学園都市 第7学区 7月20日
「ごめんくださーい! 時雨さーん!」
扉の外から激しいノックの音と共に聞き覚えのある声が聞こえてくる。その音で蒼空は目を覚ます。
「時雨さーん! 時雨蒼空さーん! 頼むから起きてくださーい!」
今日は夏休み初日。学校に登校する必要が無くなったことを記念し、昼ぐらいまでグッスリ寝ようと思っていたのに、目覚めが同級生男子のモーニングコールとは最悪の目覚めだ。昼までの睡眠時間を見込んでいたため、昨日夜更かししたのが余計に辛い。
蒼空はまだハッキリとしない意識のままで重たい体を引き摺りながら玄関まで向かう。玄関の扉を開くと、そこには慌てた様子の上条が立っていた。
「やっと起きた! 夏休みだからといって生活習慣を……いダダダ、痛い! ごめんなさい! 今度お詫びはさせていただきます! だから無言でアイアンクローするのを止めて!」
蒼空は上条の顔から手を離す。
「……朝から何の用だ。補習がある
残念ながら成績の奮わない……というかそもそも出席日数すら危うい上条さんは夏休み初日から補習のはずだ。ちなみに蒼空は出席日数こそ危うかったものの、成績は上条ほど悪くないため、補習は見事回避している。
「補習があるとかないとか、それどころじゃないんだって。早くこっちに来てくれ!」
何やら慌てた様子の上条。出席日数やらなんやらが危うい上条だが、理由もなく学校をサボるような人間ではない。多分、恐らく、きっと。少なくとも積極的にサボろうとは思っていないはずだ。そんな上条が今ここにいるということは、何かあったに違いない。
「……分かったよ」
とにかく、上条がここまで慌てているということは何かあったのだろう。不機嫌そうな声音ながらも、蒼空は上条に着いて行く。
「こっちだ!」
そのまま上条に着いていくとすぐ隣の部屋へと案内される。
「何だこの部屋、あっつ。しかも臭っ……!」
上条の部屋はめちゃくちゃ暑かった。冷房も扇風機も働かせていないのだろうか。さらに臭い。何かが腐ったような臭いだ。思わず蒼空の目も覚める。
「……その辺の文句はビリビリに言ってくれ」
「ビリ娘に? なんで?」
上条の部屋がクソほど暑いのは昨日の美琴とのいざこざで電気系統がイカれたのが原因だ。臭いのも冷蔵庫の機能が失われたことにより、中の食材が……といった感じだ。隣の蒼空の部屋は何ともなかったというのに、相変わらずの不幸さといったところだ。美琴は間接的に上条に勝ったと言っても過言ではないのではなかろうか。
それはさておき、だ。部屋の中へと入るとそこには黒ではなく、白い修道服を着た少女が上条のベッドに座っていた。
年齢は14歳といったところだろうか。可愛らしい顔立ち、長い銀髪、そして緑色の瞳。一度見たら忘れられないような印象的な容姿である。
「……えーと、誰? 妹さん? あんまり似てないけど」
一瞬の沈黙の後、蒼空は上条にそう問いかける。どう見ても兄妹には見えないが。
「私はね、インデックスなんだよ」
蒼空の質問には上条が答える前に少女が答えた。
「インデックス? グッ……!」
少女、インデックスの名前を呟いた時、蒼空の頭に頭痛が走った。
(そうだ、俺はその名前を知っている。また思い出した……)
「お、おい時雨、大丈夫か!?」
急にうずくまった蒼空に上条が声をかける。
「あ、ああ、大丈夫。それでインデックスさん? 俺は時雨 蒼空って言うんだ。よろしく」
「インデックスで良いよ! よろしくなんだよ!」
頭痛はスっとまるで嘘のように引いていった。そして改めて挨拶を交わす。
「さてと……」
インデックスと挨拶を交わし、蒼空はそう呟いて上条に顔を向ける。
「で、どういうことだ? 名前がインデックスってことはまあ兄妹じゃないだろ。ハッ……!! お前まさか、誘か……」
「そんなわけないでしょうが!!」
確かにそんなことをする人間じゃあないのは蒼空も分かっている。
「じゃあなんだ? 人に見られながらというアブノーマルなプレイするためか?」
「それも違う!! 断じて違う!! 実は……朝、ついさっき気づいたらベランダに引っかかってたんだ」
……
沈黙が流れる。その間に蒼空は頭を整理する。
(ベランダに引っかかってた? コイツ何言ってんの? だってここは7階だぞ? 人が引っかかってる訳が無い。確かにコイツは賢くはないが、決しておかしな頭をしているって訳じゃなかったのに……)
ちょっと考えてみてもそこにいる少女がベランダに引っかかっていたというのは信じられない。
「……じゃ、そういうことで」
とりあえずなんか面倒な事になりそうなので、蒼空は踵を返し、自身の部屋に戻ろうとする。そんな蒼空の服を上条が掴み、行かせまいとする。
「ほ、本当なんだって! そりゃ俺だってまだ信じられないですよ!? でも本当なんだ!」
少女がベランダに気づいたら引っかかっていた。つくならつくにしてももっとマシな嘘をつけと言いたいところだが、どうやら本当らしい。嘘をついているようには思えない様子だ。
「それでとりあえずこういう事に縁がありそうな奴に声を掛けようと思ったんだ」
「俺に声を掛けようとした理由に関しては後でじっくりと聞かせて貰うが、残念ながら何も知らないね」
「そうか、じゃあ本人に聞くしかないか」
「つーか一番最初にそれをしろ」
「いやあ、ちょっとパニックになってて。それにいざという時にお前を巻き込んどいた方が良いと思って」
「よし、お前には今度スリル満天のパラシュート無しスカイダイビングをやってもらおう」
上条の顔が引き攣る。空から地面へと泣きながら落ちていく自身の姿と、それを見る蒼空が大爆笑している映像が脳内で再生されたからだ。
「……と、とにかく聞いてみよう。なあインデックス、なんでお前は我が家のベランダに引っかかってたんだ?」
蒼空と上条はインデックスへと視線を向ける。
「それはね……」
と、インデックスが言い掛けた時だった。ぐうぅ〜〜と、腹が鳴った。音の源はインデックスである。
「それよりもお腹が空いてたんだよ。ご飯を振舞ってくれると嬉しいな」
コテっ、と、蒼空と上条は古典的なリアクションを見せるのだった。