とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

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11話 奇術師は終焉を与える《1》

 

 

 夜。表通りから消防車と救急車のサイレンが響き渡り────通りすぎた。

 

 

 学生寮はほぼ無人状態だったらしいが、火災報知器を鳴らしてスプリンクラーを動かしたのがまずかった。消防車と野次馬で無人の学生寮はあっという間に人だらけになったのだ。

 

 

 蒼空が持っていた発信機(フード)の機能は上条の右手で破壊した。機能を生かしたまま適当な所に捨てれば追っ手の目をごまかせたのだが、彼女が頑なに持って行くといいはった。

 

 

「なあ時雨、お前の力でインデックスの傷を治す事は出来ないのか?」

「できる、はず……。能力が機能するのかどうかって話なら、カミやんみたいな右手を持ってない限りは機能するはずだ」

「じゃあなんでッ!?」

 

 

 上条は非難するような目で蒼空を見る。上条の勢いよく投げかけた疑問には、その上条の腕に抱かれるインデックスが答えた。

 

 

「術式、だよ。それも迎撃用のね……そら、は……さっきも傷を治そうとしてくれたんだよ。今の私の体に超能力なんてものが働いたら、何が起こるか分からない、から」

 

 

 上条は舌打ちをした。また魔術か、と。血まみれのインデックスを未だ抱えたままで────この傷口を、こんな小汚い地面に触れさせる事はいかなかった。

 

 

 インデックスを救急車に乗せる事はできない。

 

 

 学園都市は基本的に『外の人間』を嫌う傾向がある。そのために、街の周りを壁で覆い、三基の衛星が常に監視の目を光らせるほどの徹底ぶりだ。コンビニに入るトラック一台にしたって、専用のIDがなければ話にならない。

 

 

 そんな所に、IDを持たない部外者が入院したとなれば、あっという間に情報は洩れる。

 

 

 そして、敵は『組織』だ。

 

 

 そんな所を襲撃されれば周りの被害が拡大するだけだし────何より、治療を受けている最中、最悪、手術中にインデックスが狙われたらもう防御手段なんて何もない。

 

 

「……けど、だからってこのままほっとく訳にもいかねぇんだよな」

「だい、じょうぶ。だよ? とにかく、血を止める事ができれば……」

 

 

 インデックスの口調は弱々しく、さっきのような機械的な印象はなかった。その様子を見れば分かる。彼女の怪我は包帯を巻いて済むような怪我のレベルを超えている。ケンカ慣れしている上条は『人には言えない傷』は大抵自分で応急処置してしまう。そんな上条でさえ思わず取り乱しそうになるぐらいインデックスの背中の傷は、酷い。

 

 

 蒼空の能力も迎撃術式やらなんやらのせいで使えない。そうなると頼りになる可能性は一つしかない。

 

 

 未だに信じられないけれど、もはや信じる他には道がない。

 

 

「おい、オイ! 聞こえるか?」

 

 

 上条はインデックスの頬を軽く叩いて、

 

 

「お前の10万3000冊の中に、傷を治すようなモンはねーのかよ?」

 

 

 蒼空達にとって魔術のイメージなんてRPGに出てくる攻撃魔法と回復魔法ぐらいしかない。確か、インデックス自身は『魔力』を扱う素質がないから魔術を使う事はできない。だけど、同じ『異能の力』を扱う蒼空と上条ならば、インデックスから知識を聞き出せば可能性があるかもしれない。

 

 

 激痛よりも失血のせいで浅く呼吸を繰り返すインデックスは、青ざめさせた唇を震わせ、

 

 

「…………ある、けど」

 

 

 一瞬喜びかけたが、『けど』という言葉が引っかかった。

 

 

「君には……無理。たとえ私が術式を教えて…………、君が完全にそれを真似した所で……、君の能力がきっと邪魔をする」

 

 

 上条は愕然と自分の右手を見た。

 

 

 幻想殺し。そこに宿る力は確かにステイルの炎も完全に打ち消していた。なら同じようにインデックスへの回復魔法も打ち消してしまうのかもしれない。

 

 

「く、そ! そうだ、時雨なら!」

 

 

 自分が無理ならば蒼空が。蒼空も『異能の力』を扱うが、その力は幻想殺しのようなものではない。それならば回復魔法を扱う事ができるかもしれない。

 

 

「……?」

 

 

 インデックスはちょっとだけ黙って、

 

 

「ううん……。そらでもダメ。君の右手じゃなくて……『超能力者』っていうのが、もうダメなの」

「どういうことだ?」

「魔術っていうのは……、君達みたいに『才能ある人間』が使うためのモノじゃないんだよ……。『才能ない人間』が……、それでも『才能ある人間』と同じことがしたいからって…………、生み出された術式と儀式の名前が、……魔術」

 

 

 こんな時にナニ説明してんだ、と上条が叫ぼうとした所で、

 

 

「分からない…………? 『才能ある人間』と『才能ない人間』は……、回路が違うの……。『才能ある人間』では……『才能ない人間』のために作られた魔術を使う事は……、できない……」

「なっ……」

 

 

 蒼空と上条は絶句した。確かに蒼空達『超能力者』は薬や電極を使い、普通の人間とは違う脳の回路を無理矢理に拡張している。体の作りが違うと言われれば、確かに違うのだ。

 

 

 学園都市に住む230万人もの学生、その全てが能力開発の『時間割り(カリキュラム)』を受けているのだ。それは蒼空のように学園都市の頂点に立つ能力者だろうが上条のように最弱の能力者だろうと変わらない。やはり一般人とは作りが違う。

 

 

 つまり、この街にいる人間では、彼女を唯一救える『魔術』を使う事はできない。目の前に人を救う方法があるのに、誰にも彼女を助ける事が、できない。

 

 

「ち、くしょう……、そんなのって、あるか。そんなのってあるのかよ! ちくしょう、何なんだよ! 何で、こんな…………ッ!!」

 

 

 インデックスの震えが酷い。

 

 

 蒼空と上条は自分の無力を噛み締める。何が『超能力者』だ、何が『才能ある人間』だ。こんなに苦しんでいる女の子ひとり救えないで。

 

 

(どうする? こうなりゃ迎撃術式だのなんだのは無視して俺の能力で治すか? いやでも、リスクが大きいか……?)

 

 

 最悪、迎撃術式がインデックスから情報を引き出されるのを防ぐために何らかの形でインデックスの命を絶つものだったら? 自爆なんてものだったりしたら?だとしたらどうしようもない。魔術という蒼空達には得体の知れない力が働いている以上はインデックスに対して不用意に能力を使う事はできない。

 

 

「な、なあ時雨、学園都市の能力開発は学生だけだよな?」

 

 

 思案していた蒼空に上条が勢いよく言った。

 

 

「ん? まあそりゃそう……あ、そういう事か!」

 

 

 上条の言葉に、少し遅れて蒼空も同じ考えに辿り着いた。

 

 

 確かに、学園都市の学生達は230万人もれなく全員が能力開発を受けている。だが、逆に言えば。超能力を開発する側の教師はただの人間のはずだ。

 

 

「……あの先生、この時間でもう眠ってるなんて言わねーだろうな」

「どーだかね。あの見た目だし」

 

 

 蒼空達は一人の教師の顔を思い浮かべる。

 

 

 クラスの担任、身長135cm、教師のくせに赤いランドセルが良く似合う一人の先生、月詠小萌の顔を。

 

 

 

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