とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

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21話 魔道書は静かに微笑む《2》

「――――うるっせえんだよ、ド素人が!!」

 

 

蒼空の声は神裂の咆哮によって掻き消された。言葉遣いも何も、全てを剥ぎ取った剥き出しの感情が蒼空の心臓を握り潰そうとする。

 

 

「知ったような口を利くな!!私達が今までどんな気持ちであの子の記憶を奪っていったと思ってるんですか!?分かるんですか、あなたなんかに一体何が!あなたはステイルが一体どんな気持ちであの子とあなた達を見てたと思ってるんですか!?一体どれほど苦しんで!大切な仲間のために泥を被り続けるステイルの気持ちが、あなたなんかに分かるんですか!!」

「い……、」

 

 

あまりの豹変ぶりに驚いて声をあげようとした蒼空の土手っ腹に、神裂の膝が突き刺さる。

 

 

「ゲホッ……!」

 

 

能力は会話の間に解けてしまっていた。神裂の語った内容に、そして神裂の話す様子を見て、集中力を欠いていた。

 

 

(やば、油断した……)

 

 

だから神裂の膝が停まる事はなかった。

 

 

一瞬、蒼空の体が浮き上がり、そのまま膝から崩れ落ちるように地面に倒れる。

 

 

ドス、という鈍い音。

 

 

七天七刀の鞘、その平たい先端が、ハイヒールの踵のように蒼空の肩を硬いアスファルトの地面に抑えつけた。

 

 

転移すれば簡単に逃れられる。けれど、抵抗する気は起きなかった。

 

 

蒼空の目の前には、血の涙でも流しかねない、神裂の顔。

 

 

神裂の実力だとか、蒼空の能力ならとか、関係ない。これほどまでに感情をぶつけられて、反論する気も抵抗する気も、起きなかった。

 

 

「私達だって頑張ったよ、頑張ったんですよ!春を過ごし夏を過ごし秋を過ごし冬を過ごし!思い出を作って忘れないようにたった一つの約束をして日記や写真を胸に抱かせて!」

 

 

まるで電動ミシンの針のように鞘の先端が連続して降り注いだ。

 

 

腕、脚、腹に胸に顔に―――次々と降り注ぐ鈍器が体のあちこちを潰していく。

 

 

「……、それでも、ダメだったんですよ」

 

 

ギリ、と奥歯を噛み締める音が聞こえて、

 

 

ピタリと、手が止まった。

 

 

「日記を見ても、アルバムの写真を眺めても……あの子はね、ゴメンなさいって言うんですよ。それでも、一から思い出を作り直しても、何度繰り返しても、家族も、親友も、恋人も、全て……ゼロに還る」

 

 

ガチガチと震えて、もう一歩も動けないという感じで。

 

 

「私達は……もう耐えられません。これ以上、彼女の笑顔を見続けるなんて、不可能です」

 

 

あの性格のインデックスにとって、『別れ』は死のような苦痛だろう。

 

 

それを何度も何度も味わっていく、地獄のような在り方。

 

 

死ぬほどの不幸(別れ)と、直後にそれを忘れて再び決められた不幸へ走っていく無惨な姿。

 

 

だから、神裂達は残酷な幸福(であい)を与えるより、できうる限り不幸を軽減する方法を選んだ。初めからインデックスが失うべき『思い出』を持たせなければ記憶を失う時のショックも減る。だから、親友を捨てて『敵』である事を認めた。

 

 

インデックスの思い出(すべて)を真っ黒に塗り潰す事で。

 

 

インデックスの地獄(さいご)を、少しでも軽いモノにしようとした。

 

 

「……、」

 

 

何となく、分かった。

 

 

コイツらは魔術のプロだ。不可能を可能にする連中だ。インデックスが何度も記憶を失っていく中で、『記憶を失わなくても済む方法』をずっと探し続けたはずだ。

 

 

だけど、それはたったの一度さえ叶わなかった。これほどの力を持ってしてもだ。

 

 

そして、記憶を失ったインデックスはステイルや神裂を責めるはずもない。

 

 

いつものように、いつもの笑顔で。

 

 

ゼロから接せられる事で、神裂達は自分で自分を責め、堕とす以外に道を失った。

 

 

「……どうして、抵抗しないんですか。あなたの力なら対処する事も容易いでしょう」

 

 

神裂は荒くなっていた呼吸を少し落ち着かせて、抵抗もなく倒れている蒼空にそう言った。

 

 

「……お前らの理屈を理解しちまったからだよ。俺なんかよりも、よっぽどインデックスを想って戦ってるってのが分かったから」

 

 

抵抗できなかった。

 

 

「でも、お前らの理屈を認めた訳じゃねえぞ。お前らがインデックスのために必死に戦ってきたのも伝わってきた。それでも、認めねえ。だってそれはお前らの勝手な理屈で、お前らの臆病のツケをインデックスに押し付けてるだけ、だからな」

 

 

この一年間、インデックスは誰にも頼れずにたった一人で逃げ続けてきた。自分の生きている世界を『地獄』とまで言っていた。

 

 

それが一番正しかった選択だとは認めたくない。認められない。

 

 

「じゃあ。他に……どんな道があったと言うんですかッ!」

 

 

神裂は、七天七刀の鞘を掴むと蒼空の顔面目掛けて思いっきり振り下ろした。

 

 

蒼空はその攻撃を顔だけを動かし、ギリギリで躱す。

 

 

「……、さあな。まあアイツならきっと、記憶を失うのがどれだけ怖くても、もっと幸せな記憶を与えて、記憶を失うのが怖くないと思わせればいいだけの事だろ。とか言うんだろうな」

 

 

どこまでも優しく、真っ直ぐな上条ならきっと諦めない。再び立ち上がって、またインデックスのために拳を振るうはずだ。

 

 

「けど俺は、アンタらが間違ってるって思っても、これ以上戦う気はない」

 

 

あれだけの感情を思いっきりぶつけられたから。神裂達の理屈も、間違ってる、認めたくないと思う一方で、仕方ないとも思ってしまった。

 

 

だからもう、自分は神裂に抵抗する気はない。する資格もないと思う。

 

 

「俺達もアンタらも、インデックスを助けたい。だったらこれ以上戦う意味なんてねーだろ」

 

 

だけど、このまま諦めるつもりもない。

 

 

「……なあ、アンタらもさ、探したんだろ。インデックスが記憶を失わなくて済む方法」

 

 

蒼空は上半身だけを起こし、神裂を見る。

 

 

聞くまでもなく、当然探したはずだ。

 

 

「俺達にも探す時間をくれ」

 

 

残りの時間で、インデックスが記憶を失わなくて済む方法を探す。それが蒼空の『諦めない』だ。

 

 

「インデックスが記憶を失わなくて済む方法を探す、その時間をくれ」

 

 

神裂は目の前の少年を見る。

 

 

目の前の少年の目に、敵意はない。言葉でこちらを騙すつもりもないだろう。もとより、この少年と、あのツンツン頭の少年はインデックスのために戦っていた。

 

 

「頼む……、」

 

 

蒼空の蒼い瞳が、真っ直ぐに神裂を見据えていた。

 

 

「……いいでしょう。もう一度この刃をあなた達に向けるような事にはならない事を願ってますよ」

 

 

そう言うと神裂は七天七刀を鞘に納め、蒼空の視界から姿を消した。

 

 

神裂が消えたのを確認すると、蒼空は立ち上がる。

 

 

「体痛ぇ……、あと三日か」

 

 

腹を抑えながら力ない声で呟く。蒼空の能力では傷は治せても痛みまで消える訳では無い。

 

 

インデックスの記憶を消すまでのタイムリミットはあと三日、その間にインデックスの記憶を消さなくて済む方法を探さなければならない。

 

 

蒼空から見れば超能力よりも万能に思える魔術でも、不可能だった事。できるかどうかは分からない。けどそれは、このまま何もしないでタイムリミットを迎える理由にはならない。

 

 

それにきっと、アイツなら。上条当麻なら決して諦めることはないだろう。

 

 

「ま、最後まで探すしかねーな」

 

 

誰もいない、たった一人、道路のど真ん中で蒼空は呟いた。

 

 

 

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