とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

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19話 奇術師は終焉を与える《9》

 

 今度は上条の返事を待たずに上条を爆発のあった方へ転移させた。ステイルならばもう技のタネが分かっているし、蒼空の能力よりも上条の右手の方が相性が良い。逆に武器を持っている神裂は上条との相性が悪いと判断したからだ。

 

 

 神裂は上条がいきなり目の前から消えた事に、細めていた目を僅かに見開く。

 

 

「超能力、ですか。あなたは学園都市が誇る超能力者の一人だそうですが、それでもあなた一人で私をどうにかできるとでも?」

「……さあ、やってみないと分かんないな」

「そうですか」

 

 

 淡々とした口調。一切の感情を感じさせない声音で神裂は応えた。

 

 

 瞬、とほんの一瞬だけ、何かのバグみたいに神裂の右手がブレて、消える。

 

 

 轟! という風の唸りと共に、恐るべき速度で何かが襲いかかってきた。

 

 

 まるで四方八方から巨大なレーザー銃を振り回されるような感覚。

 

 

 それは、例えるなら真空刃で作り上げた巨大な竜巻。

 

 

 蒼空を台風の目にして、地面が、街灯が、一定の間隔で並ぶ街路樹が、まとめて切り裂かれた。宙を舞った握り拳ほどもある地面の欠片が蒼空の頬を掠める。

 

 

 視線だけで周囲を見回す。

 

 

 一本。二本、三本四本五本六本七本──―都合七つもの直線的な『刀傷』が平たい地面の上を何十メートルに渡って走り回っていた。

 

 

 チン、と刀が鞘に収まる音。

 

 

「まるで反応できていないようですが」

 

 

 神裂はその先を言葉にしなかったが、「その程度でどうにかできるとでも?」という続きの台詞が言外に伝わって来るようだった。

 

 

(コイツ……)

 

 

 神裂の言葉に蒼空は内心苛立ちを見せるが、しかし実際問題神裂が何をやったのか、まるで分からなかった。

 

 

「何度でも、問います。私は、魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが」

 

 

 右手を刀の柄に触れたまま、神裂は憎悪も怒りもなく、本当にただの『声』を出した。

 

 

 七回。たった一度の斬撃さえ見えなかったのに、あの一瞬で七回もの『居合い切り』を見せた。それも、その気になれば七回が七回とも蒼空の体を両断できる、必殺の七回。

 

 

(けど、刀が収まる音は一回だけ。これも魔術の力か?)

 

 

 加えて、2メートル以上もの刀身とはいえど、この距離まで届くとは思えない。たった一度の斬撃の射程距離を何十メートルにも引き伸ばし、たった一度刀を抜いただけで七つの太刀筋を生むような『魔術』があるのだ。

 

 

「私の七天七刀が織り成す『七閃』の斬撃速度は、一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルです。人はこれを瞬殺と呼びます。あるいは必殺でも間違いではありませんが」

「そうですか……」

 

 

 蒼空の姿が神裂の視界から消える。

 

 

「ならまずはその刀をどうにかしないとな」

 

 

 次に蒼空の声が聞こえたのは、神裂の背後からだった。その声に反応し、神裂は咄嗟に振り向く。それを見越していたかのように、蒼空は神裂が振り向くと同時にもう一度転移。

 

 

()った!)

 

 

 そのまま神裂の持つ刀に手を伸ばす。

 

 

 蒼空の能力は人が身に付けているモノを、例えば今の状況ならば神裂の持つ刀だけを転移させるにはその刀自体に直接触れなければ、刀のみを転移させる事はできない。

 

 

 だから刀を奪って『七閃』とやらを無力化するには直接神裂の刀に触れる必要がある。

 

 

 転移を用いた蒼空の動きは、常人では反応できないはずの速度だ。しかし蒼空の手が神裂の持つ日本刀に触れる前に、蒼空の体を衝撃が襲った。

 

 

 ドバギ、と痛々しい音が聞こえた。

 

 

「かハッ……!!?」

 

 

 強制的に肺の中の空気が吐き出された。肋骨の辺りを蹴り飛ばされた蒼空はそのまま5メートルほど吹っ飛ぶ。

 

 

 地面に体が叩きつけられる前に、蒼空は能力を使用。自身を転移させて距離をとり、ついでに体勢も立て直す。

 

 

「ぐっ……、げホッ」

 

 

 その一連の動作を終えたところで、ようやく痛みが遅れてやって来た。身体の芯を震わすような痛み。嫌でも呼吸が荒くなる。

 

 

(ただの蹴り……、だよな? なんつー威力だよ)

 

 

 神裂は女性にしてはかなり長身だが、それでもあれほどの威力の蹴りが女性に出せるとは思えない。というか性別など関係なく、ありえない威力の蹴りだった。しかも咄嗟の、体勢も不完全な蹴りで。

 

 

(肉体強化の魔術でもあんのか……? なんでもありじゃねーか)

 

 

「今の感触、骨が折れているはずです。まだ続けますか?」

 

 

 神裂は至って冷静だ。さっきまでと全く同じ声のトーンでそう言った。蒼空の能力など恐るるに足らないという事だろうか。

 

 

 神裂の声を聴きながら、蒼空は能力を自身の体に用いる。確かに、骨が折れている。

 

 

 能力で折れた骨を、骨が折れていなかった時まで時間を巻き戻す。蹴りによる痛みという感覚は消えないが、物理的なダメージは無くなった。

 

 

 一度、深呼吸して荒い息を整えると、

 

 

「全然余裕だよ。まだ始まったばっかだろーが」

 

 

 神裂を挑発するように、蒼空は神裂に言い放った。

 

 

 神裂はそんな蒼空の様子を見て、何も色がなかったその表情に、僅かに驚きの色が浮かんだ。

 

 

 蹴った時の感触からして、肋骨が何本か折れたはずだ。肋骨が折れているとなると呼吸をする度に体に痛みが走る。とても平然と体を動かせるような怪我ではないはずだ。

 

 

 まさかこの一瞬で治療した、とでも言うのか、と。

 

 

「……」

 

 

 神裂は今までの蒼空の行動を頭の中で整理する。まずは空間移動の能力、これは事前に調べた情報にもあった能力。そして再生、もしくは治癒の能力。

 

 

 学園都市の能力開発はこうも進んでいるのか、と神裂は驚愕と感心が混じったような感情を抱きつつ、刀の柄を握る。

 

 

 油断はしない。

 

 

 神裂の右手がブレる。

 

 

 ──―七閃。

 

 

 今度は牽制ではない。殺しはしない、が確実に体の自由を奪うつもりで放つ一撃。

 

 

 蒼空の目は神裂が何をしたのかを映してはいない。ただ風の唸りと共に、恐るべき速度で何かが襲いかかってくる事はもう分かっていた。

 

 

 瞬間、蒼空の周囲の地面が抉れられ、砂埃が舞い上がる。

 

 

 同じように転移で攻撃を躱して、攻撃を仕掛けて来るかと予想していたが、その気配はない。

 

 

 数秒後、砂埃が晴れていく。

 

 

「な……!?」

 

 

 今まで感情の変化を見せなかった神裂が、初めて目に見えて驚きを顔に浮かべた。

 

 

 神裂の視線の先にいるのはもちろん蒼空。『七閃』を受けて倒れ伏しているはずの蒼空は、一つの傷を受けた様子もなく立っていた。そして、何より驚いたのは『七閃』によって砕かれた地面の瓦礫が、蒼空の周囲に不自然に浮いている光景だ。

 

 

「これ、鋼糸(ワイヤー)……か?」

 

 

 真円の青い月の光に反射して、妖しく輝く七本の鋼糸。蒼空の体の目の前で不自然に動きを止めたそれは、神裂の手から伸びていた。

 

 

「魔術師じゃなくて、奇術師(マジシャン)ってか」

 

 

 あの馬鹿長い刀はただの飾りだったのだ。

 

 

 刀を抜いた瞬間さえ見えないのも無理はない。そもそも神裂は刀を抜いていない。ほんのわずかに鞘の中で刀を動かして、再び戻す。その仕草で、七本の鋼糸を操る手を隠していたのだ。

 

 

「これは返すよ」

 

 

 蒼空が手を払うように動かすと、鋼糸はまるで何かに押されるように神裂の元まで戻っていく。そして周囲に浮いていた瓦礫は道路の端に転移させた

 

 

「……どうやったのかは分かりませんが、安い七閃(トリック)を破ったくらいで得意にならないように。この七天七刀は飾りではありませんよ、七閃をくぐり抜けた先には真説の『唯閃』が待っています」

「へえ」

「それに何より──―、私はまだ魔法名を名乗ってすらいません」

 

 

 神裂は再び剣の柄を右手で握る。

 

 

「……」

 

 

 要するに、まだまだ力を隠しているという事だろう。

 

 

(さてと、どうしたもんかな)

 

 

 頭の中で今分かっている要素で戦略を組み立てる。

 

 

(とりあえず)

 

 

 さっき道路の端に転移させた瓦礫を神裂の頭上に転移させる。

 

 

 神裂の視界には入らない場所から転移させたが、神裂は難なく降り注ぐ瓦礫を躱す。

 

 

 この程度は避けられて当然と考えていた蒼空は神裂が動いたその先へ、周囲の砕けたアスファルトの瓦礫を再び転移させる。

 

 

 神裂は次は躱す事すらせず、降り注ぐいくつもの瓦礫を鞘に入ったままの刀をたった一振りしただけで、その全てを薙ぎ払った。

 

 

(まあそうですよね。んじゃ次は)

 

 

 自分の体を神裂の背後に転移させる。そのまま神裂の首を狙って蹴りを放つ。

 

 

「ワンパターンですよ」

 

 

 神裂は姿勢を低くして蒼空の蹴りを躱し、流れるような動作で振り向きざまに左の拳で蒼空の顎を狙うカウンター。

 

 

 しかしその拳は空を切る。視線の先には、再び転移で距離を取った蒼空の姿。

 

 

 その姿を確認すると同時に神裂は地面を蹴り、一足飛びで蒼空の眼前、七天七刀の間合いまで肉薄する。

 

 

 まずは至近距離での『七閃』。そして動作のフェイクではなく、七天七刀を抜刀。蒼空の意識を確実に刈り取る、首筋への峰打ちを狙う。

 

 

「速ぇー……、マジで人間の動きかよ」

 

 

 しかし、どの攻撃も蒼空には届いていなかった。先程の攻撃と同じように、蒼空に当たる前に不自然に空中で停まっている。

 

 

 怪訝そうな顔をする神裂を見て蒼空は口を開く。

 

 

「俺の能力……、外部の人間ならせいぜい書庫(バンク)の情報が精一杯かな。そこには空間移動系の能力って書いてあるけど、ホントは空間移動じゃなくて時間と空間に干渉して操る事ができるって能力なんだよね」

 

 

 神裂の表情が驚愕に染まる。その驚きが蒼空の能力へ向けられたものだという事は誰が見ても明らかだ。

 

 

「そんで俺は今、周りの時間の流れを限りなく遅くする力場みたいなものを発生させてんの。

 その力場に触れた瞬間から俺に近づいてくるモノは限りなく遅くなった時間の流れに従う。

 だからアンタの攻撃も()まったように見えてる訳。実際には動いてるんだけどな、分からないぐらいに超ゆっくりと。

 第一位みたいにオート反射とかできればいいんだけど……、今言うことじゃないな」

 

 

 蒼空が神裂の後ろへ転移すると、鋼糸と七天七刀は本来描くはずだった軌道をなぞった。

 

 

「だからこうして力場から離れると元の時間で動き出す。アンタもとんでもなく速いけど、コレは超電磁砲(レールガン)ぐらいなら余裕で……」

 

 

 蒼空はそこで言葉を区切る。

 

 

「ま、俺の能力の話はいいとしてだ。それよりもさ、なんでアンタはずっと手加減してんの?」

 

 

 蒼空は抱いていた疑問をぶつけた。

 

 

「んー……、手加減ていうか、殺す気じゃないよね。さっきのも峰打ちだったし」

 

 

 しようと思えば最初の一撃で蒼空と上条共々、意識を奪う事が可能だったはずだ。でも、しなかった。先程の攻撃だって峰打ちだった。

 

 

「……。あなたこそ、なぜ彼女にそこまでするのですか?」

 

 

 神裂は蒼空の問いには答えずに、質問で返してきた。

 

 

「質問を質問で……、まあいいや。別に、聞くほどの大した理由はねーよ」

 

 

 上条のように目の前で困っている少女を放っておけないからなんて主人公らしい真っ直ぐでカッコイイ理由は持ってない。

 ただ、神裂に背中を切られたって上条と蒼空を庇おうとしたインデックスに庇われっぱなしなのが性にあわないから、

 

 

 そして、

 

 

「俺はちょっと上条当麻(ヒーロー)の手助けをしたいだけだよ」

「……」

 

 

 神裂は何も言わない。

 

 

「アンタの質問には答えた訳だし、ちゃんとこっちの質問にも答えてもらおうか。アンタはあのステイルって奴とは違うらしい」

 

 

 蒼空の目から見て、神裂は上条に近いように思える。敵にすら手加減して、それに何度も何度も「魔法名を名乗りたくない」と、聞いてきた。それはつまり、蒼空と上条を「殺したくない」と言っているという事だ。

 

 

 何も言葉を返してこない神裂を見て、蒼空は言葉を続ける。

 

 

「なんなら俺なんかよりよっぽどまともな感性してるよ。そんな奴がさ、なんでインデックスにあそこまでするんだ? 寄ってたかって追い回して、しまいには背中切って。

 知らねーかもしれねえけどさ、インデックス(アイツ)は記憶まで失ってんだぜ」

 

 

 不治の病の子供のためだとか、死んでしまった恋人のためでも良い。何か『望み』があってインデックスを狙うなら、10万3000冊を手に入れて世界の全てを歪める(らしい)『魔神』になろうと言うなら、まだ分からなくもない。

 

 

 けど、違う。

 

 

 神裂は『組織』の一人だ。言われたから、仕事だから、命令だからインデックスを追っている。けど蒼空にはそんな一言で、一人の女の子を追い駆け回して背中を斬るような人間には思えない。

 

 

 沈黙。

 

 

「……答えないならもういーけど。続きをするなら魔法名を名乗る事をオススメしとくぜ。俺も殺す気でするから」

 

 

 そう言って蒼空は、頭の中でスイッチを切り替えようとした時だった。

 

 

「……私だって」

 

 

 今まで沈黙を貫いていた神裂が口を開いた。

 

 

「私だって、本当は彼女の背中を斬るつもりはなかった。あれは彼女の修道服『歩く教会』の結界が生きていると思ったから……絶対傷つくはずがないから斬っただけ、なのに……」

「な……!?」

 

 

 神裂が発したのは衝撃的な台詞だった。

 

 

 蒼空には神裂の言っている意味が分からない。

 

 

「私だって、好きでこんな事をしている訳ではありません。けど、こうしないと彼女は生きていけないんです。……死んで、しまうんですよ」

 

 

 神裂火織は、泣き出す前の子供みたいに言った。

 

 

「私の所属する組織の名前は、あの子と同じ、イギリス教会の中にある──―必要悪の教会」

 

 

 血を吐くように、言った。

 

 

「彼女は、私の同僚にして────―大切な親友、なんですよ」

 

 

 

 




主人公が五条悟みたいな事してる。
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