とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

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13話 奇術師は終焉を与える《3》

 

 

「────―カミやん」

 

 

 己の無力を握りしめ、夜の街を走っていた上条は後ろから聞こえてきた声にその足を止めた。その声の主は蒼空だ。かなり全力で走っていた上条だったが、蒼空の能力を用いれば、走っている人間に追いつくぐらい容易なことだ。

 

 

「……っ! 時雨……、お前まで来たのか。お前は別に出てこなくても……」

「んー、まあ俺も超能力者だし、魔術に何か影響あるかも知らねーからな」

 

 

 上条の異能の力を打ち消す右手とは関係なく、超能力者があの場にいること自体が魔術へのノイズになる可能性もある。失敗に繋がるかもしれないリスクはなるべく少なくしておきたい。というのは半分本音で半分建前。もう半分は単純に上条に声をかけてやりたかった、というのがもう半分の本音だ。

 

 

 ……………………

 

 

 少しの間、沈黙が流れる。

 

 

「……、全力疾走なんてしてないで、歩こうぜ」

 

 

 沈黙の中、最初に口を開いたのは蒼空だった。その言葉通り、蒼空と上条は止めていた足をゆっくりと動かし始めた。

 

 

「なんつーか、まあキツいよな。あんなこと言われたら」

 

 

 走っていた影響で、少し荒かった上条の呼吸が落ち着いたところを見計らって、蒼空は口を開いた。

 

 

 二人は先程のインデックスの言葉を思い出す。『出ていくのが最良』と、あんな無機質な光の消えた瞳で、冷たくそう告げられたらいくらなんでも辛い。上条もそれが正しいと分かっていても。仕方ないことだとは分かっていても。

 

 

「分かってた。分かっちゃいたんだ。俺にはどうしようもできなかったって。それでも……」

 

 

 上条は再び、強く右手の拳を握りしめる。上条が何よりも悔しいのは、インデックスから放たれたその台詞ではない。何もできなかった自分が何よりも悔しいのだ。

 

 

(どんだけお人好しだよ……、ホントすげーな)

 

 

 今日出会ったばかりの女の子のためにここまで自分を責める事ができるなんて。もちろん蒼空だってインデックスを助けよう、助けたいという気持ちはある。それでも上条にはとても敵わない。関心と少しの呆れが混じった感情で、拳を握りしめる上条を見る。

 

 

 そして、一息吐いて、

 

 

「…………、カミやんだけじゃない。俺もだ。俺も、何にもできちゃいない」

 

 

 何もできなかったのは上条だけではない。蒼空も同じだ。学園都市の頂点に立つ超能力者でも、どんな異能の力も打ち消す右手を持っていても、インデックスの傷を治す事はできなかった。

 

 

「ま、適材適所ってやつなのかね。インデックスも言ってたろ? 超能力者じゃ魔術は使えない、ってな。何でもかんでもできる方がおかしいってもんだ」

 

 

 冗談を言う時のような軽い口調で蒼空はそう言ったが、上条の顔は沈んだままだ。

 

 

「今はとりあえず、怪我の事は小萌先生に任せるしかない」

 

 

 どんな魔術、魔法が行われるのかは分からないが、蒼空と上条にはその成功を祈るしかない。

 

 

「……そうだな」

 

 

 上条は乾いた笑みを見せた。

 

 

「それに、カミやんの右手も、俺の能力もいずれ役立つさ」

「どういうことだ?」

 

 

 蒼空の言葉に、上条は勢いよく蒼空の方を向く。疑問を投げかけられた蒼空は、その疑問に答える前に、ちょいちょいと指で近くにあった自販機を示す。

 

 

 蒼空はその自販機で『ヤシの実サイダー』を二つ購入する。

 

 

「ほれ、奢り」

 

 

 一つはもちろん上条に渡す。

 

 

「ああ、サンキュー」

 

 

 ひとっ走りした上条にとって水分はありがたい。そうでなくとも、蒼空と上条はしばらく水分を摂る暇なんてなかったので、二人とも喉を鳴らして『ヤシの実サイダー』を飲む。乾いた喉を炭酸が刺激し、潤した。

 

 

「ふぅ……、それで時雨、さっきのはどういうことだ?」

「ああほら、さっきの赤髪のアイツ」

 

 

 ステイル、といったか。つい先刻、蒼空達を襲った炎を操る魔術師。

 

 

「カミやんがボコった訳だけど、もう襲って来ません、なんて事はないんじゃないのか」

 

 

 蒼空の言葉に、上条はハッとした反応を見せる。

 

 

 インデックスにあれほどまでの傷を負わせてでも捕らえようとした男だ。そもそもインデックスだって逃げ続けて、逃げ続けて、この学園都市までやって来たらしい。そこまでインデックスを追い続けているあの男が、このまま大人しく引き下がると考えるのは、少し甘い観測だろう。加えて敵が『組織』である事も分かった。むしろさらに力を入れて襲って来る可能性だってある。

 

 

「その右手は魔術にも通用するらしいし、お前がインデックスのためにできる事はまだあるさ」

 

 

 上条は握りしめた右手の拳を見つめる。

 

 

「そうか……、そうだよなあ。沈んでる場合じゃねえよなあ!」

 

 

 そう言った上条の顔は少しずつ、いつもの熱を取り戻していく。

 

 

「そのとーり。らしくもなく気を落としてんじゃねーよ。バカはバカらしく前だけ向いとけ」

「最後の一言は余計なのでは? 時雨さん」

 

 

 蒼空と上条は小さく笑う。もう蒼空と上条の間には沈んだ空気はなかった。そして、蒼空のケータイに小萌先生からの着信があったのも、それとほとんど同時だった。

 

 

 

 

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