とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

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17話 奇術師は終焉を与える《7》

 

 

 おっふろ♪ おっふろ♪ と蒼空と上条の間で、両手に洗面器を抱えたインデックスは歌っていた。

 

 

 病人をやめました、と言わんばかりにパジャマから修道服に着替えていた。

 

 

 あれから三日経って、ようやくあちこち出歩けるようになった彼女の願いが風呂だった。

 

 

 ちなみに小萌先生のアパートには『風呂』などというなどという概念は存在しなかった。管理人室のモノを借りるか、アパート最寄りにあるボロっボロの銭湯へ行くという究極の二択しかなかった。

 

 

 そんなこんなで、洗面器を抱えて夜の道を歩く。

 

 

「とうま、とうま」

 

 

 上条のシャツの二の腕を甘く噛みつつインデックスはややくぐもった声で言う。噛み癖がある彼女にとって、どうやらこれは服を引っ張ってこっち向かせる、ぐらいのジェスチャーらしい。

 

 

「ジャパニーズ・セントウってフジヤマでイレズミがコンヨクなんだよね!?」

「なんじゃそりゃ。色々混ざりすぎだな」

 

 

 インデックスの銭湯のイメージは、聞きかじった知識が色々混じっているようだ。

 

 

「じゃあじゃあ、コーヒー牛乳は? こもえが言ってた。カプチーノみたいなもの?」

「そんなオシャレなもんじゃないぞ」

 

 

 どうやらインデックスは随分とテンションが上がっているらしい。あんまり期待を膨らませるな、と上条は言う。

 

 

「まあまあ、良いじゃないの。インデックスにとっては銭湯みたいなデカい風呂はかなり珍しいんじゃねーの?」

 

 

 イギリスではホテルにあるユニットバスがメジャーなのではと思いながら、蒼空は言う。

 

 

「んー? その辺は良く分かんないかも」

 

 

 インデックスは本当に良く分からないという感じで小さく首を傾げた。

 

 

「私、気がついたら日本にいたからね。向こうの事はちょっと分からないんだよ」

「へー」

「……ふうん。何だ、どうりで日本語ぺらぺらなはずだぜ。ガキの頃からこっちにいたんじゃ、お前ほとんど日本人じゃねーか」

 

 

 それだと、『イギリス教会まで逃げ込めば安全』という言葉の方が微妙になってくる。てっきり地元に帰るのかと思いきや、実はまだ見た事もない異国に出かける訳だ。

 

 

 上条の言葉を蒼空が否定しようとしたが、

 

 

「あ、ううん。そういう意味じゃないんだよ」

 

 

 その前にインデックスが長い銀髪を左右に流すように首を降って否定した。

 

 

「私、生まれはロンドンで聖ジョージ大聖堂の中で育ってきたらしいんだよ。どうも、こっちにきたのは一年ぐらい前から、らしいんだよ」

「らしい?」

 

 

 蒼空が曖昧な言葉に思わず眉をひそめた所で、

 

 

「うん。一年ぐらい前(こっちにきたとき)から、記憶がなくなっちゃってるからね」

 

 

 インデックスは、笑っていた。

 

 

 まるで、生まれて初めて遊園地にやってきた子供のように。

 

 

 その笑顔が完璧だからこそ、その裏にある焦りや辛さが見て取れた。

 

 

「最初に裏路地で目を覚ました時は、自分の事も分からなかった。だけど、とにかく逃げなきゃって思った。昨日の晩ご飯も思い出せないのに、魔術師とか禁書目録とか必要悪の教会とか、そんな知識ばっかりぐるぐる回ってて、本当に怖かった……」

「……じゃあ。どうして記憶をなくしちまったかも分かんねーって訳か」

 

 

 うん、という答え。上条だって心理学はサッパリ分からないが、ゲームやドラマじゃ記憶喪失の原因なんて大体二つに限られてくる。

 

 

 記憶を失うほどのダメージを頭に受けたか、心の方が耐えられない記憶を封印しているか。

 

 

(記憶喪失か……)

 

 

 記憶を失ったインデックスと前世の記憶があった蒼空。二人の身に起こった事は反対の事だが、同じ『記憶』に関するという点で蒼空もインデックスの事情に関して思う所がある。初めは自分も前世の記憶に戸惑ったものだが、インデックスは今までの記憶を失い気づいたら知らない場所に一人、その恐怖は想像し難い。

 

 

 上条の方に目を向けると、分かりやすく拳を握り締めていた。

 

 

「むむ? とうま、なんか怒ってる?」

 

 

 インデックスも、そんな上条の様子に気づいたようだ。

 

 

「怒ってねーよ」

 

 

 ギクリとしたが、上条はシラを切った。

 

 

「なんか気に障ったなら謝るかも。とうま、なにキレてるの? 思春期ちゃん?」

「……その幼児体型にだきゃ思春期とか聞かれたくねーよな、ホント」

「む。何なのかなそれ。やっぱり怒っているように見えるけど。それともあれなの、とうまは怒ってるふりして私を困らせてる? とうまのそういう所は嫌いかも」

「あのな、元から好きでもねーくせにそんな台詞吐くなよな。いくら何でもお前にそこまでラブコメいた素敵イベントなんぞ期待しちゃいねーからさ」

「……」

「て、アレ? ……何で上目遣いで黙ってしまわれるのですか、姫?」

「……」

 

 

 超強引にギャグに持っていこうとしてもインデックスはまるで反応してくれない。

 

 

 おかしい、なんか変だ。何でインデックスは胸の前で両手を組んで、上目遣いの目尻に涙が浮かびそうな傷ついたっぽい顔をして、あまつさえちょっと甘く下唇を噛んでいるんだろう? 

 

 

「とうま」

 

 

 はい、と上条は名前を呼ばれたのでとりあえず返事を返してみる。

 

 

 とてつもなく不幸な予感がした。最後の望みとして、蒼空の方に視線を向けるが、蒼空はニッコリと笑っているだけ。

 

 

「だいっきらい」

 

 

 瞬間、上条は女の子に頭のてっぺんを丸かじりされるというレアな経験値を手に入れた。

 

 

(学習しねーヤツ)

 

 

 

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