とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

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14話 奇術師は終焉を与える《4》

 

 

 

 一夜明けると、インデックスには風邪と良く似た症状が出て、高熱と頭痛でぶっ倒れた。しかしこれは魔術が失敗した訳ではない。インデックス曰く、本当に風邪と一緒で『足りない体力を補おうと』しているだけらしい。

 

 

「……、で? 何だって下ぱんつなんだお前」

 

 

 おでこに濡れタオルを載っけたインデックスは布団の中の蒸し暑さが許せないのか、片足を布団の横から上条に向けて、でろっと飛び出させている。上は淡い緑色のパジャマのくせに根元まで見えている太腿は目が潰れるくらい眩しい肌色で、熱のせいか桜色に上気している。

 

 

 小萌先生はおでこの上の生ぬるくなったタオルを水を張った洗面器にじゃぶじゃぶ突っ込みながら、その訳を説明してくれた。

 

 

「あの修道服は暑苦しそうだったので着替えさせたのですよ」

「……じゃあまあそれはいいんだけど。何だってビール好きで愛煙家の大人な小萌先生のパジャマがインデックスにピッタリ合っちまうんだ? 年齢差、一体いくつなんだか」 

 

 

 なっ、と小萌先生(年齢不詳)は絶句しかけたが、インデックスは追い討ちをかけるように、

 

 

「……みくびらないでほしい。私も、流石にこのパジャマはちょっと胸が苦しいかも」

「なん……、馬鹿な! バグってるです、いくら何でもその発言は舐めすぎです!」

「ていうかその体で苦しくなる胸なんてあったんか!?」

「「……」」

 

 

上条(コイツ)……、ホントに怖いもの知らずだな。バカって恐ろしい)

 

 

 レディ二人に睨まれた。ついでに蒼空に呆れた視線を向けられた上条は、反射的に魂の土下座モードへと移行。

 

 

「ところで上条ちゃん、結局この娘はどこの子なんです?」

「妹」

「大嘘にもほどがあるですモロ銀髪碧眼の外国人少女です!」

「じゃあ俺の妹」

「むむ、時雨ちゃんの妹ですか。それなら……って、じゃあってなんですか!」

 

 

 小萌先生が事情を聞きたがるのも無理はない。ただでさえ得体の知れない外国人を連れ込んで、しかも背中には明らかに事件性を匂わせる刀傷、挙げ句の果てには『魔術』などという訳の分からないモノの片棒を担がされたのだ。

 

 

 これで黙って目を瞑ってろと言う方が無理難題というものだろう。

 

 

「先生、一つだけ聞いても良いですか?」

「ですー?」

「事情を聞きたいのは、この事を警察や学園都市の理事会へ伝えるためですか?」

 

 

 です、と小萌先生はあっさり首を縦に振った。

 

 

 何のためらいもなく、人を売り渡すと、自分の生徒達に向かって言い捨てた。

 

 

「上条ちゃん達が一体どんな問題に巻き込まれているか分からないですけど」

 

 

 小萌先生はにっこり笑顔で、

 

 

「それが学園都市の中で起きた以上、解決するのは私達教師の役目です。子供の責任を取るのが大人の義務です、上条ちゃん達が危ない橋を渡っていると知って、黙っているほど先生は子供ではないのです」

 

 

 月詠小萌はそう言った。

 

 

 何の能力もなく、何の責任もないのに。

 

 

 ただ真っ直ぐに、あるべき所へあるべき一刀を通す名刀のような『正しさ』で、言った。

 

 

「本当に……」

 

 

 ……この人には敵わないと、上条は口の中だけで呟いた。

 

 

 こんなドラマに出てくるような、映画の中でも見なくなったような『先生』なんて、蒼空達は十数年を生きてきたそれなりに長い人生の中でもたった一人しか見当たらない。

 

 

(……カッコイイ先生だな)

 

 

 蒼空も心の中でそう呟く。

 

 

 そんな先生だからこそ、

 

 

「先生が赤の他人だったら遠慮なく巻き込んでるけど、先生には魔術の借りがあるんで巻き込みたくないんです」

 

 

 これ以上巻き込む訳にはいかない。上条も、真っ直ぐと告げた。

 

 

 もう、無償で誰かの盾になるような人間が、目の前で傷つく所なんて、見たくなかった。

 

 

 そんな上条の台詞を聞きながら、蒼空は「あれ? 俺は最初から巻き込まれなかった?」と思ったが、良い所なので仕方なくそれを飲み込んだ。

 

 

 上条の言葉に、小萌先生はちょっとだけ、黙った。

 

 

「むう。何気にかっくいー台詞を吐いてごまかそうたって先生は許さないんですよー?」

「……、? けど先生、いきなり立ち上がったりしてどこへ……?」

「執行猶予です。先生スーパー行ってご飯のお買い物をしてくるです。上条ちゃん達はそれまでに何をどう話すべきか、きっちりかっちり整理しておくんですよ? それと」

「それと?」

「先生、お買い物に夢中になってると忘れるかもしれません。帰ってきたらズルしないで上条ちゃん達から話してくれなくっちゃダメなんですからねー?」

 

 

 そう言った小萌先生は、笑っていたと思う。

 

 

 パタン、とアパートのドアが開閉する音が響き、部屋には蒼空と上条とインデックスの三人だけが取り残された。

 

 

 何となく。あの何か企んだ子供みたいな笑顔を見ると、もう『スーパーから帰ってきた』小萌先生は『全部忘れていた』事にしてしまうような気がする。

 

 

 それでいて、後からやっぱり相談したとしても『どうして早く言わなかったんですか!? 先生キレイに忘れてました!』とかぷりぷり怒りながら嬉しそうに相談に乗ってくれるんだろう。

 

 

 ふぅ、と上条は蒼空と布団の中のインデックスの方を振り返る。

 

 

「……、悪りぃな。少しでも助けが欲しいって状況かもしれねえってのに」

「ううん。あれでいいの」

「ま、これ以上巻き込むのも悪いしな。俺も賛成だよ」

「そらの言う通りなんだよ。……それに、もうこれ以上あの人は魔術を使っちゃダメ」

 

 

「「……?」」

 

 

 蒼空と上条は眉をひそめる。

 

 

「魔道書っていうのは、危ないんだよ。そこに書かれている異なる常識『異常識』に、違える法則『異法則』──―そういう『違う世界』って、善悪の前に『この世界』にとっては有毒なの」

 

 

 コンピュータのOSに対応していないプログラムを無理矢理に走らせるようなものなんだろうか? 

 

 

「……私は宗教防壁で脳と心を守ってるし、人間を超えようとする魔術師は自ら常識(げんかい)を超え、発狂する(たどりつく)事を望んでる。けど、宗教観の薄い普通の日本人なら──―もう一度唱えれば、終わる」

「ふ、ふぅん……」

 

 

 上条は受けた衝撃を何とか表に出さないようにした。

 

 

「なるほどね……、そりゃ残念だな。あのまま魔術が使えるようになってたら、鉄を金にでも変えて億万長者にでもなれたのにな」

 

 

 蒼空は冗談っぽくそう言った。つい先日放送されていた錬金術師が主人公のアニメのことを思い出しながら。

 

 

「……、純金の変換(アルス=マグナ)はできるけど──―今の素材で道具を用意するとこの国のお金だと……えっと、七兆円ぐらいかかるかも」

「「意味ねえ〜……」」

 

 

 そもそも億万長者でなくては鉄を金に変えるなんて事はできないらしい。

 

 

 蒼空と上条の魂の抜けた呟きに、インデックスも弱々しく笑って、

 

 

「……だよね。たかが鉛を金に変換したって貴族を喜ばせる事しかできないもんね」

「けど、あれ? 冷静に考えてみたら、それって何なの? どういう原理? 鉛を金に換えるって、まさか鉛と金の原子を組み替えるって、え?」

 

 

 上条は頭にはてなマークを複数浮かべる。

 

 

「そこら辺を『魔力』だかなんだかでどうにかすんのが魔術なんじゃねーの?」

「よくわかんないけど、たかが十四世紀の技術だよ?」

「ばっ……て事はアレか? 原子配列変換って事でオッケーなの!? 加速器使わなくても陽子崩壊起こせて馬鹿でかい原子炉なくても核融合を引き起こせるってか!? ちょっと待て、そんなの学園都市でも八人しかいない超能力者(レベル5)だってできるかどうか分かんねーぞ!」

 

 

 上条は蒼空の方をチラッと見ながらインデックスを捲し立てる。

 

 

 確かにそんな事は蒼空でも無理だ。そもそも原子に働きかけるような能力でなければ不可能だが、例えそういう能力でもそれ程までの規模ならば『超能力者』は確実だろう。

 

 

「待て、そんな不思議そうな顔すんな! えっと、えっと、あー。お前それがどれだけスゴイ事かって言うとな、アトミックなロボとか起動戦士が普通に作れちゃうぐらいなんだぞ!?」

「なにそれ?」

 

 

 男のロマンは一言で斬り捨てられた。

 

 

 

 

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