とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

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04話 魔術師は塔に降り立つ《4》

 

「ほらやっぱり、超能力だのなんだの言って口だけなんだね」

 

 

 勝ち誇ったように言うインデックス。そんなインデックスを見て上条の額に青筋が浮かぶ。

 

 

「こ、コイツ……俺の能力は右手で触れるとそれが異能の力なら、原爆級の火炎の塊だろうが戦略級の超電磁砲だろうが、神の奇跡だって打ち消せます! はい!」

「えー?」

「なんだその胡散臭い通販を見ているような目は」

「だってー、神様の名前も知らない人にー、神様の奇跡だって打ち消せますとか言われてもー」

 

 

 驚くべき事にインデックスは小指で耳の穴をほじって鼻で笑いやがったのだ。

 

 

「おお、確かに」

 

 

 蒼空もインデックスの言葉に納得し、そう言いながらポンと手の平を叩く。

 

 

「確かにじゃなーい! だいたいコイツだって魔法はあるけどアナタには見せられませんなんて言ってるインチキ魔法少女じゃねーか!」

「だから魔術はインチキじゃないもん!」

「だったら見せてみろや! ソイツを俺の右手でぶち抜きゃお前の魔術も俺の幻想殺しも証明できて万々歳だろ!」

「いいもん、見せる!」

 

 

 互いにヒートアップしている上条とインデックス。ついにインデックスはむきーっ! という感じで両手を振り上げて、

 

 

「これっ! この服! これは『歩く教会』っていう極上の防御結界なんだからっ!」

 

 

 インデックスは両手を広げて自分が着ている白い修道服を強調してみせる。

 

 

「防御結界か、さっきも言ってたな」

 

 

 蒼空が呟く。やっぱり意味はさっぱり分からないが。

 

 

「そんなことはどうでも良いんだ。なんだよ『歩く教会』、防御結界って! 説明するなら専門用語を使うんじゃなくてもっと噛み砕いてしやがれ! それが説明ってもんなんだよこの不親切野郎!」

「なっ……ちっとも理解しようと思わない人が言う台詞!? だったら論より証拠! ほら、台所にある包丁で私のお腹を刺してみる!?」

「うん、じゃあ刺してみる! ……ってなるか!」

「あ、信じてないね。これは『教会』として必要最低限の要素を詰め込んだ……」

 

 

 インデックスはつらつらと『歩く教会』について語る。

 

 

「私は背中を撃たれてベランダに引っかかってたけど、この『歩く教会』がなかったら風穴が空いてたところだったんだよ。そこんとこ分かってる?」

 

 

 うるせーばか。上条は口には出さずとも呟いた。

 

 

「分かったよ、全然分からんけど分かったよ。要するにそれが『異能の力』だってんなら、俺の右手が触れただけで木っ端微塵、って訳だな?」

「君のチカラが本っっっ当な・ら・ね? うっふっふーん」

 

 

 上等だゴルァ!! と上条はインデックスの肩をがっちり掴んでみる。と、確かに雲を掴むような──柔らかいスポンジに衝撃を吸収されるような変な感覚がした。そしてここから先の展開をひと足早く察した蒼空は少し後ろに下がり、両目を手で塞ぐ。

 

 

「て…………あれ?」

 

 

 頭が冷えてきた上条は、ちょっと考えてみる。もし仮に。インデックスの言う事が全部本当だったとしたら。その『歩く教会』が『異能の力』で練り上げられているとしたら? 

 その『異能の力』を打ち消してしまうという事は、つまり服がバラバラに? 

 

 

「あれぇぇぇええええええええええ────────!?」

 

 

 蒼空が辿り着いた考えに上条も遅れて気づく。あまりに唐突な大人の階段の予感に上条は反射的に絶叫する、が……。

 

 

 ……。……、……? 

 

 

「────────ええええええ、え……って。あれ?」

 

 

 起きない。何も起きない。良かったような残念だったような、何かやりきれないモノを感じる上条だった。

 

 

「ほらほらほら何が幻想殺しなんだよ。べっつに何にも起きないんだけど?」

 

 

 ふっふーん、という感じで両手を腰に当てて小さな胸を大きく張るインデックスだったが、次の瞬間、プレゼントのリボンをほどくようにインデックスの衣服がストンと落ちた。

 

 

 修道服の布地を縫っている糸という糸が綺麗に解けて、本当にただの布地に逆戻りしている。

 一枚布の、帽子のようなフードだけは服から独立していたせいか無事で、頭の部分にそれだけ載っかっていると逆に切ない気持ちになる。

 

 

 ふっふーん、という感じで両手を腰に当てて小さな胸を大きく張ったまま凍りつく少女。

 詰まる所、インデックスは完全無欠に素っ裸だった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 インデックスは怒ると人に噛み付く癖があるらしい。蒼空はその危険を察しての行動が功を奏し、その被害に会うことはなかったが。

 

 

「痛ったー……。あちこち噛み付きやがって、合宿ん時の蚊かお前は?」

「……」

 

 

 返事はない。

 

 

 修道服は蒼空の能力で修復したが、インデックスは着替える間もなく毛布にくるまって蹲っており、重たい空気が部屋を支配していた。

 

 

「……あの」

 

 

 ヘビみたいな目で睨まれた。視線で蒼空に助けを求めてみるが蒼空は座ったままで狸寝入りを決め込んでいる。

 

 

「……あの」

「……なに?」

「今のは100%俺が悪かったんでせう?」

 

 

 返事の代わりに目覚まし時計が飛んできた。蒼空の部屋のものなどはお構い無しだ。ひぃ! と上条が絶叫すると同時に、続いて枕、そしてこの部屋には存在しないはずのものまで飛んでくる。

 

 

「で、でも服自体は時雨が元に戻してくれた訳ですし……」

 

 

 上条はお供え物のようにインデックスの傍に蒼空が直した修道服を置く。

 

 

「そういう問題じゃないんだよ。あれだけのことがあったっていうのに、どうして普通に話しかけられるんだよう!?」

「あーいえ! 大変ドギマギしておりますというか青春ですねというか!」

「バカにして……ぅぅうううううううう!!」

「分かっ……謝る、謝るから! ここ一応時雨の部屋だから、俺の部屋の物だったら我慢しなくもないけど、人のもんなんだからハンカチみたいに噛むな馬鹿!」

 

 

 ははーっ、とギャグみたいに両手をついて土下座モードの上条当麻。

 

 

 というか、史上初の女の子の裸に内心、上条は心臓を握り潰されるかと思っていた。顔には出さないオトナな上条当麻である。

 

 

 ……と、思っているのは本人だけで、傍から見ればエライ事になっている。幸いインデックスはベッドの隅で蹲っているし、それに気づいたのは傍から見ている蒼空だけだが。

 

 

 未だに重たい空気が部屋に漂う中、インデックスは修復された修道服を手に取り着替え始める。

 

 

「…………何で見てるのかな? せめてあっち向いて欲しいかも」

「あんだよ別に良いじゃんよ。着替えなんてエロくねーだろ」

 

 

 蒼空とインデックスは同時にコイツマジか、というジト目を上条に送る。そんな視線を受けても上条はまるで気づいていないようなのでインデックスは諦めてもそもそと毛布の中で着替え始める。その間も蒼空は上条にジト目を向けていた。

 

 

 何となく、会話がないエレベーターのような気まずい雰囲気が漂う。そんな中で上条の頭の中に『夏休みの補習』という言葉が浮かんできた。

 

 

「うわっ! そーだ補習だ補習!」

 

 

 携帯電話の時計を確認する。

 

 

「えっと、俺これから学校行かなきゃなんないんだけど、お前どーすんの?」

 

 

 既に叩き出すという選択肢は上条の中から消えていた。まあ……ここは蒼空の部屋な訳だが。蒼空だって頼めば放ってはおかないだろうし、隣の自分の部屋を貸しても良い。

 

 

 インデックスの修道服『歩く教会』とやらが幻想殺しに反応した以上、やはり彼女も『異能の力』に関わっている事は間違いない。そうなるとインデックスが言っていたことも100%ウソではないという事になる。

 

 

 例えば、魔術師達に追われてビルの屋上から落ちた事とか。

 例えば、インデックスはこれからも命懸けの鬼ごっこを続ける事とか。

 

 

 そういう事を抜きにしても、あんなずーんとしたインデックスはそっとしておきたい、という感情もある訳だが。

 

 

「とにかくあとは時雨、頼んで良いか?」

「あいよ」

 

 

 蒼空が手をフリフリしながらそう言うと、上条は勢い良く部屋を飛び出した……ところでドア枠に高速で小指が直撃した。

 

 

「ばっ、みゃ! みゃああ!!」

 

 

 片足を抑えて奇声を上げる上条。あまりの激痛に大暴れしようとした上条のポケットからスルリと携帯電話が滑り落ちた。あっ、と気づいた時には固い床に激突した液晶画面がビキリと致命傷な音をたてる。

 

 

「ぅ、ううううう! ふ、不幸だ」

 

 

 いつも通りの鮮やかな一連の流れに蒼空が関心していると、「不幸というより、ドジなだけかも」とちょっとだけインデックスが笑った。

 

 

「けど、幻想殺しっていうのがホントにあるなら、仕方がないかもしれないね」

「……どういうことでしょう?」

 

 

 上条が涙目になりながら聞く。蒼空も首を傾げた。

 

 

「うん、こういう魔術の世界のお話なんて君は信じないかもしれないけど、神様のご加護とか、運命の赤い糸とか。そういうものがあったとしたら、君の右手はそういうものもまとめて消してしまっているんだと思うよ?」

「待てよ。幸運だの不幸だのって言葉は、確率と統計のお話だぜ? んなのある訳……、ッ!」

 

 

 言った瞬間、ドアノブに触れていた上条の指に壮絶な静電気が襲いかかった。な!? と反射的に体がビクンと震えると、筋肉が変な風に動いたのかいきなり右足のふくらはぎがつった。〜〜ッ!! と、悶絶することおおよそ600秒。もはや芸術的とさえ思えるほどの流れるような不幸。

 

 

「…………………………………………あの、しすたーさん?」

「なに?」

「…………………………………………ごせつめいを」

「ご説明っていうか、君の右手の話が本物ならね、その右手があるだけで『幸運』ってチカラもどんどん消していってるんだと思うよ?」

「…………………………………………つまり、あれですか?」

「君の『右手』が空気に触れてるだけで、バンバン不幸になっていくって訳だね」

「ぎゃあぁぁああああああああ!! ふ、不幸だぁぁああああ!!」

 

 

 オカルトをまるで信じない上条だが、こと自身の『不幸』に関してのみは別腹だった。とにかく大宇宙の悪意のようなものを感じてしまうほど上条は思った事が上手くいかない人間なのだ。

 

 

「何が不幸って、君。そんな力を持って生まれてきちゃった事がもう不幸だよね」

 

 

 にっこりと笑顔のシスターに思わず上条は涙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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