とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

17 / 22
16話 奇術師は終焉を与える《6》

 

 

 小萌先生のボロアパートから600メートルほど離れた、雑居ビルの屋上で、ステイルは双眼鏡から目を離した。

 

 

「禁書目録に同伴していた少年達の身元を探りました。……禁書目録(かのじょ)は?」

 

 

 ステイルはすぐ後ろまで歩いてきた女の方も振り返らずに答える。

 

 

「生きてるよ。……だが生きてるとなると向こうにも魔術の使い手がいるはずだ」

 

 

 女は無言だったが、誰も死ななかった事に安堵しているように見える。

 

 

 腰まで届く長い黒髪をポニーテールにまとめ、腰には『令刀(りょうとう)』と呼ばれる日本神道の雨乞いの儀式などで使われる、長さ2メートル以上もある日本刀が鞘に収まっている。

 

 

 左脚の方だけ何故か太股の根元からばっさり斬られたジーンズに、ヘソが見えるように脇腹の方で余分な布を縛った白い半袖のTシャツ。脚にはヒザまであるブーツ、日本刀は腰にある革のベルトに挟むようにぶら下げてある。

 

 

 ステイルと同様に、とてもまともな格好とは思えない。

 

 

「それで、神裂。アレは一体何なんだ?」

「……少なくとも魔術師や異能者といった類ではない、とだけ」

「何だ、もしかしてアレがただの高校生とでも言うつもりかい?」

 

 

 ステイルは口に咥えて引き抜いた煙草の先を睨んだだけで火をつける。

 

 

「…………やめてくれよ。僕はこれでも現存するルーン二四字を完全に解析し、新たに力のある六文字を開発した魔術師だ。何の力も持たない素人が、裁きの炎(イノケンティウス)を退けられるほど世界は優しく作られちゃいない」

 

 

 いくら禁書目録の助言があったとしても、それを即座に応用し戦術に練り上げる思考速度。さらに正体不明の右手。アレがただの一般人ならまさしく日本は神秘の国だ。

 

 

「ではもう一人の少年が関係しているのかもしれませんね」

「白髪の方が?」

「ええ、彼はこの学園都市の頂点に立つ超能力者の一人だそうです」

 

 

 この学園都市は超能力者量産機関という裏の顔を持つ。

 

 

 統括理事会に、ステイルや神裂は禁書目録の事を伏せるとはいえ、事前に連絡を入れて許可を取っていた。名実ともに世界最高峰の魔術グループでさえ、敵の領域では正体を隠し続ける事は不可能だと踏んだからだ。

 

 

「超能力者……、どんな能力か分かったのか?」

「空間移動らしき能力を持つと記されていましたが……」

 

 

 右手ではなく、白髪の少年の能力が関係しているのかと考えたが、それだと『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を()()()()()現象を説明できない。

 

 

「情報の……意図的な封鎖、かな。しかも禁書目録の傷は魔術で癒したときた。神裂、この極東には他の魔術組織が実在するのかい?」

 

 

 ここで彼らは『統括理事会とは異なる何らかの組織を味方につけている』と踏んだ。

 

 

 他の組織が、蒼空達の情報を徹底的に消して回っていると勘違いしたのだ。

 

 

「未知数の戦力に対してこちらの増援はナシ。難しい展開ですね」

 

 

 それはまさに勘違いだった。上条の幻想殺しは『異能の力』を相手にしない限り効果はゼロ。不幸な上条当麻は、『どんな異能の力も打ち消す』というとんでもない右手を持っているが、学園都市の()()()()()使()()()()()()ではチカラを測る事ができない。よって、上条当麻は悲しい事に無能力者(レベル0)扱いなのである。

 

 

 蒼空に関しては上条とはまた別の理由で、神裂はその正確な情報を手に入れる事ができなかった。蒼空の能力の詳細は、魔術師とはいえ外部からやってきた人間程度の情報レベルでは調べる事はできなかったのだ。

 

 

「最悪、組織的な魔術戦に発展すると仮定しましょう。ステイル、あなたのルーンは防水性において致命的な欠点を指摘された、と聞いていますが」

「その点は補強済みだ。刻印(ルーン)はラミネート加工した。同じ手は使わせない」

 

 

 まるで手品師のように刻印を取り出し、

 

 

「今度は建物のみならず、周囲二キロに渡って結界を刻む……使用枚数は16万4000枚、時間にして60時間ほどで準備を終えるよ」

 

 

 現実の魔術はゲームのように呪文を唱えてハイおしまい、という訳にはいかない。

 

 

 一見そう見えるだけで、裏では相当な準備が必要となる。ステイルの炎も本来は『10年間月の明かりを溜めた銀狼の牙で……』という代物なので、これでも達人レベルの速度と言える。

 

 

「……、楽しそうだよね」

 

 

 と、不意にルーンの魔術師は双眼鏡も使わず、600メートル先を見て呟いた。

 

 

「楽しそう、本当に本当に楽しそうだ。あの子はいつでも楽しそうに生きている」

 

 

 何か、重たい液体でも吐き出すように、

 

 

「……僕達は、一体いつまでアレを引き裂き続ければ良いのかな」

 

 

 神裂はステイルの後ろから、600メートル先を眺める。

 

 

 双眼鏡や魔術を使わなくても、視力8.0の彼女には鮮明に見える。何か激怒しながら上条の頭にかじりついている少女と、それを見て大笑いしている蒼空の姿が窓に映っている。

 

 

「複雑な気持ちですか?」

 

 

 神裂は機械のように、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

「君だってそうだろう。それに……、いつもの事だよ」

 

 

 炎の魔術師は答える。まさしく、いつもの通りに。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。