「ねえそら、君は私の言ってること信じてくれるよね?」
「ああ〜……いや、悪いけどインデックス、それに関しては俺もちょっと信じ難いな。個人的には都市伝説とかのオカルトちっくなものは好きなんだけどな」
「でも……魔術だって当然だもん」
インデックスはふてくされた様子を見せる。
「そうだな、例えばジャンケンってあるだろ。あ、ジャンケンは分かる?」
「知ってるよ」
「じゃあそのジャンケンを俺とインデックスが十回やってインデックスが十回連続で負けたとしよう。そこになんか理由があると思うか?」
「…………む」
「ないでしょ? けど、そこに何かあるって考えちまうのが人間ってもんだ。
インデックスだってこう思うんじゃないか? 自分がこんなに連続で負けるはずがないって。そこにはきっと何か見えない法則があるはずだって。
じゃあそんな風に思った人間の頭の中に例えば『星占い』を混ぜたらどうなる?」
「…………蟹座のあなたはついてないから勝負はやめておけ、とか?」
「そそ。俺達の間じゃ、非現実の正体ってのはソレなんだ。運とかツキとか、見えない歯車を夢見る瞬間。ただの偶然のようなちっさい現実を、必然と勘違いする心。それが非現実さ」
インデックスはしばらくむすーっとしていたが、
「頭ごなしに否定するって訳でもないんだね」
次は上条が口を開く。
「ああ、だからこそ、真剣に考えているからこそ、カビ臭い昔話はダメなんだ。絵本に出てくるような魔術師なんて信じられない。MPを消費すれば死人が復活するなら誰も育脳なんかしやしねーしな。まったくもって『科学』と無関係な代物は、やっぱり信じらんねーよ」
超能力なんて代物が『不思議』に見えてしまうのは単に人間がソレを知らないだけで、ここでは超能力さえ『科学』で説明できてしまうというのが常識なのだ。
上条の言葉に蒼空も頷く。
「…………けど、魔術はあるもん」
むーっと口を尖らせながらインデックスは言う。おそらく、彼女にとっては心を支える柱のようなモノなんだろう。蒼空と上条にとっての超能力と同じく。
「まぁ良いけど。で、何でソイツらがお前を狙ってるって────」
「魔術はあるもん」
上条の言葉を遮ってインデックスは言う。
「……」
「魔術はあるもん!」
どうやら意地でも認めて欲しいみたいだ。ならばと、蒼空は問いかける。
「そこまで言うならインデックス、インデックスが魔術を使って見せてくれれば俺もカミやんも信じられるかもしれないぞ」
「魔力がないから、私には使えないの」
「え?」
カメラがあるので気が散ってスプーンを曲げられません、というダメな能力者を見たような気がした。上条もなんじゃそりゃという表情を見せる。
とはいえ、少しもやっとするような、複雑な気分であるのも事実だ。オカルトなんてない、魔術なんてありえないと言っておきながら、実は蒼空も上条も自身の能力のことをよく知らない。なぜ生まれつき、なぜ科学的な時間割りで後付けされたものではなく、生まれた時からその身に、その右手に宿っているのかを。
この世に『不思議なもの』なんてない、と言っておきながら自分達自身が常識を無視した非現実ではないか。
「……魔術はあるもん」
「……分かった。それじゃあ魔術があるとしよう。あるとして、インデックスが追われる理由は何なんだ?」
「……私は、禁書目録だから」
「は?」
「私の持ってる、10万3000冊の魔道書。きっと、それが連中の狙いだと思う」
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再びの長い沈黙。
「……時雨さんや、上条さんはもう頭がパンクしそうなんですが」
インデックスには悪いが、蒼空も上条に全くの同感だ。
「えっと……その魔道書? っていうのはつまり『本』ってことだよな?」
「うん。エイボンの書、ソロモンの小さな鍵、ネームレス、食人祭祀書、死者の書。代表的なのはこういうのだけど。死霊術書は有名すぎるから亜流、偽書が多くてアテにならないかも」
「いや、本の中身はどうでも良いんだ。どうせラクむぐっ!」
どうせラクガキ、と言いかけた上条の口を蒼空が塞ぐ。目で「これ以上インデックスを面倒臭くするな」と訴えながら。
「ほ、本の中身の事は俺達は分からないから置いといて、その本はどこにあるんだ?」
10万冊といったら図書館一つ丸々レベルの数だ。しかし、どう見てもインデックスがそんな数の本を持っているようには思えない。というか一冊だって持っていない。
「どっかの倉庫の鍵でも持ってるって意味なのか?」
上条が言う。確かにそれなら納得出来る。しかし、インデックスは「ううん」と首をふるふる横に振った。
「ちゃんと10万3000冊、一冊残らず持ってきてるよ?」
「「は?」」
蒼空と上条の声が重なる。そして上条は眉をひそめて、
「バカには見えない本とか言うんじゃねーだろーな?」
「バカじゃなくても見えないよ。勝手に見られると意味がないもの」
インデックスの言葉は飄々としており、何故だか馬鹿にされた気分になる。
ひょっとしたら『誰かに追われている』というのも単なる妄想なんじゃないだろうかと上条は思う。ただの妄想で八階建ての屋上からジャンプして、一人で勝手に失敗してベランダに引っかかったとしたら。そんな人間とはもう付き合いきれない。上条と同じように、蒼空も流石にインデックスのことを疑う。
「……超能力は信じるのに、魔術を信じられないなんて変な話」
蒼空と上条の考えを察したのか、むすっと、口を尖らせてインデックスは言う。
「そんなに超能力って素晴らしいの? ちょっと特別な力を持っているからって、人を小馬鹿にしていいはずがないんだよ」
インデックスの言葉に蒼空と上条は顔を見合わせる。
「ま、そりゃそーだわな」
上条は小さくため息をつきながら言う。
「確かにインデックスの言う通り、超能力が使えるからって人の上に立てるって考え方は違う」
まあ、自分はその能力でこの学園都市の頂点に立っている訳だけど、と蒼空は少し自嘲気味に笑う。
「時雨も言ってる通り、こんな一発芸を持っていても人の上に立てるって考え方は間違ってる。けど、この街に住んでる人間にとっては能力を持ってる事が一個の心の支えになってから、そこら辺は大目に見て欲しいかな。ってか俺達も能力者の一人なんだけど」
「そうだよバカ、ふん。頭の中いじくり回さなくったってスプーンぐらい手で曲げられるもん。だいたいとうま達にだって何ができるって言うのさ」
確かに、インデックスから見れば超能力だって蒼空達から見る魔術と同じかもしれない。蒼空達が魔術を信じられないように、インデックスも超能力を信じられない。
「……えっと。何がって言うか、俺の能力はちょーっと説明しにくいと言うか」
上条はちょっと戸惑う。上条の幻想殺しについて誰かに説明することは滅多にない。『異能の力』に作用する以上、相手に異能や超能力について知っていて貰わないと説明にならない。
中途半端に終わっているのは許してください。