とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

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18話 奇術師は終焉を与える《8》

 

 

 インデックスは一人でさっさと銭湯へ向かってしまった。

 

 

 置いていかれた蒼空と上条の二人は、トボトボと銭湯を目指していた。インデックスの後を追いかけようとしたが、お怒りのシスターは上条が近づくなり猫のように威嚇して、走り去ってしまい、先へ行ってしまった。

 

 

 まあ目的地が同じだから、いつか合流できるか、と追いかけるのは止めたのだった。

 

 

「英国式シスター、ねえ」

 

 

 上条は暗い夜道を歩きながら呟いた。

 

 

「急にどした?」

「いや何か、色んな意味で凄いヤツだなって」

 

 

 夏休みの初日、朝起きるとベランダに引っかかっていた少女。蒼空はベランダに引っかかっていたところを目撃した訳ではないが、初っ端から衝撃的なその出会いは上条と蒼空の常識を塗り替えた。

 

 

 このままインデックスを日本の『イギリス教会』に連れて行ったら、彼女はそのままロンドンの本部へ飛ぶ。もう上条達の出番はない。短い間だったけどありがとう、君達の事は忘れないよ、完全記憶能力もあるし、的なオチになるだろう。

 

 

 何か胸にチクリと刺さるものがある上条だったが、かと言って何か別案がある訳でもない。インデックスを教会に保護してもらわなければ延々と魔術師に追われ続ける事になるし、インデックスの後を追ってイギリスまで飛ぶというのも非現実的だ。

 

 

 住んでる世界、立ってる場所、生きてる次元──―何もかもが違う人間。

 

 

 蒼空と上条は科学の世界に住んでいて、インデックスは魔法の世界に生きていて、

 

 

 二つの世界は、陸と海のようにハッキリ別れていて、交じり合う事はない。その事実が、何故か喉に刺さった魚の骨みたいにイライラさせ

 

 

「──―なあ、カミやん」

 

 

 少し低いトーンの蒼空の声が、上条の空回りする思考を切った。

 

 

「っと、どうした時雨?」

「ここら辺、違和感が……なんか、おかしくねーか?」

 

 

 根拠はないが、直感的に違和感を蒼空は感じ取った。

 

 

 その直感を信じて、蒼空は周囲を回す。目に付いたのはデパートの電光掲示板の時計だった。時計が示す時間は午後八時ジャスト。

 

 

「人がいない……?」

 

 

 上条が呟く。

 

 

 その呟きの通り、蒼空と上条以外の人がいない。いくら学園都市といえど、まだまだ人が眠る時間でもないはずなのに、辺りが夜の森みたいに酷く静まり返っている。

 

 

 そう言えばインデックスと一緒に歩いていた時から、誰ともすれ違っていない……? 

 

 

 蒼空と上条は首をひねりつつも、そのまま歩き続ける。さっきよりも少し早足で。

 

 

 そして、片側三車線の大通りに出た時、違和感は明確な『異常』に進化した。

 

 

()()()()()

 

 

 コンビニの棚に並ぶジュースみたいにずらりと並ぶ大手デパートには誰も出入りしていない。いつも狭いと感じる歩道はやけにだだっ広く感じられ、まるで滑走路みたいな車道には車の一台も走っていない。路上駐車してある車はそのまま乗り捨てられたように無人。

 

 

 まるでひどい田舎の農道でも見ているようだった。

 

 

「ステイルが人払いの刻印(ルーン)を刻んでいるだけですよ」

 

 

 ゾン、と。いきなり顔の真ん中に日本刀でも突き刺されたような、女の声。

 

 

 気づけなかった。

 

 

 その女は物陰に隠れていた訳でも背後から忍び寄ってきた訳でもない。蒼空と上条の行く手を遮るように、10メートルぐらい先の、滑走路のように広い三車線の車道の真ん中に立っていた。

 

 

 暗がりで見えなかったとか気がつかなかったとか、そんな次元ではない。確かに、一瞬前まで誰もいなかった。だが、たった一度瞬きした瞬間、そこに女は立っていたのだ。

 

 

(空間移動? 能力者……いや、なら気づけるはずだ。今の俺達の状況を考えたら似たような事ができる魔術師、って感じか)

 

 

 蒼空は考えを巡らせながらも、得体の知れない女に意識を集中させる。

 

 

「この一帯にいる人に『何故かここには近づこうと思わない』ように集中を逸らしているだけです。多くの人は建物の中でしょう。ご心配はなさらずに」

 

 

 理屈よりも体が──無意識に上条の右手に全身の血を集まっていく。ギリギリと手首をロープで縛られるような痛みに、上条も直感的にコイツはヤバイと感じ取った。

 

 

 女はTシャツに片脚だけ大胆に切ったジャージという、まぁ普通の範囲の服装ではあった。

 

 

 ただし、腰から拳銃のようにぶら下げた長さ2メートル以上もの日本刀が凍える殺意を振りまいていた。刀身は鞘に収まって見えないが、まるで古い日本家屋の柱みたいな歴史を刻んだ漆黒の鞘が、すでに『本物』を裏付けていた。

 

 

「神浄の討魔、ですか──―良い真名です」

 

 

 そのくせ本人は緊張した様子を見せない。まるで世間話のような気楽さが、かえって怖い。

 

 

(神浄の討魔……? カミやんの事か?)

 

 

「……、テメェは誰なんだよ」

「神裂火織、と申します。……できれば、もう一つの名は語りたくないのですが」

「もう一つ?」

「魔法名、ですよ」

 

 

 ある程度予想していたとはいえ、上条は思わず一歩後ろへ下がった。

 

 

 魔法名──ステイルが魔術を使って上条達を襲った時に名乗った『殺し名』だ。

 

 

「て事は、アンタもステイルと同じ魔術結社とかいう奴らの一人って事ね」

 

 

 上条とは反対に、蒼空は一歩前に出て言った。

 

 

「……?」

 

 

 神裂は一瞬だけ不審そうに眉をひそめ、

 

 

「ああ、禁書目録に聞いたのですね?」

 

 

 魔術結社。10万3000冊の魔道書を欲して、インデックスを追い回す『組織』。魔術を極め、世界の全てをねじ曲げると言われる、『魔神』と呼ばれる人間に辿り着く事を望む『集団』。

 

 

「率直に言って」

 

 

 神裂は片目を閉じて、

 

 

「魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

 

 

 ゾッとした。

 

 

 超能力者の蒼空でも、幻想殺しという切り札を持つ上条でも、目の前の敵に思わず悪寒を覚えた。

 

 

「保護、ねえ……嫌だ、って言ったら?」

 

 

 それでも、蒼空は言った。上条もそれに応えるように神裂を睨み、右手の拳を握る。

 

 

「仕方がありません」

 

 

 神裂はもう片方の目も閉じて、

 

 

「名乗ってから、彼女を保護するまで」

 

 

 ドン!! という衝撃が地震のように足元を震わせた。

 

 

 まるで爆弾でも爆発したようだった。視界の隅で、蒼い闇に覆われたはずの夜空の向こうが夕焼けのようなオレンジ色に焼けている。どこか遠く──―何百メートルも先で、巨大な炎が燃え広がっているのだ。

 

 

「イン、デックス……ッ!!」

 

 

 敵は『組織』だ。そして上条は炎の魔術師の名前を知っている。

 

 

「カミやんはインデックスの方に行け。コイツは俺が止めるから」

「けど──―!!?」

 

 

 瞬間、神裂火織の斬撃が襲いかかってきた。

 

 

 蒼空達と神裂の間には10メートルもの距離があった。加えて、神裂の持つ刀は2メートル以上の長さがあり、女の細腕では振り回す事はおろか鞘から引き抜く事さえ不可能に見えた。

 

 

 ──―、()()()()()

 

 

 なのに、次の瞬間。巨大なレーザーでも振り回したように蒼空達の頭上スレスレの空気が引き裂かれた。さらに蒼空達のすぐ後ろ──―斜め後ろにある風力発電のプロペラが、まるでバターでも切り裂くように音もなく斜めに切断されていく。

 

 

「やめてください」

 

 

 10メートル先で、声。

 

 

「私から注意を逸らせば、辿る道は絶命のみです」

 

 

 すでに神裂は2メートル以上ある刀を鞘に収めている。あまりに速すぎて蒼空達の目には刀身が空気に触れた所さえ見る事ができなかった。

 

 

 蒼空達は動けなかった。

 

 

 自分が今ここに立っているのは、神裂がわざと外したから──―かろうじてそう思うのが精一杯で、それさえ現実味が湧いてこない。

 

 

 ドズン、と音を立てて蒼空達の後ろで切り裂かれた風力発電のプロペラが地面に落ちた。

 

 

「……、ッ!」

「マジかよ……」

 

 

 あまりの切れ味に上条は思わず奥歯を噛み締める。蒼空も乾いた呟きを漏らすだけ。

 

 

 神裂は、閉じていた片目をもう一度開いて、

 

 

「もう一度、問います」

 

 

 神裂はわずかに両の目を細め、

 

 

「魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

 

 

 神裂の声には、よどみがない。

 

 

 まるで、この程度の事で驚くなと言わんばかりの、冷たい声だった。

 

 

「……カミやん、インデックスの方は任せた」

 

 

 もう一度、蒼空はそう言って、今度は上条の返事を待たずに上条を爆発のあった方へ転移させた。

 

 

 

 

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