とある魔術の転生者《リンカーネイター》   作:牛丼肉なし

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05話 魔術師は塔に降り立つ《5》

 

 

 インデックスに自身の右手の不幸を伝えられた上条は、絶叫した後にとぼとぼと学校へ向かった。

 

 

「で、インデックス、結局これからどうするつもりなんだ?」

 

 

 上条にも頼まれたことだし、蒼空としてもインデックスを無下に扱うつもりは無い。

 インデックスの着ている『歩く教会』とやらの修道服が上条の幻想殺しによって破られたという事は、インデックスも異能の力に関わりのある人間という事だ。

 つまりインデックスが魔術師に追われていた。というのも蒼空はウソではないと思っている。というかそもそも蒼空は上条ほどインデックスの話を疑ってはいなかった。

 まあ魔術や魔術師云々は置いておくとして、インデックスが嘘をついているような様子がなかった。なら何者かに襲われている少女を放っておこうとは思えない。

 あの上条ほど正義感に溢れているつもりはないが、このままインデックスを見捨てるほど冷たくはないつもりだ。

 

 

「……出て行くよ」

「別に遠慮しなくてもいいんだぞ?」

「ううん、ここにいると『敵』が来ちゃうから」

 

 

 そう言うとインデックスは立ち上がり、玄関まで向かう。

 

 

「だったら、なおさら外を出歩くよりも部屋の中にいた方が良いだろ」

「そうでもないんだよ」

「居場所を見つけるような魔術でも使ってくるとか?」

 

 

 蒼空が冗談交じりにそう言うと、インデックスは自身の修道服を摘みながら「その通り」と返してきた。

 

 

「この服、『歩く教会』は魔力で動いてるからね。簡単に言っちゃえば、敵はこの『歩く教会』の魔力を元に探知をかけてるみたいなんだよね」

「……何でそんな服着てんのさ」

 

 

 そんなものわざわざ自分から追ってきてくださいと言っているようなものだ。

 

 

「それでもこれの防御力は法王級だからなんだよ? これはトリノ聖骸布──神殺しの槍に貫かれた聖人を包み込んだ布地を正確にコピーしたモノだから、強度は絶対なんだよ。君達で言うなら核シェルターって感じかな。物理・魔術を問わず全ての攻撃を受け流し、吸収しちゃうんだから」

「ああ、さっきも言ってたな。それがなかったら風穴が空いてたって」

「そうなんだよ」

 

 

 そう言うインデックスはどこか自慢げだ。インデックスの説明を聞いても蒼空はよく分からなかったがまあ凄いモノなんだろう。しかし……

 

 

「その防御、さっき破られてなかった?」

 

 

 ビシィとインデックスが固まった。

 

 

「………………」

「アイツの右手に」

 

 

 そう言うと、インデックスは涙目になる。

 

 

「あ、いや、でも元に戻したし。ほら、壊れたからその発信機的な機能もなくなってるんじゃないか?」

「それでも『歩く教会が壊れた』って情報は伝わっちゃうよ。さっきも言ったけど、『歩く教会』の防御力は法王級なの、簡単に言えば『要塞』みたいにね。……私が敵なら、理由はどうあれ『要塞』が壊れたと分かれば迷わず打って出ると思う」

「ちょっと待った。だったら尚更ここにいた方が良いだろ。魔術とかは一旦置いとくとして、追われてる奴を放っとくのは……それに、アイツだっていざって時には頼りになる奴だぞ。普段はアレだけど」

 

 

 インデックスはきょとんとする。本当に、本当に。その顔だけ見ているとただの女の子にしか見えなくて、

 

 

「……じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」

 

 

 にっこり笑顔だった。

 

 

「……ぁ、ぇ」

 

 

 しかしそれはあまりに辛そうな笑顔で、蒼空は言葉の全てを失った。インデックスは優しい言葉を使って暗にこう言っていた。

 

 

 こっちにくんな。

 

 

「大丈夫だよ、私も一人じゃないもの。とりあえず教会まで逃げ切れば匿ってもらえるから」

「その教会ってのはどこに?」

「ロンドン」

「遠すぎ! 何キロ逃げるんだよ!」

 

 

 告げられた海の向こうのその目的地に蒼空は思わずツッコむ。

 

 

「うん? 大丈夫だよ。日本にもいくつか支部があると思うし」

「……そりゃそうか。学園都市にもあるにはあるな」

 

 

 蒼空自身、長いことこの学園都市で暮らしているが利用したことは一度もない。そもそも日本自体、十字教という文化に乏しい。蒼空が見た事のある教会なんて、プレハブ小屋のてっぺんに十字架が載っかってあるものぐらいだ。逆に豪勢で煌びやかな教会というのはそれはそれでどうかと思うが。

 

 

「うーん。けど単純に教会ってだけでもダメなんだよ。私の所属してるのは英国式だから」

「教会にも色々種類があるのか?」

「うん。単純に十字教といっても色々あるの。まずは旧教と新教。さらに私の属する旧教でも、バチカンを中心とするローマ正教、ロシアに本拠地を置くロシア成教、そして聖ジョージ大聖堂を核とするイギリス清教って感じで色々あるの」

「ほー、じゃあ他の教会に行ったらどうなるんだ?」

「門前払い」

 

 

 インデックスは苦笑しながら言った。

 

 

「ロシア成教やイギリス清教はそれぞれの『国の中』にしかないからね。日本でイギリス清教の教会ってのは珍しいんだよ」

 

 

 なかなかに雲行きの怪しそうな話だった。ひょっとして、インデックスは空腹で行き倒れる前に、何度も『教会』を訪れたんじゃないだろうか? その度に門前払いを食らった彼女はどんな気持ちで逃げ続けていたんだろう? 

 

 

「大丈夫。英国式の教会を見つけるまでの勝負だから」

「……」

 

 

 蒼空は一瞬だけ、自分の力のことを考える。

 

 

「……なんか困ったことがあったら俺の部屋でも隣のカミやんの部屋でも、また来て良いから。……ベランダに引っかかるんじゃなくて、ちゃんと玄関から」

 

 

 そんな事しか言えなかった。この学園都市の頂点に立つ力を持っているのに。一人で一軍団と戦えると言われているくせに。

 

 

「うん。おなかへったらまたくる」

 

 

 ひまわりみたいな笑顔で、それは完璧な笑顔だったからこそ、また蒼空は何も言えなかった。

 

 

「おう、今度は冷凍食品なんかじゃなくてもっと良いもん食べさせてやるよ」

 

 

 そして部屋を出るインデックス。そんなインデックスを避けるように、清掃ロボットが通りすぎていく。

 

 

「ひゃい!?」

 

 

 完璧な笑顔が一瞬でぶっ飛んだ。まるで足がつったみたいにビクンと震えたインデックスは、そのまんま後ろへコケた。がつん、とヤバめの音と共に頭の後ろが壁に激突する。

 

 

「〜〜〜〜ッ! な、なんか変なのがさりげなく登場してる……ッ!?」

 

 

 インデックスは思わず涙目だったが、頭を抑えるのも忘れて絶叫していた。

 

 

「……あれはただの掃除ロボットだぞ」

 

 

 何となくシリアスだった雰囲気が一気に弛緩し、蒼空はため息を吐いた。

 

 

 大きさ、カタチはドラム缶だと思えば良い。底には小さなタイヤを装備し、業務用の掃除機みたいな円形の回転するモップがぐるぐる回っている。人間と障害物を避けるためにカメラがついているせいでミニスカ女子にメチャクチャ嫌われている一品である。

 

 

「……そっか。日本は技術大国って聞いてたけど、使い魔も機械化されている時代なんだね」

「アレはそんなんじゃない」

 

 

 インデックスは妙な角度から感心していた。

 

 

「ここは学園都市だからな。こんなもん街中どこにでもある」

「がくえんとし?」

「え、お前知らなかったの? ……学園都市ってのは東京の西地区の開発が遅れてる辺りを一気に買い取って作った『街』だ。何十もの大学に何百もの小中高校がひしめき合ってる『学校の街』だ。だから学園都市」

 

 

 そう言って蒼空は扉の外に視線を向ける。

 

 

「この街に暮らしてる人間のほとんどが学生。そこら辺に見えるマンションみたいなのは全部学生寮だよ。ここもな」

 

 

 勉強のみならず、能力や肉体までも開発する『裏の顔』もある訳だが。

 

 

「街の様子が外と大分違うのもそれだから。生ゴミの自動処理とか実用レベルの風力発電とか、さっきの掃除ロボとか、あーいう大学の実験品とかがそのまま街に溢れてんのさ。おかげで20年ぐらい文明レベルが先に進んでるって訳だ」

「ふうん」

 

 

 インデックスは掃除ロボットをじーっと眺めて、

 

 

「じゃあ、この街の建物はみんな『がくえんとし』の傘下って事になるのかな?」

「ま……そんな感じだな。だからイギリス教会の傘下を探すなら学園都市は出た方が良いと思うぞ。多分、この街の教会は神学とかの教育施設だろ」

 

 

 ふうん、とインデックスは頷いて、ようやく壁にぶつけた頭の後ろを手で抑えた。

 

 

「あ、あれ!? 頭のフードがなくなってる!?」

「今更かい。さっき落としてたぞ」

「ひゃい?」

 

 

 蒼空は『毛布の中で着替えている時に落っことした』と言ってるつもりだったが、インデックスは『清掃ロボットにびっくりして後ろへコケた時に落とした』と勘違いしたようだ。あちこち通路の床を見ながらしばらく頭に「?」を浮かべていたが、

 

 

「あっ、そうか! あの電動使い魔!」

 

 

 何か勘違いしたまま通路の角へ消えた清掃ロボットをダッシュで追い掛けて行ってしまった。

 

 

「アイツ、追われてんだよな……」

 

 

 通路の先を見ると既にインデックスの姿はなかった。結構シリアスなお話をしていたはずなのに、別れも涙もあったもんではない。

 

 

 なんというか、あの姿を見るとインデックスは世界が滅んでもなんだかんだで生き残りそうだな、などと何の根拠もなく思った。

 

 

「あ、この帽子どうしよ」

 

 

 




ヒロインに関してですが、最愛ちゃん超可愛いですよね。(するとは言ってない。でもしたい)
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