一のとき、マシュに届くよう、頼んでおきます。

 届くといいな。届くようなことがない方がいいんだけど、もしかしたらさっくり死んでしまうかもしれないし。その時マシュを世界に置き去りにしてしまうから、念の為、残しておきます。』

 ──死を予感してるような文に、唇を噛む。

『……マシュがカルデアに残ると聞いて、正直、悩んだ。

 マシュはもう、もう一人の自分とも言えるぐらい大切な存在で、離ればなれになるのはとても辛かったから。できる事ならなるべく長く一緒にいたかった。

 ……それと同じくらい、マシュの選択を大事にしたい気持ちがありました。だから、誘いません。

 「一緒に行こう」と言ったら、たぶん一緒に来てくれたよね。でも、そうすると、自分がマシュを一生離せなくなりそうで……マシュの一生を縛ってしまいそうで怖かった。だから、ごめん。一度お別れをしておきたかった。』

 ぽたりと涙が手紙を汚して、慌ててこする。こすったところでどうにもならないのに、私は私の涙で先輩の手紙が汚れるのが許せなかった。

『あの日マシュと出会って始まった日々は、一生の思い出です。辛いことも苦しいこともあったけど、かけがえのない日々です。死ぬまで忘れない。マシュのことも、マシュとした旅のことも。

 マシュにとって、あの旅がどんな思い出になるかはわからないけど……大切な思い出の一つになっていたら、とてもうれしい。』

 一枚、また一枚と便箋をめくる。

『もし気分転換をしたいなら、旅をおすすめします。

 たぶん、幻滅する部分も多くあって、もしかしたら「どうしてこんな世界救っちゃったんだろう」と思うかもしれない。

 ……自分なりに考えたけど、素晴らしい世界だから救ったんじゃなくて、自分が生まれ、生きた世界だから奪われたくなかったんだと思う。

 だから、マシュも、この世界を愛さなくてもいい。憎んでもいい。愛せなくて、憎んでしまっても、どうか自分を責めないで。

 それで、いつか、美しいものを見つけてほしい。』

 大切に、綺麗にしまっておこうと思っていたのに、手に力が入って端から便箋がくしゃくしゃになる。醜い嗚咽が止まらなくて、視界がどんどんぼやけていく。

『さいごにわがままを1つ言ってもいいかな。

 もし、これを読んでいるのが葬式の前だったら、手を握りに来てほしい。

 死んでるから、固かったり冷たかったりして気持ち悪いかもしれないけど。マシュに手を握ってもらえたら、それがどんな末路でも、安らかに逝けるような気がする。』

 いつか、私達の始まりの日。出会いのあのとき。それを思い出してしゃくりあげた。

『今までありがとう、マシュ。置いていってごめんなさい。

 どうかマシュはマシュらしく、自分の人生を生きてください。そしていつかまた会ったとき、マシュの旅の話をしてもらえたら嬉しい。

 さようなら。またね。   あなたの先輩より』

 身体に力が入らなくて、座り込む。床に落ちた手紙は、私が握って、涙で汚したせいでぐちゃぐちゃだった。……封筒から小さな音がした。

 封筒の中には、カルデア職員の制服の胸元についていた金具が入っていた。手紙の代わりに、私はそれを手の感覚がなくなるぐらい強く、強く握りしめて、そうして泣いた。

 ……1時間は泣いていた。死にたくなるほど悲しかったのに、泣き続けていたら涙は自然と止まった。頭は痛くて目も頬も熱い。そのうえ喉が渇いていた。泣いたぐらいで先輩と同じにはなれなかった。

 顔を上げるとムニエルさんはいなくて、机の上に未開封のミネラルウォーターのペットボトルが置いてあった。キャップを開けて飲み干す。喉は冷えたが、体は熱いままだった。ボトルをゴミ箱に捨てて、少しでも冷えるようにと早足で廊下を歩いて、執務室のドアを開いた。

 

「あの、所長。私、休暇をいただきたいです」

 眉尻の下がった顔で、驚くようでもなく何故かを問われる。

「先輩のご両親に、ご挨拶をして……それから──少しだけ旅をしたいんです」

 手のひらの中の、先輩の残滓を握る。先輩がここにいた証。私と旅をした証。……先輩が私に残してくれたもの。

 泣き枯れた声が、帰ってくるのかねと小さく問うた。私ははい、と頷いた。

「ちゃんと帰ってきます。いつか、ちゃんとしたやりたいことが見つかるまでは──カルデアの職員を続けたいと思います。先輩と守った世界を──まだ、守りたいから」

 ……いってきなさい、と言われて、深く深く礼をした。しばらくそうして、行ってきます、と言って私は踵を返す。後ろ手に扉を閉めるとき、所長の鼻をすするような泣き声が聞こえたけど、聞こえないふりをした。

 

 ……さあ、荷物をまとめて、旅に出よう。

 私のいる世界にあなたが生きていなくても。

 私は、あなたと救った世界を知りたい。あなたが生きていた世界を、見てみたい。

 そしていつか、私から見たこの世界がどんなだったかを──先輩に伝えよう。




エンド1-A
ありふれた手紙と再起
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。